ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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タイトルが稚拙。


第47話 機動力

初回2点先制し、初回の攻撃で成宮から球数を稼いだ青道高校。2回の表、攻撃は

 

「伊佐敷~~~!」

 

「塁に出ろ~~~!!」

 

 

「しゃぁぁぁぁ!!!」

打席に立った伊佐敷。作戦は変わらない。

 

―――気合入りまくりだね! すぐに三振でおわらせてあげるよ!

 

ズバァァァンッ!

 

「ストライクっ!」

あっさりと初球ストライク。手を出してこない伊佐敷。右打者に対し、アウトコースへと投げ込む傾向が強くなってきている。成宮の球威も込みで、なかなかヒットにするのは難しいだろう。

 

 

―――次もストライクを入れるぞ、鳴

 

「ストライクツーっ!」

 

―――今度はスライダーかよ。

 

外角から入り込んでくるカウントを稼ぐスライダー。これを確認しただけでも儲けモノだと伊佐敷は考える。

 

―――後はどこまで粘れるかだなァ…………

 

フワッ、ククッ、

 

 

そして、成宮の要でもあるチェンジアップが放たれる。腕の振りが同じなので、バットが出かかる。

 

 

「ボールっ!」

 

「ちっ…………(なんつう変化だ…………待っていたとはいえ、哲はこれを初球で打ったのかよ!)」

 

ちなみに結城が打ち返したのは真ん中のコース。今のボールと結城に投げた球では、比べ物にならないほどの難易度がある。

 

―――こいつらウザい! 粘ってばっかで!!

 

 

―――フォークで落とすぞ。

 

 

寸前で地面に突き刺さるような落ちるボール。チェンジアップだけではない。このスピードのある落ちる球はやはり脅威なのだ。

 

「ぐっ!?」

 

「ストライクっ!! バッターアウトっ!!」

伊佐敷、粘ることが出来ず、4球目で三振に打ち取られる。粘ることが青道のこの試合のテーマ。すべては成宮攻略のための布石の先、

 

――――青道の勝利―――――

 

 

 

 

8番白洲は6球粘り、最後はチェンジアップに三振。どうやらエンジンがかかり始めたようで、初回の沖田の一撃で動揺していた成宮とは別人である。

 

この回は10球でツーアウト。9番東条へと打順が回る。

 

「ヒャハッ!! ランナー出てもいいんだぜ!! 俺が返してやるぜ!!」

ネクストバッターサークルの倉持が声を飛ばす。

 

―――させないけどねっ!!

 

成宮もこの声に腹を立てて、東条相手にやや力を入れる成宮。

 

―――チェンジアップで三球三振ッ!

 

カァァァンっ

 

低めへのボールを片手一本で合わせた東条。タイミングは外されており、芯もずれているが、かろうじて生き残った。

 

「ふぅ…………(低目はいける…………)」

東条も名投手相手に自分の持ち味は消えていないと感じていた。

 

―――ストレートで空振りを奪うぞ!!

 

「クッ」キィィンッ!

バットに何とか当てた東条。これで4球目。高めのストレートに何とか当たったというべきスイング。

 

―――ストレートとあってないじゃん。次は外角かな

 

ズバァァンッ!

 

「ストライクっ! バッターアウトっ!」

そして成宮の思惑通り、外角直球に手がでず、三振。

 

しかしこの回も15球と粘った青道。これで初回と合わせると、相当な球数となる。

 

「むぅ」

国友監督も、ここまで徹底して粘ることに費やしている青道に、やり難さを感じていた。初回の攻撃の明暗が分かれた際、国友は悪い予感が当たってしまった。

 

―――成宮というエースを打ち崩すことは難しい。だが、何があるかわからないのが高校野球。後ろにまだ投手はいるが、それでも不味い流れだ。

 

「原田。とにかくまずは大塚を見て来い。」

 

「はい。」

 

 

そして四番原田との勝負。

 

―――扇の要、主将、4番…………このチームの根幹でもあるこの選手を抑えれば、試合を有利に出来る。こいつ相手には全力で投げろ。

 

 

大塚は頷いた。

 

「!!!」

 

ドゴォォォォォンッッッ!!!!!!

