沢渡さんの取り巻き+1   作:うた野

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今回の話は2014年10月のリミットレギュレーションで書かれています。だから大嵐を勧めてもおかしくはない、いいね?


ネオ沢渡さん、大嵐っすよ!

「久守さん、お客さんだよ」

「はい。すいません、ありがとうございます」

 

学校での昼休み、またクラスメイトの方が来客を知らせてくれた。といっても今回は誰が来ているのかは分かっています。

お弁当を持って教室の外へと向かう。扉の所で柊さんが私に手を振っているのが見えた。

 

「おはようございます、柊さん」

「おはよう、久守さん。今日も中庭でいいかしら?」

「はい」

 

昨日、遊勝塾から慌ててLDSに行き、自宅に帰った後に柊さんから連絡があり、今日もお昼をご一緒する約束をしていた。普段から好きで一人で食べているわけではないのでありがたい申し出です。

 

「昨日は慌ただしくしてしまい、すいません」

「いいのよ、久守さんがあんな風に血相を変えるって事は沢渡からの電話だったんでしょ?」

「はい。久しぶりに沢渡さんの声を聴いたので、つい……素良さんにも申し訳ない事をしました」

 

中庭への道すがら、昨日の件を謝罪する。素良さんとのデュエルも中途半端になってしまった。これでまた遊勝塾に行く理由が出来てしまいました。あまり他の塾の生徒が通ってしまっていいのか……いや権現坂さんの例はありますが。

 

「大丈夫よ、素良も気にしてないみたいだったから」

「なら有難いのですが……」

「けど、今度は私ともデュエルしてね」

「え?」

「当然でしょ、あんな決着、納得いかないわ」

「……そうですね。刀堂さん――あのデュエルを知ったLDSの方にも情けないと怒られてしまいました」

 

それにあれでもしLDSの評価が下がるような事があれば、同じLDSの沢渡さんにも迷惑が! ……改めて反省です。

中庭に到着し、ベンチに腰掛ける。

 

「それにしても、融合召喚だけじゃなくエクシーズ召喚まで使えたのね」

「ええ、まあ。どちらかと言えばエクシーズの方がメイン、でしょうか。融合を使い始めたのは舞網に来てからですから」

 

……元々私が使っていたデッキはマドルチェたちがメイン。シャドールたちはこちらに来た時に加わっていたものだ。デッキの内容が変わり、最初は苦労しましたが融合の強さを自分で使ってみて改めて分かった。……HERO程ではないかもしれませんが、この子たちも十分すぎる程強力だ。

 

「それなのにあんな風に二つの召喚方法を使いこなすなんて……」

「召喚方法に優劣はありません。結局は使うデュエリストの実力次第ですよ」

「……そうねっ。次またデュエルする時まで、私ももっと強くなってみせるわ」

「……楽しみにしています。今度は何のハンデもなく、デュエルをしましょう」

「ええ。さ、食べましょ? 昼休みが終わっちゃう」

「はい」

 

互いに弁当箱を開け、柊さんは箸を、私はサンドイッチを手に取る。作るのが楽なので基本的にコレです。

 

 

 

「そういえば」

 

食事を終え、私が持ってきたアイスティーを飲みながら柊さんが口を開いた。

 

「素良とのデュエルで使ってたモンスター、マドルチェって言ったかしら?」

「ええ。……やはり私には似合わないでしょうか」

「ううん、そうじゃないの! ただ、随分可愛らしいモンスターだったから、私とのデュエルで使ってたカードとギャップがあって……」

「……確かにシャドールたちは不気味に見えるかもしれませんが、私はどちらも好みです」

 

光津さんにも言われましたが、個人的にはシャドールもマドルチェと同じくらい私好みの外見です。でなければいきなりデッキに入っていたカードをここまで使うわけありません。

 

「そ、そうなんだ……」

「ええ。少し自分勝手な所もありますが」

 

特にエクストラデッキの中に居る子たちが。通常のデュエルならともかく、アクションデュエルでは危ないです。それは柊さんとのデュエルや素良さんとのデュエルでミドラーシュとネフィリムが証明している。今の所は怪我もないですが……。

 

(素良のモンスターといい、融合モンスターってちょっと不気味なモンスターが多いわね……)

