ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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さて、沢村の運命は


第26話 粘る者

衝撃の練習試合の翌日。沢村の先発にして、エースの資格を持つに相応しいかどうかの試練。

 

次の相手は選抜準優勝の前橋学園。攻撃的な走塁と、ミート力のある強豪。しかしその主軸はつなぎの3、4番とも言われるほどにチームバッティングが上手い。

 

そして、春の覇者沖縄光南高校相手に2失点完投をしたものの、惜しくも破れた3年生投手、神木鉄平。ストレートは最速150キロを誇り、切れ味鋭いスライダーと2種類のシンカー、タイミングを外すカーブと、今年のドラフトでも上位候補といわれる逸材。

 

だが、彼がもっとも注目されている理由は、その150キロのストレートでも、決め球のシンカーでもない。

 

 

彼の真骨頂は、150キロ前後のストレートだけではなく、全ての変化球をコントロールできていることにある。

 

選抜での四死球の数は僅かに2つ。大会を一人で投げ抜いたタフネスさに、この速球投手特有の制球力のもろさすら皆無。

 

そして、彼が目指す投手像は――――――

 

 

――――大塚和正選手のような、両方を兼ね備えた投手になりたい。

 

サイヤング賞最多受賞を誇る大投手を目標に掲げ、今年の夏で活躍が期待されている。

 

 

その静かなエースは、巨人、横浜、ヤクルト、西武などから熱い視線を向けられている。

 

 

「………青道の打線とやり合うのか………そいつは楽しみだ」

彼は不敵な笑みを浮かべながら、初回表の守備に就く。

 

一方の青道ベンチでは、

 

「相手は全国屈指の好投手だ。大阪桐生の舘の比ではない。最初は球筋を確認するだけでいい。勝負を仕掛けるのは2巡目だ。」

 

選抜準優勝投手。恐らく夏の本選で避けられない相手。青道はこの投手を少しでも知る必要があるのだ。

 

「けど、制球がよさそうに見えるね、あの投手。」

大塚は、神木の投球を見て、制球とキレを重視しているように見える彼が、自分に近しいと感じていた。フォームが安定しており、球が荒れていないのだ。それでいて調子もよさそうではなく、安定していると言っていい。

 

 

「ああ。雰囲気も、なんだかお前に似ているような、そんな感じがするな」

先発出場の沖田も、神木の尋常ではないオーラを感じていた。

 

大塚も神木も、同じ大投手を目標としているのだ。似てくるのは頷ける。

 

 

「……アレが、本当の全国レベル……」

沢村は、この神木の投球を目に焼き付ける。この青道に来てから、格上ばかりの投手を見てきた沢村。だがそれでも、彼はここまで這い上がった。ここで投球を見ただけで折れるような精神は持ち合わせていない。

 

舘は青道の打線を1点でしのぐ。だがこの投手はさらに格上の投手。大量点どころか、ヒットすら期待できるかわからない。

 

「ああ。右腕だが、投手にとって何が重要なのかをあの選手は理解している。大塚や神木の投球は、お前にとっての教科書だ。といっても、意識し過ぎるなよ。」

と、御幸が沢村の横で、しっかり見ていくようにと一言を入れておく。正直本選で当たりたくない相手。だが、頂点を目指すうえで、いつかは叩かなければならない相手。

 

―――――その前哨戦。奴から点を取れれば――――

 

御幸は、成宮すら凌駕する超高校級投手を前に、表情がすぐれない。

 

 

 

そしてそのマウンドの神木―――――

 

ノーワインドアップから繰り出される速球がコースに投げ込まれ、先頭打者の小湊を2ストライクとぽんぽんと追い込んだ。

 

――――うちの大塚程じゃないけど、コントロールはそれ以上だ………! 厄介だね……

 

ストレートの球威とキレでは、大塚だろう。だが―――

 

ククッ、ストンっ!!

 

「っ!!!」

 

神木の高速シンカーが切れに切れる。低めへの制球がよく、この必殺の決め球の前に、バットは空を切る。

 

軌道こそ違うが、大塚の決め球に次ぐ威力を誇る球種。

 

続く白洲も、最後はインコース低めのストレートに手を出すものの、あえなくゴロに打ち取られる。

 

そして、目下売出し中の3番沖田がバッターボックスに立つ。

 

――――シンカーの切れは段違い。最初は見に行くべきか?

