「今更だが俺を真澄や北斗みたいなお行儀が良いだけの奴らと一緒にすると痛い目見るぜ――って、今更過ぎたか?」
YAIBA LP:4000
レベル3
攻撃力 1300
レベル5
攻撃力 2100
X-セイバー ソウザ
レベル7
攻撃力 2500
伏せカード 1
手札 3
「……その忠告以前に、お互いの自己紹介も済んでいません」
EIKA LP:1600
マドルチェ・クロワンサン
レベル3
攻撃力 1500 → 2000
マドルチェ・マーマメイド(セット)
レベル4
守備力 2000
フィールド魔法 マドルチェ・シャトー
伏せカード 0
手札 1
「おっと、そいつは悪かったな。俺はシンクロコースの刀堂刃。お前が真澄と北斗を負かした総合コースの久守詠歌だろ?」
「……ええ、まあ」
……回想するほどのことでもないですが、ほんの十分程前、今日は実技だけだったので沢渡さんが来る前にさっさと終わらせてしまおうとしていたところ、彼、刀堂刃さんにデュエルを挑まれました。現在5ターン目で、私のターン、ドローフェイズです。Xセイバー使いの刀堂さんによるハンデスでそれ程モンスターを展開していないのにこの手札、墓地にはマドルチェたちが3体と永続魔法のマドルチェ・チケット、罠カードのマドルチェ・ハッピーフェスタ、それに融合魔法が3枚(神の写し身との接触2枚、影依融合1枚)が落とされています。何故こういう時に限ってシャドールたちが落とされないのか。……前回のミドラーシュの呪いでしょうか。
「さあ自己紹介も済んだところでお前のターンだ。そろそろ融合でもエクシーズでも、シンクロでもいい、やってみせろよ」
バウンスの志島さんや私もお行儀が良いとは言えませんが、大量ハンデスしておいてこんな台詞を吐くのは確かにお行儀が悪いですね。私、少し機嫌が悪いです(1日ぶり3度目)。
「……私のターン、ドロー」
ですから今日も少し、厭らしいプレイングをさせていただきます。どうやらデッキもそれを望んでいるようですし(決めつけ)。
「私はマドルチェ・ミィルフィーヤを召喚。効果により手札からマドルチェ・ホーットケーキを特殊召喚」
マドルチェ・ホーットケーキ
レベル3
攻撃力 1500 → 2000
マドルチェ・ミィルフィーヤ
レベル3
攻撃力 500 → 1000
「ようやく同じレベルのモンスターが並んだか。まずはエクシーズから見せてくれんのかよ」
「もう少し待ってもらえますか。出来る限り見せてあげます……ただしエクシーズでお終いです」
「あん?」
「ホーットケーキの効果発動。墓地のモンスター一体を除外し、デッキからマドルチェと名の付くモンスターを特殊召喚します。私は墓地のマドルチェ・ピョコレートを除外し、マドルチェ・バトラスクを特殊召喚」
もしもマドルチェ・チケットが墓地に落とされていなければメッセンジェラートでサーチ出来たんですが、此処に至ってはあまり関係ありません。それに恐らく刀堂さんの口ぶりや性格からして、場の伏せカードは召喚反応系ではないようですし。
マドルチェ・バトラスク
レベル4
攻撃力 1500 → 2000
「一気に3体のモンスターを並べやがったか……」
「あなたも最初のターンでしたことでしょう。次に私はセットされていたマドルチェ・マーマメイドを反転召喚。マーマメイドはリバース効果として墓地のマドルチェと名の付く魔法、罠カードを一枚手札に戻す効果を持っています――がその効果は使用しません」
マドルチェ・マーマメイド
レベル4
攻撃力 800 → 1300
「何だと?」
「必要な事なので。……あまり時間を掛けたくもありません。沢渡さんが来る前に終わらせます」
昨日LDSで別れてから、今日は学校でも見れなかったし、今日の初生沢渡さんを一刻も早く見たいので。
