ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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逆境でこそ、この男は何かをやってくれる!

そして、この男のヒッティングマーチが決まりました。賛否はあるかもしれません。




第57話 青道の怪童

ピンチが続く青道高校。3回の表、二死一塁三塁のピンチ。片岡監督は早くもブルペンにて、

 

「沢村に準備させるよう伝えてくれ。予想以上にはやい回で登板するかもしれんと」

 

「不味いですね、丹波の球にあれだけタイミングが合うとは、」

クリスも、丹波があそこまで打ち込まれかけるとは考えていなかった。初回の入りは悪くなかった。だが、それは彼らの巻いたチーム全体でのまき餌だったことを痛感させられた。

 

初回は球筋の見極め、消極的な打撃だった妙徳がここにきて一気にスイッチが入った。全体のチーム打撃が出来ている。故に、共同作業である連打が高確率で可能。

 

丹波はもしかすれば5回持たない可能性も出てきた。

 

――――何とかこの回は耐えてくれ、丹波!

 

3回持たない可能性もないわけではない。

 

 

御幸はこの打者相手に、何をするべきなのかを考える。

 

 

――――後ろに立つスタイル。さらにはプルヒッター気味の打球が多く、インコースの制球ミスは命取り

 

 

 

――――フォークに難のある丹波さんのストレートの投球を狙い、アウトコースを待つようなスタイル。

 

 

しかし、御幸はさらに考える。

 

――――アウトコースはあくまで見せ球。勝負はインコースと決められないが、強く意識はさせないと。

 

相手がどこまで考えているのかを読まなければならない。御幸は捕手として相手の考えを打席だけで判断できないと考えていた。

 

 

――――アウトコースのフォーク。ワンバウンド、ボール球でもいいです。

 

「ストライクっ!!」

 

ワンバウンドするフォークに振ってくる赤城。この後ろに立つスタイルは、フォークの落ち気味の時を狙う事があり、ワンバウンドするボールにも手を出してくる。縦の変化球が有効なのだ。

 

 

―――――アウトコースを広く見せる。そして、今は大胆に攻めるべき。

 

 

 

――――アウトコースにカーブ。タイミングを外しますよ。

 

 

「ストライクツー!!!」

アウトコースへのカーブが今日は調子がいい。ストレートの制球もそれほど悪くはなく、カーブを織り交ぜたスタイルで行くべきだと判断する。

 

 

――――釣り玉を一回見せます。ストレートボール球。強く腕を振ってください!

 

「ボ、ボールっ!!」

 

危うく手が出かけた赤城。だが、審判のジャッジはボール。スイングを取らなかった。

 

――――ここで不安定なフォークを選ぶか、それともストレートか―――

 

 

――――っ。

 

このピンチでまだ集中力が切れていない丹波。だが、やはりこの回のゆさぶりで消耗している。

 

―――この打者も得点圏で打率が高い。リスクは避けるべきか?

 

 

 

―――――違うよな、良い捕手ってのは、どれだけリスクを背負って、相手を封じられるかだよな。

 

御幸は、捕手のポジションは業が深いと知っている。チームの要、敗戦に大きくかかわり、勝利に大きく貢献する。

 

――――インコース、ストレート。打者のインハイへと向かってくるボール。

 

胸元よりも上のコース。御幸はここで高めのボール球を要求。

 

――――ッ!!

 

 

丹波が意を決し、インハイボール球のコースへと投げ込む!

 

「!!!!」

 

この局面でまさかインハイに投げ込んでくるとは思っていなかった赤城。反射的に高めに手を出してしまい、

 

「スイングっ!!!!」

 

御幸の鋭い声が響き、

 

「ストラック、アウトっ!!」

 

『高め振らせた~~~~!!!! 三振!!! ここは追加点を許さなかった青道高校!! しかし、この回は7番福原のソロホームランで先制の妙徳義塾!!』

 

御幸は若干息の荒い丹波を見て、目を伏せる。

 

――――次の回、ランナーが出れば交代もあり得るかもな。

 

 

 

そして、先頭打者の御幸。とりあえずクイックに関してはその時の状況に対応するしかない。

 

ズバァァンッ!!

