沢渡さんの取り巻き+1   作:うた野

13 / 39
君の為のエンタメデュエルショー

「沢渡、さん……」

 

照明が元に戻り、光が満ちる。

 

「受け取れ、お前のだ」

 

そして沢渡さんが投げ渡したのは……私のデッキが収められた、私のデュエルディスクだった。

 

「っ、く……」

 

震える。手が、体が。

 

 

「……? どうしたんだ? 何か様子が変じゃないか、彼女?」

「まさか沢渡の奴、まだ本調子じゃないまま無理矢理引っ張って来たんじゃねえだろうなっ」

「そうは見えなかったけど……」

 

「怖いか」

「っ!」

 

やっぱり、気付いていたんですか。

 

「それ、は……」

「お前もLDSの生徒なら、乗り越えてみせろ。アクションフィールド、オン!」

 

沢渡さんにより高らかに宣言される、フィールド魔法の名。それは、

 

 

「フィールド魔法――マドルチェ・シャトー!」

 

 

……私が使うものと同じ、私が最も得意とするフィールド。

お菓子で作られた、お伽の国。

 

リアル・ソリッドビジョン・システムが稼働し、コートはお伽の国へと変わる。

 

「……!」

 

震えは止まらない。でも、沢渡さんから逃げ出すなんて出来ない。私は震えた腕でディスクを構える。

 

 

「久守の奴もやる気みたいだな――ならっ」

「戦いの殿堂に集いしデュエリストたちが!」

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」

「フィールド内を駆け巡る! 見よ!」

 

「これぞデュエルの最強進化系!」「アクション……!」

 

「デュエル!」「デュエル!」

 

SAWATARI VS EIKA

LP:4000

アクションフィールド:マドルチェ・シャトー

 

デュエル開始の宣言と共に、アクションカードがフィールドに散らばっていく。

もう、止まらない。

 

「今度またルール違反で負けたりしたら、承知しねえぞ久守!」

 

……その通りだ。また刀堂さんに怒られるのも、勘弁してもらいたい。

 

「いくぞ、久守!」

「はい……!」

 

恐れるな。此処は、私が最も得意とする、慣れ親しんだフィールド。怖がる必要なんて、ないのに……!

デッキの上から手札となる5枚のカードを引かなければならないのに、私の手はデッキトップに触れたまま、動かない。

 

「先行は俺だ。俺のターン!」

「くっ……!」

 

沢渡さんのターン宣言と共に、私は強引に手を動かし、5枚のカードを引く。

 

「ふっ、俺はカードを二枚セットしてターンエンドだ!」

 

「相変わらずあいつは……あんな偉そうに始めておいてカードをセットしただけだと?」

「まさか召喚出来るモンスターが一枚も手札になかったとはね……」

 

「私の、ターン……!」

「どうした。早くカードをドローしろよ」

「……ドロー」

 

沢渡さんを待たせるわけにはいかない。その一心で震える手でカードをドローする。

 

「私はカードを二枚セット……私は、」

 

「まさかあの子も手札にモンスターが……?」

 

……モンスターカードは私の手札にある。でも……怖いんだ。リアル・ソリッドビジョン・システムは質量を持つ。モンスターに触れられる、デュエリストとモンスターが一体となって行う、それがアクションデュエル……けど、今の私には……

 

「私はこれで――」

「ふざけるな。俺をコケにするつもりか、久守」

「っ……」

「そんなザマを俺に見せるのかよ、お前は」

 

……怖いんですよ。怖くて震えて、今にもまた崩れ落ちそうになるんですよ……それでも沢渡さんは、私にデュエルをしろって言うんですね……本当に、我が儘な人です。

 

「ッ――私はマドルチェ・シューバリエを通常召喚!」

 

私の目の前に召喚される、お菓子の騎士。可愛らしい外見、案じるように私を見る、優しい騎士。それでも、私はそんな騎士すら恐れている。怖くてたまらない。

 

「……アクションフィールド、マドルチェ・シャトーの効果によりフィールドのマドルチェたちの攻撃力は500ポイントアップします」

 

マドルチェ・シューバリエ

レベル4

攻撃力 1700 → 2200

 

「……バトルですっ、シューバリエで直接攻撃!」

 

それでもやるしかない。沢渡さんを裏切るわけには、いかない……!

