ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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あと一歩で最高の初先発初登板だった大塚がやらかした後から。



※2017年6月28日

ダイヤのAの時系列とこの作品では2011年ぐらい設定しようかなと思います。

完ぺきに似せることはできませんが、それに似た選手、当時の選手に描写を変更します。


第54話 余波

衝撃的な甲子園デビューを果たした大塚栄治。その試合を見ていた横浦高校――――

 

準決勝で当たる確率の高いライバル。関東大会でも活躍していた彼は、まさに今後数年間は、高い壁になる事が解る。

 

「とんでもない男だな……………」

仰木監督は、このルーキーの投球の幅が、この試合を一気に広がったことを悟る。

 

140キロ後半を記録するストレートに加え、緩いスライダー、両サイドを抉る動く球。決め球にはチェンジアップ、スプリット。さらにはドロップカーブまで覚えている。

 

「やはり怪物だな。奴は」

岡本主将は、この怪物を前に、やはり気負ってしまう。自分がこの冬飛び込むかもしれない世界にもあまりいない、同じフォームで多彩な変化球を投げるばかりか、フォームチェンジをしても崩れないその耐久度。膝の動きによって、打者を見透かすその投球。

 

同じ振りで多彩な変化球を投げ分け、尚且つ針の糸を通す制球力。さらには最速149キロのストレート。それらの初動がすべて一緒で、尚且つ変化する。

 

 

今までも、ペース配分が上手かった剛腕、155キロを投げた男、160キロを投げる、左で150キロを超える剛腕、三振をいくつも取れる男、怪物と呼ばれた投手はたくさんいた。

 

 

まるで、彼の再来だと。いや、高校野球でのインパクトはすでに彼を超えている。

 

 

高校野球史上最高の制球力を誇る速球派投手という、どのカテゴリーに入れればいいのかわからないスケールの大きさ。

 

 

恐らく、最も高校野球で“勝てる”投手だという事は、間違いない。

 

 

170回を超える甲子園の戦いの歴史の中で、ここまで圧倒的な1年生はいただろうか。

 

 

 

「正直、奴が出てくる前に先制点を取るか、奴がマウンドを降りるまで点を許さない限り、ヤバいですね。セオリー通りなら」

坂田は、青道に勝つにはそれしかないという。だが、

 

「プロの舞台に入る覚悟を俺達は背負っている。だったら打ち崩すしかないだろ、あの男を」

岡本は、大塚に対抗心をむき出しにする。もはやあれだけの実力で、学年がどうといえるレベルではない。

 

もはや、投手と打者。下級生と見下して戦えば、西邦の二の舞になるだろう。

 

ネット速報でも、大塚の歴史的快投は大きな話題を生んでいる。

 

『完全試合寸前!! スーパー1年生大塚栄治!! 西邦をねじ伏せた!!!』

 

『夏では史上初、春選抜でわずか2回。惜しくも伝説には届かず!!』

 

『完全試合逃してもマイペース!? 大塚「しょうがないです」と苦笑い』

 

 

 

だが、そんな息子の活躍に負けじと劣らず、ついにあの男が横浜球場で復活を果たした。

 

ナイターの試合5位横浜ビースターズとゲーム差2の4位大阪サーベルタイガース。その初戦のカードに、伝説の男が登板した。

 

背番号18。大塚和正。

 

 

レジェンドの復活登板。横浜ナインは大阪先発、スタンコートを7回途中4失点で引き摺り下ろすなど、大塚を援護する。

 

その大塚も、打線の奮起に引っ張られるように、41歳とは思えない140キロオーバーの速球と、切れ味鋭い多彩な変化球で阪神打線を翻弄。2塁すら踏ませなかった。

 

 

結局散発2安打無四球完封に抑えられ、大塚の復活登板での完封を許してしまう。これで4位大阪とのゲーム差が1ゲーム差。

 

4年連続最下位阻止が現実味を増してきた横浜。

 

 

今日のヒーローに呼ばれたのは当然無四球完封の大塚。

 

『ところで、今日の投球はどこがよかったのでしょうか?』

 

『俺からすれば、制球力がよかったぐらいですね。キレも今一つだし、名前で抑えられたのかもしれませんね。』

 

『大塚選手の復活登板!! まさに鮮烈な印象を見せつけた試合になりました!!  最後の一言お願いします』

 

『俺に憧れている投手にも一言―――――』

 

『この老体の投手から、背番号18を奪ってみせろ! 以上!!』

 

『お、大塚和正投手でした!!!! 放送席、放送席っ!!!』

 