 

「ストライクっ!」

球威は感じない。むしろ、沢村よりも劣るようにも思える。だが、沢村とは別のベクトルで相当打ちづらい。

 

 

―――けど、恐らくナックルは多投できない。下位打線が早い段階から出れば――

 

カキィィィンッッ!!

 

スライダー低目を捉えた当たりが痛烈に一塁線を抜ける。

 

『一塁線、フェア!! 打った御幸は悠々と二塁到達――いや、二塁を蹴る!!』

 

グオォォォォォんっっ!!

 

しかし青道に伊佐敷がいるように、妙徳の外野陣は強肩揃い。三塁を陥れようとした御幸の足を阻む、矢のような送球。

 

『止まった!! この試合は外野からの好返球がかなり目立っています!! 先頭打者の御幸、ツーベースヒットでチャンスメイク!!』

 

 

当然9番丹波は送りバント。

 

『見事な送りバントでランナーを三塁へと進めた青道高校!! ここで打順は俊足の倉持に帰ります』

 

倉持は、監督に言われたことを考えていた。

 

――――叩きつけるような打球、バウンドの大きい打球で構わない。とにかく三塁の御幸を返せる打撃をしろ。

 

 

そして願わくば、その足を活かしてフィルダースチョイスを誘発させ、出塁すら狙えということだ。

 

――――なら積極的に行くだけだろうが!!

 

カァァァンッッ!!

 

「くっ!」

 

スライダーにタイミングが僅かにずれた倉持。狙うべき球はアレだった。

 

 

そしてここで片岡監督からあるサインが送られた。

 

「―――」

 

倉持はしっかりとサインを確認し、改めて打席に立つ。

 

一方、妙徳バッテリー。

 

―――スクイズも警戒しつつだが、処理はお前に任せるぞ

 

 

――――そやな。けんど、本塁で刺してもえかろう?

 

 

ダッ、

 

御幸が三塁から本塁へと突入する。それは新見の投球モーションが始まった瞬間。

 

――――スクイズッ!!

 

 

 

―――アカン、間に合わない!!

 

倉持へとボールは向かう。ストライクゾーン、バントにはしやすいコース。

 

コンっ、

 

「舐めんな、東京もん!!」

 

新見がクラブにボールを捕球すると、そのままグラブトスで本塁へと転送。それとほぼ同時に御幸が本塁に突入。

 

――――マジかよ!!

 

驚きをもって今のプレーに執念を感じた御幸。左腕からは三塁の動きなど見えていないはず。見えたとしてもほぼ手遅れと言っていい。それでもこの速さに追いついてきたのだ。

 

 

クロスプレー。判定は―――――

 

 

「アウトォォォォぉ!!!!」

 

 

『エース新見の見事なフィールディングで得点許さず!! これで二死一塁となります。』

 

『いやぁぁ、フィールディングは相変わらずいいですね』

 

――――マジかよ、あれでアウトになるか。

 

悔しそうな顔をしてベンチへと下がる御幸。同点のチャンスを不意にしてしまった自分に憤りを感じていた。

 

「白洲先輩。ちょっといいですか?」

そこへ、大塚が一言入れに来る。

 

 

「なんだ、大塚?」

大塚の言うことだ。きっと何か秘策があるのだろうと考えた。

 

「実は――――」

 

 

それを聞いた白洲はそれに頷くと、打席へと向かっていく。

 

「何を教えたんだ、栄治?」

御幸が大塚に尋ねる。

 

「あの投手をあの瞬間に打つ方法ですね」

さらりととんでもないことを言ってのけた大塚。ベンチの間でも大塚が放った言葉は象徴的だった。

 

