ばいにんっ 咲-Saki-   作:磯 

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6.しんえんアーチ(後)

6.しんえんアーチ(後)

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:25

 

 

 仮にこの世に牌の寵愛を享ける人間が存在したとする。

 

 彼ら、彼女らの()()は、いわゆる超能力的な特性が発揮する強さとはやや趣を異にしている。石戸月子は身近に存在する少ないモデルケースから、ある程度の仮説を導き出した。

 たとえば鳴けば手が入る。あるいは流れを知覚し変える。これらはいずれも月子の体質を源泉とした一定の『ルール』に基づく現象である。極めて私的だし非現実的ではあるけれども、そこには範囲と出力が存在し、だから必然的に限界も設定されている。逆説的に、条件を満たさない限り月子の『道』は何ら意味を持たず、他家に利するだけの裏芸になる。

 彼ら、彼女ら――この場でいえば、宮永照はそうではない。彼女に月子と同じ真似が出来るかといえば、『恐らく望めば出来る』と月子は考えている。体得することもできるだろうし、月子とは異なるアプローチで同じ結果を導き出すこともできるだろう。けれどもそれは照から牌への能動的な働きかけではない。牌が照の意に沿うために起きる現象である。つまり、事実上ただの偶然でしかない。()()()()()()()()()()()ことの、それは差異である。むろん微差でしかない。しかし狭間に刻まれた溝は深い。

 

(この手のひとたちの、いちばんやっかいなところは)

 

 と、月子は思う。

 

(オカルトじゃない。いみわかんないくらい鋭いカンじゃない。読みや洞察じゃない。そんなのぜんぶ持ってるに決まってる。問題は、たとえ、それをぜんぶもってても――()()()()ことなんだ)

 

 照の支配域が、月子の感覚を塗りつぶす。先刻までの、無防備に卓を囲んでいた照はもういない。彼女は月子の仕掛けと特質と弱点を一見で看破し、把握し、対応した。すでに月子には、場の手牌を見透かすことはできなくなっている(照が何かを行ったのか、それともたんに月子の集中力が途切れたためか、実のところ原因がどちらかはわからない)。

 

(単純に、運がとんでもなく良い。それが、この()()()()()たちの強さの――本質なんだわ)

 

 いま、場には月子の打った仕掛けの揺り戻しが発生している。二局連続の好配牌を引き寄せた代償を、今にも払えと流れが要求している。

 ようするに、月子以外の全員にとって都合の良い状況が成立した。

 それこそ月子の望むところである。もちろん、ガン牌と同様に、この仕掛けも照に無効化されないという保証はない。月子は何事においても楽観はしない。九割方無効化されることを覚悟している。

 ――けれども、もう遅い。

 この半荘において、宮永照は前局まで(ヒラ)で打っていた。むろん裏技(ゴト)の有無ではなく、能動的に特異な現象を起こしていなかったという意味である(つまりここまでは純粋に持ち前の運と技量のみで打っていたということでもあり、それはそれで月子をうんざりさせる事実だった)。

 そして、照が月子への()()を始めたとき、すでに南一局の牌山は自動卓の中で積み上げられていた。月子にはもう余力がないが、因果は既に含まれている。全自動卓の機構を利用した、時間差を置いた仕掛けであった。

 

(たったの一半荘、それも東場だけでこのザマは、なんとも情けない――ところだけれど)

 

 霞む視界に闘争への意欲を滾らせて、月子は手元の牌を捲る。指を開閉する。

 飲み下した胃液は、血の味がした。

 

(わたしにできる全部の手を使って、潰す)

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:25

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 【東家】片岡 優希 :17900

 【南家】須賀 京太郎:  700

 【西家】宮永 照  :81400

 【北家】石戸 月子 :    0

 

(トビは、とりあえずなくなったけど……ツモったら終わっちゃうじぇ)

 

 東場が終わり、気炎が消える。馴染みの感覚は片岡から力を奪う。集中力が途切れ、自身の引きに対するある種の確信が薄れる。かといってここでいつも通り傾けば、一瞬で対局は終わる。対面の女に一方的に弄られて、直撃の一つも奪えないままに敗北が刻まれる。

