沢渡さんの取り巻き+1   作:うた野

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シンクロ次元で妄想が捗ったので特別編を前後編で投稿。なおやっぱり続編は無理だと確信する。


シンクロ次元特別篇
4人の歌


シンクロ次元。

ランサーズがスタンダードと呼ばれる次元からこの地に降り立った。

とある者はシティで大道芸を、とある者は地下デュエル場で力を振るい、とある者はシティのトップと接触し、またある者はシティの片隅に身を隠していた。

散り散りになったランサーズは再会出来ぬまま、それでも彼女たちは自らの目的の為に戦っていた。

 

「ユーゴが指名手配って……どういう事だよ、先生!?」

「落ち着きなよ、彩歌。どういう事情かは分からないけど、まだ彼は無事なんだろう?」

 

高層ビルが立ち並ぶトップスの下層、コモンズたちの住居。両親を亡くしたコモンズたちが身を寄せ合う孤児院に二人の少女は居た。白のライダースジャケットを身に纏う少女と赤い制服に身を包む少女。服装はまるで違っていたが、その顔はまるで鏡写しのように瓜二つだった。

 

「これが落ち着いていられるか! リンは!? リンはどうしてるんだ!? あの子が居て、どうしてそんな事に……!」

「……彩歌さん、落ち着いて聞いてくれる?」

 

彩歌と呼ばれた少女が育った孤児院で、先生と呼ばれた女性が悲痛そうな顔をして口を開いた。

 

「リンさんは……行方不明なの。あなたがセキュリティに連れて行かれて、暫くしてから……今までずっと」

「行方、不明……? リンが……?」

「……」

 

信じられないという表情で呟く彩歌、そしてその隣で悲痛そうな表情でもう一人の少女、逢歌は沈黙していた。

 

「ユーゴくんの話では、誰かに攫われたって……」

「リンが……攫われた……糞っ、あたしが居ない間にそんな事に……!」

 

焦りと怒り、様々な感情に襲われながら、彩歌は拳を壁に打ち付けた。

 

「……ユーゴくんは昨日、トップスの居住区に不法侵入した罪とトップスの人間に危害を加えた罪で指名手配されているわ。追ってきたセキュリティとデュエルをして、その後どうなったかは分からない。でも彼女の言う通り、きっと無事のはずよ。それに近所の人が教えてくれたのっ、リンさんもユーゴくんと一緒だったって……!」

「……分かった。ありがとう、先生」

「あなたも大変だったでしょう? まずはシャワーを浴びて、ゆっくり休むといいわ」

「うん……あ、でもその前にちょっとこの子と話があるからさ。……本当、ありがとね」

 

笑顔を取り戻し、先生に礼を言うと彩歌は逢歌の手を引いた。

 

「あ、彩歌さん! その子は一体……」

「後で説明するー!」

 

強引に逢歌を連れ、彩歌は外へと飛び出す。

 

「……はぁ」

 

溜め息を零し、彩歌は孤児院の裏で背中を壁に預けた。

 

「……今の話を聞いて、いくつか分かった事がある。聞くかい?」

「ん……話して」

 

彩歌を気遣いながらも、逢歌は自らの知る情報と照らし合わせた結果、導き出された答えを告げる。

 

「攫われたっていうリンって子は、多分アカデミアに居る」

「アカデミアって……あんたの」

「そう。あの収容所から逃げ出した時に話したよね。僕は別の次元、スタンダードから来た。けれど元々の所属はアカデミア、融合次元にあるデュエル戦士養成所だ。つまり、リンを攫ったのは僕の居た組織って事」

「……あのさ」

「何だい。責めるなら責めてもいいよ」

「あたし、あんたのそういう悪ぶった所は好きになれないわ。あたしは確かに直情的だけど、そこまで馬鹿じゃない。だから代わりに責められようとか、そんな気遣いはいらないよ」

 

僅かに逢歌が目を見開く。見抜かれていた事に驚いたのだろう。だがすぐに微笑みを浮かべた。

 

