沢渡さんの取り巻き+1   作:うた野

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シンクロ次元特別篇第二弾。今回でとりあえず特別篇の更新は終了です。
そして今回は一枚ですがオリジナルのアクションカードが登場します。特別篇なんで勘弁してください。


『新たな舞台』

フレンドシップカップ。トップスとコモンズの融和の為に開催されるこの大会。

しかし、両者が相容れる事は決してない。そしてもう一組、相容れる事のない二人の少女が居た。

 

『さあ大会一日目、最後の試合となります! デュエルチェイサー227と榊遊矢のデュエルの興奮冷めやらぬ中、一日目のトリを飾るのは今大会初となる、女性同士のデュエルです! 柊柚子やセレナに続く、痺れるデュエルに期待しましょう!』

 

メリッサ・クレールによる実況の中、二人の少女がデュエルパレスのサーキットへと姿を現す。

 

『両選手同時に入場! ええと……どっちがどっちなのぉ!? と、とにかく逢歌と舞歌の入場です! この二人もだけど、名前も似てるし……もしかして四つ子?』

 

彼女の混乱を他所に、二人の少女がスタートラインへと並ぶ。

 

「はじめましてだな、逢歌」

「……君は」

「オレは舞歌……この子に希望を託され、此処に来た」

「ッ――!」

 

舞歌は一枚のカードを逢歌へと見せる。‟彼女”の封じられたカードを。

 

「……訊きたい事は山ほどある。けど、そんな暇はないよね」

「ああ。けど二つ、言える事がある。オレはランサーズに入ったって事」

「もう一つは?」

「……オレはこのデュエル、負けるつもりはない。今、ランサーズに必要なのは勝利。この大会で優勝し、ジャック・アトラスに勝利して力を示す事だ」

「分かってるよ。でも僕も負けるつもりはない。どっちが勝っても恨みっこなしって事だ」

「はっ……恨みっこなし、ね」

 

逢歌の言葉に舞歌は笑う。……昏く、溢れ出る感情を抑え切れないように。

 

「そうだ。この子からお前に伝言がある」

「へえ。偉そうに旅立っていったあの子が、一体どんな言い訳があるのか教えてほしいな」

「『お願いです、逢歌。多分きっと、あなたたちにしか出来ない事だから』だとよ」

「……? 一体、どういう……」

「さあな。確かに伝えたぜ」

 

そう言って、舞歌は逢歌から視線を外した。

 

(……どういう意味かは分からないけど。やってあげるよ。妹分の頼みだからね)

 

逢歌もまた、正面へと視線を向けた。

 

『それじゃあいきましょう! アクションフィールド・オン! クロスオーバー・アクセル!』

 

カードがコースへと散らばり、戦いの舞台は整えられる。同時にカウントダウンが始まった。

 

『ライディングデュエル――アクセラレーション!』

 

「デュエル!」「デュエル!」

 

AIKA VS MAIKA

LP:4000

 

アクションフィールド:クロスオーバー・アクセル

 

「ッ……!」

「……!」

 

初めてのライディングデュエルに戸惑いながら、しかし先を行くのは逢歌だ。

 

「ユーゴくんでの経験が活きたかな……! 僕のターン!」

 

『第一コーナーを制し、先攻を取ったのは逢歌! さあ一体どんなデュエルを見せてくれるのでしょう! 二人とも頑張って!』

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

『僕は霊獣使いの長老を召喚! このカードの召喚に成功した時、霊獣モンスターをもう一度通常召喚できる! 僕は精霊獣 カンナホークを召喚!』

 

デュエルパレス、大会参加者たちに与えられた部屋の一つで、わたしは中継された映像をじっと見つめる。

 

「逢歌と舞歌……まさかいきなり潰し合う事になるなんて」

 

逢歌は舞歌の事を知らない。そしてわたしも彩歌の事を知らない。逢歌の事も、わたしは彼女の影で見ていただけだけど……でも逢歌もわたしと同じ気持ちのはずだ。わたしたちは敵じゃない。あの子が言っていたように、思い出を、絆を繋げる事が出来るはずだ。

でも……。

 

「舞歌……」

 

彼女とのデュエルで僅かに見えた、彼女の抱える闇。黒咲隼と同じ……アカデミアへの憎悪。わたしたちは子供だ。時間の止まっていた、幼い子供。

黒咲隼はランサーズとして、元アカデミアの逢歌やセレナと表面上は受け入れた。舞歌……あなたはどうなの?

