沢渡さんの取り巻き+1   作:うた野

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サブタイ通り(二回目)
ネフィリムが禁止になった2015/4の禁止制限について活動報告を更新しています。


さようなら、沢渡さん

『では襲撃犯の一人は遊勝塾の生徒を誰かと勘違いしていたんだね?』

『はい……柊柚子を見て瑠璃だとか、瑠璃を助けるにはこうするしかないとかって……その後、現れたもう一人の男に気絶させられて……消えたんです』

『消えた……か』

『本当ですっ、本当に私の目の前で消えたんです! 私はあの男から目を離さなかった!』

 

 

 

「どう思いますか、社長」

 

LDSの一室に光津真澄、刀堂刃、志島北斗は居た。

其処で光津真澄は制服組に必死に自らが見た光景を訴える。

それをモニター越しに見つめる、二人の影。赤馬零児と中島。

 

「彼女はああ言っていますが人が消えるなどと……」

「彼女はカードに封印されたマルコを尊敬していたのだろう。なら嘘を吐く必要はないはずだ。それに重要なのは襲撃犯が消えたかどうかよりも、瑠璃という名だ」

「柊柚子と見間違えていた、と言っていますが……」

「彼女の証言が真実なら、襲撃犯の一人は瑠璃という少女を救う為にLDSを襲っている。私の下にマルコとティオが封印されたカードを送って来たのも、そちらだろう」

 

これで辻褄が合う。最初の事件、沢渡を襲った黒マスクの男は『アカデミア』という言葉を、光津真澄が発見した、マルコたちを襲った男は『瑠璃』という名前を出した。

沢渡たちを襲った黒マスクの男は調査の為に沢渡を襲った。だがマルコたちを襲い、カードに封印した男は調査とは別の、明確な目的と手段を以て行動している。

 

「ならば襲撃犯の狙いは……私か」

 

赤馬零児は僅かな情報から、真実に辿り着く。そして同時に自らが選ぶべき行動も見えた。

 

 

『私は襲撃犯の顔をこの目で見ました! 私にも協力させてください!』

『僕たちにも協力させてください!』

『俺、いや僕らだって特別コースで学んだデュエリストです! 邪魔にはなりません!』

『北斗、刃……』

 

 

「馬鹿な、これ以上スクールの生徒を使うなんて……」

「いや、丁度いい。彼女たちにも協力してもらおう。彼女の言う通り、もう一人の襲撃犯の顔を見ているのは彼女だけだ」

「ですが彼女たちは生徒、しかも久守詠歌に敗北しているんですよっ?」

「構わない。これ以上の被害が出る前に、襲撃犯と接触する。それが最優先だ」

「……了解しました」

 

 

少女たちの未来が、大きく動き出そうとしていた。

 

 

 

「沢渡の件はどういたしますか」

「彼の望む通り、ペンデュラムカードを渡してやれ。既にテストはクリアしている。後は実戦に耐えうるかどうかだけだ」

「はっ」

 

 

そして彼の運命もまた、動き始めようとしていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「聞いた通りよ。襲撃犯の顔を知っている私が囮として街を歩く。制服組は私が見つけ次第すぐに動けるようLDSで待機してくれる。北斗たちも私が呼んだらすぐに来れるようにしておいて」

「ああ。 襲撃犯の特徴は? 僕も街を捜す、もしその特徴と一致する奴が居たら真澄に連絡する」

「丁度いいな。なら俺は街の外、人気のない所に行く。あの倉庫の周りにはもう近づかねえだろうしな。山の中かどっかに隠れてる可能性もあるだろ」

 

二人の提案に真澄は頷いた。

 

「分かったわ。あの男の特徴は――!?」

「……見つけました」

「く、久守……」

 

しかし男の特徴を告げる直前、突然背後から掛かった声に思わず身構える。

そこに居たのは、久守詠歌だった。

 

「や、やあ奇遇だね……」

「此処はLDSで、私も生徒なんですが」

「そ、そうだったわね」

 

……何でそんなに余所余所しい態度なのでしょうか。

 

「刀堂さん、権現坂さんの連絡先です。早く連絡してあげてください」

「ああ、悪い……」

「権現坂、ってあの時刃とデュエルした奴よね。なんでそいつの連絡先なんか?」

「ん、まあ色々あってな」

「刃の弟子になったんだよ」

「弟子……?」

「時間もありませんから、早く教えてあげてくださいね、師匠」

「茶化すなよ……分かってるって」

 

権現坂さんから教わったコードを刀堂さんに伝える。これで後は二人次第だ。大会まで間に合うのかどうか、そして大会に出られるのかどうか。榊さんの三戦目のデュエルももうすぐだそうですし。

 

「んじゃ、俺は行くわ。心配しなくても自分の仕事はきっちりやっからよ。何かあったら連絡してくれ」

「あっ、刃!」

「行かせてやってくれ。刃もやる気になってるのさ」

「……分かったわよ。私たちも行くわよ、北斗」

「また調査に?」

「ええ」

「……気を付けて下さい」

「分かってるわ。あなたも、遅くならない内に帰りなさい」

「……」

 

私の心配より、自分の心配をしてほしいです。

まるで逃げるように走り去る光津さんたちを見送りながら、そう思った。

 

 

「……何ボーっとしてんだ」

「沢渡さん!」

 

そんな事を考えていたからだろう、いつの間にか私の背後に立っていた沢渡さんに気付けなかったのは。

 

「いらしてたんですね!」

「ああ。それで、どうしたわけ? こんな所に突っ立って」

「いえ、光津さんたちを見送っていただけですっ」

「例の襲撃犯の調査か。飽きないね、あいつらも」

 

