ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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1番から4番まで好打者が続く打線。そして5番には一発・・・・

原作とは異次元です。


第118話 奇襲攻撃!!

青道の準決勝が始まり、先発降谷の真価が試される大一番。

 

 

成孔の切り込み隊長枡を迎えた初回。彼の成長の証が示される。

 

投球動作に入る前、降谷は深呼吸をする。そして、力が入っていた肩から、ゆっくりと力を抜いた。

 

「―――――――ふう」

それだけで、投球動作直前の硬さが消える。むしろ抜きすぎな気もするが、それがいいと彼は考えた。

 

 

 

 

 

初球アウトコースやや外れるストレート。しかし、高さは低く、悪くないボール。御幸もボールが最初から低めに集まった降谷に驚いていた。

 

―――――初球は降谷の様子を見るために一球外したが、悪くない。

 

「ストライクっ!!」

 

続く2球目はアウトコースのストライクコース。これも高さに申し分がない。

 

『今度は決まってワンストライクっ!!』

 

『いいですねぇ、あのストレートが低めに決まると、そうそう打てませんよ』

 

 

続く3球目は高めのアウトハイ。御幸は徹底して左打者の外角を要求する。

 

―――――制球も悪くない。それに伸びもいい。

 

そして、枡の出方も消極的に見えた。

 

――――普通の、以前の降谷なら、球を見られるのは嫌がるかもしれない。

 

だが、と内心御幸はほくそ笑む。

 

「ストライクっ!! バッターアウトォ!!」

 

 

驚きの表情を隠せない枡。アウトコースに決まるストレートに手が出なかった。

 

 

『見逃し三振!!! 最後は146キロストレート! 今のラストボールはかなり良かったと思いますが!!』

 

『力みもなく、いいフォームでしたね。リリースも今日は安定しているので、コントロールがいいのは当然ですね』

 

 

続く山下も浅く握ったSFFで簡単に内野ゴロに打ち取りツーアウト。降谷が手ごたえを感じた、2種のチェンジアップを参考にした、通常のSFFをより浅く握ったバリエーションの1つ。

 

――――チェンジアップもよかったが、万が一浮くとホームランボールだ。制球がしやすい浅いSFFならまだ計算できる。

 

そして、3番小島には変化球攻め。ボールになるチェンジアップに悉く食いついてくる。

 

―――――配球を読んで、ストレートに合わせてきている。これまでの投球パターンは当然頭の中か。

 

 

序盤はストレート中心、2巡目前後から変化球の割合が多くなる降谷の傾向をしっかり頭に入れている。

 

しかしそれは、未熟な降谷に合わせた御幸なりのリードでもあった。

 

―――――今の降谷は、その時間を経て、成長した投手だ。簡単に打てると思うなよ

 

 

「ストライクっ!! バッターアウトォぉ!!」

 

最後もボール球の変化球。落ちる通常のSFFで空振り三振。制球力という強力な武器を持って、成孔打線を翻弄する降谷。

 

『空振り三振~~~!!! 先発の降谷、盤石です!!』

 

『最後もいいコースに落ちましたねぇ。ストレート狙いなのもわかるんですが、序盤はボールを見たほうがいいかもしれませんね。』

 

「ナイスピー降谷!!」

三振に打ち取ったボールを置き、降谷に声をかける御幸。

 

――――高揚だけじゃない。地に足がついてる。

 

 

その確信が御幸のリードに幅を持たせる。降谷への信頼が厚くなる。

 

 

「半年前とは見違えたぞ!」

 

「うんうん!! すごいよ降谷君!」

 

二遊間が気持ちの良い言葉を降谷に向けるが、彼の表情は崩れない。

 

「まだ初回。ここで浮かれるようだと、エースはない」

 

彼の見据える先は、遥か前方ではない先を走るエースの背中。まだ姿が見えないほど離されたわけではない、ライバルである大塚栄治。

 

「ああ。成孔打線に制球ミスは命取りだ。油断なく、力みなく、自然体が一番嫌なはずだ。」

大塚の言う通り、自然体を意識し、深呼吸。肩で息をして、ゆっくりと肩の力を投球前に抜いた。彼に言われる通り、自分は力みやすい性格だ。

 

