ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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おい誰だこの人・・・・

この人、原作でこんなに頼もしかったか?




第65話 エースの誇り

衝撃の準々決勝後。大阪桐生第一が大敗しても、甲子園の針は進む。

 

準々決勝第3試合は沖縄光南がまさかの大苦戦。柿崎を温存して臨んだ一戦は、4回までに5点ビハインドを追う苦しい展開。しかし、柿崎登板から流れは変わり、6回に一挙8得点。その後も前半の鬱憤を晴らすかのように得点を重ね、

 

『試合終了~~~~!!! 4回までは苦戦の春の覇者光南!! 終わってみれば19安打15得点で道北高校を圧倒!! 15-5で大勝です!!』

 

 

6回からリリーフに上がった柿崎がそのまま続投、7点差のついた9回に降板する。準決勝、決勝を前に温存しておきたかったが、投手陣に不安要素が残った。しかし一方で打線は好調。

 

 

最後の準々決勝でも、光陵高校がエース成瀬を温存。手堅い攻めと、終始主導権を渡さない試合運びで8-3と快勝。成瀬の温存に成功。

 

横浦と青道の反対ブロックの光陵と光南。

 

対照的な2校の勝ち上がりを見て、光南の春夏連覇に暗雲が漂い始めてきた。エース柿崎はまだ2年生。全試合に登板。いずれもプレッシャーのかかる場面。

 

宝徳に打ち崩された神木のように、崩れれば敗退の可能性もなくはないのだ。

 

4校の勝ち上がりの中で、一番目立ったのが横浦。和田が崩れても、後ろには1年生140キロリリーバー、左の辻原、右の諸星がいる。この二人をそれぞれ投入した後の大阪桐生は快音が一つもきかれなかったのだ。

 

横浦高校、ただの打撃力のチームではない。後ろに優秀な火消しがいることも、トーナメントを勝ち上がる力を証明している。

 

 

 

 

準決勝前日、御幸はから元気に近い様子でスコアブックを読んでいた。いつものような覇気が若干感じられないが、全国のプレッシャーを前にして、

 

「いやぁぁ、今のところはうまくいっていますけど、足を引っ張らないようにこうして強打者たちの弱みを分析ですよ。出来ればまともに勝負したくない相手ですから」

と、本人が語っていたのであまり心配している人はいなかった。何よりも、勝利に貪欲な彼ならば、大丈夫だろうと。

 

ただ、主将の結城と、小湊、伊佐敷、増子は事情を知っているだけに、複雑な心境だった。

 

――――背中痛!? どういうことっすか!!!

 

―――――理想的な回旋運動に体が耐えられなくなったらしい。1年生であれほどスピードボールを無尽蔵に出すリスクについて、俺も理解しなければならなかった。

 

片岡監督の言っている意味がよくわからなかった一同。

 

―――――それでは、横浦戦の先発は――――

 

小湊は、そんな状態の彼が先発するのは有り得ないと考えていた。だが―――

 

――――ああ、丹波を先発させる。この試合は継投がカギになる。だが、大塚の力を借りなければならんだろう。

 

丹波、沢村、川上、降谷。この4人で行けるところまで行く。最初から頭数に入れるわけにはいかない。

 

大塚が故障しているという事実は、大阪桐生と横浦の試合後の夜だ。本人からの自己申告だった。クリスや丹波の時とは違い、大塚は小湊のようにまだ軽微。酷くなる前に発見できたのが幸いだった。

 

「――――すいませんでした。」

大塚は、黙っていたことを謝罪した。今まで、そんな素振りすら見せなかったことから、一同は、驚愕していた。

 

「――――とにかくだ。もう短いイニングでいい。お前は体を休ませてくれ。秋大会までに、怪我をしない体づくりをすればいい。」

結城は、大塚にはクリスの二の舞だけは避けてほしいと考えていた。だからこそ、もうリリーフに回るべきだと。幸い、先発は丹波と沢村がいる。だからこそ、無理をするなと言う。

 

翌日の朝、大塚は片岡からリリーフに回ることを言い渡された。彼も先発でより多くのイニングを投げることを考えていたが、この怪我は軽くはなく、投球に影響が出る。

 

それがどれだけチームに影響があるのか、それを理解させられた。特攻覚悟で全てを失う気なのかと。

 

 

「――――解りました――――けど、本当に危ない時は、迷わずブルペンにいきますよ。」

大塚は、それでも怯まない。監督と主将の前で、それでも彼は他の18人と同じ闘志を持とうとする。同じような役割を臨んでいる。

 

「もうこれが最後かもしれない。全国で優勝できるチャンスが来年に、再来年にあるかどうかもわからない。だから――――」

 

 

パチンッ!!!