「そう。余計なお世話だったみたいだね」

「まったくだ。続きをお願い」

「アカデミアはこのシンクロ次元のリンだけじゃなく、スタンダードの柚子、融合次元のセレナお嬢様、それにエクシーズ次元の瑠璃っていうリンと同じ顔をした少女たちを集めている。理由は分からないけど、それは間違いないはずだ。そしてスタンダードの柚子はユーゴくんと一緒に居る。さっきの先生が言っていたユーゴくんと一緒に居たリンは、柚子だ」

「……融合、シンクロ、エクシーズ……それにスタンダード……? 召喚方法で分かれてるって事?」

「ああ。スタンダードでは僅かにだけど融合、シンクロ、エクシーズを扱うデュエリストが居る。そしてもう一つ、ペンデュラムっていう新しい召喚方法も」

 

彩歌の反応にもう一つ、逢歌は確信する。

 

「融合とエクシーズを知っているって事は、君も覚えているんだね」

「……」

 

彩歌もまた自分や、‟彼女”と同じなのだと。

彩歌は無言で一枚のカードを取りだした。

 

「……覚えてるよ。忘れるなんて出来ない。あたしに勇気をくれた人たちの事、あたしに笑顔をくれた人たちの事、あたしにデュエルを教えてくれた人たちの事は……ずっと、ずっと覚えてる」

 

シンクロ次元には存在しないはずの、黒いカード。そこに描かれたお菓子の女王を彩歌は胸に抱いた。

 

「改めて聞くよ、あんたは一体何者なの?」

「……僕は逢歌。ランサーズの逢歌。今は、そうとしか答えられない。僕もまだ、答えを探している途中だから」

「……そっか」

「君は冷静なんだね。スタンダードに居た、僕たちと同じ立場のあの子は、取り乱して、悩んで苦しんでいたのに」

 

逢歌の頭に過ぎるのは今はもう、名前を呼ぶことも出来ない少女の事。姉のような、妹のような、大切な友人の事。

 

「……彩歌はさ、あたしにこの体を貸してくれてるこの子はさ、病気だったんだ。見て来た通り、この街はトップスとコモンズに分かれて、コモンズは毎日の生活も安心して送れないような人たちがいる。彩歌もそうだった。この孤児院にたどり着いた時にはもう体を壊して、自分でも長くないって分かってた。それでもこの孤児院での生活は暖かくて、幸せで……だからだろうね。自分が病気だって知られたら、他の子の幸せまで奪っちゃうって思って、それで無茶してわざとセキュリティに捕まったんだ」

 

少女が語り始める、彩歌という少女の人生。彩歌もまた、過酷な人生だった。逢歌や――詠歌と同じように。

 

「あたしが彩歌と出会ったのは捕まった先の収容所だった。ボロボロで、今にも死んじゃいそうな彩歌の中に、あたしがやって来た。あたしも彩歌も最初は混乱したよ。でもお互いの事を話して、彩歌はすぐにあたしに言った。もしも生きられるなら、自分の体を使ってあたしに生きて、ってさ」

「……」

「そう言ってすぐ、彩歌は眠った。今もまだ、あたしの中で眠ってる。不思議なもんでさ、あたしが彩歌に体を貰った途端、病気なんてウソみたいになくなったよ」

「……僕やスタンダードのあの子もそうだった。元々の体の持ち主の命が消えるのと同時にその体を奪って、今も僕は生きてる」

「……あたしは彩歌が目覚めるまで、あの子の分まで生きる。あの子が目覚めた時、もうあんな不幸な道を歩ませない為に。少しでもこのシティが彩歌たちに優しい世界になるようにする為に」

「――君は強いね。僕もあの子も、一人じゃそんな答えは出せなかった」

「彩歌がくれたんだよ、あたしのこの強さも。あたしだって、本当にあたし一人だったならきっと悩んで苦しんで、どうしようもなかったんだと思う」

 

微笑む彩歌は逢歌には眩しく映った。逢歌は――本当の逢歌は、まだ何も言ってはくれないから。けれどそれで立ち止まったりはしない。迷いながらでも進む力は、彼女にもあるから。