 

「永続罠、始源の帝王を発動! このカードは発動後、モンスターとして俺の場に特殊召喚される」

 

沢渡さんの前に現れ、シューバリエの攻撃を阻んだのは巨大な影。

 

始源の帝王

レベル6

守備力 2400

 

「さらに始源の帝王のもう一つの効果を発動! このカードがモンスターとして特殊召喚された時、手札を一枚捨て、このカードの属性を任意の属性に変更し、さらに宣言した属性のモンスターをアドバンス召喚する時、二体分のリリース素材に出来る! 俺は水属性を選択!」

「……私はシューバリエの攻撃を中断します」

「まだこれからだぜ、久守。コストとして捨てた、素早いアンコウの効果を発動。デッキから二体の素早いマンボウを特殊召喚! さらに俺は永続罠、連撃の帝王を発動! このカードは相手ターンのメインフェイズかバトルフェイズに毎ターン一度だけ、モンスターをアドバンス召喚出来る! 俺は水属性となった始源の帝王を二体分としてリリースし、アドバンス召喚! 来い、凍氷帝メビウス!」

 

素早いマンボウ×2

守備力 100

 

凍氷帝メビウス

レベル8

攻撃力 2800

 

「凍氷帝メビウスのモンスター効果、発動! このカードがアドバンス召喚に成功した時、フィールドの魔法、罠を三枚まで破壊できる! さらに水属性モンスターをリリースして召喚されたメビウスの効果で破壊されるカードは発動出来ない。俺はお前のフィールドの伏せカード二枚を選択! ブリザード・デストラクション!」

「あっ、く……!」

 

凍氷帝から発せられた冷気により、私の伏せカードは全て破壊される。体の震えが酷くなったのは、冷気のせいだけじゃない。……怖い。立ちはだかる巨大なモンスターが、怖い。

 

「ターン、エンド……です」

 

「ふん、少しはやるじゃない」

「相手ターンに最上級モンスターをアドバンス召喚とはね」

「これで久守のフィールドにはモンスターが一体だけか……」

 

「さあ見せてやる、この俺、ネオ沢渡の完璧なるデュエルを……俺のターン! ――バトルだ! 凍氷帝メビウスでマドルチェ・シューバリエを攻撃! インペリアル・チャージ!」

「きゃ……!」

 

EIKA LP:3400

 

「どうした、随分と可愛い声を上げるじゃないか。あの時はこの俺に向かって守らせてくれ、なんて言ってた割にはよ」

「あっ……」

 

沢渡さんにそう言われ、自分がらしくない悲鳴を上げていた事に気付く。……此処まで私は、弱く……。

 

「……破壊されたマドルチェ・シューバリエはフィールド魔法、マドルチェ・シャトーの効果により手札に戻ります」

「俺はこれでターンエンド」

 

「完璧なデュエル、なんて言った割にただ攻撃しただけかよ……アドバンス召喚しないのか?」

「放っておきなさい、あいつの偉そうな態度は今に始まった事じゃないでしょ」

 

「私の、ターン……!」

 

震えたままの手で、カードを引く。

 

「……私は、モンスターをセット。そしてカードを一枚伏せて、ターンエンドです」

 

「沢渡のフィールドにはメビウスと二体のモンスターが残ったまま……!」

「くっ、何やってやがるんだ久守の奴は!」

「完全に沢渡のペースじゃないかっ」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

ドローしたカードを見て、沢渡さんは笑みを浮かべた。普段なら見惚れてしまうようなその笑みも、私にはこれからの襲い掛かるであろう恐怖への前触れにしか、感じられない。

 

「素早いマンボウ一体をリリースし、アドバンス召喚! 現れろ、氷帝メビウス!」

 

氷帝メビウス

レベル6

攻撃力 2400

 

現れるもう一体のメビウス……二体の氷帝が発する冷気と、威圧感が私の体の震えを増幅させる。

 

「氷帝メビウスのモンスター効果発動! こいつがアドバンス召喚に成功した時、フィールド上の魔法、罠カードを二枚まで破壊できる。俺はお前の伏せカード一枚を破壊! フリーズ・バースト!」

 

召喚されたメビウスによって破壊されたのは罠カード、ハーフorストップ……。

 

「バトル! 俺は凍氷帝メビウスでセットモンスターを攻撃!」

「……セットモンスターは、シャドール・リザード。リバース効果を発動、します……フィールドのモンスター一体を、破壊……!」

 

震える指先で沢渡さんのフィールドのモンスター、まだ攻撃を行っていない氷帝メビウスを指さす。

氷帝はリザードから伸びた影糸に縛られ、リザードと共に光となって消滅する。

 

「ふっ、凌いだか。俺はこれでターンエンドだ」

「私の、ターン」

 

一向に震えは収まらない。むしろ、どんどん酷くなっていく。ドローする事も出来ない程に。

 

「……」

 

もう、駄目だ。本当にもう駄目なんです。怖くて怖くて堪らないんです。立ちはだかるモンスターが、カードが。

耐え切れず、私はお伽の国の大地に膝をつく。

 

「久守っ!」

「やっぱりまだ体調が……!」

「っ、沢渡! デュエルを中断――」

 

「お前らは黙ってろ! 元々このデュエルは俺とこいつだけでやるつもりだった、観戦を許してやっただけありがたいと思え!」

 

「……」

 

デュエル。沢渡さんと、一対一の、デュエル……どうして、そんな状況なのに、私は……!

震える体を両手で抱きしめる。怖い、怖い、怖い……!