 

『カンナホークの効果発動! デッキから精霊獣 ペトルフィンを除外する! 除外されたペトルフィンは二回後の僕のスタンバイフェイズに僕の手札に加わる! そして僕は霊獣使いの長老と精霊獣 カンナホークを除外する事で融合召喚を行う!』

 

逢歌……舞歌の事、頼みましたよ。彼女を怒りと憎悪の呪縛から解き放てるとしたら、それはきっとあなただから。あなたと――あなたの中で眠る逢歌だけだと思うから。

 

奇しくもそれは、‟彼女”と同じ願いだった。二人の少女の、共通の願いだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「未来を見守る長よ、轟く雷の精霊よ! 今一つとなりて杖を掲げよ! 融合召喚!」

 

いくよ、逢歌――僕たちの力を舞歌に、そしてどういうわけかカードなんかになったあの子に、見せつけてあげよう。

 

「火炎を抱いて、大地を駆けろ! 聖霊獣騎 アぺライオ!」

 

聖霊獣騎 アぺライオ

レベル6

攻撃力 2600

 

「僕はカードを二枚伏せてターンエンド!」

 

『やはりまたもや融合召喚! やっぱこれが今時の女性のデュエルなの!? しかもしかも、今度は融合カードを使わずに融合モンスターを召喚しました!』

 

「さあ見せてよ、舞歌。君の力を!」

「言われなくてもたっぷり見せてやる……見せつけてやるよ、オレのデュエルを! オレのターン、ドロー!」

 

スタンダード次元の詠歌、融合次元の逢歌、シンクロ次元の彩歌……となれば当然舞歌は……。

 

「オレは手札からギミック・パペット―ボム・エッグを召喚!」

 

ギミック・パペット―ボム・エッグ

レベル4

攻撃力 1600

 

「ギミック・パペット……!?」

 

人形。魔導人形とも影人形とも違う、もう一つの人形。でも、だけどそれは……!

 

「ボム・エッグのモンスター効果、オレは手札のギミック・パペット―ネクロ・ドールを墓地に送る事でこいつのレベルを8に上げる!」

 

ギミック・パペット―ボム・エッグ

レベ4 → 8

 

「さらにギミック・パペット―マグネ・ドールを特殊召喚! こいつはオレのフィールドのモンスターがギミック・パペットのみで、相手フィールドにモンスターが存在する時、手札から特殊召喚出来る」

 

ギミック・パペット―マグネ・ドール

レベル8

攻撃力 1000

 

「レベル8のモンスターが二体……」

 

召喚出来るエクシーズモンスターのランクは8……ランク8のエクシーズモンスターは確かに存在する。ランクに見合った強力なモンスターたちが、確かに。

だけど、ギミック・パペットを使っているなら……!

 

「オレはレベル8となったボム・エッグとマグネ・ドールでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」

 

『おおっとぉ!? これは私が以前お伝えしたデニスが使った物と同じ――』

 

「エクシーズ召喚! 現れろ――No.15! 地獄からの使者、運命の糸を操る人形……! ギミック・パペット―ジャイアントキラー!」

 

No.15 ギミック・パペット―ジャイアントキラー

ランク8

攻撃力 1500

ORU 2

 

「ナンバーズ……!」

 

『し、趣味悪ぅ……!』

 

どうして……何故ナンバーズを彼女が……! アレはこの世界には、4つの次元の何処にもないはずの物じゃなかったのか……? もう方舟は僕たちを置いて旅立った。なのにどうして……!