 

「さて、と。それじゃ行きますか」

「そうだね。これ以上此処に居て、迷惑は掛けられない。きっと君の中の彩歌もそれを望んではいない」

「そういう事。逃げてるユーゴと違って、あたしは一度は捕まった身だからね。此処に住んでた事もバレてる。それに落ち着いて考えてみれば、捕まらなきゃユーゴと再会する方法はあったし」

「? どうやって?」

「ユーゴとリンと、彩歌の夢で、約束だったんだよ。もうすぐ行われるフレンドシップカップに出場して、優勝するのがね。たとえリンと彩歌がいなくなっても、ユーゴはその約束を破るような奴じゃないから」

「成程ね。確かに、彼はそういう人なんだと思うよ」

 

短い間だったが、ユーゴと行動を共にしていた逢歌には分かる。ユーゴという男は一途で、とても優しい人だと。

 

「とりあえずは大会が始まるまでセキュリティから逃げて、始まり次第会場に乗り込む。まずはユーゴと再会しなくちゃね」

「……ところで彩歌」

「何さ?」

「君……ああいや、君たちってもしかしてユーゴくんの事を……」

 

言いづらそうに逢歌が言葉を濁して尋ねる。僅かに頬を赤らめながら。

 

「いや、それはない。あたしも彩歌も、それは、ない」

 

逢歌の曖昧な問いかけを彩歌はばっさりと切り捨てた。

 

「あたしも彩歌の記憶を教えてもらって、ユーゴの事も彩歌の事も良く知ってるけど、それはないなぁ……。良い友達だとは思うけど……それにリンが居るしねえ」

「ユーゴくんがユーゴくんなら、リンもリンってわけ」

「見てる分には楽しいけどね、あの二人は」

 

くすくすと彩歌は楽しそうに笑う。どうやら彼女は逢歌の知る‟彼女”のようにアレではないようで少し安心する。

 

「それで、あんたはどうするのさ。あたしと同じ顔をしている以上、セキュリティに追われる立場になるけど」

「二手に分かれてセキュリティを引き付けてもいいんだけど、生憎シンクロ次元に来たばかりで右も左も分からなくてね。一緒に来たランサーズの仲間も探さないといけないし……迷惑じゃなければ君と一緒に行こうと思うんだけど、いいかい?」

「ん、なら決まりだね。まだまだ積もる話もあるし、いいよ」

「ありがとう。僕も話したい事はまだまだあるよ。……次元を越えた先で、あの子たちを知る君に会えてよかった」

 

思い出は、この次元でもまだ繋がっている。そしてこれからも、もっともっと大きく、その繋がりを広げていく。それが嬉しくて、逢歌もまた笑った。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「これからどうするつもりですか、榊さん」

「まずはクロウを待とう。柚子がこの次元に居るのは間違いないんだ。もし焦ってセキュリティに捕まったら、会う事も出来なくなる。……今は待とう」

「そうですね。わたしも賛成です」

 

……少し安心した。思いのほか、彼は冷静でいてくれているようだ。それは多分、まだ幼い零羅くんが居るからというのもあるのでしょうが。

部屋の隅で怯えたように膝を抱える彼、赤馬零羅。

……別の世界からやってきた‟彼女”はそういうものだと自然に受け入れていましたが、いずれ来るアカデミアとの対決、それに彼のような幼い少年を引っ張り出すのは、普通では考えられない。この状況が異常で、わたしたちもまだジュニアユースクラスの子供だという事は分かっている。ましてやわたしの時間はほんの少し前まで止まっていた。そんな事を言うのもおかしな話だとは分かっていますが。

 

「随分と弱気じゃねえか、遊矢」

「沢渡……」

「何の考えもなしに動いて、またセキュリティにワンキルされたいんですか、あなたは」

「んぐっ、んだと!?」

 

次元を越えても相変わらずの彼の姿に溜め息と、僅かな安心感が毀れるがそれを口にすることはしない。

 