 

 

その時、続きを言おうとした大塚の言葉がとまる。それは貴子の平手打ちによるものだった。

 

「!!」

結城をはじめとした部員たちも驚く。このまま大塚を暴走させるわけにはいかなかった。だが同時に結城は、本来の自分の仕事を彼女に任せてしまったことを申し訳なく感じていた。

 

この男を止めるのにもはや、手段を選んではいられないことを知っていたはずだ。

 

 

 

「――――――――――――――」

大塚は呆けた顔で、目の前で怒っている貴子を見た。ぶたれるとは全く思っていなかったので、呆然としていた。

 

「呆れてものが言えないわ。」

呆れた口調と、非難めいた視線。不意に、大塚からずれた貴子の目線を追うと――――

 

「――――――っ」

ぽろぽろと、涙を流していた吉川の姿が目に入った。頬がまだヒリヒリするが、大塚は頭をハンマーで殴られたような感覚に陥る。

 

 

「―――――吉川さ――――」

 

 

「やめて――――もう、やめてよ――――」

 

 

 

「お、俺は……そんなつもりじゃ……」

狼狽えた様子の大塚。ここまで狼狽した彼の姿は珍しい。だが、そんな彼でもこの状況では何もできない。

 

 

 

「――――もっと周りをよく見なさい。貴方の独りよがりで、青道が勝てると思っているの? それに、仲間を信頼しない投手に、エースの座は託せるモノではないわ」

容赦のない一言。人として信用はしていても、選手として信頼することが最後までできなかった大塚。それが大塚に足りないエースとしての心。

 

 

丹波には当然の如く出来て、大塚には出来ないこと。なまじ他人と隔絶した才能があるから、独りよがりになる。だから見失う。

 

人に見せつけるように驕る事だけが、慢心や驕りではない。人を信じないことも、驕りになってしまう時がある。

 

「―――――監督として、一人の教師として、お前に無理をさせるわけにはいかん。それはほかのチームメイトも同じだ。そうだろう、お前たち」

 

 

「ったく、無理をするなっつうの!! ホント、大馬鹿だったんだな、お前」

怒っているのか、それとも呆れているのかわからない倉持。

 

「とりあえず、先輩に対する嘘は後で説教だね。まあ、今回は小言で済むから安心しなよ」

そして黒い笑みを浮かべる小湊。

 

「大塚ちゃん。大塚ちゃんにはまだチャンスがある。それに、大塚ちゃんの夢をかけるのではなく、俺達の力で、栄冠をつかみとる」

 

「勝手に怪我して、脱落なんてゆるさねェからな!!!」

ライバルの離脱に一番腹を立てている沢村。横浦戦の後の決勝は、恐らく彼がキーマンになるだろう。

 

「体を治して、その上で君の上を行く。」

 

「いったはずだ、大塚。お前、俺のようになりたいのか?」

そして最後にクリスの小言。この人は実体験に基づいた忠告なので、大塚も背中が凍る。

 

「ははっ……」

乾いた声で笑う大塚。何か喪失感を抱えつつも、どこか割り切ったような声色。

 

 

 

「――――俺が今言える言葉も、かけられる言葉もない、ですね。準決勝を目前にして、迷惑をかけて――――」

 

「ふん、だったらとっとと体を治して、秋大会でも選抜でも、完全試合でもするんだな!!! お前は少し詰めが甘いからな!!」

伊佐敷は、鼻をフンと鳴らしながら、とんでもないことを口にする。だが、甲子園初登板で、あれほどの投球を見せた大塚に、期待をしないわけにはいかない。

 

――――もっと上のステージで、お前は頑張らなきゃいけないだろうが

 

「む、難しいですね――――けど、頑張ります。」

あの輪を作る事は出来なくても、その輪の中に入れた気がした。

 

「だから後は……」

大塚は途中でその言葉を止める。その先の事を考えると、どうしても言えない。だが、言わなければならない。

 

 

その結論を大塚栄治は認めなければならない。

 

 

「後は……」

絞り出すように、大塚は再び言葉を紡ぐ。今の自分にはもっとも難しいその言葉を。

 

 

 

 

「――――後は、みんなに任せます―――」

大塚の口から、その言葉が出た。彼にとっては出やすそうで、出なかった言葉。仲間を信じることが、こんなにも難しいとは思っていなかった。

 

 

――――青道、光陵、光南、そして横浦――――この中で、戦力的に一番劣るのは、言うまでもない――――

 

恐らく、次の試合も、そしてその次を勝ち上がったとしても、勝率は高くはない。普通にやれば、青道の優勝は厳しい。

 

 

ここまでの快進撃を見せた青道を、人々は称賛するだろう。だが、もう誰も彼らが優勝するとは思っていない。

 

 

 

けどそれでも、大塚は縋りたい気持ちだった。

 

 

――――父さんが言っていた。甲子園は、何が起こるかわからない――――

 

頂点に君臨する男でも、成し遂げられなかった偉業は、最後まで誰に微笑むかわからない。

 

――――才能の壁が、努力と運によって、一瞬でも超えてしまう、越えられてしまうのが甲子園だと。

 

だが、大塚は信じる。青道の勝利を。このチームが栄冠をつかむ未来を。

 

 

信じるしかしないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、大塚は丹波のもとを訪れていた。

 

「すいません。大変な役目を押し付けてしまって―――――」

 

「いや、それはお互い様だろう」

 

気にするなと、言い放つ丹波。

 