「柊さんの幻奏の音女たちは皆綺麗な姿をしていますね。エンタメデュエルにピッタリです。それに、それだけではなく特殊召喚に関する様々な効果を持っている」

「ええ。私のお気に入りのカードたちなの」

「榊さんのEM(エンタメイト)を使ったデュエルも遊勝塾の教えるエンタメデュエルを表しているかのような戦術でした。ペンデュラム召喚だけではないエンタメデュエルを。いずれ榊さんともデュエルをしてみたいものです。それに一度は単なる観客として、眺めてみたいです」

「それならきっと、今年のジュニアユース選手権でどっちも叶うわよ。お父さんも今年は塾の全員で舞網チャンピオンシップに出場するんだ、って張り切ってたもの。久守さんも出場するんでしょう?」

「……いえ、私は出場資格を満たしていませんから」

「えっ? って、そっか、舞網市に来てまだ半年も経ってないものね……」

「はい。今年は沢渡さんの応援に専念します」

「そっか……そういえば遊矢も公式戦は進んでるのかしら……ペンデュラム召喚の事があってから、色々と忙しかったからなあ……というか沢渡も参加出来るの?」

 

榊さんの心配をしながらも、柊さんは意外そうに尋ねた。

 

「勿論です。既に勝率6割を超え、資格を獲得しています」

「へえ……流石はLDS、って事かしらね」

 

どうも柊さんは沢渡さんの実力を過小評価してる節がある。沢渡さんが実力の面で誤解されやすいのは以前から分かっていましたが……いえ、今は何も言いません。私が何もしなくとも、ジュニアユース選手権で沢渡さんの実力は皆が知る事になりますから。……我が儘を言うなら、榊さんとの再戦はその時に、と思ってしまいます。そうすればきっと……私の懸念も払拭されるだろうから。

 

「ところで久守さんと沢渡たちが学校で一緒に居る所って見た事ないけど……ひょっとしてお昼もあいつらと約束があった?」

「いいえ」

 

柊さんが少し不安そうに言う。やはり優しい人です。

 

「学校では沢渡さんたちとは関わりがありませんから」

「ええ!? どうして!? LDSではあんなに仲良さげにしてたじゃない!」

 

「私が沢渡さんの取り巻きでいられるのは、デュエリストである時だけですから」

 

ただの学生になるこの学校では、沢渡さんの傍にはいられない。

……LDSで紅茶を淹れて待っているだけで最高に幸せなんですけどね! それにクラスが違うので学校ではすれ違う事すら滅多にありませんし! ちくしょう!(本音)

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

LDS デュエル場

 

「俺は氷帝メビウスでパワー・ダーツ・シューターを攻撃! アイス・ランス!」

「うわあああ!!」

 

KAKIMOTO LP:0

WIN SAWATARI

 

「すげえ……」

 

「ふっ」

「沢渡さん! 今度のカード、マジ強すぎっすよ!」

「チッチッチ、違うなあ。強すぎるのはモンスターじゃない。本当に強いのは、この――」

「「「沢渡さーん!」」」

「オー イエス!」

 

新たに構築したメビウスデッキを用い、かつて自分が使っていたダーツデッキを操る柿本を破った沢渡は饒舌に語り始める。

 

「大切なのはデュエリストの腕さ。計算された策略、的確な判断力、タフな精神力ッ、恵まれた容姿! 全て備えているのは――」

「「「沢渡さーん!!」」」

「イエス イエス!」

 

それを冗長させる柿本たちが居る為に沢渡の口は止まらない。

 

「つまり! 勝つべくして勝つ! 完璧なるデュエリスト。それがッ――」

「「「沢渡さん!!!」」」

 

「そーう! いや、新たなカードを手にした今、むしろネオ沢渡と呼んでくれ。ネオ――」

 

「「「沢渡さーん!!!!」」」

「オーケイオーケイ!」

 

まるで某塾に所属する某デュエリストのような話術と動作で沢渡のテンションは上がり続けていく――が、

 

「ちょっと影響されてね……?」

「榊遊矢にな……」

 

そんな大伴と山部の言葉を耳聡く拾った瞬間、彼はさらに大声を上げた。

 

「その名を……出すなああああ!!」

 

沢渡にとって、姑息な手を使ってペンデュラムカードを奪い、尚且つそれを使っておきながらデュエル中にカードを取り戻され、初めは自分が狙っていたジャストキルを自分がクズカードと罵って捨てたブロック・スパイダーで決められる、というあまりにも情けなく、あまりにも小悪党にお似合いな敗北を喫したせいで榊遊矢の名前は自分で出すならともかく、他人に出されると最も腹の立つ名前である。