 片岡は強い。少なくとも同じキャリアの同世代の打ち手と比せば、抜きん出ているといってもよい。しかし敗北を知らないわけではない。半荘戦では東場のリードを守りきれずに捲くられることが多く、南場に緩手を打つ自分に嫌気が差すこともある。

 

 巧くなりたければオリを覚えるべきと、大多数の年長者は片岡に諭す。度重なる放銃を経て、片岡も同じ感想を持っている。だが彼女には、牌の危険度などわからなかった。基本的に片岡の感性は鋭いが、その犀利さは攻撃面に傾倒している。

 たとえば和了を目指し、手牌を目一杯に構えていた一向聴、他家から立直が掛かる。安全牌はない。そんなとき、何を切るべきか――片岡は基本的に不要な牌を切る。つまり、河の状況から相手の待ちなど忖度しない。牌に応じた統計的な安全度は、無論ある。端牌、字牌、筋、壁――覚えるべきセオリーはそれなりにあり、それらの習得には経験が必要だった。守りや読みのセンスについてだけをいえば、片岡のそれは乏しいといえた。

 山勘で打つ。

 打てば中る。

 そしてどんな手も、成就しなければただの夢だ。

 そんな光景は、飽きるほど繰り返された。

 

 東場の成功体験は、南場の片岡にとって足かせになる。同じ要領で打っているはずなのに、感覚的にも実際的にも、和了率と放銃率に一割五分以上の開きが生じるのである。その落差は片岡を混乱させる。東場の自分は強い。だが南場の自分は弱い。そうとしか捉えられないし、それは一見、事実だった。必然片岡は、南場は守りに徹するべきだと考えた。最初から和了を目指さず、硬く打つことを心がける。それでもここ一番という南四局(オーラス)、なぜか彼女は絶対に打ってはいけない牌を引き、どうしようもなく窮して手放し、刺さる。

 

 東場では圧倒的に強く、南場では対照的に弱い。

 

 みな、不思議がりながらも、片岡の麻雀を()()()()()()だと認識する。

 片岡も同じように考えている。

 花田煌は、少しだけ、違った。

 

『そうかな、どうかな――私は、違うと思うな』と彼女はいったのだ。『東場に強いのは、上乗せがあるってことでしょう。だから、つまり、南場で弱いのは、上乗せがなくなっただけの話じゃないですかね。つまり、巧くなれば――南場でも強いし、東場ならもっともーっと強いってことです! すばらっ!』

 

(――そんなツゴーのいい話、あるわけないじぇ)

 

 と、片岡は思う。

 けれども、自信満々に根拠のない願望を語る花田を想うと、

 

(でも、もしかしたら)

 

 とも、思うのである。

 小学生の片岡にとって、年次の序列とはまだ不分明なシステムでしかなかった。ひとつ年上の花田はだから、級友の延長上にいる存在である。それでも居住まいを正させるような空気を、花田は持っている。彼女がこの麻雀教室にいなければ、片岡はとうに麻雀に飽いて、いまごろ外で走り回っていただろう。

 

(今日の麻雀は、楽しくはない。なんだか重たくて、ちょっとキツイ)

 

 呼吸を調え、片岡は宮永照を睨みすえる。

 

(ヨユーの顔しちゃってぇ――)

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 配牌

 片岡 :{五五六九②②⑥⑥2247西北}

 

(ほえ面、かかせてやるじぇ!)