だからこそ、その対策を練るべきだと思っていた。しかし、自分は頭がよくはなかった。

 

 

そんな自分に授けた、一つの策。それがピタリとはまった。

 

「どうだった、深呼吸」

大塚の問いにやや表情が崩れる降谷。

 

「うん、気持ちよかった」

短い言葉だったが、降谷にとっては大きな手ごたえを感じさせるきっかけとなったルーティン。これからもこれを続けていこうと考えた。

 

――――ルーティン。動作に入る前の予備動作。集中力を高めるためのもの。

 

自分の大雑把な性格には必要不可欠なものだ。

 

「それはよかった」

 

 

その裏の攻撃、東条が球威に押され、レフトフライに打ち取られる。ローボールヒッター東条を高めの速球で押し切ることを選択した成孔バッテリーはこの勢いそのままに2番小湊もスライダーで打ち取る。

 

 

成孔エース小島の立ち上がりも順調に見え、強力打線の成孔、総合力屈指の青道の投手戦を予感し始める観客。

 

「東条君の言うとおりだ。かなりの球威を感じる。あのスライダーが決まっていたし、勝負は中盤からなのかも」

 

悔しそうに打席を去る小湊からの私見を聞く沖田。

 

「変化球はスライダーしか投げていない。隠し玉もあるかもしれない。だが、今は目の前の確かな筋を辿るべき、か」

 

いつもに比べて硬い口調の沖田。集中しているのが一目瞭然。それだけ彼がこの試合にかける思いは強い。

 

「沖田君?」

 

いつもとは違う彼の表情に、同性であるにもかかわらず胸の動悸を感じてしまう小湊。

 

―――――何かをしてくれそうな期待感。

 

それに満ち溢れている。小湊の目にはそうとしか思えず、信じたくなる。

 

 

『さぁ、ツーアウトランナーなしで3番沖田を迎えます!! 秋大会でもホームランを2本。かなりのマークを受けているものの、高打率を維持している青道の怪童!!』

 

 

『さぁ、ここで青道はランナーを出せるか。成孔が押し切れば、勝負は五分に持ち込めるでしょうね』

 

 

初球は外のストレートが外れる。球威もあり角度もある。その威力をまざまざと見せつけられた沖田本人はというと。

 

 

―――――あの時の大塚に比べれば、なんとやら

 

彼の前の打者二人の忠告すら意に介さない。理由は至極簡単。

 

目の前の投手は、150キロをいきなりインコースに投げ込める胆力があるか、ないかである。

 

さらにいえば、変化球が二けたの数ほどあるか、否か。

 

 

ごく身近に怪物がいるのだ。好投手ごときに、今更臆する彼ではなかったのだ。

 

2球目のスライダーも冷静に見極める沖田。このコースは先ほど小湊が空振り三振に打ち取られたものである。が、沖田はあまり苦にしていなかった。

 

外のスライダーを見切られた成孔バッテリーはそれどころではなかった。

 

――――巧打者小湊のコースをちらつかせたが、反応なし。序盤は積極的じゃなかったのか!?

 

 

初回や早い段階でのホームランがあるなど、過去の試合でも打って出るタイプだと考えていた枡は戸惑いを隠せない。このボールも悪くはなかったはずなのだ。

 

3球目は外のストレート。今度は決まりストライク。しかし、沖田はバットを動かすこともなく、足をわずかに動かすのみにとどまる。

 

―――――図ってやがる。豪胆さと緻密さ。“希少種”の強打者かっ!!