 

「こいつはオレがあの子から託されたカードの一枚……オレの運命を変えてくれた一枚……お前を……貴様らアカデミアをぶっ潰す為の力だ!」

「……!」

 

舞歌、君は……。

 

「ジャイアントキラーの効果発動! オーバーレイユニットを一つ使い、貴様のモンスターを叩き潰す! やれ!」

 

No.15 ギミック・パペット―ジャイアントキラー

ORU 2 → 1

 

「っ、聖霊獣騎 アぺライオの効果発動! このカードをエクストラデッキに戻し、除外されている霊獣使いと精霊獣を一体ずつ守備表示で特殊召喚する!」

 

霊獣使いの長老

レベル2

守備力 1000

 

精霊獣 ペトルフィン

レベル4

守備力 2000

 

「それで逃げたつもりか! ペトルフィンを破壊!」

「罠カード、霊獣の連契を発動! 僕のフィールドに存在する霊獣モンスターの数までフィールドのモンスターを破壊する! ジャイアントキラーを破壊!」

「速攻魔法、我が身を盾に! ライフを1500支払い、フィールドのモンスターを破壊する効果を無効にし、破壊する!」

「っ!」

 

MAIKA LP:2500

 

「貴様らはあの時もそうだった……! オレたちから希望を、全てを奪って行った……! だがな……! こいつは、オレがあの子から託されたこいつらは、絶対に奪わせねえ! 必ずオレは貴様らアカデミアをぶっ潰す! たとえこの身が果てようと、あの子に助けられたオレの全てを使ってでも、絶対に!」

「……成程ね。確かにこれは、僕たちにしか出来ない事だ。僕と逢歌にしか」

「何をごちゃごちゃ言ってやがる……! 残るオーバーレイユニットを一つ使い、もう一度だ、ジャイアントキラー!」

 

ギミック・パペット―ジャイアントキラー

ORU 1 → 0

 

「ペトルフィンを叩き潰せ!」

「……ジャイアントキラーの効果で破壊し、相手にダメージを与えるのは破壊されたモンスターがエクシーズモンスターだった場合のみ。僕のライフは削られない」

「チッ……ムカつくぜ、その何もかも分かったかのような態度がな……! バトルだ! ジャイアントキラーで霊獣使いの長老を攻撃! その老いぼれをぶちのめせ! ファイナル・ダンス!」

「霊獣使いの長老は守備表示、僕のライフは削れない」

「そんな事は分かってんだよ……! オレはターンエンド!」

「……」

 

……ねえ逢歌。このデュエル、僕だけじゃ駄目なんだ。勝っても負けても、僕一人じゃ、あの子からの頼みは果たせない。

逢歌、偉そうな事を言っておいて、僕はまだ君に希望を見せてあげる事なんて出来てない。だけど……!

このデュエルは僕たちで立ち向かわなきゃならないんだ。僕は僕として、君は君として……元アカデミアの逢歌として、君と僕で……!

 

「……希望なら、もう十分見せてもらったよ。後はそれを、自分自身の手で掴まなくちゃいけないんだ」

 

不意に、体の感覚が僕の意識から離れる。これは……。

 

 

「いくよ――‟ボク”のターン!」

 

 

……届いて、いたんだね。無駄じゃなかった……! 僕の声は、君に……!

 

「……うん、ずっと、ずっと聞こえてた。深い暗闇の中で、君の声が。一筋の光となって、ボクを照らしてくれていた……ボクはまだ、一人ではどうしようもない。一人で立ち向かう勇気なんてまだボクにはない、だから一緒に戦って……!」

 

……そう言ってくれるんだね、逢歌。自分勝手な僕なんかに。

ああ、いこう。舞歌の為にも、あの子の為にも、僕の為にも。そして、君がアカデミアと本当の意味で決別する為にも!

 

「リバースカードオープン! 霊獣の騎襲! 墓地の精霊獣 カンナホークと霊獣使いの長老を守備表示で特殊召喚する!」

 

精霊獣 カンナホーク

レベル4

守備力 600

 

霊獣使いの長老

レベル2

守備力 1000

 

「カンナホークの効果を発動し、デッキの霊獣使い レラを除外! そして、速攻魔法、霊獣の相絆を発動! 長老とカンナホークを除外し、エクストラデッキの霊獣モンスターを召喚条件を無視して特殊召喚する! お願いだ、もう一度ボクに力を貸してくれ!」

 