「ま、まあまあ二人とも落ち着けって……シンクロ次元に来てまで喧嘩してもしょうがないだろっ? これから力を合わせなきゃいけないって時なんだからっ」

「榊さんの言う通りです。和を乱すような言動は慎んでください。わたしは‟彼女”程、あなたに甘くするつもりはありませんから」

「はっ、誰がそんな事期待するかよっ。あの時負けたのは偶然だ。ランサーズに選ばれた、LDS最強のこの俺がそう何度もやられるかよ。アカデミアの連中だろうとセキュリティだろうと次は完膚なきまでに叩きのめしてやるよ」

「……同じLDSの‟彼女”にはあの夜、叩きのめされたようですけどね」

 

今となっては彼、沢渡シンゴとわたししか知らないあの夜のデュエル。‟彼女”のあの世界での最後のデュエル。わたしが唯一の観客だった、あのデュエル。

……もっとも、彼は負けはしたが、その実力を疑うつもりはない。言葉には決してしない。だけど、彼の姿に力を貰ったのはわたしも同じだから。

 

「ふん、次はまたこの俺が勝つ。それだけだ」

 

偉そうにふんぞり返り、彼は椅子に腰掛けた。

 

「とにかくまずはあのクロウという男を待つ。それは賛成だ。……だが、もし進展がないようならば私は動く」

「セレナ……」

 

……やれやれ。本当に大丈夫なんでしょうか。ランサーズは……。

いつか帰って来る、‟彼女”はそう言った。彼女が帰って来る頃には全て終わらせて、もう一度わたしもデュエルを。そう決めてわたしはもう一度自らの意思でデッキを手に取った。

だけどこの調子で大丈夫なんでしょうか……これは不安、というよりは不満ですが。まったく、‟彼女”や逢歌は良くこんな彼らを抑えていたものだと感心してしまう。

 

「ねえねえ、お姉ちゃんたちの話を聞かせてよ! お姉ちゃんたちもみんなデュエリストなんでしょ!?」

「……そうですね。ではわたしの知っている、生意気で、自分勝手で――けれどとっても強いデュエリストの話をしましょうか」

 

わたしたちを助けてくれたクロウという青年が世話をしている三人の子供たちにせがまれ、わたしは口を開いた。

わたしの目標で、最大のライバルと言える、とあるデュエリストの話をしようと。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

――ランサーズとは別にもう一人、とある少女が彼らに遅れてこの地へと降り立った。

ボロボロのマントを身に纏う、一人の少女。暗い路地から空を、そびえ立つビル群を見上げた。

 

「……此処がシンクロ次元、か」

 

大仰な素振りで手を広げ。少女は一人呟く。

 

「オレの知る空とは違う、オレの知る街とは違う。だが、オレが最期に見た景色よりは美しい。この景色もまた、オレの故郷のように戦乱に巻き込まれるというのなら、見過ごせねえよな」

 

誰に向けた言葉なのか、それを知るのは彼女ただ一人。だが路地裏とはいえ、ボロボロのマントという怪しげな風貌と怪しげな言動はセキュリティによって管理されたこの世界では目をつけられるには十分だった。

 

「おい貴様ッ、其処で何をしている!」

 

一夜にして三人もの犯罪者が野放しとなった今のシティには平時以上にセキュリティが動員され、警戒態勢にあった。案の定、少女は一人のセキュリティ、それもD・ホイールを操るエリート、デュエルチェイサーに目をつけられる。

 

「……やれやれ、無粋な奴だ」

「怪しい奴め……おい、そのフードを取れ!」

「ふぅ……」

 

溜め息交じりに、しかし少女は大人しくフードを下ろした。その下、少女の顔が初めてシンクロ次元の太陽の下に晒される。

 

「その顔……手配書の女か!」

「え、手配書? ……ごほんっ、誰の事を言っているのは知らねえが、オレはたった今ここに来たばかり。勘違いだ、他を当たれ」

「とぼけるな! 大人しく神妙にしろ! 抵抗するなら――」

 