それを察していた久守詠歌はその名を出すことは決してしなかったが……山部たちはそこまで頭が回らなかったようだ。

 

「どんな手を使ってでも倒す……! 榊遊矢……首を洗って待っていろ!」

 

それを止めるか咎めるかをしていたであろう久守詠歌は此処にはいない。山部たちはこれ以上他の塾生の迷惑にならないよう、沢渡をいつもの倉庫へと誘う事しか出来なかった。

なお沢渡の名誉の為に注釈を入れるなら、どんな手でも、というのはメビウスによってペンデュラムカードを破壊する戦術の事であり、前回のような子供じみた演技をするつもりはない。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

EIKA LP:4000

??? LP:2000

 

「俺は二枚目の永続魔法、禁止令を発動し、クイーンマドルチェ・ティアラミスを宣言! このカードが存在する限り、お互いに宣言されたカードを使う事は出来ない――残念だったなあ!」

「……」

「そして俺は霞の谷(ミスト・バレー)のファルコンを召喚! このカードは俺のフィールドのカードを一枚手札に戻さないと攻撃できない――俺はフィールドの光の護封剣を手札に戻し、マドルチェ・ピョコレートを攻撃!」

 

霞の谷のファルコン

レベル4

攻撃力 2000

 

「……」

「そして手札に戻した光の護封剣を再び発動! これでお前はまた三ターン攻撃出来ない! さらにカードを二枚伏せて、ターンエンドォ!」

「……私のターン、ドロー」

「この瞬間、罠カード、運命の火時計を発動! これも二枚目、もう効果は分かってるよなあ? 俺は終焉のカウントダウンを選択し、このカードのターンカウントを一ターン進める! これで後10ターン。もう折り返しだぜえ……! 10ターン後のお前のターンが終了した時、俺の勝利が確定するぅ……!」

 

……あー、鬱陶しい。

何なんですかね、昨日から。

 

「鎌瀬の野郎は一人で先走って無様にまた負けたみてえだが、俺はそうはいかないぜ」

 

鎌瀬は元LDSだったから覚えていましたが、この男の事は正直全く覚えていない。誰ですかこのハゲ。

しかも二枚の禁止令でティアラミスとサイクロンを封じられ、今私が使える魔法、罠を破壊できるカードは効果モンスターのシャドール・ドラゴンのみ。

さらに終焉のカウントダウンを一ターン目で発動し、その後は悪夢の鉄檻や和睦の使者などで攻撃を無効にされ、今に至っては光の護封剣と霞の谷のファルコンによってどちらかを破壊しなければ永続的に攻撃を封じられている。

終焉のカウントダウンによって特殊勝利を狙うロックデッキ、デッキが知られている私に対してのメタを張っている。昨日の鎌瀬の除外よりも厄介です。

終焉のカウントダウンの特殊勝利条件は発動後、20ターン経過すること。私に残されたターンは後5ターン。

 

「私はモンスターをセット、ターンエンド」

 

終焉のカウントダウン:残り9ターン

 

「俺のターン! バトルだ、霞の谷のファルコンの効果で光の護封剣を手札に戻し、セットモンスターを攻撃!」

「セットモンスターはマドルチェ・マーマメイド。守備力は霞の谷のファルコンの攻撃力と同じ2000。よって互いのモンスターは破壊されない」

 

マドルチェ・マーマメイド

レベル4

守備力 2000

 

「ちっ、うざったい壁モンスターかよ……俺はもう一度光の護封剣を発動して、ターンエンド」

 

終焉のカウントダウン:残り8ターン

 

「私のターン、ドロー」

 

……刀堂さんと出会えて良かった。彼の言葉がなければ私はきっと、あのカードを抜いていただろうから。

 

「カードを一枚セットし、ターンエンド」

 

終焉のカウントダウン:残り7ターン

 

「俺のターン……へへっ、俺の場のファルコンじゃお前のモンスターを破壊出来ねえ。俺はカードを一枚セットしてターンエンドだ」

「私のターン」

「この瞬間、罠カードを発動する。俺が伏せたのは、3枚目の運命の火時計! これによりカウントダウンがさらに早まる!」

 

終焉のカウントダウン:残り5ターン

 