 

「久守」

「……」

 

沢渡さんの呼びかけにも、応えられない。

 

「こっちを見ろ」

「……」

 

顔だけを上げ、私は沢渡さんを見る。きっとその目は、失望に満ちているだろう。そう思いながら。

 

「久守」

 

けれどその目は、何処までも真っ直ぐに私を見つめていた。

失望しているのでも、責めるでもない。ただ真っ直ぐに……私を信じていると言うかのように。

 

「お前がぶっ倒れたなら、俺が支えてやる。お前がどうしようもなくなったら、俺が助けてやる。お前が挫けたなら、俺が引っ張ってやる。……けどよ、違うよな。お前はそんなキャラじゃねえだろ」

「……」

「お前はいつも俺より先回りして、一人で俺を待ってる奴だ。一人で俺が来るのを紅茶とケーキを用意して待ってる、そんな奴だ」

「……」

「だがお前はいつだって一人ぼっちじゃない。お前が待ってるなら、そこには必ず俺が行く。お前だってそれが分かってるから、いつだって俺を待ってるんだろ」

「……」

「お前は俺に手を引かれなきゃ歩けないような、そんな女じゃないだろ」

「っ、違い、ます……私は、弱いんです……! 弱くて、我が儘で、子供で……どうしようもない、自分勝手な人間なんです……沢渡さんが思ってくれている程、私は……!」

 

強くなんて、ない。

私は初めて、沢渡さんの前で弱さを、私の本性を吐露する。今度こそ、失望されても仕方がない、弱音を。

 

「今更何言ってんだ。そんなのは知ってる。お前は弱っちくて、子供で、勝手に俺の生活を変えた。お前が毎日紅茶を淹れて、ケーキを用意してるせいで俺はそれがないと落ち着かなくなっちまった」

 

けれど、沢渡さんはそんな私の言葉などお見通しだったかのように、そう口にした。

 

「だったらお前の勝手を最後まで通せよ。お前の我が儘を押し通せよ、子供らしく、駄々を捏ねろ! 弱いならやせ我慢なんてすんな! 俺に隠し事なんてしてんじゃねえ!」

「……」

「言えよ! 自分は一人で待ってるって、苦しくて、辛くて怖いのを我慢して、一人で待ってるって、俺を待ってるんだって、そう言え!」

 

「沢渡……」

「あいつ……」

 

「沢渡、さん……」

「いつまでも甘えてんな、一人で耐えてたら誰かが助けてくれるなんて思うな。お前が口にしなきゃ、俺は助けねえぞ。お前が言わなきゃ、俺はお前を無視して先に行く」

「……、です」

「一人で勝手に苦しんで、一人で勝手に怖がって、一人で勝手に茶を用意して、一人で勝手に待ってろ。俺の知った事じゃない」

「……や、です……」

「まったく、時間の無駄だったな。こんなデュエルじゃ俺の完璧なデュエルも見せられねえ。山部たちとデュエルしてる方がよっぽど楽しい」

「……いや、です……」

「デュエルは終わりだな。ったく、組み直したデッキも無駄に終わりか」

「――嫌です!」

 

叫ぶ。はっきりと、沢渡さんに届くように。

 

「嫌ですっ……嫌だ! 私は、沢渡さんと一緒に居たい! こんな、苦しいままなのは嫌だ! 沢渡さんと一緒に笑って、心の底から楽しんでっ、デュエルがしたい! お話がしたい! 沢渡さんを待って、お茶がしたい、沢渡さんに私の紅茶を飲んでもらいたい……沢渡さんに、美味しいって、褒めてもらいたいんです! 我が儘だけど、自分勝手だけどっ、私は沢渡さんと一緒に居たい!」

「……はっ、本当に我が儘な奴だな、お前」

「……そうです、私は我が儘です」

 

あの世界で出来なかった事をしたくて、この世界にやって来てしまうぐらいに。

生きて、笑って、恋をして、そんな、いっぱいを望んでしまうぐらいに。

 

「けどまあ、仕方ないか。我が儘に応えるのも、選ばれたデュエリストの役目だ」

「沢渡、さん」

「お前のターンだ! お前の我が儘、全部吐き出せ! それに全部応えて、楽しませてやるよ! 久守!」

 

震えは、止まっていた。

 

「……はいっ!」

 

あの病室で私は一人ぼっちになった。

あの子たちはもう、帰っては来ない。

けど、今まで私はただ待っていただけだ。寂しいと誰かに口にする事もなく、一人で誰かが手を差し伸べてくれるのを待っていただけだ。

それじゃあ駄目なんだ。私の言葉で、私が呼ばなきゃ。

そうすればきっと、沢渡さんが応えてくれる。この世界の私の友人たちが、手を掴んでくれる。

あの病室から抜け出すには、私が自分の足で立たなくちゃ……!