 

ズバンッ!

 

「ストライクっ!!」

 

息をするように制球の良いストレートがストライクを稼ぐ。最初にアウトロー一杯のストレート。

 

そして次は―――

 

「また同じ球!? っ!?」

 

ブゥゥンッ!

 

直前で曲がり落ちたスライダーにバットは空を切る。外角へと逃げるスライダー。簡単に追い込まれた。

 

―――ここで得意のシンカーか?

 

考える間も与えない神木の第3球。

 

ククッ、フワンッ!

 

「なっ!?」

 

丹波のような大きく曲がるカーブがインサイドからアウトコースへと決まり、沖田のバットが出なかった。

 

「ストライクっ!! バッターアウト!!」

 

―――これが、高校上位クラスの投手…………

 

屈辱の見逃し三振を奪われ、守備に就く沖田ら。

 

そして次は沢村の出番。

 

 

「…………すげえな………あんなレベルが全国にはごろごろいるのかよ………」

沢村は、沖田があんな風に三振を取られるところを見たことがなかった。故に、そのキレに驚愕しつつ、そんな投手と投げ合える喜びに震えている。

 

「ビビったか?」

故に御幸の軽口にも、

 

「全然!! 燃えてきたっすよ!!」

 

――――ホント、こいつは面白いなぁ………

 

御幸はマスクを被ると、沢村にサインを送る。

 

第1球。

 

ズバァァァンッ!!

 

130キロ前後のストレートながら、打者の外角へと制球されるストレート。その後、ムービングでカウントを稼ぎ、

 

――――外角にボール球のストレート。

 

「ボールっ!」

 

 

―――これでストレートの軌道を見せた。次は、インコースのカットボールで詰まらせる。

 

ガァァンッ!!

 

右打者の内角をえぐり、力のない打球はゴロとなり、ショート沖田が無難に処理をする。

 

「ワンアウト!!」

沢村が高らかに宣言する。こういう風に何でもいいから流れを呼び込む仕草は時に重要である。

 

続く打者は、インコースのストレートで見逃し三振。特に左には見えづらいフォーム、アウトコースのチェンジアップにはどうしても手が出てしまい、バットが及び腰になっていたのを見逃さない御幸。

 

そして問題の3番。ミート力のある左の巧打者、天見順平である。彼はバッターボックスを前にすると、バットを短く持ったのだ。

 

―――初回から動いてくるとはな、球質に気づくのが早すぎ

 

「………」

 

初球、高めの真直ぐで空振りを奪おうとするも、それを見切る天見。

 

「ボールっ」

 

続く第二球はアウトコースに手を出さず、悠然と見送る。見逃し方も様になっているために、中々打者の弱みを見つけにくい御幸は、対応に苦慮する。

 

カキィィンッ!!

 

「あっ!」

 

そしてアウトコース、ややボール気味の高速パームを逆方向に打ち返した天見。タイミングは外したが、軽打に切り替えていた彼のバットからは逃れられず、膝を我慢したいいスイングにより、内野の頭を越されたのだ。

 

「続け、大地ッ!! 打てない球じゃないぞ!!」

 

――――微妙に変化している。軽打なら捉え切れるが、コンパクトにスイングしないと厄介だな。

 

 

そしてここで、4番右の強打者、北原大地。

 

 

「ストライクっ!!」

初球ムービングでカウントを稼ぐも、しっかりと球質を見てきた北原。

 

続く第二球を、

 

カキィィンッっ!!

 

「ファウルっ!!」

 

レフトに引っ張られ、何とかファウルになるも、カットボールを捉えられたのだ。コース自体はファウルになるコースではあったが、それでもタイミングが合っている。

 

――――ここで一球、アウトコースのサークルチェンジ。ボールでいい。少しでも変化球を意識させるぞ。

 

フワッ、ククッ!

 

キィィンッ!