「ドロー。もうカウントダウンに意味はありませんよ」

「あん?」

「このターンでお終いですから。私は罠カード、マドルチェ・ハッピーフェスタを発動。手札からマドルチェと名の付くモンスターを任意の数だけ特殊召喚する。ただしこの効果で特殊召喚されたマドルチェたちはエンドフェイズにデッキに戻る」

「ははっ、それじゃあ壁にもならねえじゃねえか! エクシーズ召喚を狙ってるのかもしれねえが、忘れてないか? 俺のフィールドの禁止令の効果でお前のエースは封じられてるって事をよ!」

「私は手札からマドルチェ・シューバリエ、バトラスク、メェプルを特殊召喚」

 

マドルチェ・シューバリエ

レベル4

攻撃力 1700

 

マドルチェ・バトラスク

レベル4

攻撃力 1500

 

マドルチェ・メェプル

レベル3

守備力 1800

 

「さらに手札からシャドール・ファルコンを通常召喚」

 

シャドール・ファルコン

レベル2

攻撃力 600

 

「レベル4のマドルチェ・シューバリエにレベル2のシャドール・ファルコンをチューニング。異界の獣よ、もう一度お伽の国に鍛冶の火を灯せ――シンクロ召喚、レベル6 獣神ヴァルカン」

 

騎士と隼が光となって繋がる。そしてもう一度、あのカードをフィールドへと呼び出す。

 

獣神ヴァルカン

レベル6

攻撃力 2000

 

本当に、刀堂さんには感謝しなくては。

 

「シンクロ召喚だと……!? 馬鹿な、お前がシンクロを使うなんて話、聞いた事も……」

「ええ。あなたが誰なのかは未だに思い出せませんが、あなたたちのような人相手には使った事はありませんよ。ヴァルカンは私がLDSに入ってからたまたま手に入れたカードですから――ヴァルカンの効果発動。シンクロ召喚に成功した時、お互いの表側表示のカードを一枚ずつ手札に戻す。私が選択するのはマドルチェ・メェプルとあなたのフィールドの禁止令。女王さまの禁止令を解いてもらいます」

「く……! だが俺の場にはまだ光の護封剣がある!」

「けれど私の場にも、同じレベルの二体のモンスターがいる」

「あっ……」

 

禁止令が手札に戻り、私のフィールドのお菓子の羊、メェプルも手札へと戻る。これで準備は整った。

 

「レベル4のマーマメイドとバトラスクでオーバーレイ。二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。人形たちを総べるお菓子の女王、お伽の国をこの場に築け――エクシーズ召喚。来て、ランク4、クイーンマドルチェ・ティアラミス……!」

 

メイドと執事、二人が光となって消えた渦から現れるのはヴァルカンによって封印を解かれたお菓子の女王。

 

クイーンマドルチェ・ティアラミス

ランク4

攻撃力 2200

ORU2

 

「ティアラミスの効果を発動。オーバーレイユニットを一つ使い、私の墓地のマドルチェと名の付くカードを二枚までデッキに戻し、戻した枚数分、フィールドのカードを持ち主のデッキに戻す。私は墓地のシューバリエとハッピーフェスタをデッキに戻し、あなたのフィールドの光の護封剣と霞の谷のファルコンをあなたのデッキに戻す。女王の号令(クイーンズ・コール)……!」

 

ティアラミスが杖を掲げ、杖から発せられた光により突き立てられた光の剣と霞の谷の戦士が築かれたお伽の国から退場する。

それを操るデュエリストにも、退場してもらいましょう。

 

「バトル。獣神ヴァルカンで直接攻撃(ダイレクト・アタック)

「っ、ちくしょおおおお!!」

 

??? LP:0

 

WIN EIKA

 

「昨日の鎌瀬といいあなたといい、くだらない策を弄するには少し頭が弱すぎます。だから最後はこうしてあっさりと私に負ける事になる」

「……」

 

項垂れる男性にそう言い捨てて、私は踵を返す。ロックデッキのせいで余計に時間が掛かってしまった。もうすぐ夕方になる。早くLDSに行かないと。今日は大事な作戦会議の日なんですから。それとももういつもの倉庫に行ってしまったんでしょうか。

 

「ちくしょう……! 次だ、次こそはお前に勝ってみせる……!」

「お好きにどうぞ。沢渡さんの邪魔をしないのなら、いくらでも相手をしましょう」

 

