ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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意外と書けるモノですね。




第95話 チェンジアップの贈り物

論理主義で一人のエースを育てる傾向にある落合でさえ、大塚の異常ともいえる性格に言葉を失っている日、

 

 

羽田空港では、

 

 

「あらあら、本当に来ちゃったのね」

 

大塚栄治、大塚和正を除く、大塚家一同である人物の出迎えをしていたのだ。

 

「ハーイ! 元気してた? ミスズも可愛らしくなっちゃって!」

 

「お、お姉ちゃん。その、3年ぶりです―――きゃっ」

 

大塚栄治が現在最も心を許しているサラ・マッケンロー。当然妹の美鈴は彼女を警戒しているのだが、

 

サラにとっては、エイジ同様に可愛い妹分にしか見られていない。

 

外国人特有の挨拶代わりのハグに目を白黒させている美鈴。彼女はアメリカ生まれであるにもかかわらず、家族の中でこうした習慣が一番苦手という、帰国子女である。

 

 

「ハイハイ、固いわよ!! 大丈夫、エイジは取らないわ。そういう関係は私と彼は似合わないもの」

 

 

「―――――(っ、さらに大きくなってる―――――兄さんには危険すぎる!!)」

 

胸に自分よりも大きく柔らかいモノが当たり、瞬間的に察知する美鈴。

 

と言っても、大塚栄治は彼女に対して、散々見苦しい態度や情けない行動を晒しに晒しているので、感謝はしているものの、若干の苦手意識を持っていたりする。

 

 

「それはそうと、エイジはどこ? 今日は来ていないようだけれど」

サラが辺りを見回すが、エイジの姿は当然ない。

 

彼がこの場にいないのは、青道の2回戦があるからだ。出番がないとはいえ、チームを一人抜け出すつもりがなかった大塚。サラの来日を知らないというのもあるが、仮に知っていても、彼は恐らくここには立っていなかっただろう。

 

 

今の大塚栄治は、アメリカ時代での悪癖が蘇りつつあるのだ。

 

 

大塚和正へのコンプレックス。心の支えに実力を選んでいるがために起きた、彼の弱さである。

 

 

 

「やっぱり、栄ちゃんに言うべきだったかしら。そしたら――――」

 

 

「ノーよ、アヤコ。少しは驚かせないと、今のエイジは怯まないわ。近況は聞いているわ。また無茶をしたのね」

 

困った顔をするサラ。練習と休息の重要性を教えたはいいが、大塚はそれを肉体的なものに限定してしまっている。

 

精神的な休息を彼は取っていない。

 

 

身体を動かすメンタル部分で異常をきたしてもおかしくはないほどに。

 

 

「それを解っているモノと判断したワタシも悪いのだけれど、ホンモノのベースボールボーイね、エイジは」

 

 

サラは知っている。メンタルに問題を抱え、時にはそれを壊してしまい、引退を余儀なくされた選手の姿を。

 

 

 

そして、恐らく大塚栄治を壊しかねない原因を彼女は知っている。

 

今の彼は、それを目標にしているし、それ以外への興味を持ち始めたとはいえ、柱に等しいモノなのだ。

 

 

そのため、爆弾が起爆する時になって初めてその重さに気づくだろうと。

 

 

だが厄介なことに、この爆弾は気づいたところでどうしようもないのだ。本人がそれを拒否し、やめようとしない。

 

 

だが同時に、その時は分岐点でもあること。

 

 

自らの殻を今度こそ破るチャンス。

 

 

―――――その時、エイジを支えてくれる人がいれば、話は別なのだけど

 

サラは思う。

 

 

エイジは人を見ていない。人に好かれる行動をとっているだけだと。

 

それが社会に出た時に必要なことで、それが大切だと知っているからという理由だけで彼はそのように行動するのだ。

 

 

 

だが、実力でつかんできた今の地位、それを抜きにして今の彼を見てくれる人がいれば、変われるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

秋季大会2回戦。その前日、

 

 

「明日の試合、降谷を先発に起用することにした。」

 

「え!? ですが、この大会はリリーフでは?」

降谷には短いイニングでのセットアッパー的な役割ではなかったのかという部長の疑問。

 

 

「チェンジアップを覚え、体力強化に割いた時間も、夏を経てなお継続してやっている。練習試合では中盤に捕まったが、ペース配分を怠る怖さを知ったはずだ。―――その悔しさをぶつけるにはもってこいだろう」