 

「私のターン! ドロー!」

 

私が望めば、デッキもこうして応えようとしてくれる。

 

「私は魔法カード、手札抹殺を発動! 互いのプレイヤーは手札を全て捨て、その枚数分デッキからカードをドローする! 私が捨てたカードは三枚! よって三枚ドロー!」

「俺の手札は三枚、三枚ドローする」

 

三枚……? 沢渡さんの手札は二枚だけだったはず……。

 

「おいおい、これはアクションデュエルだぜ?」

 

沢渡さんの手に握られているのは、アクションカード。いつの間に……って、その隙はいくらでもありましたね。けれどもう、そんな隙は晒さない。

 

「さらに! 手札抹殺の効果により墓地へ送られたシャドール・ヘッジホッグとビーストの効果発動! デッキからヘッジホッグ以外のシャドールを手札に加え、デッキからカードを一枚ドローする!」

 

手札抹殺によって新たに加わった三枚のカード……あの子が早く呼べと、急かしているようだ。

 

「さらに手札を増やしたか……だが、俺はさらにその上を行く! 俺は手札抹殺の効果で墓地に送られた、エレクトリック・スネークの効果を発動! このカードが相手のカード効果により手札から墓地へ送られた時、デッキからカードを二枚ドローする」

「え……」

 

カードを引く為にデッキへと伸びていた私の手が止まる。

エレクトリック・スネーク……? 相手の効果に限定されているとはいえ、二枚ドロー出来るカード……。

 

「俺とのデュエルの後、きっちり対策してやがったか……」

 

観客席で感心したように呟く、刀堂さんの声が私の耳に届く。沢渡さん、刀堂さんとデュエルを……? 確かにハンデス戦術を使う相手とデュエルしたなら、そのカードを入れても不思議はない。けれど、そのカードは沢渡さんが使うにはあまりにも……。

 

「ステータスが低くても案外役に立つもんだな。ははっ、やっぱり俺ってカードに選ばれ過ぎぃ!」

「沢渡さん……」

 

決して強力な効果ではない。決して強力なモンスターでもない。沢渡さんが好むような、レアなカードというわけでもない。それに沢渡さんのフィールドに存在する素早いマンボウだって決して沢渡さんが好んで使うタイプのカードではなかったはずだ。

けれど、それを沢渡さんはデッキに入れて、しかも手札に呼び込んでいた……違う。明らかに今までの沢渡さんとは。これが本当の、ネオ沢渡さん……。

 

「さあどうした、お前もカードを引けよ」

 

それでも、負けるわけにはいかない。沢渡さんを、ネオ沢渡さんを越える。そしてもう二度と、誰にも沢渡さんを傷つけさせはしない!

 

「はい! 私はヘッジホッグの効果により、シャドール・ハウンドを手札に加えます! さらにカードを一枚ドロー」

 

そしてビーストの効果によりドローしたカードは――

 

「あ……」

 

入れた覚えのない、いいや、かつて入れていたはずのカード。この世界に来た時に消えた、あの子のカード。

 

「――私は手札から魔法カード、影依融合(シャドール・フュージョン)を発動! 手札のシャドール・ハウンドとシャドール・ファルコンを融合!」

 

二体の人形が渦へと消えていく直前。人形から伸びていた影糸の一本が、私の頬を撫でた。姿は見えない。でも今度は伝わる。全てのシャドールたちを操る彼女が、私を祝福してくれている。

 

「影糸で‟繋がり”し猟犬と隼よ! 一つとなりて、神の写し身となれ! 融合召喚! 来て、探し求める者! エルシャドール・ミドラーシュ!」

 

エルシャドール・ミドラーシュ

レベル5

攻撃力 2200

 

「さらに融合素材として墓地へと送られたハウンドとファルコンの効果発動! フィールドのモンスター一体の表示形式を変更する! 私は凍氷帝メビウスを選択! そしてファルコンを裏側守備表示で特殊召喚!」

 

凍氷帝メビウス

レベル8

攻撃力 2800 → 守備力 1000

 

「ミドラーシュの効果により、互いのプレイヤーは一ターンに一度ずつしか特殊召喚を行えない」

 

光の中からお伽の国へと姿を現したミドラーシュは、己が駆るドラゴンから飛び降り、何故か私の傍に降り立った。

無表情な人形の瞳。けれど、何を考えているのか、今の私には分かる。

 

「ごめんね、ミドラーシュ。私のデッキ。私はずっと、あなたたちから目を逸らしてた。信じていたけれど、それだけだった……」

 

私を焦らしていたんじゃない。私にずっと訴えていたんだね。けどもう信じるだけじゃない、あなたたちを頼るから、あなたのように探し、求めるから。力を貸して。

 

『……』

 

コツン、とミドラーシュは私の頭を優しく杖で叩いた。ただそれだけして、私を守るように凍氷帝の前に立ちふさがった。

 

「……ありがとう。待ってて、あなたを一人にはしないから――私は手札から魔法カード、貪欲な壺を発動! 私の墓地のモンスター5体をデッキに戻し、シャッフル! そして二枚ドロー!」

 

私の墓地に眠る4体のシャドールと、マドルチェ・シューバリエがデッキへと帰っていく。おかえりなさい。

そして新たに手札に加わる二枚のカード……こっちのカードは、私には似合いませんね。だって私はこんなにも我が儘で、貪欲なんだから。

 

「シャドール・ファルコンをリリース!」

 

満たされぬ魂を運ぶ方舟は私を置いて旅立った。そして残された、託されたあの子のカード。

もう二度と、手放しはしない!