といってもロックデッキは時間が掛かるので、出来れば別のデッキにしてもらいたいですが。

 

「沢渡? あいつなんざもうどうでもいい! 今度こそ、今度こそはお前に勝って……お前を振り向かせてみせる、久守詠歌!」

「……は?」

 

間抜けな声が出てしまった。いや、というか何を言ってるんだこのハゲは。

 

「忘れもしない、あの日……! 俺は沢渡の野郎をぎゃふんと言わせてやろうと待ち伏せしていた……」

 

何か語りだしましたし。今時ぎゃふんって。

 

「だがそんな俺の前にお前が現れた、久守詠歌! そして俺はお前に、今と同じようにフィールドをがら空きにされ、敗北した……」

 

まあその頃はそのパターンがいつもでしたから。あの頃はデッキを使いこなせていなかったのか、中々シャドールたちが手札に来なかったので。

 

「忘れないぜ、あのデュエル……あれが俺のハートを揺さぶった! いや! 射抜いたんだ!」

 

もう行ってもいいでしょうか。

 

「それから俺は修行の旅に出た(舞網市内)……鎌瀬ともそこで出会ったのさ。奴も俺と同じで君に執着していた……恋をしていたのさ」

「いやその理屈はおかしい」

 

どう見ても復讐に燃えていたんですが。本人もそう言ってましたし。

 

「だが俺は奴ほど直情的じゃあない。あいつが先走って君にデュエルを申し込んだときも、俺はじっと耐えた……だがその結果がこれだ……」

「あの、もういいでしょうか」

「待ってくれ!」

 

もう嫌だ……なんなの、この人……。

 

「初めて会った時も、昨日のデュエルもっ、どうしてそんなに沢渡に拘る!?」

「それをあなたに語る必要がありますか」

「……やっぱりあいつの事が……!」

「あなたが考えているような想いは抱いていません。私はあの人の傍に居られる、それだけでいい。あなたや鎌瀬と初めてデュエルした時とは理由は別ですが、私がすることは変わらない。あの人を陥れようとする者は誰だろうと倒す、それだけです」

「っ……」

「……もういいですか。いつまでもあなたに構っている程、私も暇ではないので」

「あ……」

 

これ以上彼の話に付き合う気はない。何処まで本気で言っているのかは知りませんが、沢渡さんに迷惑が及ばないならそれでいい。

 

 

 

足早にLDSへと向かう途中、デュエルディスクが鳴った。通信……沢渡さんからでしょうか!

しかしデュエルディスクを見ると画面に表示されていた名前は……アユちゃん?

 

「はい、もしもし」

 

『詠歌お姉ちゃん! 沢渡たちを止めて!』

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「デュエル!」「デュエル!」

 

UNKNOWN VS SAWATARI

LP:4000

 

海に面する倉庫。沢渡たちが良く溜まり場にしている其処に、普段とは違う顔が二つあった。

 

「先行は俺が貰う」

 

沢渡と対峙する黒マスクの男と、榊遊矢を狙う沢渡、その取り巻きの二人をつけて此処まで来た柊柚子の二人だ。

榊遊矢を守る為に沢渡にデュエルを挑んだ柊柚子を庇うように、その黒マスクのデュエリストは突然現れ、沢渡とデュエルを始めた。

 

「いいだろう、ナイトくん」

「俺は手札5枚、全てのカードを……伏せる」

「ああっ?」

「えっ……」

「ターンエンド」

 

先行の1ターン目にして黒マスクの男は全ての手札をセットし、ターンエンドを宣言する。

それを目の当たりにした柊柚子は思わず声を上げた。

そして沢渡に至っては――

 

「ふっ、あっははははは! おいおい……なんか格好つけて登場した割に、それだけかい?」

 

耐え切れない、といった様子で沢渡は顔を覆い、笑い声を上げた。

 

「沢渡さん、大嵐っすよ!」

 

取り巻きの一人、山部も挑発するように言う。

 

「モンスターが一枚も入ってなかったかい? 気の毒だがお前……持ってないねえ」

「聞こえなかったか、ターンエンドだ」

 

二人の挑発の言葉も意に介さず、男はもう一度エンド宣言を繰り返す。

 

「ああん……?」

 

その態度が沢渡の神経を逆撫でする。だが、沢渡はさらに笑みを深くしてデッキに手を掛けた。

 