 

しかしバットの先に当て、ファウルへと逃れる北原。その後、ファウルが5球続き、

 

「ボール、フォア!!」

 

3番のヒット、4番への四球で、ピンチを拡大させてしまう沢村。

 

「くっそ………! 」

驚異的な粘りの前に、沢村は歯噛みする。

 

―――落ち着けよ、沢村。まずは1球外して様子を見る。

 

ツーアウトとはいえ、何もしかけないわけがない。前橋のストロングポイントは、攻撃的な走塁とミート力。

 

「ボールっ!!」

 

僅かに外れたストレートを悠然と見送る5番打者。全員が全員、選球がよく、程よい集中力を保っている。

 

――――ムービングでインコースだ。癖球でひっかけさせろ

 

ダッ!!

 

その瞬間、ランナーが一斉に走り出したのだ。

 

「エンドランっ!?」

御幸と沢村の驚きの声。ここで仕掛けられた青道バッテリー。

 

「……っ!!!」

ここで沢村は投げるリリースの瞬間にウエストをし、アウトハイへとボールが外れる。尚、打者はスイングをしていた。故に、御幸への守備妨害すれすれの行為。

 

「ッ!!!(ナイスだ沢村!!)」

そのやや暴投に近いボールを捕球した瞬間に三塁へと横手で投げる御幸。

 

――――後輩のこのプレー。活かさない手はないでしょッ!!

 

矢のような送球。白い閃光が三塁増子のグローブへとおさまり―――

 

「アウトォォォ!!!!」

 

寸前で二塁ランナーを刺すことのできた御幸。だが、初回から仕掛けてきた前橋。

 

 

そして2回裏、

 

青道の4番結城との対戦。

 

 

ドゴォォォォォンッッッ!!!!

 

 

150キロ前後の球がいきなり結城のインコースを抉り抜いた。

 

「!!!!」

思わずのけぞるほどの威力。結城は全くバットを出せなかった。

 

「ストライクっ!!」

 

続く2球目――――

 

 

ククッ、ギュインっ!!

 

今度は鋭く縦におちるスライダー。前情報では通常の横変化のスライダーと言われていたが、ここに来て縦スライダーを投じてきたのだ。

 

全くバットに掠りもしない。青道の打の中心が全く相手にならない。

 

「ストライクツー!!」

 

「――――!!」

初めてだった。ここまで2球、バットに掠りもしなかったのは。あの成宮と対戦した時も、ここまでの威圧感は感じなかった。

 

 

――――遊び球を投じる必要がない。ストレートで打ち取る。

 

神木はアウトコースへのストレートを要求する。そしてその相方の山崎は――――

 

 

――――ボール気味でもいい。この打者は飛ばす能力はあるからな。見極められてもシンカーで空振りだ。

 

 

ドゴォォォォォォンッッッ!!!!

 

アウトコース一杯のストレートに辛うじて反応した結城。だが、バットはボールの下、タイミングもあわず、三球三振を喫する。

 

「結城が――――手も足も出ない……だと?」

全くタイミングが合わなかった彼の打席を見て、青道に動揺が隠せない。舘の時のような初見の球に抑えられたのではない。

 

 

―――――純粋な力の差によって、結城はねじ伏せられたのだ。

 

続く増子は――――

 

 

ギュギュインッッ!!!

 

通常シンカーにバットが空を切り、連続三振。これで前の回から3者連続三振。青道の主軸が序盤手も足も出なかった。

 

 

「ぐっ!」

そして最後の伊佐敷も、インコースという得意なコースのストレートを完全に詰まらされ、ピッチャーゴロに抑え付けられる。

 

 

 

「―――――――――」

そんな先輩たちが何もできずに凡退する姿を見て、沢村が何かを感じていた。

 

――――勝てるのか? 打てるのか?

 

そんな疑問が湧いて出る。これほどの投手、攻略もそう簡単にいかない。投手の知識をある程度持っているがために、彼の力量が解ってしまう。

 

―――――クソッ!! 今それを考えている場合かよ!! 俺は俺の仕事をやるだけだろう!!!