デュエルチェイサーはD・ホイールにセットされていたデュエルディスクを取り外し、腕へと装着する。

 

「貴様をデュエルで拘束する!」

「凄い台詞ですねえ……私がおかしいわけじゃないっすよね……? って、ごほんっごほんっ! ふん、面白え。オレにデュエルで挑もうってのか。真の力を得たこのオレに」

「抵抗する気のようだな……ならば脱走囚、彩歌! 貴様を確保する!」

「いいや、違うな。オレは彩歌なんて名前じゃない」

 

マントに手をかけ、それを脱ぎ捨てる。その下に隠されていたのはやはり汚れ、所々が擦り切れた服だった。何処か制服のようにも見えるが、その面影はほとんど残っていない。

 

「オレの名は――舞歌(まいか)! いいぜ、オレの力を試す良い機会だ! 相手をしてやるぜ!」

 

やはり仰々しく、偉そうに舞歌と名乗った少女はデュエルディスクを構えた。このシンクロ次元には存在しない――黒咲隼と同じタイプのデュエルディスクを。

 

「デュエル!」「デュエル!」

 

MAIKA VS DC 077

 

「俺の先攻! 俺は手札からジュッテ・ロードを召喚!」

 

ジュッテ・ロード

レベル4

攻撃力 1600

 

「さらにジュッテ・ロードの効果により手札からチューナーモンスター、ジュッテ・ナイトを特殊召喚!」

 

ジュッテ・ナイト

レベル2 チューナー

攻撃力 700

 

「チューナーモンスター……」

「レベル4のジュッテ・ロードにレベル2のジュッテ・ナイトをチューニング! 出でよ、切り捨て御免の狩人! シンクロ召喚! 来い、レベル6! ゴヨウ・プレデター!」

 

ゴヨウ・プレデター

レベル6

攻撃力 2400

 

「俺はカードを一枚セットし、ターンエンド!」

「これがシンクロ召喚……っ、面白い! オレのターン! ドロー!」

 

相対するデュエルチェイサー077にも気づかれないほどの一瞬だったが、舞歌の表情に怯えが混じった。それを笑みで塗り消し、少女は己の信じるデッキに手を掛ける。

 

「――オレはギミック・パペット―ハンプティ・ダンプティを召喚! さらにハンプティ・ダンプティの効果発動! このカードの召喚、特殊召喚に成功した時、手札のギミック・パペット一体を特殊召喚出来る! 来い、ギミック・パペット―ボム・エッグ!」

 

ギミック・パペット―ハンプティ・ダンプティ

レベル4

攻撃力 0

 

ギミック・パペット―ボム・エッグ

レベル4

攻撃力 1600

 

舞歌が召喚したのはその名の通り、人形の姿をしたモンスターだった。だが、その姿は決して可愛らしいものではない。その逆、不気味な雰囲気を纏う、邪悪な人形。

 

「ふん、俺と同じように二体モンスターを召喚しても、チューナーでなければただの壁でしかない! しかも一体は攻撃力0だと? コモンズには似合いのカードだな!」

「ボム・エッグの効果発動! 一ターンに一度、手札のギミック・パペット一枚を墓地に送り、相手に800ポイントのダメージを与える! オレは手札のギミック・パペット―ネクロ・ドールを墓地に送る!」

 

不気味な笑みで踊りながら、ボム・エッグは破裂し、デュエルチェイサーへとダメージを与えた。

 

「くっ……! 小癪な真似を!」

 

DC 077 LP:3200

 

「オレはレベル4のギミック・パペット―ハンプティ・ダンプティとボム・エッグでオーバーレイ!」

 

ジュッテ・ナイトが光の輪へと姿を変えたように、二体の人形もその身を光の球へと姿を変え、暗闇の渦の中へと飲み込まれた。

 

「な、何だ!?」

「エクシーズ召喚! 出でよ、ランク4! 暗遷士 カンゴルゴーム!」

 

暗遷士 カンゴルゴーム

ランク4

攻撃力 2450

ORU 2

 