……それにもしかしたら今日かもしれないし。一昨日、光津さんとのデュエルの後、山部たちと一緒に沢渡さんの考えついた「良い事」を聞いた。……ペンデュラムカードを持ち主、榊遊矢から奪うという計画だ。近々決行するとは言っていたから、もしかしたら昨日山部たちと詳しい打ち合わせをしたのかもしれない。
ただ一つ気になるのは、沢渡さんの行動が少し短絡的過ぎる事だ。あの人は最初からそんな強硬手段に出る人じゃない、まずは交換条件を提示して、トレードを申し込むはずだ。それが拒まれたなら、そうすることも十分考えられるのだけれど……。それが気にかかる。それにそんなことをしなくともカードに選ばれてる沢渡さんならきっと、カードの方からやがてやって来るはずなのに。
「……私はマドルチェ・クロワンサンの効果発動。自分フィールド上のマドルチェと名の付くカードを手札に戻し、このカードのレベルを1、攻撃力を300ポイントアップさせます。私はフィールド魔法、マドルチェ・シャトーを手札に戻します」
「チッ、戻ったのが魔法カードってことは――」
クロワンサンが自分の尾を追いかけるように周り始めると周囲の景色も回転を始め、景色が通常のデュエル場へと戻る。
マドルチェ・クロワンサン
レベル3 → 4
攻撃力 2000 → 2300
「手札に戻したマドルチェ・シャトーを再び発動」
そして一度は通常に戻ったデュエル場の景色が再びお菓子の国へと変化する。
「マドルチェ・シャトーは発動時、墓地のマドルチェと名の付くモンスターを全てデッキに戻す」
「はっ! 何度デッキに戻して手札に加わっても、またすぐに墓地へ送ってやるよ!」
「そうですか。なら私はデッキに戻してあげましょう。お伽の国に傭兵は不似合いです――私はレベル3のマドルチェ・ミィルフィーヤとホーットケーキでオーバーレイ」
「レベル3同士……? エースじゃねえのかよ!」
「女王さまもすぐにお呼びしますよ。ですがその前に、迎える準備が必要です。エクシーズ召喚、現れろ、ランク3――
お菓子の犬と梟がオーバーレイユニットとなって召喚されたのは――黒の鎧を纏い、赤きマントをたなびかせる、屈強な戦士だった。
M.X-セイバー インヴォ―カー
ランク3
攻撃力 1600
ORU2
「んなっ――Xセイバーのエクシーズモンスターだと!?」
「それ程Xセイバーと相性が良いわけでもないですけどね。それに彼はもうただのXセイバーじゃありません。Mの名を持つ、即ちマドルチェです」
「いやそういう意味じゃねえし! しかもお前、傭兵には不似合いとか今言ってただろ!?」
「さらにレベル4となったクロワンサンとマーマメイドでオーバーレイ」
「おいこら!」
聞こえませんね。私はデッキに合うシンクロモンスターを探すのに必死だというのにぽんぽんと見せつけるようにシンクロ召喚をする人の言葉なんて。
「二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。人形たちを総べるお菓子の女王、お伽の国をこの場に築け――エクシーズ召喚、ランク4、クイーンマドルチェ・ティアラミス……!」
「無視して進めやがって……ランク4、ってことはそいつがお前のエースか! ランクが上の割にはインヴォ―カーよりか弱そうな見た目じゃねえか!」
「……? 志島さんたちからこの子の事は聞いていないんですか?」
「ああ? 聞くわけねえだろ、俺はただ融合、シンクロ、それにランク4のエクシーズモンスターを使ってあいつらを負かしたって話を聞いてお前にデュエルを申し込んだ。じゃなきゃフェアじゃねえからな」
「……そうですか。すいません」
「あ?」
少しばかりその心、折らせていただきます。……いっそこのまま嫌な人って印象で居てくれれば私の気持ちも晴れたんですが、いきなりそんなフェアプレイ精神を持ち出されると心が痛みます。
「M.Xーセイバー インヴォ―カーの効果発動。オーバーレイユニットを一つ使い、デッキから地属性の戦士族、または獣戦士族のレベル4モンスターを守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターはエンドフェイズに破壊されます。私はデッキから戦士族のマドルチェ・シューバリエを特殊召喚」
