ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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タイトル通りです。黒土館戦前に、練習試合を組みました。

相手は、原作でも青道を苦しめていた投手です。


なお、原作とは違い、怪童が一人いたり、怪童に魅入られた選手がいます。






第19話 怪童の目覚めと……

国土館より前の、2軍主体の練習試合。先発は川上。二遊間には―――

 

 

「俺、一年生なんだが…………」

1年生二人のうちの一人、先発出場の沖田。上級生ばかりに囲まれており、控えにも沖田の入った遊撃手のポジションを狙う選手はいる。なお、白州と御幸は、一軍からの出向に近い形で出場。

 

 

(右)1番白洲

(二)2番木島

(遊)3番沖田

(一)4番前園

(左)5番東条

(三)6番田中

(捕)7番御幸

(中)8番山崎

(投)9番川上

 

「よ、よし! 絶対にやってやる………やってやる。やるしかないんだ…………」

東条の声がおかしいことになっていた。2年生主体の中で野手陣の中で、沖田に次ぐ評価を貰っている東条。ここで活躍することが、ベンチ入り、またはレギュラーへの道。

 

そして、沖田が覚醒することを望んでいる一人――――

 

 

「言うべきことは言った。後はお前が這い上がるかどうかだ。」

主将の結城は、沖田の試合を観戦しつつ、試合前夜にいったことを思いだしていた。

 

 

――――野球に正直になれ――――

 

 

あの言葉以来、沖田は変わった。長打が増え、引っ張る打球も多くなった。無理に流す打撃が多かった沖田が、変わろうとしていた。

 

 

―――ようやく、本当の奴を見ることが出来る

 

それは、試合前でのアップからも感じられていた。

 

「なんつうオーラだよ、アイツ」

麻生は、圧迫感こそ感じないが、

 

 

 

 

 

「俺が先発か………(ここでシンカーを投げ切れるかどうか。それで俺は…………)」

今日の先発は川上。今日の先発には並々ならぬ思い入れがあった。

 

 

 

―――沢村の決め球は、クリスでさえ難儀するような、強烈な曲りをする。

 

 

大塚の決め球、SFFは御幸も半分の確率で捕れるようになっている。制球がいい投手であるために、彼の決め球は強烈な変化こそあれ、絶対にとれないボールではない。

 

 

だが制球が未だ不十分とはいえ、沢村のボールはあのクリスをして「かなり捕りづらい」と言わしめるほどのボール。

 

 

ただの面白い1年生投手。それが一気に、夏予選の秘密兵器とも言われるようになった。降谷が後ろに固定されたことで、川上の抑えの座すら危うい。

 

 

 

今日の相手は、帝東高校。東東京の強豪の一つ。その投手力は現在東京で最もレベルが高いと言われている。

 

しかし、相手エースは先発せず、こちらも1年生投手を送り込んできた。名を、向井太陽。左のサイドスロー。練習試合やクリスメモの情報では、スライダー、スクリューを投げるらしい。ストレートも130キロ台と沢村よりもやや早い。制球力は、いいという。

 

 

試合前、帝東の先発向井はこのように豪語していた。

 

「県外出身の奴らには負けません。ましてや、神奈川のアイツよりも上だったことを証明してやりますよ」

 

県外からやってきた、中学の輝きを失っているかつてのエース。一度も投げ合う機会はなかったが、自分たちの世代でナンバーワン投手と言われていた彼にずっと対抗心を抱いていた。

 

――――球威すら失ったアイツは、技巧派になった。だが―――

 

向井は自分の制球力に絶対の信頼を寄せている。

 

―――俺の方がコントロールは格上だ。

 

軟投派、左右の動く球すら操り、スライダー投手になっている大塚。中学時代を思い出させる決め球すら投げられない今の彼に、負ける気はしなかった。

 

 

なお、大塚はベンチ入りすらしていなかった。やはり関東大会や、その前の練習試合での結果から、ベンチ入りは確実と見られている。

 

――――二軍主体のレベルを抑えても、なぁ

 

一軍級が数人混じっているが、向井はそんなことは知らない。

 

 

「こら、向井。あまりそんな顔をするな。何があっても全力で打者を仕留めに行け。」

主将の捕手からそう注意される向井。彼としては、大塚が投げないことでやや不機嫌になっている向井を諌めるつもりで放った言葉。

 