 

テレビで見ていた大塚は、苦い顔をしていた。40越えても、バリバリ投げている家族に、あきれてものが言えないのだ。

 

「父さん、何やっているんですか」

大塚は少し呆れていた。いい年をして非常識なことをやらかしていると、感じていた。

 

 

中年の人間離れである。

 

 

「復活登板で9回2安打完封。恐ろしいわ、このおっさん。」

御幸もやや青い顔をしていた。ちなみに、当然の如く無四球。

 

 

無四球は和正の代名詞と言っていい。

 

 

「しかも最速156キロだろ? ありえねぇだろ………」

伊佐敷も41歳で非常識な存在になりつつあるこの大投手に、衝撃を覚えている。

 

9回2安打無失点。8奪三振。現代野球を否定するような存在。メジャーでK/BB通算14以上を記録した鬼畜投手は伊達ではない。

 

初登板では速球系の変化球を序盤に投げ、2巡目からは満を持してSFF、高速スライダー、パラシュートチェンジ、ナックルカーブなど、かつての決め球中心の投球に移行。恐らく、スコア以上に絶望感を相手に与えただろう。

 

更にこの試合で目を引いたのは、相手打者のバットをへし折るシーンが何度も見られたこと。

 

結局、この日はバットを8本折った。

 

 

 

メジャーでも、彼の復活は大きく取り上げられ、41歳にして96マイルを投げる男として、またメジャーに来るのではないかとも報じられるほどだ。

 

 

「この人が大塚のオヤジ………すげぇな、」

沢村は、この人に教えを乞いたいと思うようになった。だが、プロアマ規制の法律が邪魔するのでそれはプロにならない限り実現しない。

 

「僕より早い…………」

降谷は、41歳という衰えが目立つ年齢で、あっさりと自分の球速が追い抜かれたことに衝撃を受ける。最盛期は160キロを投げていた人だし、多少はね、ということだ。

 

「やっぱり、俺はプロになりたい。父さんとエース争いをしたい。全盛期ではないけれど、今だからこそ、持っているものもあるはず。」

栄治は、父の投球に目をキラキラさせていた。横浜に、自分が超えるべき投手がいる。この世界の全ての投手の栄光を手にした男が、自分を待っている。

 

「俺、3年目で絶対に奪ってみせます。」

 

「3年……1年目は無理なのかよ?」

沢村が、なぜ3年なのかと尋ねる。

 

「プロで3年連続活躍して、初めて一人前。だから、絶対に初年度から防御率1点台。狙えるなら0点台を目指す。それで投手タイトルを総なめにする。たとえ、お前であっても新人王は渡さないぞ、沢村」

 

栄治の鋭い眼光、挑戦的な目。沢村がプロに入ること前提で、彼には新人王を渡さないと宣言したのだ。

 

「俺は今からでもアンタからエースを奪いたいほどなんだぜ!! 秋の背番号は、絶対に俺が貰うからな!!!」

そして沢村も、負けじと大塚から秋の大会でエースを奪うと宣言する。予選でのエースは確かに大塚だった。だが、沢村にもこの夏の予選は手ごたえを感じさせる大会でもあった。

 

――――やっぱすげぇよ、エイジは。けど、憧れているからこそ、越えたくなるもんだぜ!!

 

 

そして2回戦では、横浦が初戦の15得点に続く、20安打、17得点で島根の開聖を圧倒。2試合連続となる二桁得点を記録する。

 

今年の最強打線はどこが相手だろうと情け容赦なく燃やす。

 

 

しかし、だからこそ高校野球ファンは準決勝での横浦とこの投手の対戦が見てみたいという気持ちが燻られる。

 

 

高校野球で完全試合寸前の投球、夏の甲子園で史上初の快挙に迫った事実は伊達ではない。

 

連日の報道陣、野球ファン、さらには大塚が1年生という事もあり、

 

 

「宿舎から見えたわ~~!!」

 

「こっち向いて~~~!」

 

黄色い声援が宿舎に来ており、青道ナインは少し辟易していた。

 

「眠れませんね。」

 

「眠れないな」

 

「ああ」

上から大塚、沖田、結城。夕陽が沈みかけている頃、彼女らは未だに青道のホテルの前に集まるのだが、

 

「正直なところ、これはこれで仕方ない気がしますね」

大塚は諦めの境地に辿り着いていた。早く寝させてほしい、休ませてほしい。それが彼の願いだ。

 