 

神宮の球速は、出やすいと言われている。成宮の最速も、今日は148キロ。さらに言えば、力を入れて投げる場面が増えているという事。沖田、結城の強力な上位打線は、やはり成宮の隙を見逃さなかったといえる。

 

対する大塚。彼もまた、この主軸相手には力で押す投球が必要であることを感じていた。

 

 

 

そして今の大塚の球速は―――

 

 

神宮の球速表示を見た観客はその事実を目の当たりにし、息をのむ。

 

147キロ。

 

おぉぉぉぉぉぉ!!!!!

 

 

そして程なくして会場がどよめいた。ここで四番との勝負でアクセルを入れてくる大塚の初球。原田は大塚のフォームが変わったことを悟る。

 

―――更に腕が縦にしなっているだと…………

 

 

縦のフォーム。縦の回転力が増したこのフォームは、ストレート系とおちる球の威力を底上げしている。大きく分けて2種類に狭まった大塚のフォームだが、それでも変幻自在である。

 

 

続く2球目に反応した原田。しかし、その球にも空振りを奪われる。

 

ズバァァァァァんっっ!!

 

原田のバットは、ボールの下を振っていた。予想以上に手元で伸びている。

 

―――カルロスたちとは違い、俺を徹底マークか!?

 

真っ直ぐにこちらに来ているはずなのに、まるでバットから逃げているような、そんな感覚が原田を襲う。

 

 

二球で追い込んだ青道バッテリー。

 

ククッ、ストンッ!!

 

しかし原田はここで本当のボールが逃げるという感覚を思い知る。縦に落ちる大塚の決め球。チェックゾーンを超えて変化するので、やはり見極めが難しい。

 

「ストライクっ!! バッターアウトっ!!!」

 

―――くっ、ここでSFF…………ッ!?

 

球速表示は134キロ。SFFでこれだけの球速。高校生の平均球速を上回るSFFの球速。

 

そして、成宮に対しては―――

 

 

―――舐めやがって!! ここで俺がうってやる!!

 

カァァァンっ!

 

初球シンキングファーストに詰まらされ、セカンドゴロ。あっさりとツーアウトを献上する。

 

「ツーアウトっ!!(後、アウトは22個か)」

何やら雑念が入り混じっている大塚。もはやアウトを製造する機械になったかのような意識で、淡々と投げる。

 

 

―――ここは、初球ボール球のパラシュートチェンジだ。こいつはぶんぶん振ってくる奴だ。

 

「くあっ!?」

長打力が魅力の山岡。御幸にも無論知られているが、長打がある分荒い部分もある。

 

―――もう一球今度はサークルチェンジで、振らせに行くぞ。

 

「またッ!! ッ!?」

軌道の違うチェンジアップに合わず、追い込まれる山岡。明らかに動揺しているのが解る大塚と御幸。

 

―――さて、外角直球だな。際どい所に投げろ。ボール球でも振ってくれる。

 

「うっ!!」

最後は腰砕け。力のないスイングが空を切る。

 

 

「ストライクっ!! バッターアウトっ!! チェンジっ!!」

この回は二つの三振を奪う大塚。最後の打者にはこの緩い変化球の後の直球が効果的だった。

 

 

『空振り三振~~~!!! 大塚、見事な投球で稲実に得点を許しません!! 最後は直球!!』

 

『いやぁぁ、いい投球をするというか、考えて投げていますね。彼らは。』

 

『大塚、御幸バッテリーですか?』

 

『球種を豊富に持っているという事で、配球は一辺倒になりがちですが、一人一人に対して丁寧に投げていますね』

 

 

3回の表、打順は早くも二巡目。打者は倉持。今度は右打席にバッターボックスを構える。

 

―――揺さぶりのきっかけなら、なんだってするさ!!