マドルチェ・シューバリエ
レベル4
守備力 1300 → 1800
「レベル4がまた二体、まさかお前!」
「レベル4のバトラスクとシューバリエでオーバーレイ。エクシーズ召喚、クイーンマドルチェ・ティアラミス」
そして現れる二人目の女王。その前に彼女たちを守るようにインヴォ―カーが立つ。
クイーンマドルチェ・ティアラミス×2
ランク4
攻撃力 2200 → 2700
ORU2
M.X-セイバー インヴォ―カー
ランク3
攻撃力 1600
ORU1
「くっ、だがお前のモンスターは3体、俺の場にも3体、その攻撃力じゃモンスターを全滅させても俺のライフは削りきれねえ!」
(それに俺の伏せカードはセイバー・リフレクト。こいつはダメージを無効にし相手にそのダメージを与えられる。温存も出来るが……真澄たちを倒した奴だ、油断は出来ねえ)
「ティアラミスの効果発動。一ターンに一度オーバーレイユニットを一つ使い、墓地のマドルチェと名の付くカードを二枚までデッキに戻し、戻したカードと同じ数、フィールドのカードをデッキへ戻す。私は墓地のマドルチェ・ハッピーフェスタとマドルチェ・チケットをデッキに戻し、あなたの伏せカードとX-セイバー ソウザをデッキに戻します」
「何だと!?」
「さらにもう一体のティアラミスの効果を発動。墓地にあるマドルチェと名の付くカードは一体目のティアラミスのオーバーレイユニットとして墓地に送られたクロワンサンのみですが、今二体目の効果発動時に使用したオーバーレイユニット、シューバリエが墓地へと送られる。これにより私はクロワンサンとシューバリエを選択し、マドルチェ・シャトーの効果によりデッキではなく手札に戻します。そしてあなたのフィールドの残り二枚、X-セイバー ウェインとエマーズブレイドをデッキに戻す。
二人の女王が杖を掲げ、そこから発せられる光により刀堂さんのフィールドのカード全てがデッキへと戻る。こうなってしまえば後は警戒するのはゴーズくらい……その必要はないでしょうが。
「二体のティアラミスで直接攻撃……ドールズ・マジック」
「うっ、おわあああああ!?」
YAIBA LP:0
WIN EIKA
……一気に4枚のカードを戻してがら空きのフィールドに直接攻撃。普段なら気持ちの良い勝ち方ではあるんですが、フェアプレイ精神で挑んできた(と分かった)方相手だと申し訳なくなります。
「……ありがとうございました」
「あー……負けたぜ」
ソリッドビジョンが解除され、再び元のデュエル場へと景色が変わる。
竹刀を床に突き立てるようにして項垂れる刀堂さん。……やはり、少し申し訳なくなりますね。
「……では失礼します」
「待ちなっ!」
急ぎたい気持ちも勿論ありますが、それ以上に居心地の悪さを感じて踵を返そうとした私を刀堂さんが呼び止める。
「……何か?」
「何で今のデュエル、シンクロと融合を使わなかった。真澄の時は融合とエクシーズ、北斗の奴の時は融合とシンクロ、二つの召喚方法を使ったんだろ。……あいつらと違って、俺にはエクシーズだけで十分だってか」
「いいえ。あなたも光津さんや志島さんと同じように強い方でした。今回はやりたくても出来なかった――私が運を持っていなかっただけの事です」
「俺の力が運だけだって言うのかよ」
「運だけの方にティアラミス二体を並べなければならない状況に追い込まれたりはしませんよ。インヴォ―カーは私にとって禁じ手のようなものですし。あなたに言われた通り、私のデッキには不似合いですから」
「あっ、そうだあのXセイバー! な、なあちょっと見せてくれよ?」
「……構いませんが」
……断り難い! 急ぎたいんですが、刀堂さんに強く出られない自分が居る……! 光津さんと違って沢渡さんを馬鹿にしたわけでも、志島さんのように私のデッキを馬鹿にしたわけでもないから余計に……。
