沢渡さんの取り巻き+1   作:うた野

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これで本編完結


『決闘者』

「――その日が来るまで俺たちも頑張る、遊矢も頑張れ! 燃えろォ! 熱血だァァアア!」

 

遊勝塾前の河川敷、塾長の声が響く。

柚子お姉ちゃんを助ける為、遊矢お兄ちゃんたちはランサーズとして次元を越えて旅に出た。

遊矢お兄ちゃんのお母さんの洋子さんにも、柚子お姉ちゃんのお父さんの塾長にも見送りは許されなかった。

でもきっと、私たちの声は届いているはずだ。

 

「……さ、戻ろうか」

「そうですね。さあお前たち、今から俺の熱血指導だ!」

「よしっ、やってやるぜ!」

「うん! 遊矢お兄ちゃんたちが戻ってきたら、びっくりするぐらい強くならなきゃ! 零羅くんにリベンジする為にも!」

 

洋子さんの言葉に、塾長とフトシ君、タツヤ君が遊勝塾へと戻っていく。ニコ・スマイリーも最後に一礼して、去って行った。

私もそれに続いて歩き始めようとした、その時だった。

デュエルディスクがメールの着信を告げる。ディスクを取り出し、差出人を見ると――

 

「詠歌お姉ちゃんからだ……!」

 

詠歌お姉ちゃん。

初めて出会った時、遊矢お兄ちゃんからペンデュラムカードを奪う為に私たちを人質にして、柚子お姉ちゃんとデュエルをした、怖い人。そう思ってた。

沢渡の事になるとちょっと暴走しちゃう所もあるけど……今の私にとっては柚子お姉ちゃんと同じくらい大切で大好きな、もう一人のお姉ちゃん。

遊矢お兄ちゃんから詠歌お姉ちゃんもランサーズの一員として一緒に行くと聞いている。

舞網チャンピオンシップが始まってからのお姉ちゃんは前と雰囲気が変わって、すごく……苦しそうだった。襲撃犯に襲われて入院してた時よりも、もっと。

一度大会中に会った時は私たちを避けるようにして、それから一度も話せないままだった。それがすごく心残りで、心配で、だけどどうしようもなくて。

 

でも今、こうしてメールが届いた。どんな内容なんだろう、もう大丈夫なんだろうか、そんな期待と不安が入り混じった中、メールを開く。

 

「…………あははっ、変なお姉ちゃんっ」

 

メールの内容を見て、思わず笑ってしまった。でも、安心した。

お姉ちゃんも遊矢お兄ちゃんと同じで、もう大丈夫。

 

「これで良し!」

 

届かないと知っていて、それでも私はメールを打った。たとえメールが届かなくても、私たちの声は届くと信じているから。

送信する直前、思い直して最後に付け加える。お姉ちゃんと同じ一文を。

 

「私とデュエルする約束、必ず守ってね――――親愛なる友人より、と!」

 

堅苦しくて、子供らしくないメール。それがお姉ちゃんらしくて、私も真似をして。

 

「おーいアユー! どうしたんだー!?」

「塾長の抗議が始まるよ!」

「うんっ! 今行くー!」

 

フトシ君とタツヤ君に呼ばれ、私は走り出す。最後にもう一度だけ空を見上げて。

 

「――いってらっしゃい、詠歌お姉ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「お、終わったぁ……」

「こっちも……」

「俺もだ……」

「お疲れ様。紅茶を淹れたから一度休憩しようか。暫くはお客さんも来ないだろうからね」

「うーっす……」

 

店長に呼ばれ、俺たちは脱力しながら裏の休憩スペースに座り込む。う、腕が痛え……。

 

「結構ハードだな……」

「ああ。けどこんだけの仕事を今までは二人でやってたんだもんなあ」

 

口々に一仕事を終えた感想を言い合う。不満はあるが、皆それなりに充実していた。

 

「お待たせ、さあどうぞ」

「「「ありがとうございまーす!」」」

 

店長が持ってきた紅茶と、午前中に売れ残ったケーキを受け取る。

 