「――――けど、状況が限定されますがいいですか?」

大塚は一言入れると、

 

「とはいえ、沖田はそれをしなくてもいい気がしますがね。ここは白洲先輩の打席をよく見てください。」

 

 

 

 

妙徳ベンチは俊足のランナーがいても、気にならない。新見はクイックが持ち味。だからこそ、そのクイックで走らせることはおろか、タイミングすらつかめさせない。

 

大森監督は、倉持に盗塁をされる心配はないと感じていた。

 

 

マウンドの新見も、倉持が青道一の俊足であることは解っていたが、自分のクイックがあれば、余裕で刺せると考えていた。

 

――――クイックでストレート。初球スチールの可能性がある。カウントを悪くしないように、この打者にはゾーンで勝負だ。

 

 

だが――――

 

 

カキィィィィンッッッ!!!

 

クイック投法でのストレートを簡単に弾き返されたのだ。あまりにも痛烈な打球。三遊間を抜け、倉持はスタートを切っていたために、三塁へと進んでいた。

 

「なっ!?」

流石の新見も、この一打は驚いた。まるで狙い澄ましたかのような、一撃。

 

 

――――大塚の言った通りだ。軽く振っても簡単に痛打できる。

 

白洲は大塚の言葉を思い出していた。

 

 

「彼のクイック投法時のストレートは、あまり力を入れなくてもいいです。ミートできれば高い確率でヒットに出来ます。」

 

 

彼曰く、クイック投法のデメリットを指摘していたのだ。彼もフォームチェンジを試行錯誤していたが、彼の求めるのは球威を落とさないフォームの改造。故に、極端なクイックの改造はしない。

 

それは、クイックの高速化による球威低下を招き、打者を打ち取る能力を下げるのを嫌ったためだ。

 

そのクイックを来ると解っていれば、タイミングを取るのも容易。当てれば確実に飛ぶ。

 

 

――――お膳立てはしたよ、道広。後は決めて来い。

 

ベンチで沖田の打席を見守る大塚。

 

 

ここで、沖田の応援歌、某野球ゲームのOPである。曲名は確か、「START」。

 

弟にせがまれた曲ではあったが、ブラスバンド部もかなり気に入ったらしく、一年生でありながら力を入れてもらっている。

 

当初、沖田はもっと熱い曲がいいと考えていたが、歌詞を聞くと一転、彼はこの曲を気に入ったのだ。

 

 

――――何となく、自分に合っていた気がした。

 

なんだか力が湧く曲であることはこの応援歌を聞く前からわかっていた。彼は弟にこの曲の原曲を一度だけ聞かせてもらっていた。

 

記憶から再生される曲と、今この瞬間に流れる応援歌が同時に再生されていた。

 

――――応援歌って、案外馬鹿にならないよな。

 

体にあった力みが取れていく。沖田は予選の時を思い出す。

 

これを予選では難しいから演奏できなかったと謝ってきたブラスバンド部には申し訳ないと感じていた。その為、汎用曲での応援だった。

 

 

だが、この甲子園3回戦で初のお披露目。そして第一打席ではなく、このチャンスでの応援歌の起用に、青道ブラスバンド部の粋な計らいを感じた。

 

 

沖田は、自分の活躍を期待し、応援してくれている人の力と努力を感じ、打席に立った。

 

――――なら、もう少し強がってみよう。

 

 

今に至る為の痛みも強がりも、言い訳も背負い込んで。

 

 

 

『ああ、なんでしょう。あまり聞き慣れない応援歌ですね』

 

『そうですね。独特な演奏ですが、この局面にはあっている気がしますね。一点を追う青道高校はこの回二死一塁三塁のチャンス。ここで何としても同点、逆転を狙いたい!』

 

 

ブラスバンドの親近感に隠れがちだが、その音色は甲子園を包み込む。何とも言いようのない力が働いているような、

 

魔物と呼ぶには、あまりに似合わない何か。

 

 

―――呑まれるなよ、新見! ナックルで打ち取るぞ!!