 

 打:{九萬}

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:25

 

 

(自摸ったら、満貫以下ならその時点で3着確定。役満自摸でも連対止まり。最低でも照さんからの直撃が欲しいところだが)

 

 京太郎は不自然にならない程度に息を潜める。

 

(引き出すには細工が要る――)

 

 緊張を隠すために、強いて脱力して、手牌と向かい合った。

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 1巡目

 京太郎:{八2348東白白發發發發中} ツモ:{6}

 

 滅多に見かけないほどの勝負手である。大三元まで望むのは強欲に過ぎるが、それでも容易に面前混一色が狙える牌姿だった。けれどもこの場況においては、やや扱いに苦労することも事実である。

 

(ぜんぶ、聴牌に漕ぎ着けるまでの自摸に掛かってる。ふだんなら迷彩なんざ気にしてもしゃーねぇけど、出和了が最低条件ならそうも言ってられねぇ、自摸がヨレてバレバレな河になりゃァ、ぜんぶおじゃんになっちまう――)

 

 上家の片岡の第一打から牌を自摸り、河に捨てるまでの間に、京太郎は必死で思考をめぐらせた。

 

(ここから、おれができること――)

 

 {打:發}

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:25

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 1巡目

 照  :{二六八②③⑧⑨1579北北} ツモ:{南}

 

 打:{1}

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:25

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 1巡目

 月子 :{一四七①⑤⑧2399東南西}

 

 牌が河に打たれてから視認し、動作を開始するまでに数秒の間があった。時間感覚さえ覚束なくなった意識の狭間で、月子は山へ手を伸ばす。

 ――その手のひらの内側には{東南}が握りこまれている。二枚の牌は磁石のようにぴったりと月子の手に付着し、完全に他家の視界からは隠れている。

 開門は月子の右手、つまり片岡の山だった。月子は左手で服の袖を押さえる仕草のカモフラージュを行い、照の視界から右手を部分的に隠す。同時に卓下の左足を軽く揺さぶり、音を立てる。生物的な反応として、片岡、照、京太郎の意識はほんのわずかだけ音源に向く。月子は全神経を指先に集中する。呼吸も止める。本来の月子の自摸――北家が最初に自摸る下山の数センチ先のラシャに右手を被せる。{南}を上、{東}を下山に見立てて、右手に忍ばせた二枚の牌を音もなくラシャに置く。擦るように自摸る動きをなぞる。月子が元々自摸る下山の牌を摘むと同時、片岡と京太郎の自摸筋に存在する牌を摩り替える。単純に()()()()()()()()()()だけのすり替えである。しかし難度は非常に高い。月子のすり替えの技術はそれなりに習熟こそしているが、所詮は手慰みに覚えた技術だった。玄人どころか、多少目が良い人間にも見破られる程度のものでしかない。

 だからここで仕掛けた。

 1巡目、すなわち他家の意識がもっとも手牌に注がれる瞬間に、意識の間隙がある――。

 

 かすかに音がなる。

 

 つたない指の操作のせいで、摩り替えられた牌山がわずかに乱れる。

 

「――っ」

 

 月子の背を冷たい怯えが伝う。肩筋に力が篭る。さっきから嘔吐感は彼女を途切れなく襲っていて、それが緊張のためか体調悪化のためかの区別もつかない。

 一瞬が過ぎる。

 誰の声も掛からない。

 月子の手牌が、一時的に少牌になったことを指摘するものもいない。

 顔色を変えずに、しかし胸中で、月子は安堵の息をつく。

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 1巡目

 月子 :{一四七①⑤⑧6899西} すり替え:{南東} ツモ:{西⑦一}

 

(片岡さんの自摸筋には{⑦}、須賀くんの自摸筋に{一萬}……)

 

 月子は先刻、幸運の恩恵を受けた。次は不幸の逆襲を受ける番である。そして麻雀における不幸とは、畢竟他家の和了に集約される。だから、他家には手が入っている。それは間違いない。けれどもかれらの和了がどういったかたちで訪れるかは、月子の制御の外である。このすり替えは、()()()()()()を確認するためのいかさまだった。月子はすでに、自らが和了することについては断念している。

 

(とはいえ、巡目が早すぎて、ふたりの有効牌かどうかもわからない。宮永さんの自摸筋は、遠くてわたしの腕じゃすり替えはむり。ただ、使いようくらいはあるでしょ)

 

 打:{①}

 

(そう何度もできる技じゃない。というか、久しぶりすぎて、もう出来る気がしない――)