「でも助かったよ。やってもらった通り、案外男手が必要な仕事でね」

「身に染みて分かりましたよ……」

「随分と助かってるよ。彼女が戻って来るまでのヘルプじゃなく、本格的にアルバイトとして雇いたいぐらいだ」

「はははっ、俺たちじゃ華がないっすよ」

「言えてる言えてる」

「俺なんてカウンターに立ってたらお店間違えましたか? って言われたしな」

「そりゃケーキ屋に入って女の子が一人も居なかったらなあ」

「しょうがねえだろ、適任の久守は行っちまったんだし」

 

――沢渡さんと久守がランサーズの一員として次元を越えた日。俺たちは何故か沢渡さんと久守お気に入りのケーキ屋で、アルバイトをしていた。

 

「ははっ、その内慣れるさ。君たちも、お客さんもね」

「そんなもんっすかねえ」

 

きっかけは今朝送られてきた久守からのメール。ランサーズとしてこの次元を離れる事と、このお店に行くようにと書かれた簡潔なメール。

別次元とかランサーズとか、痛い話だと思ってたけど、昨日の映像を見た後じゃそんな事も言えない。沢渡さんも久守も、無事にやれてるといいけど……久守はともかく、沢渡さんだし……それにあの二人が揃うと尚心配だ。まあ無事に帰って来るかどうかは心配してないけどさ。だって沢渡さんと久守だし。

 

「久守からもプレッシャー掛けられてるからなあ」

「ああ、帰って来た時、店に何かあったら俺たちの責任とか書いてたな」

「むしろそれしか書いてなかったようなもんだろ、あれ」

 

なんだかんだでそれなりの付き合いになってるけど、沢渡さんと比べて俺たちの扱いが酷すぎねえ? いやまあ沢渡さんと同じように接されても困るんだけど。というかあんな風に接されて平気な顔出来るのは沢渡さんぐらいだろ。そういう意味ではお似合いなんだけど……。

でもクラスの奴らとか、光津真澄とかには普通に接してるのに、なんで俺たちだけ呼び捨てで、こんな扱いなんだか。

 

「信頼されているんだね、あの子に」

「信頼っつーかこき使われてるだけのような……」

「僕も聞いてるよ。あの子、沢渡君や君たちの事を良く話していたようだからね」

「久守が? 沢渡さんの事はともかく、俺たちの事も?」

「ああ。気兼ねなく接せられる、悪友たちだってね」

「悪友ねえ……まあそれが一番しっくり来るよな」

「まあな。友達とか親友とか言われると何かむず痒いし」

 

気兼ねなく付き合ってるのは俺たちも同じだ。沢渡さん一筋の久守相手に妙な気を遣う必要も感じない。沢渡さんと久守がどうにかなったとしても、多分それはずっと変わらないんだろうな。あの調子じゃどうにかなるのかも分からねえけど。

 

「まあ、任せられたからには久守やバイトのお姉さんが戻って来るまでは手伝いますよ」

「悪友の頼みだからなあ、仕方ねえか」

「やっとかないと後が怖いからな……」

 

ほっぽりだしたら戻って来た時に何を言われるか……。ありありと想像が出来て、俺たちは笑った。

LDSもだけど、此処も久守と沢渡さんが帰って来る場所だからな。しっかりと守っておかねえと。

 

「うっし、やるかー!」

「それじゃあ山部君と柿本君は午前中と同じように、大伴くんは宅配を頼めるかい? 市議会議員の方から注文が入っててね」

「うっす!」「はーい!」「了解っす!」

 

留守番くらい、俺たちでやっておくさ。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「――いきなり危なかったなあ……さっそくリアルソリッドビジョンシステムが役に立ったよ」

 

埃の積もった部屋、倉庫か何かかな? 次元を越えたと思ったら空中に放り出されて、落っこちた先。デュエルディスクに組み込まれたリアルソリッドビジョンシステムでモンスターを実体化させたおかげで大きな怪我はない。

けど……

 

「僕一人、か。融合次元製のと違ってまだ精度とかが甘いのかな」

 

周囲に人影はない。他のランサーズは別の場所に転送されたようだ。もしかして何かの事故で僕だけがシンクロ次元に辿り着けなかったのかとも思ったけど、その心配は杞憂だとすぐに気付いた。

 

「D・ホイール……うん、間違いないみたいだね」

 

衝撃で舞い上がった埃が晴れると、僕が落ちた時に倒れたらしいD・ホイールが目に入った。何処かのガレージ? でも落ちる時に見えたのはドームみたいな場所だったし、スタジアムか何かなんだろうか?