 

 

――――ああ!!

 

カキィィィンッッ!!

 

「ファウルボールっ!!」

 

初球からナックルに当ててくる沖田。ナックルを毛ほども恐れていない表情。いや、恐れという心すらイメージしていない、無我の境地。

 

 

「っ!(ナックルで空振りが取れない!? だが、カウントは稼げてる!!)」

 

 

マウンドの新見も、沖田の気迫を感じつつも、

 

「(追い込んどるのは俺らや!!)」

 

第2球、クイックのタイミングを変えたナックル。沖田は若干その動きに翻弄されるが、

 

 

―――――――見えるッ

 

「ボールっ」

ナックルが外角に外れる。冷静に見極めている沖田。変幻自在の魔球と言われたナックルに、その喉元に迫っている。

 

 

―――――目先の事に惑わされるな!

 

カキィィィンッッッ!!!

 

「ファウルボールっ!!!」

 

 

そして今の打球。痛烈なライト方向への打球。ナックルを捉え始めている、ナックルに慣れるという言葉は、ナックルの前では意味をなさない。常に変化する変化球に、少しずつ合わせるなど、在りえないことだ。

 

 

そう、在りえないはずなのだ。

 

 

 

――――ここで他の変化球なら間違いなくやられる。歩かせてもいい。

 

 

 

―――――クサイところに投げて空振りを誘うしかあらへん!!

 

 

 

「ボールツー!!!」

ここで今度はスライダー。ナックル以外のボールも冷静に見極める。外から曲げてきたこの一球に手を出さない。

 

追い込まれているにもかかわらず、妙徳バッテリーに強烈なプレッシャーをかけている沖田。

 

 

『好投手新見に食らいつく沖田!! 物凄い集中力ですね、あれは』

 

 

『ナックルにタイミングを合わせていくというのが少し高校クラスではありえないんですがね。他の変化球も交えているこの状態で。けど、それすら出来るのは、最早センスだけではありません』

 

 

『バッティングフォームに高校生離れした深み、引き出しの多さを感じますね』

 

 

 

 

カキィィィンッッ!!!

 

「ファウルボールっ!!!」

 

 

少し中に入ったナックル。今度はレフト方向へと切れていく大飛球。

 

 

さらに―――――

 

 

ここで一番早いクイックで投げ込む妙徳バッテリー。先ほどの第一打席では、チェンジアップだったが―――――

 

 

 

「!!」

 

 

キィィンッっ!!

 

「――――っ!(ここでストレートを要求してくるこのバッテリーっ!! さすがは全国の強豪かっ!!)」

 

対する沖田もその球威のあるまっすぐに振り負けず、ファウル。打球は真後ろに飛ぶ。

 

その驚異的な反応に、妙徳バッテリーも驚きを隠せない。

 

――――こいつ、ホンマに一年生なんか!?

 

――――急な真直ぐに遅れながらもバット出しやがった!! 

 

先程のチェンジアップは頭にあるはず。なのに、この真直ぐに振り負けない振りの良さ。バットコントロール。

 

 

 

とんでもない集中力だと、誰もが感じた。

 

 

 

―――――打つッ! ここでッ!! 

 

沖田が今最も考えていたのは、

 

 

――――ナックルの変化に惑わされるな。自分のポイントで、ボールはこっちに近づいてくる。ボールは逃げない。ボールはコースを通過する

 

身体を開かないように、自分のミートポイント、最も力を入れることが出来るポイントで撃つ事を心掛ける沖田。

 

だからこそ、ナックルの変化に惑わされて、バッティングフォームを見失う事だけは避けなければならない。

 

 

 

沖田の目に力が入る。

 

 

 

そして7球目にナックル。ここまで来ると、もう見慣れている変化球。バットの始動が早く、尚且つ、縫い目すら見える今の集中力。

 

 

そして、自分のポイントに入ってきたその魔球を――――

 

 

ガキィィィィィっぃンッッッっ!!!