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:26

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 2巡目

 片岡 :{五五六②②⑥⑥2247西北} ツモ:{南}

 

(場風――キライだけど、いちおう、もっておく)

 

 {打:北}

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:26

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 2巡目

 京太郎:{八23468東白白發發發中} ツモ:{東}

 

(打{八萬}から{7}、東、白引きで黙跳聴牌の一向聴……)

 

 引き寄せた{東}(ドラ)が月子に掴まされた牌とは知らず、僥倖としか思えない自摸を前に京太郎は黙考した。

 これ以上を望めば、それはたんなる潮目の見誤りになる。

 普通であれば、そうなる。

 けれどもこの場況において12000は、なしのつぶてにも等しい。

 更に上の打点を見据えて、京太郎は手順を想像する。

 出来すぎるほどの自摸と他家に和了されないという二重の幸運に恵まれさえすれば、どこまでもゆける。

 

(なんだ――簡単じゃねえか)

 

 場を視ずひたすら、和了を目指す。いずれ和了されれば終わる身である――そう開き直れば、麻雀はたんなる捲りあいの遊戯になる。そこに面白さがあることを、京太郎は否定しない。その種のスリルこそ、かれが求めるものである。

 しかし、

 

(――いまはそういうときじゃねえ。12000の自摸より、優希や月子からの32000より、照さんからの8000が必要なんだ)

 

 と、京太郎は考えた。

 いまは、あくまで照からの直撃を引き出すべきときである。32000点の聴牌は、それ単体では1000点の和了に劣る。それは麻雀における絶対の真実である。

 しかし、真っ直ぐな打牌は警戒を招く。誰しもの、京太郎自身の意表さえつく一手でなければ、照からの直撃は引き出せそうもない。

 

(あの、はじめてあった時、みたいな――)

 

 脳の右側が、疼くように蠢くのを京太郎は感じる。むろん脳に触覚はない。たんなる錯誤である。しかしかれは、そこから背骨の中身をとろけさせる何かが分泌され、全身に行き渡っていく感覚を確かに持っている。擬似的な危険に近づく剣呑さが、かれを捉えて離さない。五階建ての建物から雪の積もった地面に飛び込んだときのような開放感とむやみな爽快感が、かれのなかで拡がっていく。

 

 {打:中}

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:26

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 2巡目

 照  :{二六八②③⑧⑨579北北南} ツモ:{白}

 

 打:{二萬}

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:26

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 2巡目

 月子 :{一一四七⑤⑦⑧6899西西} ツモ:{三}

 

(さあ、何向聴地獄が始まるのかしら)

 

 打:{⑤}

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:26

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 3巡目

 片岡 :{五五六②②⑥⑥2247南西} ツモ:{②}

 

 {打:西}

 

 3巡目、片岡は急所となりうる{②}の縦をアッサリと引いた。彼女の目が素早く手牌の塔子を行き来する。七対子の2向聴だが、当然、ドラも含まない2400点を和了ったところでこの場では意味がない。

 

(どうせなら……目指すはひとつ――だけど)

 

 これが東場であれば、あるいは片岡はその特性により、独力で縦自摸を重ねたかもしれない。確信をもって方針を定めたかもしれない。しかしいまは南場である。行くか進むか――手広く構えるか決め打ちか――片岡の脳裏を複数の選択肢が行き交う。どれもそれなりに説得力を持ち、それなりに合理的で、彼女は解を絞りきれない。

 

(すなおに……来る牌に、合わせて……)

 

 確信はない。

 だが、行かないという選択肢はない。

 道を踏み外したが最後、彼女の最後の親番は終わる。

 たとえ聴牌を入れても、京太郎か月子が聴牌せずに流局を迎えれば、対局は終わる。

 

(ほんと、きっついじぇ――)

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 4巡目

 片岡 :{五五六②②②⑥⑥2247南} ツモ:{⑧}

 

 {打:南}

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 5巡目

 片岡 :{五五六②②②⑥⑥⑧2247} ツモ:{3}

 