 

 

パワーを以て強打者といわれる選手は多い。そこに技術があれば大打者。逆に緻密さを備えるものの、パワー不足の打者も数多くいる。

 

それは前の打者の小湊のようなタイプだ。

 

目の前の沖田道広。今日の彼は両方を兼ね備えた高校屈指のスラッガーであることを感じさせる。

 

 

積極的にバットを振り回さない。豪快打線といわれる成孔の持ち味は引き付けて打ち、そのフルスイングによるプレッシャー。

 

なのにこの男はどうだ。

 

 

「―――――――――――(今日は彼女に、ホームランを捧げるんだ)」

 

冷静な顔で、打席に居座る沖田への警戒心がさらに強まる枡。

 

 

 

――――――ここで迂闊にコースを変えるのはよくない。外を続けよう。

 

 

ここで枡は外のストレートを選択。過去の試合でも変化球をホームランにするケースが多く、速球を運んだ試合も相手が格下であることのほうが多かった。

 

 

大巨人真木との対戦では、3タコに打ち取られていた打者だ。枡は過去のデータを選ぶ。

 

―――――それに、沖田には足がある。迂闊にランナーをためるわけにもいかねぇ

 

ランナーを出すくらいなら、球威で押し切る。枡と小島の考えは一致した。

 

 

 

―――――読んでいたさ。外の速球を続けることは

 

 

だからこそ、過去の自分をよく知る沖田がこのリードを読み切ることは、何の障害もなく、至極簡単なものだった。

 

 

先ほどのストライクを奪われた際に、タイミングの取り方を粗方掴んだ。あとはスイング。

 

 

打撃の3大要素。タイミング、スイング、ポイント。その最初の1つを突破した沖田。

 

 

―――――――なっ、このスインッ!!!

 

枡の心の中の言葉は最後まで続かなかった。

 

 

成孔の4番長田に匹敵するスイングスピードが小島の外の速球をとらえたのだ。しかも驚くべきはその精密さ。

 

 

真芯をとらえた気持ちの良い打球音を彼はまず間近で聞いた。

 

小島も、その光景は初めて目にするだろう。金属音を聞いた刹那、目の前からボールが消えるなどという光景は。

 

そしてそれは、沖田と対戦し、痛打を浴びた投手すべてが経験する現象でもある。

 

 

小島は打球を見失い、枡は打たれた方向を呆然と眺める。

 

内野手に対処できる打球ではない。外野手も、少し動くだけでこのライナー性の打球を追うのをあきらめていた。

 

 

『高々と打球上がる!!! そのまま飛び込んだぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

『うわ、外の速球をライナーでライトスタンドですか……力感がないのに、ボールが吹き飛んでいきましたね』

 

 

『ええ、ライナーで中段です。高校生、しかも1年生が打てる打球でしょうか!? 3番沖田、初回に小島のストレートをはじき返し、ソロホームラン!! まずは先取点が青道に入ります!!』

 

 

「――――――――――」

呆然とするしかない、枡。速球系で押していけばいけると考えていた。

 

 

沖田の後ろに控える御幸、そしてその後ろの大塚。沖田とは対照的にストレートに強いスラッガー。しかし沖田も、小島ほどのストレートを1打席目からフェンスオーバー。

 

 

止まったままでは終われない。それは自分たちも同じ。しかし、目の前の怪童もそうではなかった。

 

さらに―――――――――

 

 

4番御幸が2球目のインロースライダーを引っ張り、ライトへのツーベースヒットを放つと、枡が一番警戒している打者と勝負を迎えることになる。

 

 

――――――5番、投手ではない大塚――――――ッ

 

 

まだ1年生で、投手であるはずなのに。そして背番号1番であるはずなのに。

 

 

いや、1年生でエースナンバーを背負うこと自体が稀だ。それすら大塚の前では当然と思わせてしまうスケールの大きさ。

 

 

だが、目の前の困難はその理由ではない。そのエースがなぜ、5番という“主軸の一角”を担っているかだ。

 

――――二刀流!? ふざけた真似を!! だが、実力が本物ならっ

 

憤り、羨望。生々しい感情が体を駆け巡る。しかし冷静になれと自分に言い聞かせる。

 

 

―――――ベースからやや遠い。インコースが広いなら、外のきわどいボールで!!

 

 

外のスライダーをまずは見極める大塚。外角に適応したスタイルで打席に立つ大塚は、外に対する反応が鈍かった。

 

―――――インコースのボール球。幅を取らねぇと踏み込まれる!

 

インコースのストレートにやや反応した大塚。しかしボールゾーンなので手を出さない。

 

―――――インコースに反応した? やはりねらい目は打ちやすくなったインコースか?