「見せてやる、俺の完璧なデュエルを。俺のターン、ドロー!」

 

この状況は自分の新しいデッキにはお誂え向きの状況だ。本当に気の毒だが、目の前の騎士はあまりにも運がなかった、と内心で笑って。

 

「お前が伏せたカードを利用させてもらうぜ――相手の魔法、罠ゾーンにカードが二枚以上存在する時、手札からこのカードを特殊召喚することが出来る。出でよ、氷帝家臣エッシャー!」

 

この状況、やはり自分はカードに選ばれている。榊遊矢の前の前哨戦には丁度いい。

 

「さらに俺はエッシャーをリリースし、アドバンス召喚! ――氷帝メビウス!」

 

氷帝メビウス

レベル6

攻撃力 2400

 

「よっしゃあ! いきなり攻撃力2400のモンスター召喚だぜぇ!」

 

「メビウスの効果発動! このカードがアドバンス召喚に成功した時、フィールドの魔法、罠カードを二枚まで選択し、破壊できる。フリーズ・バースト!」

 

残る伏せカードは3枚。それをすべて破壊する為のカードも既に手札にある。

いける、このデッキでなら榊遊矢を倒せる。そう確信し、沢渡はさらにデュエルを進めていく――。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

アユちゃんはしゃくりを上げながら私に必死に状況を伝えてくれた。

買い物の帰り道、山部と大伴を見つけ、その会話から沢渡さんが榊さんをまだ狙っている事。

どんな手を使ってでも榊さんを倒そうとしているという事。

 

山部たちが言っていたというどんな手でも、というのは恐らくメビウスを使った戦術の事だろう。沢渡さんがまた同じような卑怯な手を使うとは思えない。

 

そして榊さんもアユちゃんの言葉を聞き、沢渡さんを探しに行ったという事。その後で沢渡さんの取り巻きである私に電話を掛けて、助力を頼んだという事。

私がした事を目の前で見ていながら、私を頼ってくれた……本当に優しい子だと思う。

私には沢渡さんが榊さんを敵視しているのを止める事は出来ない。けれど、こんな勘違いされたままの状況での決着は沢渡さんも望む所ではないはずだ。

もっとしっかりとした場で、劇的な勝利を演出する。それが今の沢渡さんの願いだ。

だからもし、このまま二人のデュエルへと発展するようならそれは止めなくちゃならない。いがみ合うようなデュエルは二人の決着に望ましくない。

……そうだ、沢渡さんは認めないだろうけど、ライバルとの決着は誰の邪魔も入らない、誰もが見届けたくなるような状況で着かなければ。

 

「だから安心してください、アユちゃん。柊さんも榊さんも、絶対に傷つけはさせませんから」

『ぐすっ……うん』

 

アユちゃんと柊さんが山部たちを見たという場所からして、恐らく沢渡さんはいつもの倉庫に居る。此処からなら遊勝塾に居る榊さんよりも早く辿りつけるだろう。早く行って、柊さんの誤解を解かなくては。

 

「私も探してみます。アユちゃんは安心して待っていてください」

『うん……ありがとう、詠歌お姉ちゃん……』

 

アユちゃんと通信を切り、倉庫を目指して走る。

未だに沢渡さんを敵視している柊さんの事だ、もしかするとデュエルになってしまっているかもしれない。これ以上、二人に喧嘩をしてもらいたくはない。それは……沢渡さんの取り巻きである私と、柊さんの友人である私の、共通の願いだ。

自分勝手な私の、勝手な願いだ。

 

 

 

――見えた。いつも使っている倉庫。扉が開いている……既に柊さんは中に居るんだろう。早く行って、事情を説明しなくては。

倉庫の扉へと走りよった瞬間、冷たい風が私の肌を刺激した。

……? いくら海に近いとはいえ、この時期にしては冷たすぎる。まるで冬の、氷を孕んだ風のようだ。

 

 

「エクシーズモンスターの真の力は己の魂たるオーバーレイユニットを使って相手を滅する事にある」

「エクシーズの講義は結構だ。興味もないし、お前以上に使いこなす奴を知ってるんでね」

 

冷気によって歩みを止めた私の体。しかし、倉庫の中から沢渡さんの声が私の耳に届いた。

エクシーズ……? 一体誰とデュエルを……

 