 

 

「――――――――!!!!!」

監督室に呼ばれた降谷は、監督の言葉に気合が入っていた。

 

あの練習試合で、ペース配分の事をさんざん言われ、その後はリリーフ起用。出番がないとは言えなかったが、それでもあの悔しさは心の中でくすぶっていた。

 

 

「明日の試合、あの時の反省を活かしたベターな投球を頼むぜ」

 

 

ベストは求めない。まずはあの時よりも一歩進んだかどうか。沢村、大塚という同学年と負けないポテンシャルを持っている男が、ついに公式戦先発デビューへ。

 

 

 

なので、

 

 

 

「むむむ!! 監督はなぜおれを先発にしないんだァァ!!!」

 

欠点を克服しつつあるスライダーを試したかった沢村が騒いでいる。

 

 

が、ベンチ組に羽交い絞めにされていることも気にかけず、降谷はマウンドを見つめていた。

 

 

「どうした? マウンドはいつも見慣れているだろう?」

沖田がそんな彼の下に駆け寄る。

 

「まだあまり踏み鳴らされていないマウンドって、あんなにきれいなんだ」

 

 

 

「!!! こいつ、マジじゃねェか! こりゃあ、期待するしかないな。」

沖田はその言葉に心が震える。先発という大役を任されて尚、このマイペース。

 

――――大塚がいなかったら、こいつが来年のエースだったかもな。

 

それほどの能力を兼ね備えている。沖田はその時でも成長をしていただろうと考えるが、やはり大塚がいるからこそ、刺激がある。

 

目標と壁が明確になっているからだと思える。

 

 

「それはそうと、まさかスタメンとはな。降谷の足を引っ張んなよ、金丸!」

 

そうなのだ。サードのスタメンに金丸が選ばれたのだ。日笠が不調というのもあるが、この七森学園戦で選手を試したという監督の考えもあって、1年生の中でも特に目立ち始めている彼を抜擢。

 

噂の落合コーチ監修の打撃理論がどういう効果を彼に与えたのか、それを見てみたいというのもある。

 

「ちょっ、プレッシャーかけんなよ、沖田ぁ!!」

明らかに緊張している金丸。手ごたえをつかみつつある日々の練習を示す絶好のチャンス。

 

 

「金丸の出来ることをすりゃあいんだよ。出来ることしか出来ないんだからな。俺もお前も。それに、最近大塚とつるんでることが多いし―――いや、なんでもない」

 

怪しげな雰囲気が一瞬だけ垣間見られた沖田。しかし誰も気づかない。

 

 

 

「見てろよ、沖田っ! 絶対にあの打法で信頼を掴んでやるぜ!!」

 

 

「?? あの打法?」

沖田は守備鹿面倒を見ていないので、金丸の打法について何も知らない。

 

「体重移動は7対3!!」

 

「うん、それは知ってる。変化球でタイミングを崩されにくくするんだろ」

 

「ゆ、ゆっくりタイミングを取って――――」

 

「あの某広島の侍か。うん、知ってる。そっか、あの人の動作かぁ。」

 

「ちっくしょぉぉぉぉ!!」

 

何もかも沖田は先にいっていることに今更感を覚える金丸だが、さすがに悔しい。自分が自力で編み出した方法を、ライバルはすでに取り入れているのだ。

 

 

 

「天然で知らずにやるんなら大したもんだよ。ま、あの選手は尊敬しているけどさ。ある意味理想、だよなぁ」

 

 

「広島の侍?」

 

 

 

「ああ。昔テレビでよく見てた。広島では最後に嫌な思い出ばかりだったけど、あのチームメートと、あの選手だけはよく覚えている。」

 

 

「沖田が言うほどすごい選手なのかよ。あ、それって広島の、あの代打の―――」

思い出した金丸。有名すぎる選手ではあるが、もう何年も前に引退した選手。テレビへの露出も少なく、世代も違うのだ。

 

通な野球ファンならだれもが知る名選手ではあるのだが。

 

 

 

「あの人よりも、才能があって、体格にも恵まれている人はたくさんいる。けど、あれだけバットを振った人はそうはいない。」

 

沖田は金丸に向き直る。

 

 

 

「お前は成れるのか? そんな男に?」

あえて問いかけた沖田。他人のまねごとから入るのが学ぶこと。だからこそ、いいところはどんどん真似ればいい。

 