 

痛烈な打球音とともに、沖田のバットから放たれた打球が新見の視界から、そして妙徳ナインの視界から消えた。

 

「―――――ッ」

 

 

 

打球音よりも早く、甲子園の空を切り裂く白球が、スコアボードに直撃したのだ。

 

 

ダンッ!!

 

 

スコアボードに叩きつけられたボールは、ゆっくりと重力に従って落ちていく。そのボールが外野手の届かない場所へと落ちたことは、つまりそういうことなのだ。

 

 

 

 

 

 

あまりに一瞬の出来事で、観客も何が来たのかを理解できなかった。それをまず最初に認識したのは、打った沖田。

 

 

―――――捉えたぞ、ナックルボーラー。

 

 

 

 

 

遅れて実況と解説が反応した。

 

 

 

 

『打ったぁぁぁ!!! センター、ライト、レフト動かない!! 弾丸ライナーで、甲子園の深い場所を軽々と越え、そのスコアボードに叩き付けた~~~~~!!!!!』

 

 

久しく見られなかった伝説級の一撃。ビハインドで魅せたこの鮮烈な打席は、観客の心を鷲掴みにした。

 

 

 

 

『物凄い弾道ですね――――ちょっと松井以来かもしれませんね。こんな打球を見たのは―――』

 

 

彼らの視界には打った本人が打球を確認、とはいえ感触でどこに飛んだのかはわかっている。

 

 

 

改めて右手を高々と掲げ、自分が成し遂げたことを証明する。

 

 

 

 

そして、その瞬間に地鳴りのような観客の歓声が甲子園球場を包み込む。

 

 

沖田の一撃に酔いしれたもの。沖田のあまりにも劇的な一撃に、感動したもの。この劣勢の中で見せた一年生の強心臓振り。

 

その理由は様々だが、予選を超える大規模な歓声がこだまし、その声援と厚い視線は沖田に注がれる。

 

当然、青道ベンチ、応援席はその盛り上がりの中心だった。

 

 

「うわぁぁぁぁぁ!!! 逆転スリーランよ!!! 凄い、凄すぎるわ!!!」

夏川は感動のあまり、感極まってしまい、涙を流しながら絶叫した。

 

「凄い、これが沖田君。ううん、沖田君の実力――――」

吉川は、見事としか言えない沖田の一撃に、言葉は少ないが、とんでもないことだと理解している。

 

 

「兄ちゃん凄い! 俺もいつかあんな―――」

 

「お兄ちゃん~~~!!!!!」

そして応援に駆け付けた沖田家も、この大舞台で再び光を浴びた息子に感動していた。

 

 

 

「お姉ちゃんも来たかったのかな」

美鈴は同じく全中の大会があるため、ここには不在だが(恐らく甲子園期間中はいない)、きっとテレビで青道の戦いは見ているだろうと、大塚裕作は妄想する。

 

 

ここにいるのは裕作と母親の綾子のみ。その母親も、輝きを感じさせるスラッガーに視線を向けた。

 

 

「けど、近い将来、確実に栄ちゃんのライバルになるわね。公私ともに」

彼もまたプロを志している。だからこそ、いずれ彼と息子の道は分かれる。今度は違うチームで、切磋琢磨することになるだろう。

 

かの大塚和正には及ばないが、彼もまた、スター性を持っているように感じた大塚綾子。本物のスターを間近で見続けていたものとして、彼がこの先も飛躍し続けるのが手に取るようにわかる。

 

「兄ちゃんからホームランを先に打つのは俺だけどね!」

そして、メンタル面では誰に似たのか、いや、大塚栄治が父親に似ておらず、その資質はこの弟に受け継がれたのだと判断する綾子。

 