「ならばその身を以て知るがいい――ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの効果発動ッ! オーバーレイユニットを一つ使い、このターンの終わりまで相手フィールドに居るレベル5以上のモンスター一体の攻撃力を半分にし、その数値分、ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの攻撃力をアップする!」

 

そして中から聞こえる知らない声に、私はゆっくりと倉庫の扉に手をかけ、中を窺った。

 

「トリーズン・ディスチャージ!」

 

倉庫の中では最上級モンスター、凍氷帝メビウスと見た事のない黒いドラゴンが対峙していた。

メビウスを操るのは沢渡さん、もう一方のドラゴンを操る、柊さんの横に立つ男性は私の位置からでは後ろ姿しか見えないが、黒い服装のデュエリスト。

 

凍氷帝メビウス

レベル8

攻撃力 2800 → 1400

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン

ランク4

攻撃力 2500 → 3900

ORU2 → 1

 

「ああっ、ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの攻撃力がぁ!」

「メビウスを上回った!」

 

「うっそーん!?」

「まだだ! 残るオーバーレイユニットを一つ使い、ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの効果を発動!」

 

「つまり、もう一度同じことが……」

「「「やべえ!」」」

 

「トリーズン・ディスチャージ!」

 

凍氷帝メビウス

レベル8

攻撃力 1400 → 700

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン

ランク4

攻撃力 4600

ORU1 → 0

 

「攻撃力、4600……!」

「嘘、ウソ、うっそーん!」

 

ディスクを取り出し、二人のデュエル状況を確認する。

二人のライフはどちらも無傷の4000、仮にあのドラゴンの攻撃が通っても沢渡さんのライフは100残る……それに沢渡さんのあの態度、何か策がある。

突然の展開に驚きましたが、ふっと息を吐く。柊さんの隣の男性が誰かは知りませんが、このデュエルが終わった後に事情を説明して、誤解を解くとしましょう。

沢渡さんが勝てば、話も聞いてくれるでしょうし。

そうと決まれば沢渡さんの名演技と華麗なるデュエルを目の前で見なくては!

今度こそ倉庫の扉を潜ろうとしたその瞬間だった。

 

「バトルだッ! 俺はダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンで、凍氷帝メビウスを攻撃! 行け! その牙で氷河を砕け!」

 

男性の声に反応し、ドラゴンが翼を翻した瞬間。ディスクに内蔵されたソリッドビジョンシステム、通常のデュエルでは起こりえないドラゴンの起こした風が私の肌へと突き刺さった。

……おかしい。

 

「反逆のライトニング・ディスオベイ!」

 

そしてドラゴンがメビウスを破壊した瞬間、爆発と衝撃波が倉庫内で巻き起こった。その衝撃で沢渡さんが吹き飛ばされ、私もまた倉庫の外へと吹き飛ばされた。

これ、は……モンスターが実体化してる……?

 

「……こんな所、で、倒れてるわけには……!」

 

コンクリートの地面に打ち付けられ、体が悲鳴を上げている。関係ない。

今の私には自由に動く手足がある。この世界で戦う為のカードがある。

沢渡さんに危害が及ぼうとしている。その時に、私が動かないでどうする……!

 

強引に体を起こす。制服は爆風で汚れ、所々破れ、擦り傷で血が色々な所から流れている。けど関係ない。

頭を打ったのか、視界が揺れている。関係ない。

ほんの僅かな距離のはずの倉庫が酷く遠く感じる。関係ない。

今にも倒れて、楽に成りたいと体が悲鳴を上げている。関係、ない……!

 

「馬鹿め! デュエルは終わっていない!」

 

ほら、沢渡さんだってああ言っている。たとえどれだけ強力なモンスターを召喚し、メビウスを破壊しても、沢渡さんの心は折れていない。

なら、私が此処で折れる事も、絶対に許されない……! 私は、あの人の隣に居たいんだから……!

 

「罠、発動! アイス・レイジ・ショット!」

 

そして、沢渡さんの勝利を、この目で見て、一緒に喜ぶんだ……! 沢渡さんの、ネオ沢渡さんの、華麗なデュエルを!