「エクシーズ、召喚……!? 何だそれは!? くっ、だがたとえどんなモンスターを呼び出そうと、犯罪者に勝利などない!」

「人を見下し、悪だと決めつけるような奴にこそ、勝利は訪れる事はねえ! バトル! カンゴルゴームでゴヨウ・プレデターを攻撃!」

「ぐぅ……!」

 

DC 077 LP:3150

 

「オレはこれでターンエンド。お前の力はこんなもんかよ?」

「ほざくな……! 俺のターン、ドロー! 俺は奴のような、227のような愚は決して冒さない! 全力で叩き潰す! 俺は切り込み隊長を召喚し、モンスター効果を発動! 手札のレベル4以下のモンスター一体を特殊召喚する! 来い、ダーク・リペアラー!」

 

切り込み隊長

レベル3

攻撃力 1200

 

ダーク・リペアラー

レベル2 チューナー

攻撃力 1000

 

「レベル3の切り込み隊長にレベル2のダーク・リペアラーをチューニング! シンクロ召喚! 現れろ、レベル5! ヘル・ツイン・コップ!」

 

ヘル・ツイン・コップ

レベル5

攻撃力 2200

 

「またシンクロ召喚……だがさっきよりレベルも攻撃力も低い、それじゃあカンゴルゴームには届かねえ!」

「まだだ! 手札から装備魔法、執念の剣をヘル・ツイン・コップに装備! このカードを装備したモンスターの攻撃力、守備力は500ポイントアップする!」

 

ヘル・ツイン・コップ

攻撃力 2200 → 2700

 

自らの手札を全て使い、デュエルチェイサーは舞歌のモンスターの攻撃力を上回るモンスターを生み出した。トップスへの、勝ち組である事のへの執念が成したものだった。

 

「っ……!」

「いけッ、ヘル・ツイン・コップ! カンゴルゴームを攻撃!」

 

MAIKA LP:3750

 

「ほんの僅かにライフを削っただけ、この程度では痛くも痒くもねえな!」

「はっ、此処からだ! ヘル・ツイン・コップの効果発動! バトルで相手モンスターを破壊し、墓地へ送った時、攻撃力を800ポイントアップしてもう一度攻撃が出来る!」

「ッ……!?」

 

ヘル・ツイン・コップ

攻撃力 2700 → 3500

 

「くらえ! ヘル・ツイン・コップで直接攻撃!」

「きゃああ!?」

 

MAIKA LP:250

 

尊大な口調ではなく、少女は見た目通りのか弱い悲鳴を上げた。

 

「見たか! これがトップスの、俺の力だ!」

「……っ、少しは出来るみてえだな」

「ふん、バトルフェイズ終了と共にヘル・ツイン・コップの攻撃力は元に戻る。俺はこれでターンエンドだ!」

 

ヘル・ツイン・コップ

攻撃力 3500 → 2700

 

「……オレのターン、ドロー……」

「はははっ、最初の威勢はどうした? 震えているじゃないか?」

 

デュエルチェイサーの言葉の通り、カードをドローした舞歌の手は微かに震えていた。

 

「……そうっすね。やっぱり‟今まで”の私はまだまだだったみたいです」

「何だと……?」

 

俯き、震える声で舞歌は言う。だがそこに絶望はない。

 

「だから私は逃げる事も、立ち向かう事も出来ずに囚われてたんすよ……でも、今はもう違う。私を助けてくれたあの子の為にも、私なんかを信じてくれたあの子の為にも……オレは負けられねえ! だからッ、使わせてもらうぞ!」

 

確固たる意志を持ち、力強く叫び、舞歌は顔を上げた。俯いたままではもう、いない。前を見て、上を見て、進んでいく。ただ一つの約束を果たす為に。

 

「オレは墓地のギミック・パペット―ネクロ・ドールの効果発動! ネクロ・ドール以外の墓地のギミック・パペットを除外し、このカードを特殊召喚する! ハンプティ・ダンプティを除外し、特殊召喚!」

 

ギミック・パペット―ネクロ・ドール

レベル8

攻撃力 0

 