「エクシーズのXセイバー……何処となくソウザに似てるな」
「……自分モンスターを破壊する、というデメリットも共通ですしね」
「攻撃力は低いが、レベル4の戦士族、獣戦士族をデッキから特殊召喚、エンドフェイズで破壊されるって言ってもお前がしたように、素材に使っちまえばデメリットも関係なしか」
「ですがあなたのデッキならわざわざ二体のモンスターを使ってインヴォ―カーを召喚するより、モンスター効果で特殊召喚した方が良いと思いますが。それにインヴォ―カーのランクは3、Xセイバーのレベル3だとフラムナイトやダークソウルですが……あなたのデッキの場合、チューナーをオーバーレイユニットとするのは勿体ないかと」
「けど手札でも墓地でもなくデッキから直接召喚出来るってのはかなりのメリットだぜ」
「手札にXセイバーをサーチするのは容易ですし、エクシーズと違いシンクロなら墓地に送るのも難しくありません。今のデュエルの序盤でフォルトロールを使った戦法で実践してるでしょう」
二人でインヴォ―カーを覗き込みながら言葉を交わす。……何だかこういう風にカードを見ながらあーでもないこーでもないと議論を重ねるのは……昔を思い出します。沢渡さんも今の私もデッキは一人で組みますから。まあ私の場合、デッキの内容はサイドデッキと入れ替えるだけで此処に来た時からほとんど変えてはないですが。
「此処で突っ立って話してても埒が明かねえ、おい久守詠歌、少し付き合え」
「は?」
「心配すんな、飲み物ぐらいなら奢ってやるからよ」
「い、いやちょっと……」
刀堂さんに腕を掴まれ、強引にデュエル場から引きずられていく私。ちょ、セキュリティ! じゃなくて制服組! じ、事案が! 今まさに事案が!
「シンクロ使う癖にチューナーは二種類しか入ってねえのかよ? しかもどっちもチューナーとしてじゃなくほとんど効果モンスターとして使ってんのか」
「……ええ。ですから私のデッキではシンクロはほとんど行わないんです。融合素材として使う事が多いですね、シャドール・ファルコンなら蘇生も出来ますがエフェクト・ヴェーラーはほとんど融合の為に入れているようなものです」
「俺とのデュエルでしたみたいにあの犬っころのレベルを変化させられるとはいえ、1ターンに1上げるだけじゃ最上級のシンクロモンスターは入れられねえな。チューナーもレベル2と1だしな」
「……犬っころじゃありません、マドルチェ・クロワンサンです」
「ってか名前がダジャレなのか……いや馬鹿にしてるわけじゃねえけどよ」
……何故か、LDSの空き教室でカードを広げ、隣り合って座りながら議論を続ける私たち。
「にしてもこの二枚だけで良くシンクロ召喚を使えたな。俺だってシンクロをマスターするまで苦労したってのに」
「……まあ、昔はシンクロに傾倒してた時期もありましたから」
「昔って、融合やエクシーズと同じでシンクロも最近教えだしたばっかだぜ? しかもお前、LDSに入ってそんな長くねえんだろ?」
「学ぶ機会が昔あっただけです」
「はー、北斗ほどじゃねえが、俺もシンクロをマスターして少し天狗になってたのかね。まさか総合コースにお前みたいなのが入ってたなんてよ」
「ああ、やっぱり志島さんは天狗になってたんですね。自信過剰な方だとは思ってましたが」
「お前、それをあいつに言うなよ。あいつ打たれ弱いところがあるからよ。お前に負けたのも相当ショックだったみたいだし」
「……あなたや光津さんはどうなんですか? あなたたちも融合、シンクロコースに入ってからほぼ負けなしだと聞いてますが」
「俺も真澄も、北斗だって入ってすぐ強くなったわけじゃねえ。さんざん負かされたさ。今更一回や二回負けただけで落ち込んでられっかよ。悔しい事に変わりはねえがな」
そう言って刀堂さんは八重歯を見せながら笑う。それが少し眩しかった。……ま、沢渡さん程じゃないですけどね!
