ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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厨二乙。


第48話 影は光に隠れて……

そして、4回の表、青道高校の攻撃は7番の伊佐敷から始まる。

 

しかし、前の回のピンチで目覚めた成宮に三球三振に抑えられ、続く8番の白洲もインコースに詰まらされる。

 

9番東条も三振に取られ、なりふり構わなくなった成宮の鬼気迫る投球に、歯が立たなくなった。

 

「あの野郎…………開き直りやがった…………」

伊佐敷は、球威が戻ってきたことを認め、成宮は気持ちが切れていないことを確認する。

 

 

4回の裏。未だヒットのない稲実。先頭打者のカルロスは要注意打者。

 

―――まずはヒット打ってからだな、中学分の借りをここで返させてもらうぜ

 

ズバァッァアンっ!!

 

先頭打者と主軸に対しては、力を入れている大塚。9イニング計算で9回とおよそ3~4回。

 

ストレートも143キロアウトローと、厳しい球である。

 

―――追い込まれればSFFとパラシュートチェンジ。この二球種だけで緩急も自在。

 

 

―――カルロスはトリッキーな打撃フォームだが、惑わされるなよ?

 

御幸はカルロスが脱力した感じのフォームになってきたことで、警戒レベルを引き上げる。

 

 

―――ここでアレだ!

 

 

―――ここですか。解りました。

 

外側へのボール。しかしそれまでとは多少中に入ってきている。

 

―――甘い球!!

 

ククッ、フワッ!

 

「ッ!?」

 

パラシュートチェンジがまたしても視界から消え、急激なスピードダウン。狙っていてもなかなか難しいボール。

 

―――このボールが特に効いてやがる。次は緩急か? このパターンだと、最後は落としてくるのか? いや、SFFはあまり投げてこない

 

カァァッァンッ!!

 

「ファウルっ!!」

かろうじて低めのボールに手を出すカルロス。ここはシンプルに緩急で攻めてきた。

 

――――このままヒットなしで終われるかよ!

 

カルロスのバットを握る力が強くなる。

 

 

「っ」

投げた瞬間、静電気に似た感覚が、大塚を襲う。リリースのタイミングが微妙に崩れたため、ボールが中に入る。

 

 

 

カァァァァンっ!!

 

外角スロースライダーを真芯で捉えた当たり。珍しく中に入ったコースに、カルロスはタイミングを外されながらもセンター前へと運んだ。

 

『打った~~~!!! センター前!! 稲城実業!! ここで初ヒットが生まれます!! 成宮が建て直している中、バットで青道に迫れるか!!』

 

「しっ!! 打ったぜ、ルーキーッ!」

一塁でガッツポーズするカルロス。大塚はマウンドへ駆け寄る御幸に、

 

「すいません、失投でした。」

 

――――今のは、けど今は体を言い訳にはできない。

 

 

 

「気にするな。長打を浴びるよりはいい。カルロスは仕掛けてくるぞ。クイック」

 

 

スタンドにいる丹波は一瞬、違和感を覚える。

 

「大塚らしくない、追い込んでから制球を崩したのは初めて見たな……」

 

厳しい表情の丹波。横にいた真中は、

 

「けど、ミスするのが普通の高校生じゃないのか?」

 

 

追い込んでからミスをするのが普通だと言う。

 

 

ーーーー大塚? だが、今の違和感は一体…

 

妙な胸騒ぎがした丹波。

 

 

 

 

 

そして、試合が動き始める。

 

 

ダッ!