「レベル8で攻撃力0だと……?」

「さらにギミック・パペット―ギア・チェンジャーを通常召喚!」

 

ギミック・パペット―ギア・チェンジャー

レベル1

攻撃力 100

 

「またそんな攻撃力のモンスターを並べて何になる! さっきのエクシーズ召喚とやらをしたところで、何度でも叩きのめすだけだ!」

「ふっ……残念だがエクシーズ召喚には同じレベルのモンスターが二体以上必要でな。このままじゃどうする事も出来ねえ……だから、ギア・アップだ。ギア・チェンジャー!」

 

ギミック・パペット―ギア・チェンジャー

レベル1 → レベル8

 

「何!?」

「ギア・チェンジャーは一ターンに一度だけ、自らのレベルフィールドの他のギミック・パペットと同じにする事ができる。……これで、準備は整った」

「ちっ……!」

「オレはレベル8となったギア・チェンジャーとネクロ・ドールでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

先程のエクシーズ召喚よりもさらに眩い光が周囲に満ちる。暗く、けれど暖かな光。

 

「現れろ――No.40! 運命を操る人形、ギミック・パペット―ヘブンズ・ストリングス!」

 

ギミック・パペット―ヘブンズ・ストリングス

ランク8

攻撃力 3000

ORU 2

 

「攻撃力、3000……!」

「いくぜ、バトルだ! ヘブンズ・ストリングスでヘル・ツイン・コップを攻撃! ヘブンズ・ブレード!」

 

DC 077 LP:2850

 

「ッ、罠カード、オープン! 時の機械―タイム・マシーン! バトルで破壊されたモンスターを持ち主のフィールドに特殊召喚する! 甦れ、ヘル・ツイン・コップ! さらに破壊され墓地へ送られた執念の剣の効果発動! このカードをデッキの一番上へと戻す!」

「はっ、モンスターを甦らせたのはいいが、その装備魔法の効果は邪魔だったみたいだな。次のターンでの望みも絶たれたってわけだ」

「まだだ……! 後一ターン、次のターンさえ乗り切れば勝利は必ず俺の手に……!」

「ああ?」

「俺はトップスだ、選ばれた、勝ち組なんだ! この俺が貴様なんぞに負けるはずがない!」

 

デュエルチェイサーの言葉はハッタリではなかった。……本気で彼は、自分が負けるはずはないと、そう信じていた。

 

「……めでてぇ野郎だ。自分に限って、なんて考え方が出来るんだからな。……私たちもそうだったよ。まさかこんな事あるはずがない、平和なあの世界ではそう思ってた……だけどな、そんな事じゃ駄目なんだ。まさか、とか、なんで、なんて考えるばかりじゃなく、立ち向かわなきゃいけなかったんだ。何が出来たかは分からねえ、だけど、それでも……! オレは立ち向かうべきだったんだ!」

 

自分自身に言い聞かせるように舞歌は叫んだ。後悔の叫び、嘆きの言葉。たとえ魂があの牢獄から解放されても、その気持ちから解放される事はない。

 

「だからお前にも見せてやるよ。今ならまだ遅くねえ。オレたちみてぇにいつか奴らの侵略を受けた時、後悔し続けない為に――お前にあるその僅かな希望を、今、オレが奪ってやる!」

「な、何を……」

「ヘブンズ・ストリングスの効果発動! オーバーレイユニットを一つ使い、このカード以外のフィールドの表側表示のモンスター全てにストリングカウンターを一つ置く。そして次のお前のターン終了と同時にストリングカウンターの乗ったモンスター全てを破壊し、破壊したモンスター一体につき500ポイントのダメージを与える!」

 

ギミック・パペット―ヘブンズ・ストリングス

ORU 2 → 1

 

「なっ……い、いやまだだ! たとえモンスターを破壊されても、俺が負けるはずがない! きっと、まだ俺は……!」

「いいや、お前は負ける。それもこのターンでな」

「何だと!?」

「オレは手札から――」

 

舞歌が一枚のカードを手にした時、空に雷鳴が轟いた。

 