 打:{7}

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 6巡目

 片岡 :{五五六②②②⑥⑥⑧2234} ツモ:{五}

 

 打:{六萬}

 

(二ツ目)

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 7巡目

 片岡 :{五五五②②②⑥⑥⑧2234} ツモ:{七}

 

 打:{七萬}

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 8巡目

 片岡 :{五五五②②②⑥⑥⑧2234} ツモ:{九}

 

 打:{九萬}

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 9巡目

 片岡 :{五五五②②②⑥⑥⑧2234} ツモ:{中}

 

 {打:中}

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 10巡目

 片岡 :{五五五②②②⑥⑥⑧2234} ツモ:{⑧}

 

 打:{4}

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 11巡目

 片岡 :{五五五②②②⑥⑥⑧⑧223} ツモ:{6}

 

 打:{6}

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:26

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 3巡目

 京太郎:{八23468東東白白發發發} ツモ:{2}

 

「…………」

 

 打:{八萬}

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 4巡目

 京太郎:{223468東東白白發發發} ツモ:{①}

 

 打:{①}

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 5巡目

 京太郎:{223468東東白白發發發} ツモ:{8}

 

({8}……)

 

 混一色七対子ドラ2の一向聴である。受け入れは狭いが、単騎はその分照準が付けやすいともいえる。

 ――が、京太郎は思いなおした。

 

(いや、だめだ――ここで2枚目の{發}を手出ししたら、染め手か七対子って宣伝するようなものだ)

 

 {打:白}

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 6巡目

 京太郎:{2234688東東白發發發} ツモ:{④}

 

(寄れ)

 

 {打:白}

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 7巡目

 京太郎:{④2234688東東發發發} ツモ:{6}

 

(――寄れ)

 

 {打:東}

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 8巡目

 京太郎:{④22346688東發發發} ツモ:{中}

 

 {打:中}

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 9巡目

 京太郎:{④22346688東發發發} ツモ:{3}

 

 京太郎の肌が粟立つ。役牌と{東}の対子を切り落としながら、怪物のような手が育っていく。とても自分の引きとは思えない。それほどに順調な自摸だった。

 

 打:{④}

 

 そして、10巡目――。

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 10巡目

 片岡 :{■■■■■■■■■■■■■}

 

 打:{4}

 

 上家から打たれた緑一色を確定させる{4}を、京太郎は無視した。一瞥すらしなかった。現状、京太郎の河は{白}と{東}(ドラ)が異常に目立っている。よほどの手が入っていることを、すでに欺瞞することは不可能だろう。しかしその『手』が緑一色と気取られることだけはあってはならない。劈頭の{發}がその気配の希釈に大きな役割を果たしている。

 だが、{發}は(当然ながら)初牌以降一枚も場に見えていない。ここで京太郎が{468}を叩いた場合、聴牌を確定させることができても出和了できる可能性が減る。槓子からの一枚落としという単なるセオリーに思考が至る可能性を少しでも減らす必要がある。

 

(だから、鳴かない)

 

 表情を変えず、京太郎は歯を食いしばった。

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 10巡目

 京太郎:{223346688東發發發} ツモ:{③}

 

 打:{③}

 

 さらに、11巡目、

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 11巡目

 片岡 :{■■■■■■■■■■■■■}

 

 打:{6}

 

(……マジかよ)

 

 怖気が京太郎の背を伝う。河を忙しなく検めようとする瞳の動きを、かれはかろうじて制御する。露骨な目線は手の内を晒す。迂闊な動きは布石を台無しにしかねない。

 しかし、

 

{68}(こいつ)は……あと、どれくらい――山にいるってんだ)

 

 叩くべきだった。

 かれが月子から学んだ定理も、ごく一般的な常識も、その行動を支持している。ドラを2枚も切り落としておいて、今さら役の一つを迷彩することにどれだけの意味があるというのだろう。他人の裏をかいたところで、照が和了牌を掴み、放す確率がどれほどあるというのだろう。