逢歌の願いに応えるように、ずっとずっと待ちわびていたように、エクストラデッキが光り輝いた。

 

「騎乗せよ、聖霊獣騎 ガイアペライオ!」

 

聖霊獣騎 ガイアペライオ

レベル10

攻撃力 3200

 

「攻撃力3200……!」

「……ごめんね。こんなに待たせて、こんなボクだけど……もう一度力を貸してくれるかい?」

 

獣と少女、その両方が大きく頷いた。少し、妬けちゃうかな。

 

「いくよ、舞歌……ボクにそんな資格があるのか分からない。ボクに偉そうな事を言う権利なんてないって事も分かってる。でも! 君の怒りを、憎悪を! ボクが、僕たちが受け止める! ガイアペライオでジャイアントキラーを攻撃! 聖光のフレイム・ストライク!」

「ぐっ……!」

 

MAIKA LP:800

 

「……オレの怒りを受け止めるだと……? ふざけやがって……!」

「ボクはこれで、ターンエンド」

「オレのターン! オレの怒りは、テメェ一人をぶっ潰した所で晴れやしねえ! アカデミアをぶっ潰すまで、オレたちの怒りは決して消えねえんだ!」

「っ……」

 

……逃げるな、逢歌。これは僕たちが受け止めなきゃいけないもの。僕たちが背負わなくちゃいけないものなんだ。

どんなに辛く苦しくても、それを受け入れなきゃ、希望を掴む事なんて出来ない!

 

「……分かってるよ。ボクは、逃げない。自分の罪から、自分の間違いから、自分の過去から……!」

「魔法カード、ジャンクパペットを発動! 墓地のジャイアントキラーを復活させる!」

 

No.15 ギミック・パペット―ジャイアントキラー

ランク8

攻撃力 1500

ORU 0

 

「どうしてオーバーレイユニットのないジャイアントキラーを……?」

 

……まさか、あのカードまで君は渡したのかい?

気をつけて、逢歌。僕の予想が正しいのなら、あの子はとんでもないものまで舞歌に託してくれたみたいだ……!

 

「オレはRUM―アージェント・カオス・フォースを発動!」

「ランクアップ……!」

 

ああ。黒咲隼が使っていたものと同じ、でも違う……!

 

「このカードはジャイアントキラーをランクアップさせ、新たなカオスエクシーズを特殊召喚する! オレはランク8のジャイアントキラーでオーバーレイ! 一体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築!」

 

感じる。あの方舟と同じ力と、さらにその先の力……カオスの力を。

 

「カオス・エクシーズ・チェンジ! ッ……現れろ! CNo.15! 人類の叡智の結晶が運命の糸を断ち切る使者を呼ぶ……! ギミック・パペット―シリアルキラー!」

 

CNo.15 ギミック・パペット―シリアルキラー

ランク9

攻撃力 2500

ORU 1

 

「カオス、ナンバーズ……!?」

 

やっぱりか……! だけどまだ理解できない。今感じるこの力、明らかに他のエクシーズモンスターとは違う、強大なカオスの力。ただのカードでは有り得ないこの感覚……それを、何の代償もなしに使えるなんて……。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「カオスナンバーズ……!? おいおい、どういう事だよ、これ……」

 

あたしたちをこの世界に運んだ方舟。この世界には存在しないはずのカード。

一体なんで……。

 

「……いいや。心配する必要なんてないよね」

 

確かにカオスナンバーズは強力で、画面越しにもその威圧感が伝わって来る。

でもあたしたちにだってそれに負けないだけの力がある。

あたしと彩歌、そしてあんたと逢歌。あたしたちはどんな時でも一人じゃない。二人一緒

なんだ。

それに彩歌だけじゃない。逢歌だけじゃない。あたしたちには、みんなから貰った力がある。

体を失っても、それでも決して手放さなかった力。こんなあたしたちを、見放さなかった子たちが、傍に居てくれる。

そうだよね、みんな――。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「いくぞ……シリアルキラーの効果発動! こいつはオーバーレイユニットを一つ使い、貴様のモンスターを叩き潰す!」

 

CNo.15 ギミック・パペット―シリアルキラー

ORU 1 → 0

 