少しだけ呆れたように沢渡さんが言う。

 

「沢渡さんは気にならないんですか? あの、榊さんに似たデュエリストの事」

「もう一度俺の目の前に現れたら相手してやるさ。けど、わざわざこの俺が捜してやる理由はない」

 

やはり沢渡さんにとって今、一番の目的は榊さんへのリベンジのようだ。うん、その方がいい。沢渡さんには前だけを見ていてもらいたい。それ以外の余計なものなんて、全部無視して進んでほしい。

 

「そういうお前はどうなんだ」

 

ぶっきらぼうに私に尋ねる沢渡さんだけど、私の身を案じて言っている事は伝わって来る。だから、私の答えは決まっていた。

 

「私も同じです。また私の前に現れたら相手をしてあげますっ」

「はっ、言うようになったじゃねえか」

 

こんな冗談めかしに言えるのも沢渡さんや皆のお蔭だ。私はもう大丈夫。もう、見失ったりしない。……もしもまた沢渡さんを笑う様な事があれば今度こそ許しませんが。

もう、彼に私怨はない。戦う理由は赤馬さんからの依頼と、何より大切な友人の為だからだ。

 

「それで沢渡さん、今日は――」

 

私がこの後の予定を尋ねようとした時だった。

 

「すまない、少しいいかな」

「ん? ……中島さん?」

 

私たちの背後から音もなく近づいていた中島さんが声を掛けて来たのは。

 

「……何か、御用ですか」

 

依頼の件だろうか。それなら場を変えて、その意味を込めて現れた中島さんに視線を向ける。

 

「ああ。沢渡、君に話がある」

 

しかし、中島さんが呼んだのは沢渡さんの名だった。

 

「俺に? ……へえ」

 

何か心当たりがあるのか、沢渡さんは笑みを浮かべた。

 

「ご指名なんでな。久守、お前は適当に講義を受けて帰れ」

「え……それなら沢渡さんを待って……」

「気にすんな。俺は俺でやる事が出来た」

 

私の申し出は沢渡さんにあっさりと却下される。

 

「ならついてきてくれ」

「はいよ。それじゃあな久守」

 

中島さんに促され、沢渡さんは私に後ろ向きに手を上げて去って行った。

……沢渡さん。

光津さんも志島さんも刀堂さんも、皆去って行ってしまった。大伴たちも今日はLDSには来ない。一人ぼっちになってしまった。

……ま! 今の私にとっては一人でも問題ありません! 私たちは固い絆で結ばれた友達ですからね! せいぜい物凄く寂しくて心細いだけです!

が、そんな時の為のデュエルです! 今日の講義は張り切って頑張ります!

 

「……あ、今日は座学だけ……」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

その夜、沢渡さんからメールが来た。

 

『また暫くLDSには行かない。もう一度デッキを組み直す』

 

簡潔で、けれど強い意志の籠ったメール。

分かってはいた。榊さんに勝つ為に組み上げたデッキはあの黒マスクの男に敗れた。それに改良を施し、私を倒したデッキでもまだ沢渡さんは満足していないという事は。

けれどどうして今、なんでしょうか……私とのデュエルが終わってすぐではなく、何故……。

 

LDSがペンデュラムカードを独自に開発しているという噂。そして今日現れた中島さん。……やはり関係があるのでしょうか。

 

「考えても分からない、ですけど」

 

ベッドの上で沢渡さんからのメールを何度も読み返し、文を指でなぞる。それで何かが分かるわけでもない。

デュエルディスクを置いて、エクストラデッキを取り出してベッドに並べる。

紫、白、黒、3色のカードたちが輝いていた。

紫。私がこの世界にやって来た時に得た、シャドールたち。

黒。私と共にこの世界にやって来た、マドルチェたち。

そして白。刀堂さんから頂いた、この世界で私が手に入れたカード。

 

「……少しだけ、選手権に出られないのが残念かな」

 

この子たちと舞台に上がれないのが、少しだけ残念。

デュエルとカードに対する恐怖はもうない。むしろ、もっともっとデュエルがしたい。少しでも沢渡さんに近づけるように、沢渡さんに負けないくらい、強くなって、もう一度デュエルがしたい。

 

「大会には出られないけど、力を貸して。……友達を助ける為に」

 

マルコ先生たちを昏睡状態に追いやった襲撃犯を倒す為に。

 

「沢渡さんも頑張っているんです、私も頑張らないとっ」

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

メールを打ち終え、沢渡はベッドに体を投げ出した。

デッキをディスクから取り出し、眼前に掲げる。

 

「こいつで俺は榊遊矢に勝つ」

 

一番上に輝く、‟二色”のカード。それを眺め、笑みを浮かべる。

かつて一度は手にし、しかし奪い返されたモノが今の沢渡の手にはある。

 

「榊遊矢、首を洗って待っていやがれ。この俺の伝説のリベンジデュエルをな……!」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

数日後

 

「…………」

 

「……な、なあ、柚子、あれって」

「何も言わないで……言わないであげて」

 

榊遊矢のジュニアユース選手権出場を賭けた四戦、その三戦目、方中ミエルとの試合を彼が終えた後、遊矢の勝利を喜ぶ遊勝塾の面々は偶然、街のベンチに座り込む久守詠歌の姿を見つけた。

 

「……沢渡さん、ああ沢渡さん、沢渡さん」

 

「……な、何か詠み始めたぞ」

「季語が入ってないわね……」

「いやそこじゃないだろ……」

 

ベンチに座り意味不明な一句を詠む詠歌を遊矢たちは少し離れた所から見守っていた。

 

「詠歌お姉ちゃん……」

「滅茶苦茶落ち込んでるぜ、何かあったのかな?」

「うーん、デュエルでスランプとかかな?」

 