「それよりお前のデッキだ! シンクロモンスターがエクストラデッキに一枚しか入ってねえってどういう事だよ!」
「ああ、いや、もういっそのこと抜こうかとも考えてはいるんですが」
「はあ!? せっかくチューナーが入っててシンクロ召喚も覚えてるってのにか!?」
「私のデッキで最も現実的なのはレベル5、6のシンクロモンスターですが、中々良いカードと巡り合わないので」
「ならこいつはどうだ!? レベル6のXX-セイバー ヒュンレイ! お前のエクシーズモンスターと違って一気にフィールドのカード3枚破壊出来るぞ!?」
「そもそも素材がX-セイバー限定じゃないですか。私のデッキに居るのはインヴォ―カーだけで、エクシーズモンスターはシンクロ素材にはできません」
「うぐっ……いいかっ、とにかくシンクロを抜くんじゃねえっ」
「……まあまだ代わりのカードも見つかってませんから、そのつもりですが」
「なら良しっ! ……ふぅ、熱くなったら喉が乾いちまったな。よし、約束通り奢ってやるよ。何がいい?」
「ああ、でしたらこれを」
「あ? 何だよこれ」
テーブルの脇に置いておいたバッグから紙コップを取り出し、刀堂さんに手渡す。首を傾げながら受け取った刀堂さんのコップに、続けて取り出した水筒の中身を注ぐ。邪道な気もしますが、別に私はそこまで拘りはないので。
「冷たいカモミールティです」
「……また随分とお行儀の良いもん持ち歩いてんなあ」
「喜んでくれる人が居ますから。まあこれは自分用のですが」
刀堂さんの場合、紅茶やコーヒーより緑茶やスポーツドリンクの方が好きそうですが、今回は我慢してもらいましょう。
「……美味いな」
「水筒で持ち歩いているので見た目は悪いかもしれませんが、それでも市販の紙パックよりは自信があります。あれはあれで好きですが」
意外にも好意的な反応が返って来たので嬉しくなる。つい口数が多くなってしまいます。
「とはいっても大量に飲むのも体に良くはないので、まだ喉が渇くようなら別の飲み物を買ってきた方が良いですけどね。どちらかと言うとそれはあなたに落ち着いてもらうためのものですし」
「く……悪ぃ、確かに少し熱くなってたな」
「……いえ、構いませんよ。強引でしたが、私も……楽しかったですから」
「よしっ、なら今日の詫びだ。お前に合うシンクロモンスターを探しといてやるよ」
「え?」
「いくらシンクロが出来たってシンクロコースに居なきゃ分からねえことや知らねえカードもあんだろ? 闇雲にショップ回ったり片っ端から資料漁るよりは良いはずだぜ」
「いや、ですけど……」
「やっぱ素材制限がない、汎用のが良いよな。まあ俺に任せとけよ」
「いやあの……」
「とりあえずお前の通信用のコード教えろ。同じLDSでも今までだって顔合わせたことなかったしな。その方が便利だろ」
「あの、だから人の話を……いえ、分かりましたよ」
どんどん話を進めていく刀堂さんに諦める事を選択し、私は大人しくデュエルディスクを操作し、通話用のコードを表示させ、それを刀堂さんのディスクに送信する。
「おう。これが俺のな」
すぐに今度は刀堂さんからコードが送られ、デュエルディスクに登録される。
「んじゃ良さそうなのが見つかったら連絡する。お前も何かあれば連絡寄越せよ」
「はあ……分かりました」
曖昧に頷く私とは裏腹に刀堂さんは満足そうに頷いた。
「そんじゃあな。次はアクションデュエルで勝負しようぜ、久守詠歌」
コップに入った紅茶を一気に飲み干し、立ち上がった刀堂さんは竹刀を私に向け、そう言ってニヤリと笑った。
「美味かったぜ、ありがとな」
「いえ……お粗末さまでした」
律儀にもう一度礼を言って去る刀堂さんを見送る。……嵐のような人だ。子供らしいというか少年らしいというか、沢渡さんとも、山部たちとも違うタイプの人ですね。