 いま、片岡が打った{6}は自摸切りだった。すなわち、前巡の{4}を喰っていれば、今巡で京太郎は緑一色を自摸和了っていたのである。一度も和了ったことのない役満を、ただ出和了の布石のために見送る意義とは、ただ宮永照という少女に勝てる()()()()()()可能性を残す点にだけある。面前を貫いたところで確実に勝てるわけでもない。連対に絡むことができれば次の半荘に勢いをつけることができるかもしれない。2着の何が悪いというのだろう。

 そもそも京太郎は1着にそれほど固執しているわけではない。

 照に勝てないのであれば、それは、それだけの話でしかない。

 

(――でも、鳴かねー)

 

 表情を凍らせて、京太郎はまたも、片岡のこぼした有効牌を無視した。

 

(勝つだけじゃあ、意味がねえんだ。それじゃあ、何も意味ねえんだ――このヒリヒリした感じがないなら、――――あ?)

 

 頑なな瞳で、牌を自摸った京太郎は、右手の親指の腹がなぞる盲牌の感触に、人知れず心をふるわせた。

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:28

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 11巡目

 京太郎:{223346688東發發發} ツモ:{8}

 

 {打:東}

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:28

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 3巡目

 照  :{六八②③⑧⑨579北北南白} ツモ:{④}

 

 {打:南}

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 4巡目

 照  :{六八②③④⑧⑨579北北白} ツモ:{五}

 

 打:{八萬}

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 5巡目

 照  :{五六②③④⑧⑨579北北白} ツモ:{⑤}

 

 {打:白}

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 6巡目

 照  :{五六②③④⑤⑧⑨579北北} ツモ:{九}

 

 打:{九萬}

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 7巡目

 照  :{五六②③④⑤⑧⑨579北北} ツモ:{5}

 

 打:{5}

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 8巡目

 照  :{五六②③④⑤⑧⑨579北北} ツモ:{8}

 

 打:{5}

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 9巡目

 照  :{五六②③④⑤⑧⑨789北北} ツモ:{①}

 

 打:{⑧}

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 10巡目

 照  :{五六①②③④⑤⑨789北北} ツモ:{東}

 

 打:{⑨}

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 11巡目

 照  :{五六①②③④⑤789東北北} ツモ:{⑦}

 

 

「――」

 

 片岡

 河:{九北西南7六}

   {七九中46}

 

 京太郎

 河:{發中八①白白}

   {東中④③東}

 

 照

 河:{1二南八白九}

   {55⑧⑨}

 

 月子

 河:{①⑤南南白中}

   {1①①9}

 

 {打:東}

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:28

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 11巡目

 月子 :{一一三四七⑦⑧6789西西} ツモ:{二}

 

(7巡連続自摸切りしたかと思いきや、10・11巡と連続で手が入ってくるってことは……そろそろ、どちら様も準備オーケーって感じ、なのかしら)

 

 遠くない終局の予感を前にして、月子は疲弊しきった顔に憂鬱を浮かばせた。

 京太郎と片岡に対して、少しだけ申し訳ない気がしたからである。

 

(宮永さんとやらせるためだけに、わたしのちからに、二人を巻き込んじゃった)

 

 おまけに、肝心要の部分は結局運任せの捲りあいになる。京太郎が「つまらない」という麻雀の典型である。これから起きることはたとえどんな結果であろうとそれは予定調和の範疇で、きっとそれは、月子の友人が好む麻雀とは相容れない性質の出来事だった。

 

(そうねえ――須賀くん、あなたのいうことも、いまなら、わかる気がする)

 

 打:{七}

 

(じぶんで戦わない麻雀なんて、正直つまらないわよね――)

 

 大きくため息をついて、月子は首を傾けた。

 相変わらず焦点が合わない視界が、積年を連想させる漆喰の素材についた染みを捉える。

 

(あぁーあ)

 

 一寸だけ泣きそうになって、月子は思わず、天井を仰ぎ見た。

 

(麻雀、強くなりたいなぁ――)

 