とりあえず情報集めと、他のメンバーと合流しないと。そう思った時、建物中にサイレンの音が鳴り響いた。

 

「うわぁ……あんまり好ましくない状況みたい」

 

来て早々に問題を起こしてしまったようだ。やっぱり勝手に入っちゃまずい場所だったんだろうな。

僕の知識はあんまりアテには出来ないけど、セキュリティなんかが居たら厄介だ。問答無用で捕まりかねない。柊柚子や彼女たちを救う為に来たのに、僕が捕まるなんて笑えない。

とにかく此処を離れて、ひとまず身を潜めた方が良さそうだ。

そう考え、出口を探し始めた瞬間。

 

「――うげっ! 先回りされてた!?」

 

倒れたD・ホイールの向こうから焦ったような声が聞こえてきた。声の感じからしてセキュリティや警備員ではないようだけど――

さて、どうするか。そう思いながら様子を窺っていると、部屋に飛び込んできたのは見覚えのある顔だった。

 

「……成程ね。ある意味手間が省けたかな」

「お願いっ、見逃して! ……って、え?」

 

毎日鏡で見ていた顔。そして一足先に答えを見出して先へ進んだ子の顔。少し違うのはその頬に黄色いマーカーがついている事。

 

「――はじめまして、僕じゃない誰かさん」

「あんたは……あたし!?」

 

ああ、どうやらこの子も、僕たちと同じで中々愉快そうだ。

 

「人違いだよ。ところで今は脱走中かい?」

「え、ああ、うん。そうだけど……」

「ならもしかして探し物はこれ?」

「あっ、あたしのD・ホイール! やっぱり此処にあったのか!」

 

目を白黒させながらもD・ホイールに彼女が駆け寄る。遠くから無数の足音が聞こえる。出会いを祝っている暇はなさそうだ。

 

「ねえ、曲芸は得意?」

「は?」

「手伝うから僕も乗せてもらえないかい?」

 

此処で捕まって、逢歌の体にマーカーを刻ませるわけにはいかない。僕は彼女に提案する。

 

「手伝うって……」

「あそこに僕が落ちて来た時に空いた穴がある。そこから逃げよう」

「いや、流石にこの狭い倉庫じゃ助走が足りないって」

「助走が出来れば行けるんだ……なら大丈夫そうだね」

 

本来の使い方でなくて申し訳ないけど、なら方法はある。

 

「アクションフィールド、オン」

『フィールド魔法・クロス・オーバー』

 

デュエルディスクを操作し、リアルソリッドビジョンシステムを作動させる。同時に光の無数の足場が形成される。

 

「なんじゃこりゃあ……」

「さあ、行くよ! また捕まりたいわけじゃないだろう?」

「あっ、ああ!」

 

倒れたD・ホイールを起こし、その後ろに乗りながら彼女を急かす。彼女は頷き、D・ホイールに跨り、ハンドルを握った。

 

「整備なんてされてないだろうし……掛かって頂戴よ……!」

 

僕たちの祈りが届いたのか、D・ホイールの心臓は大きく唸りを上げた。

 

「良し! なら行くよっ、そっくりさん!」

 

思いきりアクセルを握り、僕たちを乗せたD・ホイールは形成されたアクションフィールドの足場へと飛んだ。

そのまま器用に足場を飛び移るように走りながら、天井の出口へと向かって行く。

 

「そっくりさんじゃない、僕は逢歌!」

「そう! ならしっかり捕まってなよ、逢歌!」

「ああ! 君の名前は!?」

 

彼女の腰に手を回し、エンジン音にかき消されないように叫ぶ。

この子がユーゴくんの言っていた彼女である事は今更疑いようがないけれど。

 

「あたし? あたしは――彩歌(さいか)! 見ての通りD・ホイーラーだよ!」

 

僕やあの子以上にこの世界に染まっている彼女の名乗りに、僕は苦笑する。

この次元でも、色々と苦労しそうだ。そしてそれ以上に、今まで見た事のない景色を見せてあげられそうだ、と。

 