「さらにッ、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを貴様自身にぶち込む! これを喰らって、ほんの僅かでも知りやがれ、オレたちの痛みと憎悪を! エクスターミネーション・スラッシャー!」

「っ、くッ……!」

 

AIKA LP:800

 

「ガイアペライオ! レラ……!」

 

シリアルキラーから放たれた光輪がガイアペライオを斬り裂いた。そして逢歌自身にも放たれたソレを、霊獣使いの少女が己の身を使って受け止めた。

 

「これで終わりだぁ! シリアルキラーで直接攻撃! ジェノサイド・ガトリング・バースト!」

「終わらせ……ない! まだボクは、終われないんだ!」

 

必死に、今まで止まっていた時を取り戻す為に逢歌は跳んだ。

縋るようなその跳躍は、確かに未来を掴んだ。

 

「アクションマジック、回避! モンスター一体の攻撃を無効にする!」

「ちっ……カードを一枚伏せて、ターンエンド……お望み通りだぜ、少しは分かったか。オレたちの怒りが……!」

「……ああ。伝わったよ、‟僕”にも、逢歌にも」

 

……逢歌は舞歌の怒りを受け止めた。なら、僕は……!

 

「君の怒りも、憎悪も当然のものだ。でも……! 逢歌は受け止めた! その身で、心を引き裂かれそうになりながら、必死に! 逃げ出さずに! だから次は僕の番だ! 君のその怒りを、僕は否定する!」

 

そんな資格なんて僕にはないのかもしれない。でも、言わせてもらう。

 

「そのカードは、その力は、そんな事に使わせる為にあの子が託したものじゃない! 君もあの子から聞いたはずだ……! それを使うデュエリストの事を! 僕の知る彼は、大切な仲間を取り戻す為にその力を使った……! 運命を壊す為に! 憎悪でじゃない、友情と絆を取り戻す為の力として!」

「ッ……! うるさい……! テメェに何が分かる! アカデミアでも、ハートランドの人間でもない……いいや! この世界の人間ですらないテメェに! テメェには関係のない話だろうが……! なのになんで、まだ逢歌と一緒に居るんだよ!?」

「……あの子が君と一緒に居るのと、同じ理由なんだろうね、今は多分」

 

逢歌に僕の言葉は届いていた。希望を見せる事が出来た。だから今は……放っておけないから。知ってしまったから。この世界に生きる人たちの事を。

だから君も、大人しく帰らずに舞歌を助けにいったんだろう? ま、もしかしたら沢渡くんへの想いとか未練とかがそうさせてしまったのかもしれないけどね、君の事だから。

 

「……力を貸して、みんな……! 僕のターン、ドロー!」

 

僕は進む。みんなとの思い出を、新しい思い出を繋ぐ為に……!

逢歌は前へと進む力を取り戻した。だから、此処からは……!

 

視界の端、宙へと浮かぶアクションカード。あれが、僕の新しい道を示す一枚。

これは、僕の新しい道へと進む為の――飛翔。

 

「ッ――!」

 

D・ホイールの車体を蹴り、それを目指して手を伸ばす。借り物だけれど、自分の意思で、手を伸ばす。

 

「――アクションマジック、ニューステージ!」

 

これが僕の、新しい一歩だ。

 

「このカードはアクションフィールドを破壊し、僕のデッキから新たなフィールド魔法を発動させる!」

「何だと……?」

「僕が発動するのはフィールド魔法――マドルチェ・シャトー!」

 

アクションフィールド:クロスオーバー・アクセル → マドルチェ・シャトー

 

『な、何という事でしょう! デュエルパレスのサーキットがファンシーなお菓子の国に!?』

 

「お菓子の国だけど、そうじゃない。これは僕たちが希望を抱いた――御伽の国。かつてあの病室で夢見た、御伽の世界。いくよ、舞歌! 僕はマドルチェ・ミィルフィーヤを召喚! マドルチェ・シャトーの効果でフィールドのマドルチェたちの攻撃力、守備力は500ポイントアップ!」

 

マドルチェ・ミィルフィーヤ

レベル3

攻撃力 500 → 1000

 