 

 

「アドバンス召喚! ――未来を担う次代の女王、お伽の国の奔放なお姫様! 来て――――マドルチェ・プディンセス!」

 

 

お伽の国に現れた……ううん、帰って来たのは、未来へと向かう心優しき姫。

あの子のように優しくて、私のように我が儘な、自由なお姫様。

けれどその表情はかつての私と同じく、悲しみに彩られていた。大丈夫ですよ、あなたが悲しむ理由は何処にもない!

 

 

「マドルチェ・シャトーの効果により、プディンセスの攻撃力は500ポイントアップ!」

 

マドルチェ・プディンセス

レベル5

攻撃力 1000 → 1500

 

「そして魔法カード、無欲な壺を発動。互いの墓地から合計二枚のカードを選択し、持ち主のデッキに戻す! 私が選択するのは私の墓地のシャドール・ファルコンと魔法カード、影依融合!」

 

今までにない感覚、私のデッキが応えてくれている。それが分かる。まるで自分の手足のように、動いてくれる。

 

「無欲な壺は発動後、墓地には送られず除外されます――マドルチェ・プディンセスは私の墓地にモンスターカードが存在しない時、さらに攻撃力が800ポイントアップする!」

 

マドルチェ・プディンセス

攻撃力 1500 → 2300

 

プディンセスの表情が悲しみから、我が儘な子供らしい勝気な笑顔へと変わる。そうだ、笑って。

お伽の国に、あの子が託してくれたカードに、悲しみは似合わない!

 

「バトルです! 私はマドルチェ・プディンセスで凍氷帝メビウスを攻撃! プリンセス・コーラス!」

 

氷の帝王へと立ち向かうプディンセスを、お伽の国の住人たちが助ける。騎士が、魔女が、執事が。隼が、猟犬が、竜が。姫君を支えるように、彼女と共にメビウスへと向かっていく。決して一人では倒せない敵も、支え合う者が居れば倒せる。プディンセスはそれを体現する効果を持っている。

 

「プディンセスのさらなる効果! プディンセスが戦闘を行った時、相手フィールドのカード一枚を破壊する! 私は残る一体の素早いマンボウを選択! 姫君の特権(プリンセス・コール)!」

 

メビウスを破壊し、プディンセスたちはその勢いに任せ、残るモンスターをも吹き飛ばす。

これで、沢渡さんのフィールドに残ったカードは連撃の帝王だけ――

 

「――沢渡さん、いきます! ミドラーシュで直接攻撃! ミッシング・メモリー!」

 

待っていたと言わんばかりに、ミドラーシュは自身が持つ杖を振るい、風を巻き起こした。かつてダークタウンの幽閉塔で吹き荒れた風とは違う、包み込むようなガスタの風を。

 

「くっ……!」

 

SAWATARI LP:1800

 

風は沢渡さんを舞い上げ、吹き飛ばした。

 

「沢渡さんっ!」

「……はっ、やってくれるじゃねえか、久守」

 

けれど軽やかに体勢を立て直し、沢渡さんは地面へと両足で着地する。

 

「……これが私の気持ち、私の我が儘です! 私は沢渡さんに勝ちたい、勝って、今度こそ沢渡さんを守れるくらい、強くなります! 私はこれでターンエンド!」

「己惚れてんじゃねえよ。この俺が、お前に負けるか! 俺のターン、ドロー! ――手札から永続魔法、魂吸収を発動! このカードが存在する限り、カードが除外される度、一枚につきライフを500ポイント回復する。さらに俺は手札からジャンク・フォアードを特殊召喚! このカードは自分フィールドにモンスターが存在しない時、特殊召喚出来る!」

 

ジャンク・フォアード

レベル3

守備力 1500

 

ジャンクの名を持つモンスター……これも、以前までの沢渡さんが使うとは思えないカード。けど、沢渡さんがただの壁として出すはずがない。先程のドローでアドバンス召喚するモンスターが手札に加わっていても不思議はない。

 

「あれは……僕とのデュエルで考えた対抗策か。フィールドをがら空きにされた時の為の……」

「ふん、案外対策はきっちりしてるのね」

 

「お前が手札抹殺で引き当てたように、俺も引いてんだよ。このショーをクライマックスに導くカードをな――いくぞ、久守。俺はジャンク・フォアードをリリースし、アドバンス召喚!」

 

魂吸収……私が使うマドルチェ・ホーットケーキの効果を利用する為かと思っていましたが、違う。沢渡さんは私の予想のさらにその上を行く……さっきの手札抹殺とスネークの効果で呼び込んでいたんだ。