今の妄言が聞こえなかったのか、見守りながら何が原因なのかと首を傾げるフトシとタツヤを他所に、彼らの中では最も詠歌の事を理解しているアユと柚子は内心で呟いた。

 

((また沢渡か……))

 

しかしながら、あの状態の詠歌に話しかけるのは中々勇気がいる、だが見てしまった以上無視することも出来ない。アユと柚子は視線を交わし、頷くと意を決して詠歌に近づこうとした。

 

「ねえねえくもりん、こんな所で何してるの?」

 

が、それよりも早くいつの間にかキャンディーを咥えた少年、紫雲院素良が臆する事もなく近づき、自然な調子で声を掛けていた。

 

「くもりん……そう言うあなたはさわたりん、なんて…………って、あっ、え、と、素良さん……?」

 

顔を上げ、虚ろな目でそんな事を呟いて二ヘラと笑った後、漸く詠歌は正気に戻り、素良に気付いた。

 

「うん、久しぶり、くもりん」

「あ、はい。お久しぶりです、素良さん」

 

……随分とボーっとしていたみたいです。気付けば夕方、素良さんに話しかけられるまで意識が飛んでました。

ええと、今日は講義もないし、沢渡さんも相変わらずLDSに来ないので、例の襲撃犯を捜しに街を歩いていた(勿論、光津さんにバレたら怒られるので隠れて)んでした……が、いつの間にかこんな時間になっていた。うぅ、いけませんね、沢渡さんも頑張っているのに。

 

「あっ、それに柊さんたちも……」

「え、ええ。こんにちは、久守さん」

 

視線を動かすと何故か引きつった笑みを浮かべる柊さんたちが近づいて来ていた。

 

「こんにちは、詠歌お姉ちゃん!」

「はい、こんにちは、アユちゃん」

 

あのお見舞いの後も何度か顔を合わせているし、アユちゃんとの関係は良好です。

 

「今日は皆さんお揃いなんですね。何かあったんですか?」

「へっへへーん、今日は僕のジュニアユース選手権出場決定を祝して大パーティー!」

「って、まだ早い!」

 

笑顔と大きな手振りで喜びを表した素良さんを榊さんが窘める。

 

「俺は後一戦残ってるんだ。祝うのはそれが終わってからっ」

「後一戦……」

「ん、ああ。たった今試合を終えてさ。後一勝すれば俺も勝率六割達成で選手権の出場資格を満たせるんだ」

 

……あれから刀堂さんから権現坂さんの詳しい話は聞いていない。けれど、榊さんが後一勝まで来たという事は……その時が迫っているという事だ。

 

「そういや、LDSの刀堂刃が妙な事を言ってたんだよなあ……」

「……榊さん、頑張ってください。応援しています……どちらの事も」

「え? ああ、うん。ありがとな」

 

榊さんに勝ってもらいたい、勝って、沢渡さんと大会でデュエルをしてもらいたい。けれど、刀堂さんに師事している権現坂さんの事も……。どちらにせよ、それを決めるのは二人のデュエルだ。私が口を出して何かが変わるわけでもない。素直に二人を応援しよう。

 

「……」

「……? 柊さん?」

「えっ? あ、ううん、何でもないの。気にしないで」

 

心此処に在らず、と言うように考え込むような表情を見せた柊さんが気になり名前を呼ぶが、慌てたように手を振って柊さんは誤魔化した。私も人の事は言えないのでそれ以上追及する事はしない。

 

 

(……『君にこのカードは似合わない』、か……)

 

 

柚子の心に過るのは黒マスクをした、遊矢に良く似た少年の言葉。つい先ほど、方中ミエルとのデュエルで遊矢の融合召喚を見たからか、彼に言われた言葉が頭から離れなかった。

 

 

「それより久守さんも一緒にどう? パーティーはまだだけど、せっかくだから何か食べに行かない?」

「あっ、それいい!」

「僕もさんせーい!」

 

柊さんの提案にアユちゃんと素良さんは仲良く手を上げ賛同する。……私も賛成です。

 

「はい、それなら是非。行き詰っていた所ですから」

「決まりね、遊矢たちもいいでしょ?」

「ああ。次の試合に向けて英気を養わないとな」

「うん、僕も賛成」

「それじゃ、しゅっぱーつ!」

 

榊さんたちも頷くと、フトシくんが先導し、歩き始めた。こんな大人数で出掛けるなんて初めてです。少し前までは沢渡さんと山部たちとずっと一緒でしたから。

 

「何処にし――――あっ」

 

私もそれに続こうとした時、柊さんが声を上げた。私を含め、皆が柊さんを見る。

 

「っ!」

「あっ、何処行くの柚子姉ちゃんっ?」

「ごめんっ、ちょっと用事思い出して! 私の事は気にしないで!」

 

タツヤくんの問い掛けにそれだけ返し、柊さんは走り去って行った。……なんだろう、何か……嫌な予感がする。

 

「…………すいません、私もやはり用事を済ませたいと思います。また、よかったら今度は榊さんたちの出場決定パーティーの時に誘ってください。ささやかですが紅茶とケーキをご馳走しますから」

「あっ、詠歌お姉ちゃんまでっ?」

 

私もそれだけ伝えて、柊さんが走り去った方へ足を向けた。

 

「本当!? 約束だからねー! くもりーん!」

「はいっ!」

 

素良さんに手を上げて答え、私は柊さんを追った。

 

 

 

 

 

柊さんを追って辿り着いたのは、人影のない路地裏だった。……まさかこの先に柊さんが? それとも途中で見失ってしまったのだろうか。……とにかく、先に進もう。この嫌な予感が気のせいなら、それでいい。