 

カルロスの初球単独スチールが決まる。これはカルロスの十八番である。大塚のクイックも平均以上、その前に牽制を2回入れていたが、それでもいいスタートを切られてしまった。

 

 

――ここで送りバント…………けど、この投手を追い詰めるなら…………

 

白河はここで送りバント。一死三塁の場面を作り上げる。

 

『送りバント決まる~~!! これで一死三塁!! 稲実初めてのチャンスで主軸へとまわります!!』

 

マウンドに駆け寄る御幸。

 

「無死三塁よりはマシですよ、先輩」

大塚がそんなことを言う。ぜんぜん堪えている様子もなく、落ち着いていた。

 

――――マウンドに上がったからには、仕事を果たすべきなんだ。投げられないわけじゃない。

 

胸辺りの違和感が増すが、今は引き合いにだすべきではない。

 

 

「ああ。とりあえず、こいつは小技も出来るから注意しろ。」

 

 

3番吉沢、4番原田の打順。

 

「3番には勝負だが、4番には厳しいところで歩かせてもいい。5番はお前なら三振に打ち取れる。」

 

「はいっ!」

この初めてのピンチ。三塁に進められ、普通ならば失点をする可能性は高い。

 

――― 一球ウエストするぞ。この場面、何があるかわからない。

 

すっ、

 

やはりバントの構えを見せ、揺さぶりをかけてきた稲実。初回のお返しとばかりに、大塚を攻めたてる。

 

「――――――――――――――――――――」

ダッシュをして、コースを消しにかかる大塚。それを見た吉沢は―――

 

―――なんてチャージだ、この投手。盗塁もしていたし、相当足が速い・・・

 

「っ」

一瞬顔を歪める大塚。しかし、誰も見ていない。

 

誰も気づかない。

 

 

 

――――球威のある高めのストレート。思いっきり来い!!

 

御幸は高めの球威あるボールでスクイズすらさせるなとサインを送る。

 

―――ここでスクイズを決め、一点を捥ぎ取るぞ、吉沢

 

国友監督の勝利への執念を見せる采配。

 

キィィィィンッッッ!!

 

「ぐっ!?(球筋が…………何だこれはッ!?)」

吉沢はバットを当てるので精一杯。飛び出していたカルロスもスクイズを失敗した今の光景に呆然とする。

 

―――今の球は…………なっ!?

 

148キロ。

 

場内がまたどよめいた。このピンチで148キロ。先ほどの4番との勝負でも147キロを計測し、この自己最速でバントをさせなかった。

 

 

――――あの吉沢が仕留めそこなった? それにあのフォーム。相当に浮き上がって見えるのかッ

 

ストレートの球威とキレが違う。それまでは力をセーブしていたような投げ方。

 

そして―――

 

 

ドゴォォォォォンッッッっ!!!!

 

 

「ストライクっ!! バッターアウトっ!!!!」

 

『三振~~~ッ!! 3番吉沢のバットをねじ伏せた大塚!!』

 

「ツーアウトォォ!!」

叫ぶように、鼓舞するように高らかに宣言する大塚。

 

 

 

「行けるぞ、大塚ァァァ!!!」

 

ゾワッ

 

バッターボックスに来るのは、四番の原田。だが御幸が感じたざわめきの理由ではなかった。

 

 

――――大塚?

 

「とにかくツーアウト、勝負しに行きますよ」

 

 

マウンドで立つ彼の姿は大きく見えた。まさに、上級生原田に対して、何の敬意も払っていないかのような、闘争心剥き出しの表情。

 

大塚が投球動作を始める。観客よりも近く、審判よりも近くにいる二人―――御幸と原田には、その剥き出しの闘気が襲い掛かる。

 

 

ドゴォォォォォンッッッ!!!!

 

「ッ!」ブゥゥゥンッ!!