 石戸月子ひとりを蚊帳の外において、月子が作り上げた渦中の勝負は、最終局面へ移行した。

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:29

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 12巡目

 片岡 :{五五五②②②⑥⑥⑧⑧223} ツモ:{⑦}

 

 打:{3}

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 12巡目

 京太郎:{2233466888發發發} ツモ:{③}

 

 打:{③}

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:29

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 12巡目

 照  :{五六①②③④⑤⑦789北北} ツモ:{七}

 

 聴牌を引き入れた照は、少しだけ瞑目した。

 

 {打:北}

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:29

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 13巡目

 片岡 :{五五五②②②⑥⑥⑦⑧⑧22} ツモ:{⑦}

 

 打:{⑧}

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 13巡目

 京太郎:{2233466888發發發} ツモ:{⑨}

 

 打:{⑨}

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 13巡目

 照  :{五六七①②③④⑤⑦789北} ツモ:{③}

 

 {打:北}

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:29

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 14巡目

 片岡 :{五五五②②②⑥⑥⑦⑦⑧22} ツモ:{⑥}

 

(――やっと、三ツだじょ)

 

 打:{⑧}

 

 万感を込めて、片岡は牌を置いた。

 

 むろん、立直はしない。

 

 自摸っても、親の役満であればシバ棒の差で照を捲くれるが――

 

 彼女の目は、照だけを捉えている。

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:29

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 14巡目

 京太郎:{2233466888發發發} ツモ:{3}

 

 打:{3}

 

(仮令緑一色(リューイーソー)確定だろうが、いない待ちで待つことはできない)

 

 ノータイムで打{3}といって、京太郎は目を伏せた。

 

(あんたから出たなら――{1}でも倒すぜ、照さん)

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:29

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 14巡目

 照  :{五六七①②③③④⑤⑦789} ツモ:{四}

 

 打:{七萬}

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:29

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 15巡目

 片岡 :{五五五②②②⑥⑥⑥⑦⑦22} ツモ:{一}

 

 打:{一萬}

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:29

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 15巡目

 京太郎:{2233466888發發發} ツモ:{三}

 

(生牌――)

 

 {三萬}を掴んだ京太郎は、顔を歪めた。

 危険だと思った。

 片岡や照に刺さる可能性が、極めて高い。しかし問題は、これが片岡の和了牌であった場合である。

 

(照さんがこいつを抱えて抑えてた場合、みすみす、優希の和了目を消しちまうことになる……つったって――)

 

 京太郎は歯噛みする。

 

(……だめだ。それでも、ここで聴牌は崩せねえ。)

 

 打:{三萬}

 

 幸いにして、発声は、なかった。

 

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:29

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 15巡目

 照  :{四五六①②③③④⑤⑦789} ツモ:{4}

 

「……」

 

 照が、眉尻をわずかにゆがめた。

 

 打:{③}

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:29

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 16巡目

 片岡 :{五五五②②②⑥⑥⑥⑦⑦22} ツモ:{三}

 

 打:{三萬}

 

(絶対出る、絶対ある、ぜったい――)

 

 もはや只管念じるように、片岡は和了を待つ。

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:29

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 16巡目

 京太郎:{2233466888發發發} ツモ:{⑥}

 

(また生牌かよ――ちくしょう)

 

 それでも、京太郎は強く{⑥}を打った。

 

 片岡が、目を細め、しかし何も反応は見せなかった。

 

 それを確認してから、照が、

 

「チー」

 

 と、いった。

 

(――は?)