 

 

「囚われた仲間……それが瑠璃……!?」

 

 

路地裏を進んだ先、柊さんはそこに居た。

そして、

 

「ッ!」

 

忘れるはずのない、黒マスクの男も。

 

「えっ、久守さん……!?」

「君は、あの時の……」

 

「……久しぶりですね」

「……」

 

男の表情はマスクに隠れ、窺い知れない。

 

「あなたが此処に居るという事は、やはりこの先にもう一人の襲撃犯が居るんですね」

「久守さんっ、この先に真澄もっ」

「ッ――」

 

柊さんが先ほど急に走りだしたのは、光津さんを見つけたからか。こんな近くにいながら気付かないなんて、自分が情けない。

……まだ、間に合うはずだ。

 

「久守さんッ!?」

 

無言で私はデュエルディスクを構え、男へと近づく。

男もまた身構え、デュエルディスクに手を掛けようとした。

 

「俺の仲間の邪魔はさせない……!」

「待って久守さん! またいきなりデュエルなんて……! この人に話を聞かせて!」

 

あの時と同じように、柊さんが私たちの間に両手を広げ立ち塞がった。

すいません、柊さん……!

 

「ッ!」

「え――」

 

一瞬、男の意識が柊さんに向いた瞬間、私は二人の横を走り抜ける。

今、私がすべきことは柊さんの言う通り、この男とデュエルする事じゃない。この先に進む事だ……!

 

「私は私のやるべき事をします! 柊さんも、自分のやるべき事を、やりたい事をやってください!」

 

振り返らず、立ち止まらず、そう叫んで私は路地裏を抜けた。

そして、その先で見たのは――

 

 

 

 

 

「い、16400……!?」

「そんな……!」

「マジ、かよ……!?」

 

炎を纏う‟隼”の姿。

 

「バトルだッ! RR(レイド・ラプターズ)―ライズ・ファルコン!」

「待――!」

 

「全ての敵を引き裂けッ! ――ブレイブクロー レボリューション!」

 

MASUMI LP:0

HOKUTO LP:0

YAIBA LP:0

 

 

「あ…………」

 

私の制止の声は何の意味もなさず、隼は光津さんたちのモンスター全てをその爪で引き裂いた。

 

「こ、光津さん! 志島さん! 刀堂さんッ!」

 

吹き飛ばされ、倒れた光津さんたちに駆け寄り、光津さんを抱き起こす。

 

「光津さんっ、光津さん!」

 

けれど、光津さんたちから反応は返って来なかった……だい、じょうぶ、息はある。ただ気絶しているだけだ。

 

「……」

 

光津さんをゆっくりと地面に下ろし、私は隼を操るデュエリストを見上げた。

 

「お前もそいつらの仲間か。だが遅かったな」

「……あなたが、LDSの講師たちを襲った襲撃犯ですか」

「そうだ」

 

私の問いを否定することなく、男は頷いた。

 

「なら……今度は私が相手です」

「お前が? ……ふん、もう雑魚共の相手はたくさんだ」

「……雑魚かどうかはデュエルをすれば分かります」

 

大きく息を吐き、立ち上がる。

……もう、あの時のような愚は冒さない。自分を見失うな。私が今成すべき事は怒りに身を任せる事じゃない。この男を倒し、LDSに連れて行く。

 

『久守詠歌!? 何故お前が其処に居る!』

「……中島さんですか」

 

デュエルディスクに通信が入り、中島さんの責めるような声が聞こえて来た。

 

「偶然ですよ。でも、襲撃犯は見つけました。赤馬さんから受けた依頼、今達成しましょう」

『待て! まだ何も指示は――』

 

強制的に通信を切る。指示を待つまでもない。襲撃犯は目の前に居る。

 

「どうやらお前は上の連中と繋がりがあるようだな」

「ええ。あなたたちの目的は知らない。けど、LDSの上層部に用があるなら私とデュエルをしましょう。勝っても負けても、会えると思いますよ」

「……いいだろう」

 

男も再びディスクを構えた。

準備は整った。目的は分からないけど、LDS上層部に用があるならこれで逃げる事はない。逃がすつもりも、ない。

 

「……待っていてください、光津さん」

 

私の力を押し付ける、今がその時です。

 

 

「デュエル!」「デュエル!」

 

EIKA VS KUROSAKI

LP:4000

 

「私のターン! 私は手札からマドルチェ・エンジェリーを召喚! そして効果発動! このカードをリリースする事でデッキから新たなマドルチェを特殊召喚する! 来て、マドルチェ・プディンセス!」

 

マドルチェ・プディンセス

レベル5

攻撃力 1000

 

「エンジェリーの効果で特殊召喚されたプディンセスは戦闘では破壊されず、次の私のターンのエンドフェイズに私のデッキに戻る……さらにフィールド魔法、マドルチェ・シャトーを発動! このカードが存在する限り、私のフィールドのマドルチェたちは攻撃力、守備力が500ポイントアップする。そしてこのカードが発動した時、墓地のマドルチェをデッキに戻すッ。さらにプディンセスは墓地にモンスターカードが存在しない時、攻撃力、守備力を800ポイントアップさせる!」

 

マドルチェ・プディンセス

攻撃力 1000 → 1500 → 2300

 

お伽の国に現れるお姫様、私の心強い、仲間。力を貸して……!