「自分を見失わないことはいいが、少しは自分の価値を認めたらどうだ」

結城は、ミーハーに対し、あまりいい顔をしない大塚に苦笑いをしつつ、苦言を呈す。

 

「有名税ですね。あまりいい気はしませんが、それだけのことをしてしまったのでしょう」

大塚の表情が今度は無表情になった。

 

「次の試合はどこが来ても危ないですからね。主将はどこが来ると思いますか」

 

「四国の強豪、妙徳だろうな。あそこは存在が不気味だ」

 

やや不機嫌になりつつある大塚を差し置き、結城は沖田とともに対戦校の見解について語り合うのだった。

 

 

 

 

そして2回戦も終盤、広島の光陵対奈良の天麗高校の一戦。どちらも県を代表する名門である。

 

テレビにて、沖田は食い入るような目で、その戦況を伺っていた。

 

「沖田君?」

春市は他県の対戦ではデータを見るような感じで、所々呟いていた彼の様子とは違う、今の状態に首をかしげる。

 

「小湊君。光陵には沖田の昔の馴染みがいるんだよ。そっか、横浦が来た時もなんか嬉しいと思う自分がいたけど、沖田にとってもそうだよね?」

大塚が小湊に説明しつつ、地元の仲間が勝ち進んできたことについての感想を尋ねる。

 

「ああ。何とも言えない。けど、アイツらとまた野球が出来る。それがうれしいと思う自分がいる。」

 

『さぁ、光陵高校のエースナンバーを背負うは1年生左腕、成瀬達也!! 最速141キロのストレートに加え、スライダー、スクリュー、カーブを操る制球派の好投手です!!』

 

『3年生や2年生にもいい投手はいるんですけど、ここ数年は軸となる投手を固定できなかった光陵。今年のドラフトは投打ともに目玉がいると言われていますが、この世代も将来が楽しみですね』

 

『帝東高校の向井君といい、青道の三本の矢といい、凄いことだと思います。』

 

「そういえば、帝東の彼も、奥行きを明らかに使っていたね。沖田と東条にボコボコにされたけど」

何でもないように大塚が思い出したように言う。

 

「なっ!? 1年生で奥行だと!? ハハハ………マジでどうなっているんだよ、この世代は。」

乾いた笑みをこぼす御幸。1年生でそこそこ制球がいいとは感じていたが、奥行きの意識すら既に持っている投手。逆ブロックなので幸いだったと感じた御幸。

 

「まあ、タイミングを外す能力はないでしょうがね」

 

タイミングを外すばかりか、まったく同じ腕の振りで球種を操れる人間など、父と楊舜臣、自分を含め、名を挙げるならメジャーの超一流や日本の超一流を上げなければならないほどの技術。

 

『一回の表、まずは3者凡退スタートの成瀬。コースを丁寧につく投球でしたね。』

 

「アイツには負けたくない…………なんか、ムカつく………」

沢村は思い出したようにそんな言葉を出した。いきなり向井を好きになれないと発言した沢村の発言に、一同はポカンとする。

 

『一回の裏、天麗高校の守備。こちらは3年生エース、杉山弘樹の先発。予選でも安定した投球を披露しています。』

 

「なんか、舌なんか出してさ。ああいう風に相手をバカにしているような奴にだけは、投げ負けたくない!」

 

「喉が渇いたかもしれないよ。あのマウンドは熱いし(それぐらいのエゴは許してやれよ)」

たぶん勘違いしてくれるかな、と大塚がそんな言葉を言って沢村を落ち着かせようとするが、

 

「いいや!! あいつ!! 絶対バッターをバカにしてる!! ああいうタイプは好きじゃねえ!!」

 

『打ち取った!! センターファインプレー!! 3番木村のあわや右中間に抜ける打球を見事にキャッチ!! 大きいですねぇ、これは』

 

「降谷は見下すように投げているけど。」

降谷の投球を具体例に出す沖田。降谷的には相手を見下すという感情すらないので、慌てて手をぶんぶんと振る。

 

『そうですね。抜けていれば、チャンスで4番の貴城君ですから。』

 

『一回の裏、両チームとも三者凡退のスタートとなりました。』

 

「けど、それでも限度があるでしょう!! 限度が!! 絶対打てよ、沖田!!」

そして沖田に沢村は、対戦した時は必ず打てと厳命する。

 

「なんか任されたし…………」

沖田としては、何がどうなって自分の名前が挙げられたのかわからなかった。打てない球ではないので、あまり動揺していない沖田。尚東条も沢村に厳命された。

 

「沢村。今年の夏、アイツと投げ合う機会は恐らくない。」

冷静に、御幸は沢村にいう。

 