 

初球から振りに来る原田。この球相手に初球から振りに来るスイングはさすがといえるだろう。だがその球速は―

 

149キロ

 

ピンチで4番打者との勝負で、さらに自己最速をマーク。二人はこの1年生のポテンシャルに戦慄を覚える。

 

―――うっは。これはストレートだけで打者を打ち取る、ねじ伏せる顔ですわ

 

―――扇の要、主将、4番。この打者さえ完全に抑えれば、稲実の流れは摘み取れる。

 

 

「――――っ」

小さく息を吐く大塚。全身に神経を研ぎ澄ませ、マウンドから見える打者を見る瞳。

 

打者しか見えていない。

 

――――相当バットを短く持っている。だが、短く持てばいいわけではないよ……っ

 

 

 

余計な力もなく、打者との真剣勝負。このツーアウトでセーフティスクイズは有り得ない。むしろやった場合は大塚の肩と足で即座に刺されるだろう。

 

三塁ランナーのカルロスは動けなかった。

 

―――主将相手になんなんだ、こいつは―――――

 

原田が初球のストレートにフルスイングして当たらない。一打席目からまだストレートに当てることが出来ていない。

 

続く二球目―――

 

ドゴォォォォンッッ!!

 

149キロのストレートが低めに決まり、原田は手が出ない。低め外れると思ったボールが浮き上がったように見え、ストライクゾーンを通過したのだ。

 

 

 

チャンスであるにもかかわらず、稲実の応援歌が掻き消された。どうすれば打てるのかわからない。力を抜いている時でしかヒットが出ない。原田は徹底マークをされている今、

 

 

稲実にあったはずの得点の匂いが消えていた。

 

 

――――どこに投げるべきか? ここでもう一球ストレート。掠りもしていないからな。

 

 

打席での汗をぬぐう原田の表情には余裕はまるでない。まさに、プロ予備軍―――プロの一軍級の投手と対決しているように錯覚する。

 

 

そして―――

 

『2球連続149キロの大塚! セットポジションから3球目!』

 

大塚が息を吐き、セットポジションから第3球を投げる。原田もあのストレートにタイミングを合わそうと構える。

 

 

ドゴォォォォォンッッッ!!!!

 

 

「…………」

自分のスイングをした。しかし最期まで当たらなかった。すべて今度はストレート。解っていても当てられなかった。

 

崩れ落ちる原田。それをネクストバッターズサークルで見た成宮。

 

「ストライクっ!! バッターアウトっ」

 

 

『三振~~~!!! 一死三塁のピンチ!! 3番4番を二者連続三振でねじ伏せ、ピンチ脱出の大塚!! 原田は2打席連続三振!!』

 

これ以降、稲実の打撃が大人しくなった。ネクストバッターサークルにいた成宮にもほんの少しだけ影響を与えていた。

 

 

「大丈夫だったじゃないか、光一郎。あいつは」

 

 

「ああ、ランナーが出たら、戻っていた。稲実相手に何時も通りとはいかないか……」

 

「あいつに求めすぎだぜ」

 

 

 

 

 

 

 

―――これ以上点はやれないッ!!

 

 

 

5回の表、二死ランナーなし。ここで迎えるは、3番の沖田。今日はタイムリースリーベース、バントヒットと、当たっている。

 

「ストライクっ」

まず143キロの真直ぐが、内側のコーナーに決まる。外に上手く流されたタイムリースリーベースを意識しているのか、内角攻めが顕著になる。

 

――――球威も落ちてきたな。球数もそろそろ100球。精神的にも今大会で経験していない劣勢。大塚もあくどい事をする。

 

 

そして続く二球目のスライダーが外れ、1ボール1ストライク。狙い球は基本アウトコースのボール。

 

そして内を攻めたストレートのボール球。警戒するべきバッター。原田は歩かせてさえいいと思っていた。

 

――――今までの事を考えれば、外のチェンジアップ。俺は第一打席で外のストレートを流し、第二打席ではチェンジアップのバントヒット。ここから辿り着く答えは―――

 

今の原田には、外のストレートを綺麗に流す沖田が脅威に見えるだろう。

 

 

カキィィィィィンッッッッ!!!!!!