「ミィルフィーヤの効果で手札からマドルチェ・ホーットケーキを特殊召喚!」

 

マドルチェ・ホーットケーキ

レベル3

攻撃力 1500 → 2000

 

「さらにホーットケーキの効果で墓地のガイアペライオを除外し、デッキからマドルチェを特殊召喚する!」

 

お願い。ホーットケーキ、霊獣たち。もう一度僕の下に、あの子たちを導いて。

 

「おいで、シューバリエ」

 

マドルチェ・シューバリエ

レベル4

攻撃力 1700 → 2200

 

「僕はレベル3のミィルフィーヤとホーットケーキでオーバーレイ! エクシーズ召喚!」

「エクシーズ召喚だと……!?」

「来て、M.X―セイバー インヴォーカー!」

 

M.X―セイバー インヴォーカー

ランク3

攻撃力 1600

ORU 2

 

「インヴォーカーの効果発動、オーバーレイユニットを一つ使い、デッキからマドルチェ・メッセンジェラートを守備表示で特殊召喚する!」

 

M.X―セイバー インヴォーカー

ORU 2 → 1

 

マドルチェ・メッセンジェラート

レベル4

守備力 1000 → 1500

 

僕たちの夢見た御伽の国に、住人たちが集っていく。そうだ、僕はずっと憧れていた。

こうして君たちと一緒に戦いたかった。あの子のように、君たちと肩を並べて。

 

「……いくよ! 僕はレベル4のシューバリエとメッセンジェラートでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」

「っ、また……!」

「人形たちを総べるお菓子の女王、御伽の国をこの場に築け! エクシーズ召喚! おいで、クイーンマドルチェ・ティアラミス!」

 

クイーンマドルチェ・ティアラミス

ランク4

攻撃力 2200 → 2700

ORU 2

 

「なんでだ!? どうしてアカデミアの逢歌のデッキにエクシーズが……!」

「僕は逢歌じゃない。僕は僕だ……! この子たちは僕がみんなから受け取った、思い出の証! いくよ、ティアラミス!」

 

お菓子の女王は微笑む。霊獣使いの少女のように、そして、あの子に向けたものと同じ笑顔を。

 

「オーバーレイユニットを一つ使い、墓地のマドルチェを二枚まで手札に戻し、それと同じ枚数だけ相手フィールドのカードをデッキへと戻す! 女王の号令(クイーンズ・コール)!」

 

クイーンマドルチェ・ティアラミス

ORU 2 → 1

 

「眠ってて。もう一度、今度こそ運命の糸を断ち切るその時まで! シリアルキラーと伏せカードを選択!」

「シリアルキラー……っ!」

「……舞歌」

 

悲痛そうな表情で舞歌は光となって消えるシリアルキラーを見上げた。……ティアラミスと目が会うと、彼女は全てを汲み、頷いた。

……舞歌、そして逢歌。

 

「――いくよ! 僕はティアラミスでオーバーレイネットワークを再構築!」

 

これが今、僕に見せる事の出来る未来への希望。新たな一歩を踏み出す勇気。

あの子が僕に見せてくれた、答えを探す為の力。

 

「人形たちと踊るお菓子の姫君。漆黒の衣装身に纏い、光で着飾れ! この御伽の舞台の幕上げを――! エクシーズ・チェンジ! おいで、マドルチェ・プディンセス・ショコ・ア・ラ・モード!」

 

マドルチェ・プディンセス・ショコ・ア・ラ・モード

ランク5

攻撃力 2500 → 3000

ORU 2

 

お菓子の女王と入れ替わり、舞台へと上がるのは黒の姫君。

 

「……プディンセス。僕に力を貸して」

 

プディンセスは頷いてくれた。彼女たちを裏切り続けた僕を、もう一度信じてくれた。

 

お願い、プディンセス。この憎悪と悲しみに彩られた舞台に、幕を……!