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:29

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 16巡目

 照  :{四五六①②③④4789} チー:{横⑥⑤⑦}

 

 打:{①}

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:29

 

 

 オリに徹しつつも、ノーテン罰符による終了だけは回避すべく、月子は聴牌を入れていた。

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 16巡目

 月子 :{一一一二三四⑦⑧678西西} ツモ:{一}

 

 そこにきて、槓材を引き入れた月子は、皮肉な微笑を浮かべる。

 

(まさか、わたしが面前で聴牌までいくなんてね――こんなときだからこそ、なのかな? まぁ、このままだと宮永さんに海底がいっちゃうし――)

 

 吐息を落とし、

 

「カン」

 

 と、物憂げに月子はいった。

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北}) 槓ドラ1:{⑥}(ドラ表示牌:{⑤})

 16巡目

 月子 :{二三四⑦⑧678西西} カン:{一■■一} リンシャンツモ:{九}

 

 打:{九萬}

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:29

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北}) 槓ドラ1:{⑥}(ドラ表示牌:{⑤})

 17巡目

 片岡 :{五五五②②②⑥⑥⑥⑦⑦22} ツモ:{四}

 

 打:{四萬}

 

(あと、一回――)

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:30

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北}) 槓ドラ1:{⑥}(ドラ表示牌:{⑤})

 17巡目

 京太郎:{2233466888發發發} ツモ:{八}

 

(三枚目……)

 

 打:{八萬}

 

(いないのか、もう――)

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:30

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北}) 槓ドラ1:{⑥}(ドラ表示牌:{⑤})

 17巡目

 照  :{四五六②③④4789 チー:{横⑥⑤⑦}} ツモ:{四}

 

 打:{四萬}

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:30

 

 

(とりあえず、宮永さんに自摸られることはなくなったけど――はってるのかしら?)

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北}) 槓ドラ1:{⑥}(ドラ表示牌:{⑤})

 17巡目

 月子 :{二三四⑦⑧678西西} カン:{一■■一} ツモ:{八}

 

 打:{八萬}

 

(これで、今度こそ、わたしの出番は終了)

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:30

 

 

 祈るように、片岡はこの場最後の自摸に、手を伸ばす。

 ――しかし、彼女の口から、前局に引き続き和了が発声されることはなかった。

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北}) 槓ドラ1:{⑥}(ドラ表示牌:{⑤})

 18巡目

 片岡 :{五五五②②②⑥⑥⑥⑦⑦22} ツモ:{東}

 

(こっん、なの――が、なんで――引けないんだよう!)

 

 目じりに涙を浮かべて、片岡は牌を捨てた。

 

 {打:東}

 

 そして――

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:30

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北}) 槓ドラ1:{⑥}(ドラ表示牌:{⑤})

 18巡目

 京太郎:{2233466888發發發} ツモ:{4}

 

 海底に、それはいた。

 京太郎の和了牌だった。

 自摸を宣言すれば、役満が成就する。

 ただし、月子が飛び、京太郎は片岡を差しての2着で終了する。

 その結果も、悪くはない。

 収支だけを考えれば、当然和了ってしかるべき局面だ。

 けれども、京太郎は、牌を倒すことができなかった。

 

 和了できるはずがないと諦観し、手拍子で、自摸った牌を打ったのである。

 

 打:{4}

 

 ――打ってから、かれの背筋は凍った。

 

(あ)

 

 ありえない打牌だった。

 

(なにをやってんだおれは――)

 

 聴牌を取るだけであれば、ほぼ完全安牌の{發}がある。

 なぜ、一枚切れの{4}を、この海底で、打ったのか――

 

 

 ▽ 12月中旬(日曜日) 長野県・飯島町・町立小学校/ 14:30

 

 

「ロン」

 

 と、照がいった。

 冷たい声だった。

 失望が滲んでいるように、京太郎には思えた。

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北}) 槓ドラ1:{⑥}(ドラ表示牌:{⑤})

 18巡目(海底)

 照  :{四五六②③④4789} チー:{横⑥⑤⑦}

 

 ロン:{4}

 

「1000点」

 

 

 南一局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 【東家】片岡 優希 :17900

 【南家】須賀 京太郎:  700→- 300

 【西家】宮永 照  :81400→82400

 【北家】石戸 月子 :    0

 

 

結果

優勝:宮永 照

2着:片岡 優希

3着:石戸 月子

4着:須賀 京太郎(飛び)

 

 

 

 

 




2012/11/20:誤字修正
2013/2/19:牌画像変換

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