 

 

だからこそ、沖田の狙いと、そのカウントを整えるボールが合致するのは、それほど難しい事ではなかった。

 

 

外角低めのチェンジアップ。

 

 

 

後ろを向く成宮。マスクを外し、打球を目で追う原田。

 

右と中の外野手は、一歩も動けなかった。

 

 

『入ったァァァァ!!!!! 沖田のソロホームラン!!!成宮打たれました!!! 青道!! 優勝へのダメ押しの一発!!! 外の緩い球を完璧に運びました!!』

 

『狙われていましたね。バットの出方を見ると、本当に狙い球が予想通りにきたという感じですね。』

 

これで4-0となり、稲実の応援が沈黙する。後続の結城をサードライナーに抑えるも、許してはならなかった追加点。

 

 

ズバァァァンッ!!

 

「ッ!!」

しかし成宮は力投を続ける。6回終わって100球に到達。しかし、それでもマウンドで闘志を見せ続ける。

 

初回から尻上がりに調子を上げてくる成宮。だが、この一発勝負のトーナメントでそれは致命的だった。

 

 

6回までに3本のヒットを打たれる大塚。しかし後続を悉く抑え、ピンチの芽を摘み取る。カルロスの当たり以外は詰まった打球が内野の頭を超える物ばかりで、6回の梵、平井の連続ヒットで流れはきたかに見えた。

 

ーーーーまだ、大丈夫……っ

 

 

苦い表情を出す大塚。甘く入ったボールは見逃してくれない。成宮のように下位に手を抜くではなく、

 

 

大塚の身体を、何かが蝕んでいた。

 

 

ーーーーさっきからランナー無しの時に甘い球が増えている。球威があるから仕留められていないが、後半は大丈夫か?

 

御幸も、大塚の異変に気づいた。だが、稲実相手になげているのが理由だと判断した。

 

 

 

 

 

コンっ、

 

「ぐっ―――」

カルロスは大塚のボールの球威に押され、打球がやや強く転がったのだ。

 

 

一応フェアゾーンに運び、セーフティバントが決まるかに見えた。

 

 

ダッ、

 

カルロスは一塁へと走る中、素早く打球を捕球し、無駄のない動きで三塁へ送球、フォースアウトを取る大塚を見てしまった。

 

「任せろ、エイジ!!」

三塁手沖田は強肩。矢のような送球が一塁へと迫る。

 

 

「アウトっ!!!」

 

「――――」

送りバントを防がれ、さらには自分の足すら刺された。カルロスは、化け物でも見るような目で、大塚、沖田を見ていた。

 

これで無死一塁二塁が、一瞬にして二死二塁に変わった。そしてここで白河を迎えたところで、

 

―――今は、マウンドを降りるつもりなんてない!!

 

鬼気迫る闘志をむき出しに、投げ続けるエース。

 

 

 

ドゴォォォンッッ!!

 

 

「ストライク!! バッターアウトっ!!!」

 

 

「」

 

チャンスの後の一本を許さない大塚。ホームベースが遠い。それが確実に稲実のバットから力を奪っていた。

 

味方には、絶対エースの風格を感じさせ、安心を与え続ける。

 

何かが彼に起きている事など、気づけない。

 

 

そして7回の表。4回以降のランナーを出すものの、後続を抑えた成宮。すでに体力の限界は目前まで迫っていた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

息の荒い成宮。100球を既に超えている。集中力も体力も消耗した。もう続投させる意味はない。

 

国友は成宮が限界だと悟り、控え投手の方へと目を向けるが―――

 

「まだ投げれますよ、俺」

 

「成宮」

 

「ここで降りるわけには―――いかないんすよ、俺はエースだ」

 

 

青道ベンチも、7回のマウンドにまだ立っている成宮に驚く。そして、東条にヒットを許すも、後続を抑えた投球に、エースの姿を見た。

 

「あの野郎、まだマウンドに立ってられるのかよ。」

伊佐敷も、彼の精神力を認めるしかない。そしてその高すぎる壁から4点を奪ったことは、本当に幸運なことだと痛感する。

 