 

沢村はその考えを無理やり頭の外へと追いやる。今は自分の投球に集中しないといけない。

 

 

だが、2回も初回の攻撃が尾を引いているのか、沢村の投球が安定せず、二つ目の四球を献上するも、何とか無失点に抑える。

 

ここは集中力を切らさない沢村に軍配が上がる。だが、前橋は確実に沢村に球数を投げさせ、かつ彼の球質をじっくりと研究していた。

 

塁上から常にプレッシャーをかけてくる前橋学園。さらには全打者が非常に粘り強くバッティングをしてくるのだ。

 

―――各打者が本当に粘り強い。横浦のような強打とは違い、沢村には一番相性の悪い相手だ………

 

御幸も、力押しの打者よりもやりづらいと感じつつあった。

 

 

「(本当にボールが動いているな。意図的に来るのはインコースのカットボール。チェンジアップはそう何度も来ることはない。あくまで狙い球はカットボール。)」

3回、打順は戻って1番のセンター太田に戻る。これまでの投球パターンから、インコースはカットかストレート。ムービングボールは外に来ている。

 

この事から、ムービングファーストは意図して曲げているわけではなく、癖球の延長だという事。変化を自在にできるレベルではないということだ。

 

しかし、カッターは違う。これは意図して投げられるボール。フォーシームもまっすぐに伸びてくる。だからこそ、インコースの狙い球が絞られてくる。

 

「ファウルボールっ!!」

 

とにかくインコースに対しては臆せずバットを出してくる。とにかく各打者が沢村のフォームの間合いを計ってきているのだ。じっくり粘って粘って凡退するケースが多く、

 

 

カァァンっ!!

 

「セカンドっ!!」

 

小湊からの送球が結城へと送られ、

 

「アウトっ!!」

 

何とかゴロで打ち取るが、球数以上に精神的に削られている沢村。

 

続く打者にはインコースへのチェンジアップで何とかタイミングを外し、球数を稼がれなかった。しかし、初めての三者凡退にも沢村には笑顔がなかった。

 

「――――――――」

沢村には余裕がなかった。これなら振ってくる横浦の方がマシだと思った。前橋の打線はとにかく粘る。そして、3番のヒット、4番のフォアボールが脳裏に残っていた。

 

 

かァァァァぁんっっ

 

 

甘い球は痛打される。そんなプレッシャーから、沢村は絶対に甘い球は投げないと、自分に言い聞かせていた。

 

しかし、さえない表情ながら抑えている沢村よりも、青道打線の方が深刻だった。

 

先頭打者の御幸は―――

 

ドゴォォォォンッッッ!!

 

「ッ!!」

ストレートの球威に根負けし、4球目のストレートにより、ゴロで簡単に打ち取られたのだ。

 

「クッ!!」

 

カァァァンッッ!!!

 

「アウト!!」

 

 

だが、青道サイドも何もしないわけではない。

 

「なぁ、あのストレートは相当なんだよな」

 

「ああ。正直、ストレートとスライダー、シンカーだけでも手一杯なのに、あのカーブが想像以上にやばい。」

唯一カーブを使われた沖田は、あのカーブが神木の攻略をさらに難しくしているという。

 

「ということはさ、」

東条は吹っ切れたように打席へと向かう。

 

―――――俺にはカーブがこない。

 

マークされていない分、自分にはチャンスがあると意気込んだ。

 

東条が右打席に入る。

 

―――――甘い球は来ない。けど、ストライクには来る。この投手が制球がいいのなら。きわどいコース、早いカウントは取ってくる。

 

下位打線相手に、無駄球は放りたくないはず。

 

 

―――――甘い球は一球で仕留める。力を見せたら警戒されてさらに狙い球が絞れない。

 

ズバァァァァンッッ!!

 

「ストライクっ!!」

初球インローのストレート。厳しいが判定はストライク。

 

「ボールっ!!」

 

――――正直、初打席は見に行っていい。打てると思ったポイントをスイングすればいい。

 

2球目はシンカーが外れた。というよりも、ストライクからボールになる球だった。ここにきて、山崎は東条の実力を警戒しだす。

 

――――早いカウントから手を出してくると思ったが、そうではないな。こいつから焦りが見えない。

 

「ファウルっ!!」

 

続く3球目はスライダー。結城が空振りした低めのボールに当てる。

 

 

――――桁違い。けど、俺達の世代のエースよりも怖くない!

 

大塚のSFFほど絶望的ではない!