 

 

―――こいつっ!!!

 

明らかにまた仕掛けてきた倉持。右打者の彼との初打席。前の打席の攻めでは打たれる可能性がある。

 

 

―――スライダーとフォークは打てる!! そう思い込め!! ストレートがセオリー。どうせ仕掛けるなら―――

 

カァァァンっ!!

 

右方向への打撃。ファースト切れてファウルになる。今のはチェンジアップ。倉持はかろうじて当ててきたのだ。

 

「!!!」

マウンドの成宮も、まさかこんな速い回からチェンジアップを当てられるとは思っておらず、動揺が見られる。だが、倉持がチェンジアップを強く意識していることが分かる。

 

だが、青道がチェンジアップに反応できている最大の理由は、沢村という理想的な仮想投手がいたのが大きい。

 

「惜しい!!」

ベンチで思わずそう叫んだ沢村。苦戦が予想されていた成宮のチェンジアップ。自分がまさか攻略の糸口になっていることも知らず、ベンチで騒いでいる。

 

 

―――くそっ、予想より沈んだか…………ッ。けど、軌道は解ってきたぞ。

 

ズバァァァンッ!!!

 

しかし右のインコースのクロスファイア-。手が出ず追い込まれる。

 

―――どっちだ? けど、こいつ相手に出塁できたら儲けもの。仕掛けるって決めたんだ!

 

もし、今の自分を見ればどう対応するか。今の自分は当てに来ている。

 

 

 

チェンジアップを意識する局面。彼を追い込んだのはストレート。倉持には焦りの表情。倉持は表情から始めるフェイクを演じることを意識する。

 

一番怖いのは、緩い変化球を当てられること。

 

 

 

―――打席の一挙一動を捕手は見ている。ただ配球を読むのではなく、打席が始まる前から駆け引きは始まっているんですよ、倉持先輩。

 

後輩のこの言葉、倉持はそれが頭の中に強く浸透していた。

 

 

そして来たのは、ストレート。外側のややボール球。

 

―――天は俺に味方した!!!

 

カキィィンッ!!

 

「えっ!?」

 

狙い撃ち、というには乱暴な決め打ち。倉持の当たりはファーストの頭を超えて長打コース。

 

「廻れ廻れ~~~!!!」

 

そして一気に二塁へ到達した倉持。

 

「しゃぁぁぁ!! 二塁打!!」

 

「青道のスピードスターっ!!!」

そして沖田以来の長打に青道スタンドは湧きかえる。

 

ここで二番小湊。

 

―――そろそろ俺も出たいからさ、躊躇いなく粘るよ?

 

そしてフルカウントまで粘った小湊。すでに球数は50球に達していた。

 

「ボールフォアっ!!」

 

小湊が粘り、これでノーアウト一塁二塁。

 

ここで長打を打った沖田が打席に立つ。外野内野共に深めの守備位置。ゲッツー体勢気味でもある。

 

『またしても成宮を攻めたてる青道高校!! ここで先制タイムリースリーベースの沖田が打席に立ちます!外野内野共に深めの守備位置です』

 

―――嫌なバッターと当たったな…………ここはまず内角のストレートでファウルを誘う。

 

 

「カァァァァンッッ!!」

内角を思いっきり引っ張ったあたりは、レフト線へと切れる大ファウル。

 

―――インコースも捌くのか、こいつは…………ッ

 

 

―――次はチェンジアップだ。ボールでいい。相手が反応してくれれば――

 

すっ、

 

「!?」

成宮は沖田の行動に驚愕する。沖田はバントの構えを突如として見せてきたのだ。

 

かんっ、

 

打球は三塁方向へと転がる。ここで長打を警戒していたサードは間に合わない。成宮が捕球し、

 