「凄いね、100球越えているのに――――」

小湊もバットを振って準備している。

 

 

そしてこの7回の裏。主軸からの攻撃。マウンドへと向かう前、片岡監督に呼び止められる大塚。これまで被安打3、無四球、10奪三振と完璧な内容。球数も80球前後と安定していた。

 

 

「この回。この回を完全に抑えろ。ここで流れを止めれば、勝利はぐっと近づく」

主軸との真っ向勝負。もしここで勢いに乗られれば、4点差はあっという間になくなる。

 

「心得ています」

表情が硬い。それに気づいた片岡は、

 

「どうした?」

 

「…………完封は厳しいですね、もっと楽に投げるべきでした……」

苦笑いをよく浮かべる大塚。稲実を圧倒しているが、やはりそれだけの代償もあるかに見える。

 

 

「8回までだ。ランナーが出たら川上に代える。ここまでよく頑張ってくれた。来年もこの背番号を取り戻してこい」

 

 

 

 

 

 

 

3番吉沢との勝負。今日は2打数無安打2三振。完璧に抑え込んでいた。

 

「来い、おらぁぁ!!!」

 

吉沢との対決。今日は上手く決め球で攻略した第1打席と第2打席。パラシュートチェンジとランナーがいる時のストレート。

 

―――気合十分。スロースライダーを一球見せるぞ

 

 

ククッ、ギュンッ

 

緩やかに、そして鋭く変化の大きいスロースライダーにタイミングを狂わされ、外のコースにバットが出てしまう。

 

「ッ(こんな、なんでこんなやつが東京に!!)」

彼は神奈川出身。大塚の話を聞いていなければ、どうして彼が神奈川から東京へと移動したかを知る由もない。

 

だが、そんな雑念を感じてしまった時点で、彼の負けは確定した。

 

『最後は落として空振り三振!! 11個目の三振を奪った大塚!! あの稲実を追い詰めています!!』

もう一球ボールコースのスライダーを見切れず、最後はうちに入ってきたボールコースへと落ちるSFFに手が出て三振。ガックリと項垂れ、ベンチへと帰る吉沢。

 

『さぁ、ここで3度目の対決。原田対大塚!! 4番対1年生エース。今日は2打数無安打、2三振とこちらも完全に抑え込まれています。』

 

『どう打てばいいんですかねぇ。彼にだけは150キロ前後のストレートに、スライダー、2種類のチェンジアップ、SFFを使いますからね。狙い球を絞るのも難しいでしょう。まずはストレートにタイミングを合わせたいのですが』

 

大塚の投じた初球はパラシュートチェンジ。バットは空を切る原田。

 

「――――ッ!!」

ストレート待ちの状態。ストレートにタイミングを合わせるべき時に、この球が来たのだ。

 

『今のようなチェンジアップがかなり効いてきますよね。一方の青道は、成宮君に対して徹底的に右打ちをしたおかげで、彼を攻略できました。チーム打撃、それを徹底できたかを考えると、青道はその分明確な作戦を感じられました。』

 

そして続く二球目は外へと逃げるスロースライダー。

 

カァァァァンっ!

 

何とか当てたものの、フェアゾーンには飛ばない。これであのSFFが来るのか、それともストレートか。

 

アウトハイの球が多く、インコースのボールは曲げてくる。照準を構えた原田。

 

―――余裕のない打者は、俺も含めてこんなんだろうな

 

御幸も原田の思考が手に取るようにわかった。だからこそ―――

 

 

ズバァァァァンッッ!!

 

145キロの真直ぐが、インコース低め一杯に決まった瞬間、原田は負けを覚悟した。

 

「ストライクっ!! バッターアウトっ!!」

 

『前の回から合わせて、3者連続三振~~~!! これで12個目の三振を奪います!! 最後はインコースのストレート!! ズバッと決まりました!』

 

 

「終わらせねぇ!! こんなところで、俺達が・・・!!」

打席に立つ成宮。稲実では、彼一人だけが未だに目に見えた危険な闘志を見せている。彼はまだ折れてなどいなかった。

 

キィィィンっ!!