「……私も急ぎましょう。この時間でLDSに居なければ今日ではなかったという事でしょうが……そうならいいんですが」
刀堂さんの勢いに負けてつい話し込んでしまいました。もしもこれで沢渡さんに何かあったらどう償ってもらいましょうか。……まあ悪いのは断り切れなかった私なんですけど。
結局、LDS中を探し回りましたが沢渡さんも、山部たちも見つかりませんでした。仕方ありません、山部たちに連絡を取ってみましょう。いつもの倉庫に居るのなら今から行っても遅いですけど。
と、通路でデュエルディスクを取り出した所で丁度着信が入った。相手は……柿本だ。
「もしもし」
『おー、久守』
「柿本、今何処にいるの。あなたじゃなくて沢渡さんの事だけど」
『言わんでも分かるっつーの。今日はもう皆帰ってるよ』
「そう。分かった」
『あーそれと明日なんだけど』
「……一昨日の話?」
「そうそう。昨日詳しく聞いて、いよいよ明日なんだってよ。お前も興味あんなら明日は講義受けないで放課後、センターコートに来いよ。今度は生で見れるぜ、例の――』
「……ペンデュラム召喚」
『おう』
「分かった。ありがとう」
『ん、じゃあな。……それと無理に見に来なくてもいいからさっさと必修の講義を終わらせてくれ。沢渡さん、お前の買ったケーキと紅茶がないと落ち着かないみたいなんだよ……』
「分かった。可及的速やかに終わらせる。むしろ今からでも講師の先生に直接言ってくる」
『いやそこまでしろとは言ってねえよ! ……はあ、とにかく伝えたからなー』
「ありがとう。それじゃ」
通話を終え、デュエルディスクを肩に下げたバッグへとしまう。
明日か……どうしましょう? きっかけはどうあれ、沢渡さんが決めたことなら全力でお手伝いしたいんですが……正直今回ばかりは……沢渡さんを止めたい気持ちもある。裏がありそうなのは勿論だけれど、ペンデュラムカードを持っているのは……榊‟遊”矢。響きだけなら珍しい名前ではないですが……うーん。
「ちょっと、何ボーっと突っ立てるのよ」
「あ……失礼しました」
立ち止まって考え込んでいるとどうやら通行の邪魔になってしまったようです。素直に謝って道を譲る。……ちゃんと通路の端に居たんですが。
「こんな時間まで一人で何をしてるの?」
謝りながら振り返った先に居たのは光津さんだった。腰に手を当て、呆れたように私を見ている。
「光津さん。いえ、沢渡さんを探していたら少し遅くなってしまいました」
「沢渡? 私も見てないけど、今日もサボりなんじゃないの?」
「サボりじゃありません。自主学習に熱心なだけです」
「……まあいいわ。それにしてもこんな時間まで探し回ってたの? もう夜よ」
「それは光津さんも同じでは?」
「私は……ちょっとデッキ構築を考えてたら遅くなっただけよ」
少し恥ずかしそうに頬を赤らめて光津さんが言う。どうやら夢中になって時間を忘れてしまっていたようです。まあ私も沢渡さんを探すのに夢中で時間を忘れていましたが。
「私も似たようなものです。シンクロコースの刀堂さんとデュエルした後、彼に捕まってデッキやシンクロの事で話し込んでしまいました」
「刃と? ああ、そういえばあなたの事を話したわね……ってあなた、まさかシンクロ召喚まで……?」
「融合とエクシーズと比べると私のデッキではオマケのようなものですが」
「オマケでシンクロを使われたらシンクロコースの立つ瀬がないじゃない」
「いえ、そういうつもりでは……デッキの相性ですし」
「分かってるわよ。っていうかそれなら私も呼びなさいよ! 刃の奴……それで、その刃は?」
「恐らくもう帰ってると思いますが」
「はあ、女の子一人置いて帰る馬鹿が何処にいるのよ……」
……光津さんの性格だと、「一人で帰れるわ」ぐらいは言いそうですが。ああいや、多分自分の事は除外してるんでしょうね。