「甲子園に行けていない高校の二軍に打たれるようじゃ、甲子園は夢のまた夢ですよ」

 

 

 

 

「あの選手。見ない顔だが、アイツは何者だ?」

岡本一八監督は、沖田を見て何かを感じていた。2年生主体のチームの中で、二人の1年生の一人。あの片岡監督が2年生のチームに入れることを許している程の選手。

 

――――気をつけれよ、向井っ!! あの男は得体が知れんぞ。

 

 

 

初回は3人で退けた川上。今日は弱気な態度が消え、強気の投球。気持ちが乗っているのか、制球力にも陰りがない。

 

―――今日はまずまずの投球。けど、やや飛ばし気味だな

 

受ける捕手の御幸は、川上の手ごたえをつかむと同時に、彼のペースにやや困惑していた。

 

「ノリ。初回はよかったけど、ちょっと飛ばし気味だぞ。お前の今日のコントロールはいいんだから、ミットめがけて投げ込んで来い」

 

そして初回裏の攻撃。白洲が8球粘るも、

 

「!?」

 

外へと逃げるスクリューにバットが空を切ってしまった。白洲は今、確実にストライクゾーンに来た球を打とうとしていた。

 

―――ストライクからボールになる球、にしては精度が高い。外のボール球………

 

続く木島はスライダーに空振り三振。そして、岡本監督が警戒していた3番沖田。

 

「……………………」

無言で右のバッターボックスに立つ沖田。1年生にしては異様なプレッシャーを感じる向井は、怪訝そうな顔をする。

 

 

―――なんだこいつ?

 

「ストライクっ!!」

 

外のストレートが決まる。沖田はそれを悠々と見送る。

 

――――内を狙っているのかよ? けど、それじゃあ、外の球は届かないぜ

 

 

「ボールっ!!」

 

際どいボール。外のボールに反応しない沖田。一球の出し入れが容易な向井は、嫌な見逃しをする沖田に少し見方を変える。

 

――――手が出ねぇのか、それとも見切ってんのか? 

 

帝東バッテリーの選択は一つ。

 

 

―――外のスクリューはどうするんだ、おいっ!?

 

やや見せつけるかのようなスクリュー。白洲を三振に打ち取ったボール。それを―――

 

 

「ボールツー!!」

 

沖田は直前でバットを止めた。

 

――――見たのか、それとも見逃ししか出来なかったのか、こいつで確かめてやる!!

 

 

3球続けての外の配球。4球目の入り方が重要になってくる。

 

――――嫌な見逃しをされる。インローのストレート。厳しいところをついてこい

 

 

4球目の置き所。ここはかなり重要になってくる。ここで敢えて続けるか、それとも配球を変えてくるかの分かれ目。帝東バッテリーは内に見せる球を選択した。

 

帝東の捕手は、沖田のバットが出るのが解った。

 

――――かかった!! これで内野ゴロだ!!

 

 

 

カキィィィィンッッッッ!!!!!

 

 

鋭い金属音と、風を切る音すら聞こえたグラウンド。沖田のフォロースルーに、グラウンドの視線が集中する。

 

「………は………?」

向井は、内に投げたはずのボールが、いつの間にか消えていたという感覚に陥る。バットに当たった瞬間、打球が消えたのだ。

 

 

「…………思い出すね、結城君」

マネージャーの貴子は、結城の隣で沖田のはなった一打を見て、結城に問いかける。

 

「俺にはわからないが………」

いきなり話を振られ、困惑する結城。自覚がないというのはやはり主将だからか。

 

「君が初めて打席に立った日。そんな風に考えてしまうわ」

 

彼らが一年生で、新チームとして始動した初めての練習試合。結城はそこで初打席にもかかわらず、右中間へのホームランを叩きこんだ。

 

「…………アイツは俺よりも大きい存在になる。だからこそ、言わずにはいられなかった。」

 

 

――――心置きなくアイツには野球をしてほしいと感じていた。

 

 

沖田の打球は風にも乗って飛距離を伸ばしていく。まだ誰も、あの打球がどこを飛んでいるのかに気づいていない。

 

そして―――

 

 

「ファ、ファウルっ!!!!」

 

僅かにレフトポールを切れてファウルとなってしまう。インコースの早い球をうまくさばいた一撃は、帝東バッテリーに衝撃を与えた。

 