「待て!! なげるなっ!!!」

 

成宮は明らかに厳しい体勢だった。故に、ここで投げれば暴投になっていた可能性も高い。だからこそ、原田は制止したのだ。

 

「っ!!」

投げようと思っていた成宮だが、すでに沖田は一塁へ到達。左投手にはきつい、三塁方向へのセーフティバント。

 

これでノーアウト満塁。バッターは4番結城。

 

『投げられない~~~!!! これで青道、ノーアウト満塁のチャンスを迎えます!! ここで4番の結城を迎えたところで、稲実初めてのタイムを取ります。』

 

内野陣が集まる。この大ピンチ、これ以上の失点は致命的である。ここで原田は中間守備を選択。

 

 

『外野は浅く守っています。稲実、やや内野は中間守備、ホームゲッツー。外野はバックホーム体勢です。』

 

深い大飛球なら間違いなく奪われる。だが、低めで転がせば、いや……

 

ここは内野フライ、三振しかない。

 

 

 

 

スタンドの長緒アキラは、自分達では攻めたてることも出来なかった成宮相手に、ついにノーアウトフルベースという大チャンスを演出した青道に戦慄を覚える。

 

「あの成宮からこんなにランナーを出せるなんて…………」

 

「徹底して右打ちだね。チェンジアップにタイミングが合えば、長打もあり得る…………」

仲間たちも、青道の狙いが右打ちと粘りであることが分かった。

 

そして今の送球が出来なかった時の成宮。このピンチをエースがどうやって凌ぐかが問題である。

 

―――ノーアウト満塁。監督の指示は右打ちか…………

 

―――甘い球を待て、ここで下手に撃って凡退して球数を稼げないのは辛い。甘い球が来れば自分の打撃をしろ。

 

あくまで球数を稼ぐことを厳命する片岡監督。三振でも構わず、甘い球は強く振り抜けと言われる。

 

 

ズバァァァンッ!!

 

 

「ストライクっ!!」

 

そして厳しい球には手を出さない。結城。その反応だけに、追い込まれている気持がますます表面化する成宮。

 

―――まともにやれば、お前らなんか…………ッ!!

 

搦め手を次々と仕掛けてくる青道高校。成宮の精神状態にかなりのダメージを与えている。投手がこの局面で冷静であれというのは酷だろうが、それを招いたのは稲実バッテリーの上を行く青道の攻めが原因である。

 

 

「ファウルっ!!」

ストレートを二球続けた成宮。これで追い込んだバッテリー。気迫を前面にだしている成宮。

 

 

―――ここで、フォークボールだ。ここは俺が止めてやる。

 

 

「ッ!?」

 

「ストライクっ!! バッターアウトっ!!」

このワイルドピッチが許されない場面でフォークボールを選択し、結城を三振に打ち取った稲実バッテリー。

 

 

『三振~~~!!! まずはアウトを一つとった成宮!! 四番結城を三球三振に取りました!! この場面で決め球をフォークにしたバッテリーを褒めるべきでしょうか?』

 

『ここは痺れましたね。しかしまだピンチは続きますよ』

 

5番投手。大塚。成宮としては、ここも力の入る場面。彼にヒットを許さない、許したくない思いが強くなる。

 

同じ投手に、初回の打席はあまり引きずる様な表情すら見せなかった大塚。あの勝負は自分が勝っていたのに、大塚は悔しさを露わにすることもなかったのだ。

 

自分の術中にはまり、相手の驚く表情が大好きな彼にとって、大塚の反応はまさに気に入らないものだった。

 

『さぁここで勝利を決定づける一打を打てるか?』

 

「大塚~~~!!!」

 

「うて~~~!!!」

 

「ボールっ!!」

チェンジアップを見てきた大塚。コースに外れたのだ。積極的に振りに来ない大塚。あくまで成宮を潰しにかかっていることに、原田は戦慄を覚える。

 

―――この場面でも徹底して球数を稼ぐのかよ…………ッ

 

原田は、このような徹底して勝負に徹する冷静な選手ほど怖いものはないと考えた。原田の焦った表情をちらりと見た大塚は、

 

「――――」

 

口元が少し崩れた。彼の作戦に、術中にはまっていることが、解ってしまった。

 

 

大塚は振らない。それが成宮の心に火をつけた。

 

ズバァァァンッ!!