 

「カードを一枚セットし、ターンエンドッ」

「俺のターン……! 俺はRR―バニシング・レイニアスを召喚」

 

現れたのは機械の体を持つ、鳥獣。

 

「さらにこのカードの召喚、特殊召喚に成功した時、手札のバニシング・レイニアスを特殊召喚出来る」

 

RR―バニシング・レイニアス ×2

レベル4

攻撃力 1300

 

……先程のデュエル、光津さんたちを攻撃した隼、一瞬だったけれど確かに見えた。その身に纏う炎と、オーバーレイユニットを。

やはりこの男も同じ、エクシーズ使い……聞いていた通りですね。

 

「そして場にバニシング・レイニアスが存在する時、手札からRR―ファジー・レイニアスを特殊召喚出来る」

 

RR―ファジー・レイニアス

レベル4

攻撃力 500

 

「レベル4のモンスターが三体……」

 

来るか。けれどたとえどれだけ強力なモンスターであっても、私の場のプディンセスはこのターン、戦闘では破壊されない。

 

「俺は特殊召喚されたレベル4のバニシング・レイニアスとファジー・レイニアスでオーバーレイ! 現れろ、ランク4! RR―フォース・ストリクス!」

 

RR―フォース・ストリクス

ランク4

攻撃力 100 → 600

ORU 2

 

「このカードは自分の場のこのカード以外の鳥獣族モンスターの数×500ポイント、攻撃力、守備力をアップするッ。そして俺の場にRRのエクシーズモンスターが存在する時、手札からRR―シンギング・レイニアスを特殊召喚!」

 

RR―シンギング・レイニアス

レベル4

攻撃力 100

 

RR―フォース・ストリクス

攻撃力 600 → 1100

 

「さらにフォース・ストリクスのモンスター効果、発動ッ。オーバーレイユニットを一つ使い、デッキからRR―シンギング・レイニアスを手札に加え、シンギング・レイニアスの効果で特殊召喚する! そしてオーバーレイユニットとして墓地に送られたファジー・レイニアスの効果、デッキからファジー・レイニアス一体を手札に加え、特殊召喚する」

 

RR―ファジー・レイニアス

攻撃力 500

 

RR―シンギング・レイニアス×2

攻撃力 100

 

RR―フォース・ストリクス

攻撃力 1100 → 1600

ORU 2 → 1

 

「レベル4のシンギング・レイニアスとファジー・レイニアスでオーバーレイ! 現れろ、RR―フォース・ストリクス!」

 

目まぐるしく展開していく男のフィールドに、思わず舌打ちそうになる。黒マスクの男と同じ、この男も一筋縄で行く相手じゃない……!

 

「フォース・ストリクスの効果、オーバーレイユニットを一つ使い、デッキからシンギング・レイニアスを手札に、そして特殊召喚!」

「……そしてファジー・レイニアスの効果でファジー・レイニアスを手札に加える」

「ふん、俺は手札に加わったファジー・レイニアス一体を特殊召喚し、ファジー・レイニアスとシンギング・レイニアスでオーバレイ!」

 

RR―フォース・ストリクス ×3

攻撃力 100 → 2100

 

「さらに三体目のフォース・ストリクスの効果を使い、デッキからバニシング・レイニアスを手札に加える。俺はカードを二枚伏せ、ターンエンド」

 

RR―バニシング・レイニアス

攻撃力 1300

 

RR―フォース・ストリクス ×3

攻撃力 100 → 1600

ORU 1

 

特殊召喚とエクシーズ召喚を繰り返した男のフィールドには四体のモンスターと伏せカード二枚……けれどどうして攻撃力の低いフォース・ストリクスやバニシング・レイニアスを攻撃表示で……攻撃を誘っているのか。

 

「私のターン、ドロー!」

 

良し、これなら……!

 

「私は手札から魔法カード、影依融合(シャドール・フュージョン)を発動!」

「融合……ッ!」

「……!?」

 

私がカードを発動した瞬間、男の瞳に初めて感情の色が宿った。強い、恐ろしいほどの……憎悪の色。

 

「っ、このカードは相手フィールドにエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが存在する場合、手札、フィールド、そしてデッキのモンスターを素材として融合召喚出来る! 私が融合するのはデッキのエフェクト・ヴェーラーとシャドール・ビースト! 人形を操る巨人よ、お伽の国に誘われた堕天使よ、新たな道を見出し、宿命砕け! 融合召喚! 来て、エルシャドール・ネフィリム!」

 

エルシャドール・ネフィリム

レベル8

攻撃力 2800

 

「ネフィリムの効果、このカードが特殊召喚に成功した時、デッキからシャドールカード一枚を墓地に送る――私はシャドール・ファルコンを墓地に。そして融合素材として墓地に送られたビーストの効果を発動! デッキからカードを一枚ドローする!」

「……」

「さらにシャドール・ファルコンのモンスター効果発動! このカードを裏守備表示で特殊召喚!」

 

シャドール・ファルコン(セット)

レベル2 チューナー

守備力 1400

 

「そして融合によってモンスターが墓地に送られた事により、プディンセスの攻撃力、守備力は800ポイントダウンする……」

 

マドルチェ・プディンセス

レベル5

攻撃力 2300 → 1500

 

けれど、あの男の場のモンスターの攻撃力なら問題はないッ。

 

「バトル! エルシャドール・ネフィリムでバニシング・レイニアスを攻撃! オブジェクション・バインド!」

 

男の場に残っているバニシング・レイニアスは最初に通常召喚された方、ネフィリムの効果は発動せず、効果ではなく戦闘破壊となる。よって戦闘ダメージも発生する……!