―――バカな………今の動き、外の構えだったはず……なのに、何だ、今のは………

 

 

――――……………………………

 

3年生の捕手は、インコースをいとも簡単にさばいた一撃に戦慄を覚えた。向井は、沖田が顔色一つ変えないことに、不気味さを感じていた。

 

外を見極められ、うちの厳しいコースすらあそこまで飛ばす。ここで下手に勝負は出来なかった。

 

 

「ボールフォア!!」

 

沖田は結局四球で一塁へ。続く前園はフライを打ち上げ、スリーアウト。

 

 

2回はお互いにランナーを出さない投球。川上は右打者ばかりが続く帝東打線に助けられてはいるものの、制球力を乱していない。

 

―――行ける……俺だって行けるんだ…………!!

 

 

気迫を見せている川上。御幸は調子のいい川上に安心感を覚えてはいなかった。

 

――――沢村たちの台頭がノリに何を与えているのか。

 

御幸は敢えて何も言わない。公式戦ならば何かを言うつもりだったが、今は自分からは絶対に何も言わない。

 

――――闘争心ならいい。だが、気負いなら―――

 

 

スライダーの切れもいい。ストレートも低めに制球されている。文句はなかった。

 

 

お互いに連打が出ないまま、二巡目をむかえ、8、9、1番を料理する向井。ベンチに座る大塚は、未だにブルペンですら投げていない。

 

――――今すぐ引きずり出してやる!!

 

強烈な対抗心を見せている向井。その闘志は青道2年生たちを抑え込んでいた。

 

 

川上は3回に初ヒットを出すものの、課題だった左投手にはインコースのストレートでゲッツーに打ち取るなど、安定した投球が続いていた。

 

好投を続ける川上だが、その表情に笑顔はない。

 

 

そして、4回の裏。先頭打者を打ち取った向井は、二度目の沖田との対戦を迎える。

 

――――インコースに強い強打者。ならば内を見せ球に、外で勝負だ。

 

この1年生は得体がしれない。あの長打力が火を噴けば、スタンドまで叩き込まれる恐れがあるのは解っていた。

 

――――真ん中低め、スクリューで様子を見る。ボール球になる変化球だ。

 

 

奥行きを掠る程度のスクリュー。この向井の制球力には、3次元のストライクゾーンが存在する。それは大塚でさえいまだに届いていない領域。

 

一瞬でもストライクゾーンを霞めれば、それはストライク。

 

 

――――2球目、厳しい内のスライダー。インローの泣き所だ。打撃を崩すぞ。

 

 

確かにストライクからボールになるいい球だ。キレもあり、変化量もある。

 

 

「ボールっ!!」

 

初球を悠々と見逃す沖田。あの当たりをされて、まともに勝負をしてくるわけがない沖田は考えていた。この厳しいボールは、先程の状態で打ってもファウルになるだけだ。

 

――――外だ。とにかく外のストレート。ここでカウントを稼ぐぞ。

 

 

だが、彼らは一つ、重要なことを忘れていた。しかも、それは初対戦でもそれは見られていた。

 

 

――――沖田の狙い球は基本的にアウトコースであるという事。

 

 

 

カウントを取るにしてはややいいストレート。だが、その程度の球速の真直ぐで、

 

 

 

カキィィィィィンッッッッっ!!!!!

 

 

 

この沖田は止めることは出来ない。

 

「―――――――あっ」

 

 

今度は右に流した当たり。

 

「……………綺麗な当たり…………」

貴子は、流れるようなスイングを見せた沖田の構えにうっとりとしていた。

 

「………………」

結城は、奇しくも自分と同じような打球を飛ばした沖田の可能性を、そして―――

 

 

 

 

怪童が

 

 

 

 

永い眠りから覚めたことを悟った。

 

 

 

 

 

 

確実に向井のストレートを捉えた当たりは、右中間へと吸い込まれていった。

 

青道ベンチでは、好投手を打ち砕く一発をお見舞いした沖田への賛辞が止まない。

 

「うぉぉぉぉぉ!!!! 打ちやがったぞ、あの野郎!!!」

 

 

「右中間!!!!!!」

 

 

「完璧に捉えたぞ、アイツっ!!!」

 

 

「怪童!! 青道の怪童~~~!!!!」

 

 

「つづけ、ゾノォォォォ!!!!!」

 