「漆黒の翼翻し、雷鳴と共に奔れ、電光の斬撃!――シンクロ召喚!」

 

エンジン音と共に近づく、漆黒の翼。

 

「降り注げ! A BF(アサルト ブラックフェザー)―驟雨のライキリ!」

 

「何……!?」

「何だッ!?」

 

舞歌とデュエルチェイサーは驚きの声を上げる。何が起こったのかを理解する前に舞歌は突如現れたD・ホイーラーに手を掴まれ、強引に連れ去られる。

 

「ッ、何をしやがる!?」

「お前馬鹿か!? 待ってろって言っただろうが!?」

 

デュエルチェイサーが瞬く間に点になっていく。それを見ながらも舞歌が怒りの声を上げるが、D・ホイールを操る青年もまた怒りの声を上げた。

 

「ああ!? 一体何の話だ!」

「俺の話を聞いてなかったのかよ、お前は!」

「はあ!?」

 

噛み合わない話に舞歌は苛立ち、男の肩を叩く。

 

「とにかく下ろしやがれ! まだ決着が――」

 

言いかけた時、点となっていたデュエルチェイサーがグングンと近づいて来た。デュエルチェイサーの証とも言える、D・ホイールの赤いランプを明滅させて。

 

「其処のD・ホイール、止まれ!」

「チッ……捕まってろ! 強制執行される前に‟飛ぶ”ぞ!」

「一体何を――」

 

訳の分からないまま、言う事を無視ししようとした舞歌だったが、自らを乗せたD・ホイールがガードレールへと向けてさらなる加速をしている事に気付き、悲鳴に近い叫び声を上げた。

 

「お、お前、前見ろ前!」

「ッ――行け! ブラックバード!」

「んっ、なあああ!?」

 

ガードレールへと衝突する直前、そのD・ホイールは確かに空を飛んだ。

飛び越え、加速をそのままにコモンズの住居を突き進んでいく。今度こそ、完全にデュエルチェイサーは点となり、やがて見えなくなった。

 

「マジかよ……」

「撒いたか……」

 

それから暫く走り続けた後、ようやく舞歌を乗せたD・ホイールは止まった。

 

「言わんこっちゃねえ! 出てったら捕まるって言っただろうが!?」

「っ、だから何訳の分からねえ事を言ってやがる!? 大体誰だ、テメェ!?」

「はあ!?」

 

ヘルメットを脱ぎ、青年はD・ホイールから降りた舞歌に向き直った。

 

「恩人の顔をもう忘れやがったのかよ、お前は!」

「恩人だと……? って、まさか……」

 

青年――クロウ・ホーガンの言葉に舞歌は気付く。

 

「お前、オレと同じ顔をした奴を知ってるんだな?」

「はあ? お前、何を言って……」

「どっちだ? 逢歌か、それとも詠歌か?」

「だから詠歌ってお前が名乗ったんだろ……?」

 

やはりとんでもない奴を助けてしまったのか、とクロウは訝しがりながらそう答えた。

 

「ビンゴ! ツイてるじゃねえか」

 

クロウの言葉に笑みを浮かべ、舞歌は改めて名乗る。

 

「オレは舞歌。お前が助けてくれたっていう詠歌とは別人だ」

「……何だって?」

「お前が助けた詠歌は多分……この子と同じ格好をしてただろ」

「写真? ……ん、ああ。そうだ。遊矢と沢渡って奴も似たような恰好をしてたな」

 

舞歌が懐から大切そうに取りだしたのは――カードだった。儚げに微笑む、舞網第二中学校の制服を身に纏った、舞歌と同じ顔をした少女の描かれたカード。

 

「頼む。オレを詠歌たちの所に連れてってくれ。オレは約束を果たさなきゃならねえんだ」

「……」

 

決意の籠った瞳。それに見つめられ、クロウは溜め息を吐いた。

 

「分かった。分かったよ……ったく、今日は厄日か?」

 

クロウはそんな瞳をする者の頼みを無下に出来るような男ではなかった。


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