 

唯一の反応を見せた大塚の行動。枡は一転して外による。

 

 

―――――次はアウトローのスライダー。きわどいボールを頼む

 

 

小島も頷き、枡の要求したとおりに投げ込んできた。

 

さらに枡の思惑の上を言ったのは、それがストライクからボールになる最適なコースであったということ。

 

これならば、先取点を取った後の打席に立つ大塚のことだ。流れに乗ろうと積極的にバットを出してくるはず。

 

 

枡の目論見通り、大塚は手を出してきた。しかし最後に予想が一つだけ外れたのだ。

 

 

金属音とともに、一塁線を切れていくファウルになったのだ。まさか当てられるとは思っていなかった枡は、表情をしかめる。

 

 

―――――悪くねぇボールだったはずだ。どんだけ手が長いんだ

 

投手の長所でもあるリーチの長さ。日本人離れしたスタイルを誇る大塚に、常識がやや通じないことを思い知らされる枡。

 

 

しかし、これで外に手を出してきたということは、ゾーン勝負で何でもバットを出していくスタイルになったことを示している。

 

――――重い腰を上げたな。あとはどう食らいつかせるか

 

 

そして結論も早かった。

 

―――――同じ球だ。これを続ければ、打ち損じだって

 

 

4球目もスライダー。しかし、枡が大塚のプレッシャーを敏感に感じ取っているのと同時に、小島もまたこの打者相手に力みを生んでいたことを知ることになる。

 

 

――――――少し甘く!? 

 

そう思った時には

 

 

ガキィィィィンッッッ!!!!!!!

 

 

沖田の打球音とは比べ物にならない音、そして沖田の時でさえかろうじて見えたスイングが

 

―――――なぁっ!? 

 

打たれた小島には、振りに行く直前と、振りぬいた瞬間の大塚しか見えなかった。

 

――――――打球が、見えねぇ!? どこにいった!?

 

沖田の打球を目で追うことができた枡だったが、大塚の打球を目で追うことができなかった。

 

そして、内野の選手たちの中で打球を知る者はなく、外野陣もその打球の勢いに恐怖を覚えることになったのだ。

 

『はいったぁぁぁっぁ!!!!! いや、入っていない!! フェンス直撃っ!! 二塁ランナー御幸は三塁をようやく蹴る!!』

 

外野陣もその打球の角度、勢いに畏怖を覚えたものの、思ったほど打球角度の上がらない大塚のそれはフェンスに直撃し、ライトのグラブのすぐ近くまで跳ね返ってきたのだ。

 

これには大塚の苦笑い。御幸が帰塁する間に二塁に行くのが精いっぱいだった。

 

『二塁ランナーホームイン!! これで2点目!! 青道高校お得意の初回攻勢!! 立ち上がりの投手にとって、この高校の攻撃力は鬼門といっていいでしょう!!』

 

 

『末恐ろしいですねぇ。彼は投手なんですから、そのセンスと身体能力には戦慄を覚えますよ』

 

 

打たれた小島は沖田に打たれた時よりも呆然としていた。甘くは入った。しかし、ライナーでフェンス直撃されるような失投ではなかったはずだ。

 

その後、6番白洲がセンターフライに打ち取られるものの、2得点を奪って見せた青道高校。

 

成孔のパワー打線のお株を奪うかのような滑り出し。今日先発降谷にうれしい援護点がさっそく入った。

 

 

『スリーアウト!! 1回の裏、青道は長打攻勢で2点を先取!! しかし試合はまだ序盤戦!! 成孔は4番長田からの攻撃が始まります!!』

 

『今大会5ホーマーの長田君ですからね。勢いをつけるにはもってこいでしょう。そして降谷君も丁寧に投げることが要求されるでしょうね』

 

打線の活性化著しい今日の青道高校。援護点の入った降谷はその期待にこたえられるか。

 

 

 




息をするように長打を放つ沖田、御幸、大塚。

この3人のイメージは誰だろう。

大塚はまあ、思いつくんですけど・・・

沖田と御幸のイメージが・・・




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