 

「ストライクっ」

 

ズバァァァンッ

 

「ストライクツーっ!」

 

あっさりと3球で追い込まれた大塚。

 

―――この勝負所。力勝負で来るか? チェンジアップで三振ならいいと言われているけど。

 

 

―――絶対にねじ伏せる! ここで、抑える!!

 

 

そして勝負の4球目は高めの浮いてしまったストレート。それは投げてはならなかったボール。大塚は、この精神状態でコントロールミスをすることを解っていた。

 

―――――ノーアウト満塁、一死満塁。この局面では、冷静な選手が勝つのが道理ですよ、成宮先輩。

 

カァァァンっ!!!

 

打球は、成宮の頭上を越えていく。

 

 

 

『打った~~~!!! センター前ッ!! 三塁ランナー倉持はホームに!! 二塁ランナーも帰ってくる~~~!!!』

球に逆らわずにミートだけを狙ったセンター返し。それがセンター前へと落ちる。

 

「これ以上させるかよ!!!」

カルロスからの好返球がホームへと迫る。

 

「!?」

ホームへと突っ込んだ小湊。判定は――

 

「アウトっ!!」

審判の判断はアウトだった。

 

『アウトっ~~~!!! 稲実、4点目は防ぎました!! しかし大塚のタイムリーヒットで3点目を捥ぎ取った青道高校!! なおもツーアウト一塁三塁!! ホームクロスプレーの最中、三塁へと陥れた沖田!』

 

抜け目なく次の塁を狙っていた沖田。判定が遅れたために、沖田はその間を確実に狙っていた。まだピンチは続く。次の得点を許せば、本当にこの試合が決まってしまう。

 

 

『さぁ味方の好守もあり、これ以上の失点は防ぎたいところ!! バッターは、6番捕手の御幸!! 準決勝は2打点と活躍!!』

 

 

成宮が大きく足を上げ、バッター集中のフォームになっていた。それを読んでいた大塚は投手で初球スチールを狙ってきたのだ。

 

『一塁ランナーがスチールっ!! 原田投げられないッ~~~!! 初球はストライクっ!!』

 

二塁へと陥れた大塚。これで、一打で2点入ってしまう。勝負強い御幸との対決を避ければ、確実に球数は稼がれ、次のバッターも恐らく3球は必要となる。

 

7番はそれなりにパワーもある。間違いが起きれば取り返しのつかないことになる。球数も遂にあり得ないレベルに到達しようとしている。それに加えて、このピンチの連続。精神的、肉体的に厳しい場面が続く。

 

まだ3回の表である。ここまで徹底的な攻めに、青道の本気がうかがえる。

 

こうなると、6回で100球を超える可能性が高い。

 

―――この盗塁はどう転ぶのだろうか、けど、これで一塁を見ることも視野に入れているはず。ここは頼みますよ、御幸先輩。

 

9人目の野手として、自分も彼にプレッシャーをかける大塚。一塁が空いており、打者は勝負強い御幸。

 

―――追い込んできたぞ、稲実のエースッ

 

御幸はこのチャンスで無理はしないと決めていたが、後輩が複数得点をおぜん立てしたのだ。

 

―――ここは狙うとしますか。

 

御幸は配球を考える。読み打ちこそが彼の勝負強い打撃を支える武器である。

 

―――初球はストレート。スチールされる可能性も低い。先ほどフォークを投げたことを考えると、俺を速く追い込みたいバッテリーは―――

 

「ボールっ!!」

 

すでに息を切らし始めている成宮。度重なる仕掛けで、成宮の集中力にも陰りが見え始めていた。

 

―――鳴…………ッ

 

しかし、気迫を見せるマウンドの成宮。

 

――――ねじ…………伏せるッ…………!!