 

4球5球とカウントを稼いだ東条。神木に食らいつく。これで平衡カウント。

 

―――――ここで決め球の高速シンカー。低めに落ちるボールで三振だ。

 

東条は大塚から話を聞いていた。

 

「いい投手ってのは、大抵核となる球種が存在するんだ」

 

「お前のSFFやチェンジアップみたいなのか?」

 

「ああ。豊富な球種を駆使するタイプもいるけど、変化球を生かすのはストレートだからね。もしくはそれぞれの投手の考えの核があるはずなんだ。確固たる核がないと、頼れる武器がないのだから」

 

 

「本当の好投手を打ち崩すには、核となる武器を叩くか、相手の自滅しかないんだよな」

 

 

 

――――俺の想像でしかない。けど、制球よくボールを投げ込んでいる。下位打線に変化球が見極められている今、来るのは――――

 

 

ゴゴゴゴゴッッッ!!!

 

 

やってきたのはストレート。東条の読み違いだった。

 

 

カシュッ

 

ズバァァァァンッッ!!!

 

 

「ストライクっ、バッターアウトっ!!」

ボールには掠ることはあったが、東条のスイングをねじ伏せた神木。だが、この打席で彼への見方が変わる。

 

――――この一年生は要警戒だな。

 

続く沢村は三球三振。青道はランナーを出せていない。

 

 

 

3回表、打席には再び初回ヒットの天見。

 

―――――ここはまず初球チェンジアップ。組み立てを変えるぞ。

 

「!?」

 

タイミングを外された天見。いきなりチェンジアップから入る青道バッテリーに驚きを隠せない。

 

――――次はストレートか?

 

フワッ

 

 

ここで次もパラシュートチェンジ。今度はボールゾーン。

 

「ボールっ!!」

 

しかし、緩い球を使いだした青道バッテリーの意図が読めない。

 

――――次は高速パーム。芯を外せばいいんだ。高さはインローより少し高めでも構わない。

 

カァァァンッッ!!

 

「!?」

 

バットの芯を外された天見。絶好の甘い球だと思ったボールが縦変化し、芯を外されたのだ。あえなく投手ゴロに打ち取られる。

 

――――そうだ。こういう相手は、甘い球を強くスイングする。なら甘いコースで芯を外し、打者の打ち気を逸らせる。

 

 

ある意味主軸にこれを行うのは結構なリスキーだ。当たれば長打。だが、沢村のムービング変化が為し得るリードでもある。

 

続く4番にも――――

 

 

「!!」

 

最後はインコースのカッター。初球3番天見を打ち取ったパームから、横変化のカッター。打球は高く打ち上げられ、御幸がミットを構える。

 

「アウトっ!!」

 

「ツーアウトっ、ツーアウトっ!!!」

沢村が声を張り上げる。守備で奪われた流れは守備で取り返す。この投手を打てないことは仕方ない。だから、自分に出来るやり方で、チームを盛り上げよう。

 

「沢村……」

沖田が孤軍奮闘する沢村に何かを感じた。彼の為に、何とかヒットを打ちたいと。

 

だが、触発されたのは彼だけではない。

 

「ツーアウト!!! みんな集中するぞ!!」

結城が声を張る。主将で4番の自分が気落ちするわけにはいかない。空元気でも自分を奮い立たせる必要があるのだ。

 

「しゃぁぁぁ!! ツーアウトっ!!!」

 

 

 

そして、前橋ベンチでは――――

 

「甲子園から離れて久しいけど、精神力はあるみたいだ」

この回打ち取られた天見は、青道のムードが蘇ったことに、苦笑いする。

 

「いい投手をぶつけられたぐらいじゃ、崩れないな。けど、今のムードは彼が背負っていると言っていい」

神木は、青道の切れかかった闘志を繋ぎ止めたのが沢村であることを知っている。だからこそ―――

 

「悪いが、俺達も今年を譲る気はない。」

 

勝負は3順目。

 

前橋を指揮して5年の岡田監督は、

 

「ああ。確かに彼の癖球はただの癖球ではない。だが、あの球コンパクトにスイングする、あるいはバッターボックスを前にして、前のポイントで変化する前に打つかのどちらかだ」

 

5番打者がフォーシームに空振り三振を奪われ、3回が終了する。

 

怪物神木に対し、一歩も譲らないルーキー沢村。この超高校級投手を前に、青道に打つ手はあるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何とか粘りの投球を続ける沢村。

後、3月まで暇になりました。何とか卒業できそうです。


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