 

「ファウルっ!!」

ストレートに初球当ててきた成宮。まさに好球必打。ストライクゾーンはどんどん振ってくる。

 

―――外角のスライダー。これで引っ掛けさせるぞ!

 

そしてややゾーンよりも低いスロースライダーがコースへと決まり―――

 

カァァァァンっ!!

 

「ちっ――――!!」

打った打球はボテボテ。三遊間へと転がる。そして何気に深い場所へと転がってしまう。

 

「ちっ!!」

ワンバウンドの送球は―――

 

「セーフっ!! セーフっ!!」

 

送球が逸れ、倉持のエラー。打った成宮は一塁でガッツポーズを上げる。

 

「大塚! 落ち着いていくぞ!! すでにツーアウトだ!」

大塚はエラーでの出塁を許し、御幸は度々マウンドへと向かい、大塚とコミュニケーションをとる。

 

「大丈夫です。後続を抑えれば問題ないです。」

大塚はあくまで冷静だった。だが、若干汗をかき始めていた。渋い顔をしており、やはり彼も三者凡退を強く意識していたのだろう。

 

 

だがそれでも、大塚はそれでも冷静だった。

 

 

―――力んでいる打者は、詰まらせやすい……っ

 

明らかに気負いすぎている。エースが作ったランナー。それを何としても次につなげたい気持ちが解る。恐らく自分もそうだろうから。

 

成宮の闘志も虚しく、続く6番山岡はタイミングを外されたストレートにつまり、セカンドゴロ。

 

二塁フォースアウトでスリーアウトチェンジ。

 

『エラーでランナーを出しましたが、後続を抑えた大塚!! 6年ぶりの甲子園まであとアウト6つです。』

 

「これで後アウト6つ!! いけます、行けますよ、先輩!!」

スタンドにて、夏川は7回まで無失点の大塚を見て表情を明るくさせていた。

 

「そうね。この決勝でここまでの投球。期待してしまうのは無理もないわ」

貴子はまずここまでの大塚の投球を称賛する。だが、その後「けど」と補足する

 

「それは7回までの大塚君。8回と9回の大塚君はどうなるかわからないわ」

 

 

7回が終了し、8回―――

 

「投手交代だ。」

 

ついに青道は、成宮をマウンドから引きずり下ろすことに成功する。ベンチには、タオルで汗をぬぐう成宮の姿。

 

7回4失点。先発としては責務を果たしたとは言えないが、イニングはもってくれた。だが、球数を考えれば、これ以上成宮をこの試合で消耗させるわけにはいかない。

 

『おおっと、稲城実業、ここで投手の交代です! エース成宮に代わり、2番手には井口がマウンドへ向かいます。』

 

背番号11の井口。やや球威のある直球に、スライダー、フォークを繰り出すオーソドックスな投手である。

 

「とうとう成宮がマウンドを降りたか。」

片岡監督は、今回の作戦のテーマである「成宮を降板させる」という目標を達成した事を認識する。序盤にあった隙をつき、エース対策の打撃をしたことで、試合を有利に運んでいる現状に満足する。

 

「――――ここからは、自分達の打撃をして来い。相手のエースを全員の力で引きずりおろした。お前たちは、もっと自信を持っていい。お前の持ち味はなんだ、小湊?」

 

これから打席へと向かう小湊に声をかける監督。

 

「相手投手の球に食らいつくことです!」

体格に他の選手に劣りながらも、小湊の声は鋭く、ベンチのメンバーにもはっきりと聞こえた。

 

「打席で見せてみろ!」

片岡監督も選手に高揚感を与え、この回の得点を期待している。変わったばかりの投手に、小湊がぶつかったのは幸いだった。

 

 

 