 

ズバァァァァンッッ!

 

「うっ!?」

しかしここで御幸、手が出ない。ストレートは147キロを計測。

 

―――ここでそれが来ますか……やっぱりすげぇぇよ、鳴。

 

追い込まれた御幸。追い込んだ成宮。

 

ドゴォォォォンッッ!!!

 

「ッ!!」

このストレートを前に、さすがの御幸もどうしようもなかった。自分のスイングをしたが、成宮を仕留めるどころか、仕留められてしまう。

 

――――そう簡単に勝たせてくれないか――――

 

 

悔しさを強く感じる御幸。初回と同様に畳み掛けることが出来なかった。御幸はこの結果に渋い顔。これが稲実の力につながることを恐れていたのだ。

 

 

「ストライクッ!! バッターアウトっ!!」

 

『三振~~~!! ノーアウト満塁のチャンス。しかし青道は一点どまり!! ここで自己最速の148キロを出した成宮!!』

 

『青道側も珍しく攻めに失敗したように見えますね。』

 

実況も解説も、これで稲実に流れが行くと思っていた。ノーアウト満塁を最少失点で切り抜けた。だが、青道のこの攻めは、確実に成宮に対して、ボディブローの如く後半戦で効いてくるだろう。

 

だが、稲実のスタンドは気づかない。満塁のピンチで一点どまりの青道。相手の攻撃を何とか防いだ成宮への賛辞が飛ぶ。

 

「一点で防いだぞっ!!」

 

「まだまだ行けるぞ!!」

 

稲実のボルテージが上がっていく。そう、ここは上げるしかない。そうでなければ勝負がついてしまう。

 

それが解っているからこそ、稲実ベンチは是が非でも、この回にランナーを出さなければならなかった。

 

稲実ナインはそれに乗らなければ、不味い展開になるのだから。

 

「ハァ…………ハァ…………」

初回からの度重なる仕掛けで、成宮の体力は相当削られていた。集中力も削られ、青道の狙いが一貫しているからこそ、一点どまりに収まったのだ。

 

ピンチこそ脱したが、成宮は限界が近い。

 

「井口を準備させろ。平野にも、出番があることを伝えておけ」

 

 

こうなると早い回で成宮を降ろす必要になってくる。打ちこまれる前に、限界を迎える前に交代させなければ、試合自体が壊れる。

 

「ストライクっ!! バッターアウトっ!!」

 

「くっそ…………ッ」

最期はSFFで三振に打ち取られた富士川。先頭打者を出さない大塚。シンキングファーストを二球続け、ファウルを稼ぐと、最後にSFF。バットが止まらない。

 

続く梵にも、

 

「あっ!」

 

三球目のカットボール打ち上げてしまい、ファーストフライ。簡単にツーアウトを取られてしまう。

 

『これでツーアウトっ!! 未だランナー一人出ていません、稲城実業!!』

 

 

9番平井には―――

 

 

「ストライクっ!! バッターアウトォォォ!!」

低目低めを丁寧についた投球。その仕上げに、最後はアウトコースに糸を引くようなストレート。ミットに吸い込まれるようにボールは収まり、バッターには内角を癖球で攻められたために、かなり遠くに感じてしまう。

 

 

『見逃し三振~~~!!! 外角のストレートに手が出ない!! この3回の裏もランナーを出せない稲城実業!! 時代の新風を巻き起こすか、青道高校!!』

 

3回が終了し、3-0とリードする青道高校。

 

 

昨年の雪辱を果たす時が来たのか。

 

 

 




次回、主人公の様子が……


残業に慣れたじぶんがいる。残業が無いわけがない、と思えるようになった。

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