「刀堂さんと別れたのはまだ夕方でしたから。彼に非はありません」
「どんだけ沢渡を探し回ってたのよ……というか電話しなさいよ」
「こういう時は少し、LDSの広さが恨めしくなります。それに電話して沢渡さんのお邪魔になるといけませんから」
また大きな溜め息を吐いてから「帰るわよ」と光津さんは歩き出した。
「はい。さようなら」
「あんたも一緒に帰るのよ! まだ探し回るつもりじゃないでしょうね、もうこんな時間なんだから居ないでしょっ」
「いえ、そんなつもりは……はい、分かりました」
頭を下げて光津さんを見送ろうとした途端、光津さんが振り返って少し大きな声で私を叱った。……優しい人です。
大人しく頷き、光津さんの横に並ぶ。LDSの外に出るともう完全に日は沈み、月明かりが差していた。
「久守、あなたの家は?」
「此処から南へ15分程歩いたマンションです」
「そう、なら方角は一緒ね」
暫く無言のまま、月明かりと街灯に照らされた道を二人で歩く。私は気になりませんが、光津さんは無言が苦な人ではないんでしょうか。
「そういえばあなたのそのケース、何度か持ってるのを見かけたけど何を入れてるの? デュエルディスクを入れるには大きいわよね。それにバッグならもう一つ持ってるし」
「これはティーセットのケースです。中身はカップとポッド、それに小さいケトルなど、ティータイムに必要なものは大抵入れています」
「ああ、そういえば一昨日も沢渡が飲んでたわね。あなたの私物だったの」
「ええ。沢渡さんも喜んでくれますし、ああ、それにこれで作ったものではないですが、今日は刀堂さんにもお褒めの言葉をいただきました」
「刃が? 言っちゃなんだけど、沢渡以上に似合わないわね」
「豪快に飲み干してくれました」
「簡単に想像できるわ」
光津さんはその光景を想像し、私は思い出して、クスリと笑った。
「ああ、そうだ。一応聞いておくけど」
「何でしょうか」
「刃には勝ったの?」
「ええ、まあ」
「ふーん、そう。私に北斗、それに刃にも……トップクラスのエリートが情けないわ、なんて言ったらまたあなたを怒らせちゃうのかしら」
「いえ。事実、あなたたちはLDSでもトップクラスの実力者ですから」
「それを融合、シンクロ、エクシーズまで使って三人抜きしてるあなたは何なのよ」
「一勝しただけで実力は決まりません。それに光津さんたちも召喚方法が実力の全てではないでしょう。事実、それぞれのコースの召喚方法は私より遥かに使いこなしています」
「言ってくれるじゃない」
「事実です。光津さんには融合とエクシーズを、志島さんには融合とシンクロを使わなければ勝利するのは難しかったはずです。今日の刀堂さんはエクシーズだけでしたが、今回は運が良かっただけです」
ハンデスでシャドールが落ちなかったとはいえ、インヴォ―カーから二体のティアラミスを一気に並べられたのは運の面が強いですし。
「ですからどちらが強いと決めるのは早計ですよ」
「……そういうことにしておくわ」
「はい」
「それと久守、改めて聞きたいんだけど」
「私に答えられる事であれば」
立ち止まり、改まって私に話しかける光津さんに私も足を止め、その瞳を見つめる。
「どうして沢渡にそんなに懐いてるの?」
「それを私に語らせると家に帰れなくなりますがいいでしょうか」
「私、こっちだから。またね」
「あ、ちょ……」
マドルチェ・知らないおっさんことインヴォ―カー登場。
今回はシャドルチェデッキで影の薄いシンクロのテコ入れフラグ回。漢、権現坂さんのように刃くんに(デュエルカットした分)頑張ってもらいます。
次はアニメ3、4話相当の話になります。
沢渡さんは次回輝くから………
次回、さようなら沢渡さん、デュエルスタンバイ!