――僕は戦うよ。逢歌やカードにしてしまった人たちを救う為に。それが僕のやるべき事で、僕のやりたい事だから。

そして待ってるよ、君が君として、僕が僕として再会出来るその時を。だから早く、帰っておいで。この世界が君の帰るべき場所だと言うのなら。

今度は自分の意思で次元も世界も越えて、好きな人に会いにおいでよ。

 

今は名前を呼ぶ事の出来ない親愛なる友人に、妹分に向かって、そう僕は呟いた。

 

 

「星の海より生まれし輝きよ! 希望の翼広げ、夜天に瞬け! ――シンクロ召喚! 現れろ、幻龍星―チョウホウ!」

「炎を操る担い手よ! 轟く雷の精霊よ! 今一つとなりて天高く杖を掲げよ! ――融合召喚! 騎乗せよ、聖霊獣騎 ガイアペライオ!」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

――意識が浮上する。風が肌に触れる、土煙の匂いが鼻に届く、遠くで誰かの声が聞こえる。

久しぶりの感覚。当たり前に感じていたはずの、懐かしい感触。

 

「……」

 

瞳を開く。明瞭な視界。手を握る。確かに動く、自分の手足。わたしの、体。

 

「……本当に、勝手なんだから……」

 

もう届かないと知っていて、悪態を吐く。……いいよ、もういい。あなたがそんな勝手なら、わたしも勝手にやらせてもらう。

あなたが仲良くなった人たちと、あなた以上に仲良くなってやる。あなたが戦ったデュエルよりも、もっと良いデュエルをやってやる。

あなたには二度と負けない。絶対に、負けてなんかやらない。

 

「だってわたしは、久守詠歌なんだから……!」

 

両親がくれた名前。あなたが名乗っていた名前。この名前を傷つけるような事は、絶対にしない。

それが何処だろうと、何処の次元だろうと。

 

 

「――俺を誰だと思ってやがる! 沢渡シンゴだッ!」

 

 

……けど一つだけ、勝てないものがある。勝ちたいとも思わないけど。

 

 

「デュエルやろうってのかあ!?」

 

 

あの人の隣に立てるのは、あなただけだ。たとえ頼まれたって、わたしはあの人の隣になんて立ってやらない。

たとえあなたがどれだけ彼と仲良くしていても、わたしは彼と仲良くなんてならない。なって、あげない。

 

「――次元を越えてすぐこれ? もっと落ち着きなよ、沢渡シンゴ」

 

わたしが目覚めた屋根の上、そのすぐ下には警察官のような集団に囲まれている彼と、セレナ、そして榊遊矢と赤馬零羅の姿があった。

 

「久守! よかった、お前も一緒に来れたんだな!」

「うん。今はどういう状況なの?」

 

飛び降り、榊遊矢の傍へと近づく。

 

「分からない、俺たちを誰かと勘違いしてるみたいで……」

「誰だろうと関係ない。デュエルを挑まれたなら応えるまでだ」

「待てってセレナ! まずは話し合いを……」

「なんだぁ? 怖じ気づいたのか、榊遊矢」

「だから沢渡も落ち着けって!」

 

思わず溜め息を吐いてしまいそうなチームワークに、顔を覆う。前途多難だ……。

でも、今回はわたしも賛成かな。

二人と同じようにデュエルディスクを構えた。

 

「久守まで!?」

「ごめんね、でも話し合い出来る雰囲気じゃないでしょ?」

 

嘘じゃない。でもそれは建前。本音は――

 

「……お前、やれんのか」

「冗談、わたしを誰だと思ってるのさ」

「誰だか分からねえから聞いてるんだろうが」

 

彼の言葉にわたしは笑う。

 

「わたしはわたし、あなたの大好きなあの子とは違う、久守詠歌だよ」

「……はっ、足手纏いになるんじゃねえぞ、‟久守”!」

「それはこっちの台詞! 情けないデュエルはしないでよ、沢渡シンゴ!」

 

わたしの力を、強さを証明する為。あなたに負けない為に、わたしは戦う。

いくよ、みんな。見せてあげよう、わたしたちの力を。沢渡シンゴに、そしてあの子に。

 

 

「おいで、神の写し身! 探し求める者、エルシャドール・ミドラーシュ!」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

『うわぁぁあああ!?』

 

「うわぁぁああああ!?」

「ちょ、お姉ちゃんうるさい!」

 

テレビの中のあの人に負けない大声で叫ぶ私を女の子が叱る。

だ、だって……だって……!