だが、いつかは独り立ちしないといけない。金丸はその未来を見ることが出来ているのか。

 

 

スタメンになった際に、どうしても聞きたかったのだ。

 

 

 

 

 

 

金丸は首を振って、沖田の言葉を否定する。

 

 

「俺は、その侍って人じゃねェ。だから。俺自身のバットを見せるだけだ」

 

その答えを聞いて、沖田は笑みを浮かべる。

 

 

「そうだ。そう言ってくれなきゃ、先がないようなもんだからな。だからこそ、今日は”お前の挑戦”を見させてもらうぞ、“信二”」

 

 

名前で敢えて呼び、期待をしていると伝える沖田。

 

 

 

「ああ!! 任せろ!!!」

 

 

 

 

「――――――」

片岡監督は、試合前の沖田金丸の様子を遠目から見ていた。すでにスタメンの座にいる沖田が、いい感じに金丸のモチベーションを見守っていた。

 

攻撃面や守備範囲の広さだけではない。精神的な支柱でもあるのだ。

 

今更ながら、沖田を副主将に選ぶべきだったかもしれないと、片岡は考えた。

 

「沖田はいいですねぇ。初スタメンの選手に積極的に声をかけに行っている。ああいう風に気配りの出来て、尚且つ実力もある。本当にいい選手が入ってきましたよ」

 

「ああ。そして金丸もここで初スタメンのチャンスをつかむか否か。良い競争が生まれている。」

 

 

 

片岡監督はあれを彼の教えだと勘違いしているが、アレは大塚のヒントと、金丸自身の考えから端を発したものである。落合はその助言程度しかやっていないのだが、そんなことを知る由もない。

 

 

 

1番 中 白洲 左

2番 二 小湊 右

3番 遊 沖田 右

4番 捕 御幸 左

5番 一 前園 右

6番 右 東条 右

7番 三 金丸 右

8番 投 降谷 右

9番 左 麻生 右

 

スタメンに5人の1年生。ベンチには出番がない予定の大塚、そして出番があるかもしれない沢村が座り、計7人の1年生がベンチ入り。

 

意外なのは、倉持がスタメンを外れたことだ。サードに金丸が入る分、仕方のないことかもしれないが、沖田が公式戦でまたも遊撃手の座を掴んだ。

 

 

 

一方、七森学園は、公式戦初先発という降谷について、

 

 

「スタミナに難のある投手と聞いている。それを先発にしたという事は、うちを踏み台にするつもりだな」

笑顔でそう分析する原龍臣監督。

 

「次の稲実戦に向け、エースの大塚は温存、2番手の沢村も温存。ということは2年生の川上がこの試合に投げるかもということです。相手方が準備しているのは、速球派に変則派ですね。」

 

 

「いいじゃないの。そういう強者の油断から、ビギナーズラックは生まれるもんさ!!」

 

 

先頭打者の白洲。相手の球種を改めて確認する。

 

 

相手は球速が130キロを超えるかこえないぐらいのストレートに、カーブ、フォーク、チェンジアップ。誰かさん達がチェンジアップを駆使し、甲子園で活躍していたことから、東京を中心にチェンジアップが流行り始めていたのである。

 

 

 

「相手はチェンジアップにカーブ、フォークか。チェンジアップとストレートの球速差に注意するべきだな。まあ、落差もないから、チェンジオブペースと言った方がいいかな」

と大塚。

 

「使っているから言うけど、俺もあの球はスゲェ使いやすいって言えるぜ!! みんなぁ!! 俺をイメージしろぉ!!!」

沢村が自分をアピールする。

 

まあ、原因はこの二人なのだが、本人たちは気づいていない。

 

 

しかし、やはり一巡目。シュート回転するストレートでファウルを稼がれ、ナチュラルにフロントドアするインコースを意識させられて、最後はカーブにゴロを打たされてしまった白洲。

 

 

「くっ、体が開いたか」

 

悔しそうにベンチへと下がる白洲。

 

2番、セカンド小湊。

 

その初球。

 

 

――――アウトコースのカーブ!!

 

 

カッ!!