 

「現れろ、邪帝ガイウス!」

 

氷帝に続く、二体目の帝王を。

 

邪帝ガイウス

レベル6

攻撃力 2400

 

「邪帝ガイウスの効果発動! こいつがアドバンス召喚に成功した時、フィールドのカード一枚を除外する! 俺はエルシャドール・ミドラーシュを選択! ダーク・ブレイク!」

「ミドラーシュ!」

 

ミドラーシュが闇に包まれていく……闇がミドラーシュを完全に包み隠す直前、彼女は私を見た。そして、仕方ないとでも言うように肩をすくめた。

……ごめんなさい、ミドラーシュ。

 

「そして除外されたカードが闇属性モンスターだった場合、相手プレイヤーに1000ポイントのダメージを与え、さらに永続魔法、魂吸収の効果により俺はライフを500ポイント回復する」

「くっ……」

 

EIKA LP:2400

SAWATARI LP:2300

 

私と沢渡さんの間に最早ライフの差はない……負けられない。

 

「まだだ! 俺は魔法カード、アドバンス・カーニバルを発動! このカードはアドバンス召喚に成功した時、もう一度アドバンス召喚を可能にする!」

「まさか……」

 

氷帝と凍氷帝。そして邪帝……残る手札は二枚、まさかそのカードまで手札に……?

 

「いいや」

 

しかし、沢渡さんは首を振った。私の予想は外れ……なら邪帝をリリースして一体何を……?

 

「言っただろう? 俺はお前のさらに上を行くってな。俺は手札から速攻魔法、帝王の烈旋を発動! このカードはアドバンス召喚する時、一度だけ自分フィールドではなく、相手フィールドのモンスターをリリースしてアドバンス召喚出来る!」

「っ!」

 

私のフィールドに居るのは、プディンセス――アドバンス召喚されたマドルチェ・プディンセスがいる。

 

「お前のフィールドのマドルチェ・プディンセスをリリースし、アドバンス召喚!」

「プディンセス!」

 

お伽の国を吹く風が変わる。荒々しい風が吹き荒れ、嵐となってプディンセスを包み込んだ。

嵐に包まれたプディンセスの表情は――

 

「どうして……」

 

笑っていた。悲しそうにでもなく、苦しそうにでもなく、身を任せ、私に全てを任せるように、笑っていた。

どうして……じゃない。あの子と同じ、あの子も、最後にはそういう風に笑っていた。私にカードを託して、思いを託して。

 

「現れろ、怨邪帝ガイウス!」

 

嵐が収まる。そして、闇が広がっていく。

 

怨邪帝ガイウス

レベル8

攻撃力 2800

 

「怨邪帝ガイウスはアドバンス召喚したモンスターをリリースする場合、一体のリリースで召喚が出来る! そしてこいつは邪帝を超えた怨邪帝、その効果もまた進化している! ガイウスの効果発動! フィールドのカードを一枚除外し、そのカードの種類に関係なく相手に1000ポイントのダメージを与える! 俺は俺のフィールドの永続罠、連撃の帝王を除外する! ダークネス・デストロイヤー!」

 

除外されたのが沢渡さんのカードでも、ダメージを受けるのは私……。

 

EIKA LP:1400

 

「当然、俺のライフも500ポイント回復する」

 

SAWATARI LP:2800

 

「これでお前のフィールドはがら空き、これで決まりだ……!」

 

……私は託されたものを一度、忘れた。あの子たちが私に残してくれたものを一度は忘れていたんだ。

でももう二度と、忘れたりしない。逃げ出したり、しない!

私にはまだ、みんながくれたカードがある。私に与えられたカードがある。そしてこの世界で私が手にしたカードたちがある。お伽の国の住人達が、私と共に在る。

この子たちと一緒なら、帝王すら屠ってみせる。

 

「いけ、怨邪帝ガイウス! 久守に直接攻撃!」

「手札のッ、速攻のかかしの効果を発動! このカードを捨てる事で直接攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する!」

 

沢渡さんが刀堂さんとのデュエルでハンデス対策を入れたように、私も志島さんとのデュエルで、私自身も使うバウンスの対策を入れた。沢渡さんと同じく、フィールドをがら空きにされた時の為に。それがこのカード。

私がこの世界で手にした、この世界での繋がり。

 

「防いだか……だが決着が一ターン延びただけだ!」

「いいえっ、そうはさせない! 繋げてみせますっ、その先に!」

「なら、やってみろ。ターンエンドだ」

「私のターン……ドロー!」

 

……繋がった。私のデッキは、私に応えてくれた。

 

「私はマドルチェ・ホーットケーキを通常召喚!」

 

マドルチェ・ホーットケーキ

レベル3

攻撃力 1500 → 2000

 

一羽の梟が私の肩に降りる。何度も私を助けてくれたカードの一枚。また、私に……ううん、改めて、私に力を貸して。

 