 

KUROSAKI LP:2600

 

「そしてバニシング・レイニアスが破壊された事にフォース・ストリクスの攻撃力も変動する!」

 

RR―フォース・ストリクス ×3

攻撃力 1600 → 1100

 

「マドルチェ・プディンセスでフォース・ストリクスを攻撃! プリンセス・コーラス!」

「……」

 

KUROSAKI LP:2200

 

 

「プディンセスのモンスター効果! この子がバトルした時、相手フィールドのカード一枚を破壊する! 破壊するのはもう一体のフォース・ストリクス! 姫君の特権(プリンセス・コール)!」

 

RR―フォース・ストリクス

攻撃力 1100 → 100

 

これで残ったのは攻撃力100のフォース・ストリクスが一体だけ……!

 

「罠、発動! RR―リターン! 戦闘では破壊されたバニシング・レイニアスを手札に戻すッ」

「ッ……」

 

二体のエクシーズモンスターは破壊した……けれど、再びバニシング・レイニアスが男の手札に……光津さんたちを倒したエクシーズモンスター、必ずこの男は召喚して来る。

どんな効果かは分からないけれど、私にも策はある。

 

「ターンエンド。この瞬間、エンジェリーの効果で特殊召喚されていたマドルチェ・プディンセスはデッキへと戻る」

 

何処か心配そうな表情でプディンセスはデッキへと戻っていた。……ありがとう。でも私は大丈夫。

 

「……やはり貴様らLDSからは鉄の意思も鋼の強さも感じられない……! 時間の無駄だったな」

「……言ってくれますね。あなたのデュエルにはそれがあるって言うんですか」

 

男は答えない。でもそれは無言の肯定と同じだ。

 

「仮にそうだとしても、関係のない人を襲い、私の友人を悲しませた……誰かを悲しませる強さなんて、私はいらない! 私が欲しいのは大切な人を守る力、大切な人と共に歩んでいく為の力ッ!」

「――俺のターン……! 手札からバニシング・レイニアスを召喚ッ、さらにモンスター効果により手札からもう一体のバニシング・レイニアスを特殊召喚!」

 

RR―バニシング・レイニアス ×2

レベル4

攻撃力 1400

 

「俺は永続魔法、RR―ネストを発動! フィールドにRRの同名モンスターが二体存在する時、デッキまたは墓地から同名モンスター一枚を手札に加える!」

「三枚目……!」

 

男の手に、オーバーレイユニットとしてフォース・ストリクスと共に墓地へ送られた3枚目のバニシング・レイニアスが加わる。

 

「そして二体目のバニシング・レイニアスの効果により、特殊召喚!」

 

RR―バニシング・レイニアス ×3

攻撃力 1400

 

「貴様を倒し、瑠璃を取り戻す……! レベル4のバニシング・レイニアス三体でオーバーレイ!」

「来る……!」

 

「雌伏の隼よ。逆境の中で研ぎ澄まされし爪を挙げ、反逆の翼翻せ! エクシーズ召喚! 現れろォ! ランク4! RR―ライズ・ファルコン!」

 

「ッ――!」

 

闇の中から現れた、六つの複眼に赤い光を灯した隼。これだ、このモンスターが光津さんたちを……!

 

RR―ライズ・ファルコン

ランク4

攻撃力 100

ORU 3

 

攻撃力はたったの100……しかし三体のモンスターを素材としたエクシーズモンスター、それだけじゃない。

それにあの鋭い眼光は、私の体をビクリと震えさせる。何か、恐ろしい効果がある……。

 

「このカードは相手の場の特殊召喚されたモンスター全てに一度ずつ攻撃することが出来る」

「っ、私の場に存在するのは特殊召喚されたシャドール・ファルコンとネフィリムの二体……!」

 

特殊召喚されたモンスターを対象とする効果、ネフィリムたちと同じ……! 残るはオーバーレイユニットを使用する効果……一体何がッ。

 

「ライズ・ファルコンのモンスター効果発動! オーバーレイユニットを一つ取り除き、敵のフィールドの特殊召喚されたモンスターの攻撃力を自らの攻撃力に加える!」

「ッ!」

 

一体だけでなく、全てのモンスターの攻撃力分……! この効果で光津さんたちは……!裏側守備表示のファルコンの攻撃力が加わる事はない、よって加わるのはネフィリムの攻撃力、2800。

 

RR―ライズ・ファルコン

攻撃力 100 → 2900

ORU 3 → 2

 

「――バトルだ、ライズ・ファルコン! セットモンスターとエルシャドール・ネフィリムを攻撃! ブレイブクロー レボリューション!」

 

炎を纏い、隼は大空へと舞い上がる。

でも、その効果ならば!

 

「シャドール・ファルコンのリバース効果、発動! 墓地のシャドールモンスター一体を裏側守備表示で特殊召喚する! お願い、ファルコン!」

 

機械仕掛けの隼の爪が私の隼を引き裂く寸前、シャドール・ファルコンもまた上空へと舞い上がり、私の墓地から仲間を連れ帰る。

 

「シャドール・ビーストを裏側守備表示で特殊召喚!」

 

シャドール・ビースト(セット)

レベル5

守備力 1700

 

「無駄だ! ライズ・ファルコンは全ての敵を引き裂く! 行け!」

「けれどこの子もまた、次へと希望を繋いでくれる! ビーストのリバース効果! デッキからカードを二枚ドローし、手札を一枚墓地へ送る! 私は手札のマドルチェ・バトラスクを墓地へ!」

 

ビーストもまた隼の爪へと引き裂かれる。残ったのはネフィリムだけ、でも!

 

「ネフィリムのモンスター効果! 特殊召喚されたモンスターと戦闘する時、ダメージ計算を行わずにバトルしたモンスターを破壊する! お願い、ネフィリム! ストリング・バインド!」

 

シャドールたちを総べる女王の力で、隼を打ち砕いて!