先制打。公式戦ではないとはいえ、彼の一打は青道に流れを呼び込む。

 

 

「クソッ!!」

警戒していた。あの最初の打席で沖田の力は解っていたはずだった。だがそれでも抑えられなかった。

 

帝東バッテリーは、沖田の力を測り間違えていた。

 

 

 

続く前園はスクリューで三振。ツーアウト。次は5番打者、向井にとってみれば、なぜ外野手で出ているのかわからない選手。

 

 

――――夏でもう脱落したのかよ。だらしのない奴

 

 

向井は、全国ベスト4になったこともある東条が、外野手に甘んじていることが気に入らなかった。倒し甲斐のある投手が消えたことが残念でならない。

 

 

――――投手を諦めたわけじゃない。けど、あの舞台に出るにはこれしかなかった。

 

東条は向井の冷めた目を見て理解した。第一打席はライトライナー。練習の成果、右打ちのおかげか、ボール球のスクリューに当てることが出来た。

 

 

「ボールっ!!」

 

初球スクリュー。手を出さない東条。積極的な打撃をしていたが、外の球がより鮮明に見えるようになっていた。

 

 

――――こんなにストライクゾーンって、届いたっけ?

 

 

自分が確実にミートできる場所が増えた。だからこそ、どんな球にも当てられそうな気がした東条。

 

カァァァンッッッ

 

「ファウルっ!!!」

 

インコースストレートも当てる東条。どんな球にも対応する東条の打撃に、向井も表情を変える。

 

―――野郎ッ、打撃も中々かよ。

 

カァァァンッッッ

 

「ファウルっ!!!」

 

 

インローのスライダーにも手を出した東条。手を出すこと自体は不思議ではないが、その泣き所に当てることのできる技術は異常だった。

 

続く5球目は外のストレート。

 

かぁァァァンッッッ

 

「ファウルっ!!!」

 

 

1ボール2ストライク。追い込まれているにもかかわらず、東条は冷静だった。

 

――――見える……………体が勝手に動く。

 

 

6球目の球も外れ、平行カウント。向井も、この東条相手に余裕がなくなりつつあった。

 

――――何だこいつ………本当にこいつは東条なのかよ!!

 

 

いやらしい打撃、コンパクトでミートしてくる。センスで打っていた東条とは比較にならないほどやりづらかった。

 

 

「ボールッッッ!!!!!」

 

 

これでフルカウント。制球力が自慢のはずが、すでにフォアボールを一つ許している向井。これ以上の四球は本人のプライドも許さなかった。

 

 

――――力でねじ伏せる。ここで勝負ですよ、先輩

 

 

――――おい、ここは歩かせてもいい。この打者は異常だ。

 

さっきの1年生といい、今年の青道はどうなっているのか。投手だけではなかったのだ。

 

特に、この内野と外野の1年生。明らかに異常だった。

 

 

 

「東条君もよく粘っているわ。あの投手相手だと、うちの一軍でも苦労するかもしれないわね」

 

「ああ………だが、東条なら打てる」

確信めいたものを感じていた結城。この打席で東条は打つ予感があった。

 

「その理由はどこから来るの?」

貴子は、ここまで下級生の結果を断言する彼を初めてみた。しかし、彼なら何かをやってくれそうな雰囲気があった。

 

 

 

「直感だ」

 

 

 

 

結城はこの二人の打撃をずっと入学当初から見ていた。

 

 

 

毎日、愚直なまでに練習を続けていた沖田。彼に追いつこうと、1年生たちもまた愚直に彼に追いつこうとした。

 

 

――――簡単に引き離されるな、東条。

 

 

 

ベンチにて、沖田は東条と向井の対戦を見ていた。

 

――――お前が投手を諦めていないこと、それは解ってる。

 

 

外野を勧めたのは、ほかならぬ自分だった。降谷と沢村、大塚のいる世代だ。エースの道は厳しい。

 

――――けど、お前のそれまでは決して無駄じゃない。

 

第1打席はライトへの強い当たり。下半身の粘りが効いた、良い打撃だった。投手をやってきた者にはある、下半身の強さ。

 

投球の基本である下半身の粘りは、投手にとっては重要な物。

 

 

つまりは―――そう言うことなのだ。

 

 

 

インローへの鋭い変化。スライダーが確実にコースにきていた。まるでゴルフ打ちのように、東条はアッパースイングのバット軌道で、向井のボールへと叩きつけた。

 

 

カキィィィィィィンッッッっ!!!!!!!!