「ホーットケーキの効果発動! 墓地のモンスター一体を除外し、デッキからホーットケーキ以外のマドルチェを特殊召喚する! 私は墓地の速攻のかかしを除外し、おいでマドルチェ・エンジェリー!」

 

マドルチェ・エンジェリー

レベル4

攻撃力 1000 → 1500

 

私の前に降り立つ天使。けれど、こんな事言うのは酷いかな。神々しさはあまり感じられない。感じるのは、ただ心強さ。

エンジェリーは任せろ、と言うように私の前でクルリと回転し、微笑んだ。うん、力を借りるよ。

 

「カードが除外されたことにより、俺のライフが回復するッ」

 

SAWATARI LP:3300

 

「エンジェリーの効果発動! このカードをリリースし、デッキからもう一度マドルチェを特殊召喚する! 私が召喚するのはマドルチェ・メェプル!」

 

マドルチェ・メェプル

レベル3

攻撃力 0 → 500

 

私の足にすり寄りながら現れる一匹の羊。この子たちが、このデュエルをまだ繋げてくれる。

 

「エンジェリーの効果で特殊召喚されたメェプルは戦闘では破壊されず、次の私のエンドフェイズにデッキに戻る……メェプルのモンスター効果を発動! 私のフィールドのマドルチェ一体と相手フィールドのモンスター一体を守備表示に変更する! この効果で守備表示となったモンスターは次の相手ターン終了時まで、表示形式を変更できなくなる! 私が選択するのはメェプルと怨邪帝ガイウス!」

 

マドルチェ・メェプル

攻撃力 500 → 守備力 2300

 

怨邪帝ガイウス

攻撃力 2800 → 守備力 1000

 

「さらに! 私は墓地の罠カード、スキル・サクセサーの効果を発動!」

「メビウスの効果で墓地に……お前も抜け目ない奴だ」

「ふふっ、ありがとうございますっ。墓地のこのカードを除外し、私のフィールドのモンスター一体の攻撃力をエンドフェイズまで800ポイントアップ!」

「カードが除外された事により、俺のライフがさらに回復する」

 

SAWATARI LP:3800

 

マドルチェ・ホーットケーキ

攻撃力 2000 → 2800

 

「バトル! ホーットケーキで邪帝ガイウスを攻撃! お伽の国に不似合いな帝王には、退場してもらいます!」

「くッ……!」

 

邪帝ガイウスの攻撃力は2400。これで僅かだが沢渡さんのライフを削れる。けどまだ足りない。

 

SAWATARI LP:3400

 

これは、賭けだ。分の悪い賭け。私と沢渡さんの手札はお互いに0。互いに次のドローがこのデュエルの勝敗を左右する。沢渡さんのフィールドに残った怨邪帝ガイウスはメェプルの効果によりまだ表示形式を変更することは出来ない。だけど、もし沢渡さんが私のモンスターを一体でも破壊できるようなカードを引いたなら。次のターンで私が逆転できる可能性は限りなく低くなる……カードが私と沢渡さん、どちらを選ぶか――勝負です。

 

「私はこれでターン、エンド。同時にスキル・サクセサーの効果が終了し、ホーットケーキの攻撃力は元に戻る」

 

マドルチェ・ホーットケーキ

攻撃力 2800 → 2000

 

「俺のターン……ドロー!」

 

…………一瞬が、永遠にも感じる時間。

 

「……俺はこれで、ターンエンド」

「私のターン……ドロー!」

 

この瞬間、カードは勝者を選んだ。

 

「――私は、マドルチェ・マーマメイドを召喚」

 

マドルチェ・マーマメイド

レベル4

攻撃力 800 → 1300

 

「そしてレベル3のホーットケーキとメェプルでオーバーレイ……エクシーズ召喚、ランク3、M.X―セイバー インヴォーカー」

 

M.X―セイバー インヴォーカー

ランク3

攻撃力 1600

ORU2

 

「そしてインヴォーカーの効果を発動ッ、オーバーレイユニットを一つ使い、デッキからレベル4の戦士族を守備表示で特殊召喚します。来て、メッセンジェラート……!」

 

M.X―セイバー インヴォーカー

ORU1

 

マドルチェ・メッセンジェラート

レベル4

攻撃力 1500 → 2000

 

私のフィールドの傭兵はただ寡黙に立ち、メイドとメッセンジャーは微笑んでいた。

 

「レベル4のマーマメイドとメッセンジェラートで、オーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! これが、これが今の私の全部です! 今までの想いを重ねて、これからも思い出を繋いでいく! エクシーズ召喚! 力を貸してっ、ランク4、クイーンマドルチェ・ティアラミス!」

 

クイーンマドルチェ・ティアラミス

ランク4

攻撃力 2200 → 2700

ORU2

 

渦の中から、二つの輝く球体を纏ったお菓子の女王がお伽の国へと姿を現す。私を映すその瞳にはもう、悲しみはなかった。私を見て、嬉しそうに女王さまは笑った。

 