――――鳴の降板、それは俺のリードミスだ。奴らがチェンジアップに予想以上当ててきたこと―――

 

そして徹底したチームバッティングをし、鳴の弱点を確実に攻めたて、その攻撃の途中で確信を得た事である。だが、チームが負けている一番の理由は―――

 

―――大塚栄治―――あの投手を攻略できていねぇ。

 

 

そして8回の表、先頭打者の小湊を見た原田。彼も彼の打撃は注意しているし、変わったばかりの井口には酷な相手かもしれない。

 

 

―――どうするのかな、相手は稲実の2番手投手。データは一応あるけど、とりあえず初球―――脅しをかけてみるかな?

 

原田が選択したのは、外角スライダー。しかし外れてボール。原田も、初球から狙ってくる今の反応に、戸惑いを感じた。

 

―――こいつ、初球から振ってくるのか? 前の打席とは違う。鳴の変化球を捉えられ、こいつには一番球数を投げさせられた。しかし――

 

原田は続けて勝負を続行。次はインコースを突く投球で、小湊にバットを振らせなかった。

 

――――ストレートは140キロ前後。一年生のボールを見ていると、そこまで絶望感はないね。

 

ベンチの中で、打席を見つめている大塚、投球練習中の沢村、降谷を見て、笑みを浮かべる小湊。

 

 

――――クッ、やはり食らいついてくるか。

 

その後、8球目まで粘っている小湊。そして―――

 

 

「ボール、フォア!!」

 

先頭打者の小湊が塁に出る。最後はフォークがボールゾーンへと行ってしまったのだ。

 

『マウンドを代わったばかりの井口。小湊に粘られ、先頭打者を歩かせてしまいました。この回の追加点は、青道にとってはかなり大きいでしょう!!』

 

 

3番、サード沖田。

 

ここで青道の怪童が姿を現す。バットを持って、打席へと入る。

 

―――ここでこいつは何を狙う? バントも出来るぞ、こいつは

 

カキィィィィンッっ!!

 

一二塁間を狙う打球。この鋭い当たりはライトへと転がりかけたかに見えたがセカンドの好捕に阻まれる。

 

しかし、スタートを切っていた小湊は二塁に到達。沖田が進塁打を打つ形となった。一死二塁。

 

またしても青道はチャンスを作る。

 

 

「―――お前と主軸を組むのが、これほど頼もしいと思えるとはな。」

 

塁上には、小湊。ベンチでは、好守備に阻まれた沖田。どちらも青道が誇るレベルの高い打者。それが自分に期待したような目を向けている。

 

 

―――4番、ファースト、結城哲也

 

「(沖田と小湊がお膳立てしたチャンス、ここは是非とも決めたい)」ゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!

 

3度目のチャンス。

 

 

一度目はヒット、二度目は三振。そしてこの三度目は―――

 

―――打つッ

 

 

結果が出るのは、意外とかからなかった。

 

 

 

カキィィィィィンッッッッ!!!!

 

 

2ボールからの3球目。甘く入ったフォークを捉えた当たりは、左翼席へと突き刺さったのだ。

 

右手を高々と突き上げる結城。優勝を決定づける、稲実の夢を打ち砕く最後の一打。

 

 

『入ったァァァァ!!!!! 4番結城の、優勝を決定づける一撃!! レフトスタンドへと突き刺さるツーランホームランで、差を6点差に広げます!!』

 

その後、大塚、御幸らが凡退。しかし8回の裏もきっちり三者凡退に抑えた大塚、御幸バッテリー。これで14個目の三振を手にしている。

 

9回の表も倉持まで回るが、倉持の惜しい当たりをカルロスが好捕。無得点となり―――

 

クライマックスの9回の裏。そのマウンドへと上がるのは―――

 

 




関東No.1撃破。もう勝つしかない。

彼がどんな故障をしたかについては、決勝後に判明します。

沖田こそ、狙い撃ちに相応しいような……


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