 

「カウンター罠、発動! エクシーズ・ブロック! ライズ・ファルコンのオーバーレイユニットを一つ取り除き、相手モンスターの効果を無効にし、破壊する!」

 

RR―ライズ・ファルコン

ORU 2 → 1

 

「くっ……!」

 

あの時と、黒マスクの男のデュエルと同じカード……でも私はあの時とは違う! 方舟にはもう、頼らない!

 

「ネフィリムのもう一つの効果! このカードが墓地に送られた時、墓地のシャドールと名の付く魔法、罠カードを手札に加える! 私が加えるのは影依融合!」

 

……これで、私の場のモンスターは全て破壊された。けれどライフに傷はなく、シャドールたちは次へと繋いでくれた。

 

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド。同時にライズ・ファルコンの効果が終了し、攻撃力が元に戻る」

 

RR―ライズ・ファルコン

攻撃力 2900 → 100

 

「私のターン、ドロー!」

 

効果が終了した今、ライズ・ファルコンは攻撃力100のモンスターでしかない……!

 

「魔法カード、影依融合を発動! デッキに存在する二枚目のシャドール・ファルコンとフレア・リゾネーターを融合! 影糸で繋がりし隼よ、炎の調律者と一つとなりて、神の写し身となれ! 融合召喚……! 来て、見張る者! エルシャドール・エグリスタ!」

 

エルシャドール・エグリスタ

レベル7

攻撃力 2450

 

私の後ろに降り立ったのは宝玉をその身に宿し、赤い影糸を翼のように広げる巨人だった。

 

「さらにファルコンの効果、このカードを裏側守備表示で特殊召喚する! もう一度蘇れ、影糸で繋がる隼よ!」

 

ライズ・ファルコンに応じるかのように、エグリスタと同じ赤い影糸を帯びた隼が再び姿を現す。

男のライフは残り2200……けれど、油断はしない。

 

「手札からマドルチェ・シューバリエを召喚! そして罠カード、堕ち影の蠢きを発動! デッキからシャドールカードを一枚墓地に送り、シャドール・ファルコンを表側表示へと変更する! デッキから影依の原核(シャドールーツ)を墓地に送り、効果を発動! 墓地の影依融合を手札に加える!」

 

男の場には伏せカードが一枚……本来ならドラゴンを墓地に送り、破壊する所ですが……私はそれで沢渡さんに敗北した。それに、先ほどの光津さんたちとのデュエル……3対1であの三人の攻撃を凌ぎ切るのは容易な事ではない。それに何より、志島さんのバウンスと刀堂さんのハンデス戦術を凌いだのはただカードを伏せたり、モンスターの効果だけではないはずだ。恐らく、墓地で発動するカードも存在しているはず……。なら私はそれに賭ける。

 

 

マドルチェ・シューバリエ

レベル4

攻撃力 1700 → 2200

 

シャドール・ファルコン

レベル2 チューナー

守備力 1400

 

ファルコンの効果は一ターンに一度のみ、よって効果は発動しない。でも、これでいい。

 

「……」

 

残るはライズ・ファルコンだけ。これ以上の効果が残されているとは思えないけれど……力を貸してください、刀堂さん!

 

「私はレベル4のマドルチェ・シューバリエにレベル2のシャドール・ファルコンをチューニング!」

 

私の、私たちの力でこの男を――!

 

「魂を照らす太陽よ、お伽の国の頂に聖火を灯せ! ――シンクロ召喚! 人形たちを依代に降臨せよ! レベル6、メタファイズ・ホルス・ドラゴン!」

 

メタファイズ・ホルス・ドラゴン

レベル6

攻撃力 2300

 

私のフィールドに降り立ったのは、幻想的な白き輝を放つ龍だった。

刀堂さんが私に託してくれた、シンクロモンスター。

 

「メタファイズ・ホルス・ドラゴンの効果発動! このカードのシンクロ召喚に成功した時、素材となったチューナー以外のモンスターが効果モンスターだった場合、相手フィールドの表側表示になっているカードの効果を無効にする! 私が選択するのはRR―ライズ・ファルコン!」

 

ドラゴンの咆哮と共に輝きを増した光に照らされ、ライズ・ファルコンの身から効果が失われた。

 

「エクシーズモンスターの真価は己の魂たるオーバーレイユニットを使い、敵を滅する事……けれどこれで、その効果すら封じた!」

「……」

「さあ……懺悔の用意は出来ていますか」

 

かつて光津さんに向けて言い放った台詞を、男に向かって言い放つ。これで、終わらせる!

 

「バトル! メタファイズ・ホルス・ドラゴンでライズ・ファルコンを攻撃! 降天のホルス・フレア――!」

「――罠発動、逆境!」

「ッ――!」

 

リバースされたカードのテキストには墓地で発動する効果は記されていない。読み違えた……!

 

「相手モンスターより攻撃力が低いモンスターが攻撃を受けた時、その破壊とダメージを無効にし、さらに攻撃力を1000ポイントアップさせる!」

 

RR―ライズ・ファルコン

攻撃力 100 → 1100

 

「まだッ! エルシャドール・エグリスタでライズ・ファルコンを攻撃! この一撃で、今度こそ!」

 

エグリスタはその巨大な拳を振り上げ、隼へと振り下ろした。

 

「……」

 

KUROSAKI LP:850

 

そしてその拳は隼を砕き、男へとダメージを与えた。

 

「はぁっ、はぁ……私はカードを一枚セットし、ターンエンド」

 

ライズ・ファルコンは破壊され、あの鋭い眼光からは解放された。けれど、私の体から緊張は解けない。

 

「これで貴様は最後のチャンスをふいにした。お前の言う守る力も、お前には備わっていない……!」

「まだ、デュエルは終わっていない……!」

「このターンで終わりだ――俺の、ターン!」

 