「へ!? なんで!?」

沢村は口では気に入らないと言っていたが、彼の投手としての力量は認めていた。だからこそ、あっさりと逆ブロックの帝東が来ることはないと断言する御幸の言葉に疑問符が付く。

 

「甲子園は何があるかわからないというけど、9割9分、帝東は光南高校に負ける。」

 

「…………光南か………」

東条が厳しい表情でその名を口に出す。

 

春の選抜の王者、沖縄光南高校。二度目の春夏連覇に向け、初戦は大勝。投打ともにバランスがよく、前評判通りなら間違いなく上位に食い込んでくる強豪。

 

「光南?」

沢村は初めて聞いた様らしく、その名前を聞いてもピンと来ていない。

 

「春の選抜覇者光南。数多の好投手を打ち砕く総合打撃力を誇り、神木に勝ったチームだ」

 

「!!!!!」

神木の名を口にした瞬間、沢村の表情がこわばる。前橋のエース、神木鉄平を打ち砕いた、とは言えないが、

 

「光南にもエースがいる。あの強力打線をバックにした、選抜優勝投手」

 

琉球の黄金左腕、2年生エース柿崎則春。今大会で自己最速150キロを投げ込む掛け値なしの大会ナンバーワン左腕。

 

さらには二番手には技巧派の2年生投手と、左の速球派の1年生が存在し、恐らくは来年も甲子園に出てくる可能性があると考えられる。

 

 

 

『打ったァァ!! 左中間、上がったぞ!! 上がったぞぉぉ!!!』

 

沖田が見たのは、かつてのチームメイト、山田の一撃が奈良の天麗高校のエースの変化球を捉えたところだった。

 

「課題の打撃が、改善されて、選手として隙が少なくなりましたね」

 

俊足と守備だけではない。総合的彼は変わっていた。

 

「左の巧打者。スイング軌道も良いな。レベルスイングか」

クリスは、この山田のバット軌道がレベルスイングになっていることに気づく。

 

「レベルスイング?」

打撃に関しては無知な沢村。

 

「バットの面をフラットに、そして水平にして、その状態でボールにアプローチするスイング軌道を指すんだ。」

 

「左打者には必要な技術で、これが出来れば打率はかなり上がるだろう。」

 

その後――――

 

『アウトコース一杯見逃し三振!! 成瀬にはこの真直ぐがあります!!』

 

『両サイドをついたいい投球ですねぇ。』

 

「沢村とは違って、空振りを奪える球が多いな」

素直に分析する御幸。この成瀬と沢村は、両サイドをつくという共通点があるが、その投球スタイルは全く違う。

 

沢村は強気の投球と癖球を織り交ぜたテンポのいい投球。成瀬はテンポを重視しておらず、打者を多彩な変化球で打ち取ろうとしている。

 

「沢村よりも変化球の比率が多く、ストレートの比率が低い。」

 

沢村がストレートを多く投げ込める一方、成瀬が多投できないのは―――

 

 

彼のフォームは、沢村よりもタイミングが取りやすい事だ。

 

オーソドックスなスタイルなために、青道打者も慣れている。あの成宮で散々慣らしていたのだから。

 

「低目の見極めさえできていれば、なんとかなる、かな」

 

 

『試合終了~~~!! 6-0で光陵高校2回戦突破!! 1年生成瀬は7回無失点! 見事な投球でした!!』

 

「反対ブロックに、沖田の仲間、か。」

御幸はそういうこともあるのか、と沖田と彼らの縁を感じた。

 

「けど、かつての仲間が甲子園に来ることは、とても珍しいな。」

川上も、御幸と同様の事を感じていた。そういう経験はとても貴重だと思うのだ。

 

「………」

大塚はただじっと、クリスからのメモを読んでいた。それは次の対戦相手だ。

 

「まあ、アイツらはアイツらだ……です。とにかく次の相手を打ち崩さない限り、先には進めません。」

沖田も、それ以上自分の過去の仲間を気にする必要はないと言い含め、次の対戦相手の話になる。次の相手に勝たないと、そんな未来もない。

 

 

甲子園でかつての盟友と巡り合う機会を得た天才と怪童。

 

 

しかし、次の試合で青道はこの夏2度目の大きな試練を経験することになる。

 

 




次の相手はかなりの曲者です。正直、作った作者も「なんなのこいつら」です。


一年生に先発の連投を基本許さない片岡監督。


次の先発は



「ふしっ!!」



あれは、青道の大エース 丹波光一郎!?


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