――――栄ちゃんは闘争心を隠す時は本当にわからないもんね。

 

反対に、和正は気迫を前面に押し出すタイプ。その対比が面白いなぁ、と思う彼女だった。

 

 

当然と言えば当然だが、青道応援席はまだ興奮の嵐。

 

 

「やりやがったぞ、沖田ぁぁぁ!!!!」

 

「逆転!! 逆転だァァァァ!!!!!」

 

 

「青道の怪童!!」

 

 

「見たか~~~~!!! これが青道の怪童だ!!!!」

 

「つづいてくれ、キャプテン~~~~!!!!」

 

「ちゃんと踏めよ、しっかりとふめよ!!!」

 

「3-1!! 3-1!! やったぁぁぁぁぁっぁあ!!!!!!」

 

 

『何という――――なんという打球でしょうか!! これが高校生の打球なのか!? センターへと飛んでいく打球は、バックスクリーンを軽々と越え、スコアボードに直撃!!』

 

実況も唖然とするこの沖田の一打。

 

 

 

『一年生、初出場の一年生がこの3回戦で大きな仕事を成し遂げました!!! 3番沖田、逆転スリーランホームラン~~~!!』

 

『妙徳ナインはまず初めてのタイムを取ります。当然でしょう、あれほどの当たりは投手にもダメージが大きいですからね。あのナックルを攻略するとは思っていませんでした。』

 

 

「―――――――――――っ!!」

先制された悪い流れを一蹴する下級生の一撃。その一撃に、丹波は目を見開いていた。

 

「まだ俺達の夏は終わらないようだな、丹波」

そしてベンチの増子。スタメンを外れているとはいえ、ともに戦っている気持であることに代わりはない。

 

「―――――っ」

無言のまま、丹波は何も言えない。申し訳ないと思っていた、先に先制を許し、悪い流れだった。

 

 

だが、彼が――――

 

 

 

 

彼がかえてくれたのだ。

 

 

 

 

 

「安心するのはまだ早いですよ、丹波先輩。」

隣にやってきた大塚が丹波にそう囁く。

 

「まだ5回までは最低投げてもらわないと。3年生の意地、見届けさせてもらいますからね」

 

「――――ああっ!!」

 

 

目に力が戻る丹波。あの場面、気力で凌いだのは成長だった。そう思っていた片岡監督。

 

――――モチベーターとしても優秀で、尚且つ技術に長けた―――

 

 

 

 

 

自分に出来るのは、日々の練習で選手を鍛え、采配を執る事。それは体力であり、精神力である。

 

――――流れを変えられる、プレーだけではない。ベンチの中にいてもなお、攻略の糸口を見出す。

 

 

だが、と片岡監督はその感動の余韻をすぐに隅に追いやる。

 

「丹波」

 

「はいっ。」

 

「あと2イニング。お前の意地を見せてくれ」

 

――――私が最後に出来るのは、選手を信じて送り出すことだけだ。

 

 

目標の5イニングに到達することが出来るのか。それとも、

 

 

 

「まだ、終わってねェよ」

 

「取り返すぞ、まだまだ試合が終わった顔をするなんて早い。」

 

続く結城をナックルで空振り三振に打ち取り、立ち直りつつある新見。

 

――――さすがや。さすがは全国屈指の激戦区を制したことはある。

 

 

――――簡単に届かないからこそ、目指したくなるもんだ。

 

――――その栄光が欲しいから、頑張れる。

 

 

「腑抜けた采配をするなら、あっという間にひっくり返したる!!」

 

 

そして四国の強豪はまだ死んでいない。

 

 

 

 

 




ポイントで打つことを心掛けていた沖田に、スローボール(ナックルなど)を投げるとこうなります。


まあ、いくら魔球でも同じボールを続けると彼には打たれるということです。プロでは3球続けて同じコースとボールなら打たれるといいますが、彼は一体・・・・


次回、青道得意の継投は功を奏すのか?



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