 

 

アウトコースへと決まるはずのカーブを叩き、センター前へ。まずは初回にランナーを出す青道高校。

 

 

「いいぞ、小湊!!」

 

 

「気持ちいいくらい真芯で捉えているぞ!!」

 

 

木製バットは芯でなければ飛ばない。それを解っているからこそ、称賛の声が上がる。

 

 

そして、青道最恐打者登場。

 

 

 

「俺だ」

 

 

 

右バッターボックスに立つ沖田。その威圧感から

 

 

「ボールフォア!!」

 

 

「せめてゾーンに投げてほしい。」

 

 

沖田、いつも通りの散歩。バットを一度も降ることなく一塁へ。

 

 

これで一死二塁一塁。

 

打席には、4番に抜擢の御幸。なぜ沖田が3番で、御幸が4番なのにはわけがある。

 

 

少しでも沖田の打席を増やしたい。青道で最も信頼できる打者であり、勝負を任せたいという理由である。しかし1番打者や2番打者ではランナーがいない状態の方が多い。

 

故に、3番という打順が沖田にとっても、チームにとってもプラスであると考えたのだ。

 

 

チームの最恐打者をどこに置くか、それが攻撃のリズムに影響を与えることを知っているのだ。

 

 

そして、狙い撃ちのテーマが流れる。

 

 

「ここでキャプテン、一発決めてくれぇ!!!」

 

 

「相手逃げ道失ってるぞ!!」

 

 

 

青道の沖田と勝負をしたくなかったとはいえ、これである。4番御幸も勝負強さが売りの打者。

 

まあ、平たく言えば―――――

 

 

 

 

痛烈な金属音。七森の背番号1は渾身のストレートを投げ込んだ。

 

 

外角低め。ボール気味かもしれない。そんなボール。

 

 

御幸は迷うことなく踏み込み、その外角のボールを弾き返す。

 

 

130キロ前後のストレートを完璧に捉えた当たりは、ライトスタンドにギリギリで入ったのであった。

 

 

 

拳を握りしめ、ガッツポーズを見せつける御幸の姿で、観客は湧く。

 

 

「そうだ、青道にはこれがある!!!」

 

 

「3番沖田を歩かせても、御幸が決める!! これが俺達の主軸だ!!」

 

 

いきなりの3点先制。続く前園がサードライナー、東条がレフトライナーに倒れるものの、打線の勢いを感じさせる攻撃が終了した青道打線。

 

さすがは甲子園メンバーが多く残る優勝候補大本命。

 

 

さて、1回裏。公式戦初先発の降谷。

 

 

その立ち上がり、右打者に対し

 

 

ドゴォォォンッッ!!!

 

ど真ん中にいきなりストライク。だが、相手打者はタイミングを取りきれなかったのか、見逃してしまう。

 

力感の無さと、スピードボールの組み合わせ。

 

―――ふざけんな!! なんだよそれ。そんなフォームで今の球かよ。

 

たまったものではないと、相手打者は心中で毒づく。

 

 

 

 

「??」

降谷は確かな手ごたえを感じていた。

 

 

 

――――今、凄いボールに指がかかって―――――

 

軽く投げたのに、ボールがまっすぐに、思った場所へと突き刺さった。

 

180cm代の上背から繰り出される速球。制球されれば並の打者は打てない。

 

 

球速は抑え気味にしては145キロと悪くない。

 

 

2球目もストレート。

 

 

「グッ!?」

 

――――力感を感じねぇのに、何だよさっきからこのスピード!?

 

 

手が出ない。するすると低目に伸びてくるストレートにバットを出すことも出来ない。

 

 

「ボールっ!!」

 

 

コースは外れていたが、際どいボール。何よりも、ボールの圧力が尋常ではない。

 

 

――――さぁて、ここで投げておくか、チェンジアップ

 

 

御幸が不敵な笑みを浮かべ、外角による。

 

 

選択したボールに降谷は頷く。

 

 

 

「相手の投手は相当球が速い。しっかりとバットを振って、何とかストレートにタイミングを合わせるんだ!」

 

 

 

 

ここで1ボール1ストライク。勝負球にはまだリスクのあるこのボールを、

 

 

降谷の今後を明るくするかは、ここで決まる。

 

 

 

 

第3球。

 

 

 

ドクンっ

 

 

降谷は、胸の高鳴りを感じずにはいられなかった。

 

 

スプリットを投げた時とは違う。今から自分は敢えて緩い球を投げる。

 

 

それまでは速いボールを投げることしか考えていなかった自分にとっての転換期。

 

 

自分はどうなってしまうのだろうか。練習で投げた光景を思い出す。

 

 

 

――――あの球速差はうてねぇよ!!