 

「――安い戦略だ。児戯にも等しい」

「はいぃ!?」

「俺は墓地にある永続魔法、幻影死槍(ファントム・デス・スピア)を発動。相手の罠カードが発動した時、墓地のこのカードを除外する事で罠カードの発動を無効にし、破壊」

「なっ……!」

「そして! 相手プレイヤーに100ポイントのダメージを与えるッ」

「えっ、ええッ!? ま、待て待って! 待て待て待て待て待て待て――――」

「その身に受けろ、戦場の悲しみと怒りを――!」

 

 

「待てえええええ!!!」

 

 

沢渡さんの悲鳴を聞いて、漸く私の体は自由を取り戻した。

未だに爆煙の籠る倉庫を走り、沢渡さんに放たれようとする槍を追い越し、沢渡さんへと走る。

 

「っ!?」

「く、」「久守!?」

「久守さん!?」

 

「沢渡さんッ!」

 

SAWATARI LP:0

 

ディスクが沢渡さんの敗北を告げる。

けれど、槍が沢渡さんを貫くことはなかった。

 

「……無事ですか、沢渡さん」

「く、久守……」

 

間に合った……。槍よりも早く、沢渡さんを押し倒す事が出来た。

 

「良かった……」

 

微かに震えている沢渡さんの手を握り、もう一度無事を確かめる。煙で汚れているけれど、大きな怪我はしてない。

……本当に、良かった……。

 

沢渡さんの手を離し、私は立ち上がる。沢渡さんを守るように、黒マスクの男へと立ちはだかる。

 

「!?」「!?」

 

「あなたは……」

 

マスクを脱ぎ、割れたゴーグルを上げた事で黒マスクの男の素顔が見える。

 

「遊矢!?」

「き、貴様だったのか……!」

 

その素顔は紛れもない、榊さんのもの。

 

「……何処の誰かは知りません。けれど、この借りは返してもらいます。今、此処で……!」

 

榊さんがエクシーズ召喚を使うという話は聞いたことがない。使えるのであれば、LDSでエクシーズコースに興味を示すこともないはずだ。

この‟もう一人の”榊さんが誰なのかは知らない。どうして沢渡さんを狙ったのか、榊さんとどういう関係なのか、それも知らない。

だけど、私がすべき事はもう決まっている……!

 

「山部、大伴、柿本! 沢渡さんを連れて早く行って!」

 

「えっ!?」「は、はぁ!?」「何言ってんだ久守!?」

「お前も今のデュエル見てたんだろ!? こいつやべえよ!」

「だから早く行って! 沢渡さんを連れて、早く逃げて!」

 

「っ、ふざけるなよ久守……! お前、何を勝手な事を……!」

「お願いです、沢渡さん……!」

 

分かってる。こんな風に負けて、沢渡さんが黙ってるはずないって事ぐらい、良く分かってます……!

けど、それでも……!

 

「私に、あなたを守らせて……! 影からじゃなく、前に立って、あなたを助けさせてください……!」

「くも、り……?」

 

ごめんなさい。何を言っているのか、分からないですよね。

今まではこんな事、一度もなかったから。

 

「――早く行って!」

「っ、沢渡さん、行きましょう!」

「ふざけんな、あいつを置いて、尻尾巻いて逃げられるか!」

「早く早く!」「おい、そっち持て!」

「ふざけんなああああ――――!」

 

山部と大伴に抱えられ、沢渡さんが倉庫の外へと運ばれていく。

……これでいい。これでもう、憂いはなくなった。

 

「く、久守さん! それに遊矢も! どうして此処に……!?」

「柊さん、退いてください。私はその男に用がある」

「……」

 

無言のままの男を睨み付け、私はデュエルディスクを腕に装着する。

 

「デュエルです……! 沢渡さんを傷つけた罪は今此処で償ってもらいます……!」

「ちょ、ちょっと待って! 落ち着いて久守さん! 沢渡がやられて怒る気持ちは分かるけど――」

「本当に私の気持ちが分かるなら! 今の私が言葉で止まらないという事も分かるはずです!」

「……もう貴様らに用はない」

「私にはある! 逃げても何処までも追いかけてやる!」

「……」

 

私の言葉が本気だと悟ったのか、男は再びデュエルディスクを構えた。

それでいい、今此処で終わらせてやる……!

 

これもくだらない世界(ものがたり)の脚本なのだとしたら、今、此処で!

 

 

「デュエル!」「デュエル!」

 

EIKA VS UNKNOWN

LP:4000




新制限に間に合った……!
これでサブタイに問題はない。
本来なら主人公のデュエル描写を入れるつもりはなかったのですが、この調子だとシンクロの出番がまだまだ先になりそうだったのでヴァルカンに再登場してもらいました。

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