その瞬間、私は理解した。

私を震えさせていたのはあのモンスターのせいだけじゃない。

この男の目と、意思。

 

「俺は手札から魔法カード、ディメンション・エクシーズを発動! ライフが1000以下で俺の場、手札、墓地のいずれかに同名カードが三枚揃っている時、それを素材にエクシーズ召喚するッ」

「――!」

「俺は墓地のバニシング・レイニアス三体でオーバーレイ! 現れろォ! RR―ライズ・ファルコン!」

「あ、く……」

 

再び、機械仕掛けの隼はその姿を現した。

 

「ライズ・ファルコンのモンスター効果、発動! オーバーレイユニットを一つ使い、貴様の場のモンスター全ての攻撃力を自らに加える!」

 

RR―ライズ・ファルコン

ランク4

攻撃力 100 → 2400 → 4850

ORU 3 → 2

 

「バトルだッ! ライズ・ファルコン、全ての敵を引き裂け――! ブレイブクロー レボリューション!!」

 

「――きゃあああ!!」

 

 

EIKA LP:0

WIN KUROSAKI

 

 

「っ、く……光、津さ……」

 

私は光津さんの隣へと吹き飛ばされた。

朦朧とする意識の中、光津さんへと手を伸ばす。

けれど、その手は届くことなく、私の意識は遠退いて行く。

 

圧倒的、だった……私が得た強さなんて、話にならない程に。

これが、この男の言う、鉄の意思と、鋼の、強さなの……?

この力の前じゃ、私は何も――

 

意識が完全に途切れる瞬間、複数の足音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

意識が浮上する。

 

「此処、は……」

 

目を開くと、見覚えのない天井。けれど鼻を刺す消毒液の臭いは‟何故か”慣れ親しんだものに感じた。

 

「……LDSの、医療施設、か……」

 

こうしてベッドに横になるのは初めてだが、景色に見覚えがあった。

 

「……痛っ」

 

体を動かすと走った痛みに頭を押さえると、包帯の感触が手に伝わった。

どうして私は此処に居るんだろう、その原因を思い出そうと記憶を辿ろうとした時、ベッドの傍に置かれたデュエルディスクが通信を繋いだ。

 

『目が覚めたようだな、久守詠歌』

「ん、ああ……中島さん、ですか」

 

その声には聞き覚えがあった。

 

『目覚めたばかりですまないが、社長がお呼びだ。すぐに来て欲しい』

「赤馬社長が……? 分かりました、今すぐ伺います」

 

まだ意識がはっきりしない。この怪我と何か関係のある話だろうか。

ともかく、上に向かおう。

 

 

 

「失礼します、久守詠歌です」

「ああ。呼び立ててすまない」

「いえ」

 

社長室に入室するといつかと同じように赤馬社長と中島さんが奥のテーブルで私を待っていた。

 

「怪我は平気かね?」

「はい。少し痛みますが、見た目程じゃありません」

「それは良かった。覚えているか? 再び襲撃犯に襲われた君をLDSのチームが発見したんだ」

「襲撃……」

 

その単語に記憶が呼び戻される。……ああ、そうだ。

 

「……申し訳ありません、また失態を」

「気に病む必要はない。君のおかげで調査も進んだ」

「はい」

 

そう、私はあの‟黒マスクの男”にまた敗れた。

少し改良を加えた程度のデッキでは、歯が立たなかった。

 

「……依頼は必ずを完遂してみせます」

 

二度も敗れておいて何を言うのか、と自分でも笑いたくなる。

……情けない。

しかし、赤馬社長は頷いた。

 

「ああ。よろしく頼む」

「っ、はい!」

 

良かった……まだ、私にはチャンスがある……!

 

「君の任務の達成の助けになればと思いこれを用意した」

 

社長が目配せすると中島さんが私にカードを差し出した。

 

「これは……?」

「レオ・コーポレーションが開発したペンデュラムカードだ。まだ試作段階だが、君ならば使いこなし、完成へ近づけてくれると信じている」

「ペンデュラムカード……!」

 

受け取ると、それは確かに二色の輝きを持つ、ペンデュラムカードだった。

 

「それから君のデッキもだ。ペンデュラムカードを加えるにあたり、君のデッキにも調整を施させてもらった」

 

次に渡されたのは私のデッキ。……良かった、ディスクに装着されていなかったから気になっていたんです。

 

「このカードを使い、今度こそ任務の達成を……!」

 

社長は頷き、中島さんが念を押すように言った。

 

「分かっているな? 君の任務は――」

「はい、新たな任務はこのペンデュラムカードを完成させる為のテスト。そして一番の任務は――来たる選手権において、‟ランサーズ”の候補者の選抜です」

 

 

そうだ。

それが私を拾ってくれたLDSへの恩返しになる。

 

 

「もしも相応しくないデュエリストが居れば、私の手で引導を渡します――特に‟あの男”のような、親の保護の下、七光りで参加するようなデュエリストは」

 

 

来たるべき戦いに向け、私がやるべき事。

この世界を守る為の私の使命。私の願い。

それを邪魔する要因は私が排除する。

 

 

 

 




サクサクと黒咲さんが不審者だった時代を進めて、次回からオリ展開を交えたジュニアユース選手権編です。

注釈として、黒崎さんとのデュエルで使った時点でのメタファイズはOCGと違いPモンスターに関するテキストが丸々削られています。社長によってOCG仕様になりました。ストーリー上、Pカードが遊矢しか持ってないのに刃がそれに関するカードを持って来るのはおかしいですので。


ネフィリム禁止の代わりではないですが、これでもうすぐシャドール二枚とネオ・ニュー沢渡さんの妖仙獣が解禁出来る。

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