「予選の時、お前は俺の代わりにチームを導いてくれた。お前の姿にエースを見た。だから今度は、俺が借りを返す番だ」

予選の時の恩と力投を丹波は忘れていなかった。彼がいたから、青道はここまで来た。彼のやったことに腹を立てないわけではないが、それでも彼が頑張ってきたのはよくわかる。

 

 

大塚が丹波の事をよく知っているように、丹波も彼を知っている。

 

 

――――なんだかんだ、こいつは責任感が強すぎるからな

 

だから、実力を持っていても、常に何かに追い込まれているような雰囲気がある。

 

 

二世選手の重圧は、自分には理解し切れない。

 

 

「俺は、エースなんかじゃない。チームを信頼できなかった。横浦や、他の全国のチームを知って、怪我のことも中々言い出せなかった。俺の弱さが、招いたんです」

ひたすらに悔いを零す大塚。

 

「完璧な人間なんていない。エースも完璧じゃない。この背番号を貰った以上、最善を尽くすさ。」

 

丹波は、大一番を前に穏やかな声色で大塚に語り掛ける。

 

 

「俺は打たれるかもしれない。俺の実力は、お前には及ばない。」

エースナンバーを貰った男は、とても謙虚だ。だからこそ、普通は言えないようなことを平然と言ってのける。

 

 

丹波光一郎は、大塚栄治を認めているのだ。

 

 

しかし、それが丹波の強みであり、進化を遂げようとしているエースの原点。

 

 

 

「だが、だからこそ、自分の役目を果たそうと必死になれるんだ。3回戦の時にそれを俺は強く思った。」

 

怪我をして、投げられない悔しさを知った。怪我をする前の丹波は、いつも自分の力を出し切れずに自滅してしまうケースが多かった。

 

 

しかしその時は、投げることが出来たのだ。力を出し尽くす、出し尽くせない以前に。

 

 

この夏予選は彼にとっての“高校野球最後”の転機だった。自分の力を出し尽くしたい。それが出来ずに終わる悔しさを知った彼は、全力を尽くすことを強く考えるようになった。

 

 

 

 

「丹波先輩―――――」

 

 

「だから、お前は見守っててくれ。俺はお前の言うエースになれないかもしれない。けど、」

 

 

武骨な男の素直な笑顔。

 

 

「最善を尽くす。その姿だけは、この甲子園に刻み付けるつもりだ」

 

 

 

大塚の目の前には、最強の打線に挑む覚悟を決めた、エースがいた。

 

 

 

 

 

 

大塚が部屋へと戻った後、丹波のもとを訪れた人物がいた。

 

 

「調子はどうだ、丹波」

 

 

「クリス」

 

クリスだった。思えば丹波は彼に認められる投手になる事を密かに志していた。

 

 

思えば、中学時代から彼のうわさは聞いていた。

 

 

関東ナンバーワン捕手。プロ野球選手の息子にして、センスの塊。チームの要と言っていい圧倒的な存在感を持つ男。

 

純粋に選手として尊敬していた。だからそんな選手に認められたいと考えていた。

 

 

 

「――――悪くない。」

 

 

「―――――あと“2試合”。最後まで、頼むぞ」

敢えてクリスは丹波に2試合といった。今の彼に必要なのは、彼が備えているのは、強い気持ち。

 

 

勢いを殺され、戦力がガタガタになっている青道に唯一、他の3校に対抗できるものがあるのなら、それは気持ちだ。

 

クリスは、それを持っているかどうかを確かめたかった。あの舘をはじめとした好投手を燃やした打線だ。一瞬でも隙を見せれば、食い尽くされる。

 

 

 

「ああ。クリス。最後に一つだけいいか?」

そして丹波にも、クリスに問いたいことがあった。

 

 

「なんだ?」

 

 

「俺は、エースナンバーを背負える投手に、なれたかな?」

 

投手層が厚くなった青道で、背番号1を本選でつける意味。丹波は、単純にクリスに尋ねたかった。一番その答えを聞きたい相手だった。

 

 

 

 

 

 

「なれるさ。これからも、お前はそれを目指していいんだ」

 

それは暗に、明日の準決勝で見せろと言っているようなものだ。クリスの静かな激を感じた丹波。

 

 

「そうか――――――」

 

 

 

 

 

 

そして――――――

 

大会も終盤、最後の舞台へ進む、厳しい関門、負けられない一戦がやってきた。

 

超満員の甲子園、熱気も日を追うごとに増してきたこの球場は、異様な雰囲気を醸し出していた。そしてその雰囲気によって、誰もがこう思ってしまう。

 

――――まるで、甲子園には何かが住んでいるようだと。

 

 

 

『さぁ、ついに始まります、甲子園準決勝第1試合!! 三塁側、西東京代表、青道高校と、一塁側、神奈川代表、強豪、横浦高校の一戦!!! 大会総得点記録に迫る強打の横浦と、大会屈指のチーム防御率を誇る青道高校の一戦!! 決勝に進むのはどちらか!!』

 

 




丹波さんの言動がフラグになるのか、それとも有言実行になるかは次回以降で

原作丹波さんなら炎上不可避。けど、本作の”漢”丹波なら・・・

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