 

――――コースに決まったら腰砕けだろ!!

 

 

――――いや、そもそもバットが出ないかもよ!!

 

 

そんな仲間の声が脳裏から呼びさまされる。

 

 

試合前、いつも五月蠅く、いつも輪の中にいるライバルからは、

 

 

―――――俺はこう握ってるぜ!! 

 

あっさりと教えてくれたことに戸惑いを隠せなかった。

 

 

――――俺も送られた側だったしさ、まあ借りは返したってたやつだよ!! 文句あるか!?

 

素直ではない返答。頬が緩みそうになった。

 

 

 

 

 

そして至った、投手の基本。

 

 

 

――――僕は、投手としてもっと先に進める。

 

 

 

――――僕の知らない世界が、これから見られる―――――!

 

 

 

 

 

「――――――なん―――だと――――」

 

バッターはまず最初にその言葉を、その感情を抱いた。

 

 

速球にタイミングを合わせろ、そうすれば打てると。2巡目からは目が慣れて、打ち崩せるはずだと。

 

 

 

だがこの3球目はその未来を打ち砕くものだった。

 

 

ボールがこない。

 

 

まるで時間が止まったかのように、剛速球が止まる。

 

 

動き出したのは打者の体。タイミングが合わず、スイングが自壊していく。

 

 

そして、ボールが最期には打者の視界から外れたのだ。

 

 

 

 

 

 

「ストライクツー!!!」

 

 

腰砕けになるバッター。尻餅をつき、立ち上がることが出来ない。

 

 

「「「「!!!!!!」」」」

 

それは七森ベンチも一緒で、言葉を失っている。

 

 

 

「な、あれは―――――っ!!」

 

 

「チェンジアップ!? いや、チェンジアップにしては落ち幅が―――っ!!」

 

 

 

受けた捕手の御幸は、コースに決まったチェンジアップの変化が、練習以上のキレを生み出していることに気づいた。

 

 

――――ブルペンでも降谷のチェンジアップが落ちると聞いていたが、想像以上だな。

 

 

予想を超えた変化に舌を巻く御幸。

 

 

ブルペンで投球を行っていた降谷が、何やら沢村と話をしていたとは聞いていた。恐らく、そこで何かアドバイスを貰ったのだろう。

 

 

練習ではタイミングを外すだけのボールが、

 

 

大塚栄治のパラシュートチェンジと同等の、空振りを奪える球に変化していたのだ。

 

 

大塚のチェンジアップは、投げた後から急激にブレーキがかかり始め、打者のはるか下を通過するボール。だからこそ、ストレートとの組み合わせでより威力を発揮し、その後の変化球やストレートを助けることが出来る。

 

 

 

だが、降谷のチェンジアップは違う。

 

彼のチェンジアップはストレートの球筋から、スッと落ちる。まるでフォークのように落ちるのだ。

 

 

それでいて緩急にも使える。降谷が至った彼だけのチェンジアップ。

 

 

――――おいおい、スプリットよりも使い勝手良いじゃねェか。

 

 

決め球にスプリットを考えていた御幸は、苦笑いをする。

 

 

これだけのチェンジアップを見せたのだ。もう変化球はいらない。

 

 

ドゴォォォォンッッッ!!!!

 

 

「ストラィィィクッ!!! バッターアウトォォォ!!!」

 

 

最後はアウトハイの直球。ゾーンではあったが、タイミングを狂わされた打者がスイングしたバットには掠りもしない。

 

 

150キロに近い速球に、鋭く落ちるスプリット。

 

 

更には緩急と決め球にもなり得る降谷のチェンジアップ。

 

 

 

大塚、沢村のモノとは違う、新たな変化球。

 

 

降谷の進化は止まらない。

 

 

そのチェンジアップ習得のプラス要素は、この最後のボールにも表れていた。

 

 

 

――――キレもいい。球速は140キロ中盤でも、今までの150キロのボールよりもよりキレがあるようにも見える。

 

 

指にかかったストレートの比率が多くなっているのだ。指先に体重を乗せる才能のある彼にとって、指にかかったストレートは彼のベストボール。

 

 

並の者なら掠りもしないだろう。

 

 

青道の3人目の1年生、降谷暁。

 

 

初の秋季大会で2度目の覚醒期を迎える。

 

 




次回は、金丸のアピールタイム?

大塚、沢村に出番なし。


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