 

「マドルチェ・プディンセス・ショコ・ア・ラ・モードで直接攻撃……! 憎悪を、悲しみの声をかき消して――! 鳴り響け、スイーツ・アンサンブル!」

「ッ――!?」

 

MAIKA LP:0

WIN AIKA

 

『決まったァ! 逢歌と舞歌、姉妹対決を制したのは融合とエクシーズを華麗に使いこなした逢歌! やっぱり可愛い方が勝つのよね、うん!』

 

 

 

「……ありがとう、プディンセス」

 

ライフを失い、タイヤがロックされ暴走するD・ホイールから、プディンセスは舞歌を抱き抱え、静かに御伽の国の大地へと下ろした。その瞬間、ソリッドビジョンが解除され、周囲の景色が戻っていく。

 

「舞歌……」

「……分からねえ、分からねえよ! あの子はオレにカードを託してくれた! それを使ってランサーズの力になれって……アカデミアを倒せって、私に!」

「それは違う。あの子はきっと、そんな事は言わない。……酷な話だと思う、簡単な事じゃないと思う……でも、君に取り戻して欲しかったんじゃないかな。君が失ってしまったものを」

 

……そしてそれは、逢歌もまだ取り戻せてはいない。

次元戦争なんていうものに巻き込まれて、ランサーズとして戦わなくちゃいけない今、それを取り戻す事は難しいのかもしれない。

でも出来るはずだ。あの子が詠歌に取り戻させたように、舞歌にも、逢歌にもきっと。

 

「失ったもの……?」

 

僕や‟彼女”があの病室で教わったもの、その根底はこの世界でもきっと変わらないはずだ。

デュエルは……とても楽しいものだって。色々な人と繋がれる、僕たちを繋いでくれた、大切な遊び。

 

「それは君たち自身で取り戻すしかないんだ。それを取り戻すその時まで、僕や詠歌が示し続けるから……」

「取り、戻す……」

 

虚ろな表情で呟く舞歌に、大会の運営委員であろう二人の男が近づき、肩に手を伸ばす。

 

「……待てよ、女の子に汚い手で触るな」

 

その手を掴み、男たちを睨みつける。……今舞歌を連れ出しても、逃げ切る事は出来ない。今はシンクロ次元のルールに従うしかない。

 

「……分かってる。負けたら地下、だったな」

 

舞歌は静かに立ち上がり、男たちに言った。

 

「舞歌……」

「……分からねえよ。でも、分かってた……あの子がそんな事を頼むような奴じゃない、って……分かってたさ」

 

そうとだけ呟き、舞歌はサーキットから姿を消した。今、僕に出来るのは此処までだ。

……いや、もう一つだけあった。

 

「観客の皆さま、楽しんでもらえたかな?」

 

『面白かったぞォ!』『姉妹でも容赦ねえなあ嬢ちゃん!』『次も楽しみにしてるぜ!』『逢歌ちゃーん!』

 

「それは良かった。……でも覚えておくといい、こんな事を続けていたら、君たちに待っている未来には破滅しかないって事を」

 

この次元の未来を変えるには、僕たちランサーズの力じゃない。この次元の人たちの心が変わらなければ、アカデミアを倒してもきっと未来は変わらない。

 

僕の冷たい言葉に静まり返った会場。言いたい事を言ってほんの少しだけ晴れた気持ちで、僕は去った。

詠歌、彩歌、舞歌。たとえこの大会がどんな結末になっても、もう一度会おう。みんな笑顔で。

そして彩歌、僕たちもいつかは去ろう。笑顔で、新たな始まりに向かって。




今回でとりあえず書きたかった事は書けましたので、終了です。
前回から話が飛んでいますが、本当に好き勝手書いただけの話でした。
後残ってるとしたら彩歌対詠歌ですが……とりあえずここまでで。

今回ついに登場させてしまったオリカですが、これくらいは本編でもあっていいんじゃないかなあ……先攻ドロー廃止と一緒にフィールド魔法も改定されたわけですし、もっとアニメでも光が当たってもいいじゃないか。

さて、今後アニメが進んでまた妄想が膨らんだらひっそりと更新するかもしれませんが、此処まで読んでいただきありがとうございました!



マドルチェとシャドールの新規&禁止解除で、みんなに笑顔を……


デュエルもいいけど、もし本編で沢渡さんとセレナの関係に何かあれば……妄想がたぎりますね。

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