 

「沢渡さんが……沢渡さんがワンキルされたんですよ!? あんまりじゃないですか! そりゃ叫びたくなります!」

「なら自分の家で叫んでよ! お見舞いに来てくれたと思ったらすぐにテレビつけて……もはや嫌がらせだよ!」

「だってもうお見舞いとか必要ないでしょう! 手術も成功してもうすぐ退院なんですから!」

「だからって病室で叫んでいい理由にはならないじゃん!」

「あー、もうお前ら二人ともうっさい!」

「「ごめんなさい!」」

 

口喧嘩する私たちを隣のベッドのお姉さんが怒鳴る。口を揃えて謝る私たちを見て、その隣のベッドのお兄さんとおじいさんが笑った。

 

「ああっ、沢渡さんがセキュリティに!?」

「だから……!」

 

それでも懲りずにテレビにかぶりつく私を呆れたように女の子が見る。けど気にしません!

 

「頑張って沢渡さん! お父様と私がついてます!」

「はぁ……」

 

溜め息を吐き、女の子は諦めた。ああ、沢渡さん……!

 

「毎週来てこれだもんなあ……」

「諦めろよ、こいつのこれはもう病気だ病気。通院してるんだよ」

「自分の家でならいくらやってもいいのに……必要なのは通院じゃなくて自宅療養だよ」

 

『何の為に俺がワンキルされたと思ってやがる!』

 

流石沢渡さん! 榊さんを助ける為にあえてワンキルされたんですね! 仲間の為になら敗北する事も辞さないなんて格好良すぎっすよ!

 

それから三十分、私は一人興奮し続けた。

 

 

 

「……ふぅ、今週も満足です……いえ、こんなんじゃ満足できません!」

「どっちなのさ……」

「来週も沢渡さんの活躍が楽しみです!」

「今の様子じゃ、活躍なんて出来そうにないけどね……」

「何か言いましたか!」

「ううん、何にも? お姉ちゃん、だーいすき」

「えへへ、何ですかいきなり。照れますね」

 

テレビから離れ、椅子に座り直す。

 

「それよりお姉ちゃん、アニメも終わったしさ」

「ええ、そうですね」

「お、今日もやるか?」

「当たり前です! 今日こそ勝ちます!」

「へへっ、あたしの連勝記録は何処まで伸びるかね」

 

お姉さんが、お兄さんが、おじいさんが、一つのベッドへと椅子を持って集まって来る。

私はバッグからデッキを取りだし、布団の上に置く。お姉さんも自分のデッキを持ち、それを置いた。

 

「お姉ちゃん、今日こそ勝ってね! 私のカードも入ってるんだから!」

「任せてください!」

「あたしのHEROデッキに勝てると思ってんのか?」

「どんなデッキだろうと勝つ確率はあります! そして何より私たち二人で組んだデッキが負けるはずありません!」

 

私たちは笑いながら、カードを引く。手札には可愛らしいイラストのお菓子のお姫様。ふふ、負ける気がしません!

 

「さあいきますよ!」

「今日も遊んでやるよ!」

 

そして私たちは声を揃えて言う。始まりを告げるあの台詞を。

 

 

「デュエル!」「デュエル!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――遊戯王。

それはモンスター、魔法、罠、三種類のカードからなるカードゲーム。

何千枚の中から選び抜いたカードで組んだ自分だけのデッキで戦うデュエルでみんなを笑顔にする

プレイヤーたちの事を人々は決闘者(デュエリスト)と呼んだ――。

 

 

 

 

 

沢渡さんの取り巻き+1 ‟完”

 




これにて本編完結となります。
アニメの一年目、スタンダード編終了という一区切りで終わらせる事が出来ました。
放送中の作品の二次創作ということでいつ矛盾や齟齬が出るかと恐れていましたが、予定通り、大きな変更もなく着地させる事が出来ました。
続けられるようにフラグは立てていますが、今の所続編の予定はありません。
残るはTFSPの番外編が二話の予定ですが、本編完結ということで作品は完結状態にさせていただきます。
ここまで閲覧いただき、ありがとうございました。
活動報告の方であとがき的なものを書かせてもらいましたので、長々としたものはそちらで。興味があれば覗いてください。

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