 

 

掬い上げた打球は、今度はレフトへと勢いよく飛んでいく。

 

 

今回は、天を見上げる向井。

 

「――――――――」

 

天を見上げ、何も言わない。ここも最高のボールのはずだった。だが、それでも東条に打たれた。

 

 

 

その打球は左中間へと飛び込んだ。

 

 

 

「東条がやったぞォォォォ!!!!!!」

 

「これで2点目だァァァ!!!!」

 

「いいぞ、東条ォォォォ!!!!!!」

 

 

ベースを一周する際、東条にはこみ上げるものがあった。

 

――――あの時は、俺の力があってもなくても同じだった。

 

ベスト4。大塚が躍動した年はそこには届かなかった。先輩がいなくなり、自分の力ではないことを改めて思い知った。

 

 

だからこそ、投手でチームに貢献できない自分がずっと嫌だった。

 

――――外野への転向。

 

 

スイングを見て、初めて投球よりも打撃を先に褒めてくれたのは、沖田だった。

 

 

――――いいスイングしているな。下半身の粘りが効いている。

 

口数は少なかった。彼は当初、部内でも白い目で見られていた。自分はその事についてあまりよく知らないため、どう行動すればいいかすらも解らなかった。

 

だが、いつの間にか青道は彼を認めていた。一日の練習態度、彼の野球への情熱、それを皆が感じたのだ。

 

――――挫折することは、恥ずかしい事じゃない。

 

彼らはそう言っていた。

 

――――挫折したのなら、お前は挑戦したんだろ? 

 

3人はきっとプロで活躍するのだろう。同じ投手出身として、それが何よりも解ってしまった。けど、そんな言葉を沖田は笑わなかった。

 

――――胸を張れよ、東条。

 

 

東条はようやく、チームに何か貢献できたという、強い実感を得たのだった。

 

 

 

 

「あの野郎ッ!! いいスイングするじゃねェか!!!!」

 

「へぇ、外野手もいいんだね、今年は」

 

いつの間にか、一軍メンバーもいた。結城と貴子だけではなく、東条の一撃は、片岡監督へのこれ以上ないアピールになるだろう。

 

そして、川上。

 

6回に、やはり気負いから制球を突如乱し、左打者の代打でリズムを狂わされてしまう。

 

そして甘く入った球を運ばれ、一死、一塁三塁のピンチ。

 

 

―――――ノリの制球が突然………こんなに早く崩れるなんて………っ

 

御幸も、まさか一死から代打でリズムが崩れるとは思っていなかった。左アレルギーが深刻な川上。

 

「タイムお願いします」

 

―――中間守備、本塁で刺せるか………いや、ゲッツーでアウトにするにはこの打者は足が速い。

 

「ノリ………お前がアイツらの台頭で焦っているのは解る。」

 

「………すまん………」

自分の不甲斐無さが招いたピンチ。川上は自分の至らなさを感じていた。

 

「けど、マウンドに上がるのは一人なんだぜ?」

 

「…………!!」

劣等感を抱かなかったわけではない。あんな才能が自分にもあればと思うこともあった。

 

 

だが、投手としての自分を、危うく見失うところだった。

 

 

「胸を張れよ、ノリ! 今はお前がマウンドに上がっている投手だろ?」

御幸の言葉に、川上は心が震えた。

 

彼にも、あの3人からマウンドを譲りたくない気持ちはある。無論、エース候補の丹波先輩にも。

 

「思い切り腕を振れ。俺が絶対に止めてやる」

 

 

それで落ち着いたのか、川上は憑き物が落ちたような顔で、ある決意を固める。

 

「なぁ………御幸、一ついいか?」

 

川上の決断とは――――

 

 

 

 




三下になってしまった向井君。向井ファンはすまないと思う。まさか東条選手にも打たれるとは思っていなかったでしょうね。

本作では、大塚に対してライバル心の強い向井君。プライドの高い彼が大塚をライバル視するのは当然かなと。関東で名を馳せていた余波ですね。

原作でも沢村君と降谷君を過小評価とまではいかないけど、それなりだったし(総合力的には間違いなく正解)。


次回、ノリさんは一軍に生き残れるのか。

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