「ティアラミスの効果……発動っ。オーバーレイユニットを一つ使い、私の墓地のマドルチェと名の付くカードを二枚までデッキに戻し、戻した枚数と同じ数、相手フィールドのカードを相手のデッキに戻す……私は墓地のエンジェリーとプディンセスを選択、さらにマドルチェ・シャトーの効果によりデッキではなく、私の手札に戻す。そして、沢渡さんのフィールドの永続魔法、魂吸収と怨邪帝ガイウスを、デッキに戻す……! 女王の号令(クイーンズ・コール)!」

 

女王さまの杖から発せられた優しい光がお伽の国を包み込む。

その光が晴れた時、沢渡さんのフィールドから邪帝の姿は消えていた。

…………。

 

「沢渡さん」

「なんだ」

「ありがとう、ございました……! 最高のデュエルで、最高の、ショーでした……!」

「……そうか」

「絶対に、忘れません! ――私はインヴォーカーとティアラミスで、沢渡さんに直接攻撃!」

 

忘れない。忘れる事なんてきっと、出来やしない。沢渡さんが魅せてくれた最高のショーを、沢渡さんが私に掛けてくれた最高の言葉を、絶対に忘れたりしない。

……ああ、駄目だ。視界がまた涙で滲む。このショーを最後まで見届けないといけないのに、涙が溢れて止まらない。

 

 

 

SAWATARI LP:1800

 

「お前ならそうすると思ってたぜ、久守……! M.X―セイバー インヴォーカーの直接攻撃を受けた瞬間、俺は手札から冥府の使者ゴーズを特殊召喚!」

 

冥府の使者ゴーズ

レベル7

攻撃力 2700

 

「え――」

「このカードは俺のフィールドにカードが一枚も存在しない状態で相手のカードによってダメージを受けた時、手札から特殊召喚出来る。さらに受けたダメージが戦闘ダメージだった場合、受けたダメージと同じ数値の攻撃力、守備力を持つ冥府の使者カイエントークン一体を特殊召喚する! 俺が受けたダメージはインヴォーカーの攻撃力分、1600!」

 

冥府の使者カイエントークン

レベル7

攻撃力 1600

 

 

沢渡さんのフィールドに新たに姿を現した、二体の冥府からの使者。

それが私の前に立ちふさがる。

 

「どうした、さっきお前がやったのと似たようなもんだ。それとももう勝った気でいたのか?」

 

……そうですね。私とした事が、気持ちが逸っていたみたいです。

だけどっ、

 

「……それでも、私はそれを超えていく! ティアラミスでカイエントークンを攻撃! ドールズ・マジック!」

 

SAWATARI LP:700

 

「冥府の使者が私と沢渡さんの間に立ちふさがるなら、私はそれを超えてみせる! 私はこれで、ターンエンド!」

「俺のターン!」

 

これが本当のクライマックス。冥府の使者を超えて、私は沢渡さんの傍に立ってみせる!

 

「バトルだ! 冥府の使者ゴーズでインヴォーカーを攻撃! ソード・ブラッシュ!」

「っ……!」

 

EIKA LP:300

 

まだ、私のライフは残っている。そして私には、女王さまが、私のデッキがついていてくれる!

 

「残念だが、お前の前に立ちふさがるのはこいつじゃあない」

「え……?

「俺はゴーズをリリースし、アドバンス召喚!」

 

ここで、またアドバンス召喚……!

汗が背中を伝っているのが分かる。体が震えている。恐怖からではない、期待に打ち震えているんだ。沢渡さんのデュエルへの期待で。

 

「――風帝ライザー!」

 

召喚される三体目の帝王、風を操る、風帝。

 

風帝ライザー

レベル6

攻撃力 2400

 

「ライザーがアドバンス召喚に成功した時、フィールドのカード一枚を持ち主のデッキの一番上に戻す! 女王陛下には退場願おうか!」

「っ、ティアラミスはエクシーズモンスター……よって戻るのはデッキトップではなく、エクストラデッキ……」

「バトルフェイズが終了した今、攻撃は出来ない。俺はこれでターンエンドだ」

 

……カードを引くことに、もう躊躇いも怯えもない。

 

「私のターン、ドロー」

 

……。

 

「私はマドルチェ・エンジェリーを召喚! そしてエンジェリーをリリースし、効果発動! デッキからマドルチェ・ピョコレートを守備表示で特殊召喚!」

 

マドルチェ・ピョコレート

レベル3

守備力 1500 → 2000

 

「エンジェリーの効果で特殊召喚されたピョコレートは戦闘では破壊されず、次の私のターンのエンドフェイズにデッキに戻ります! 私はこれで、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー! ――見ろ、久守! これがネオ沢渡の伝説のデュエルショーだ! 俺はライザーをリリースし、アドバンス召喚!」

 

見ていますよ、もう涙は流さない。沢渡さんのデュエルから、あなたから一瞬たりとも目を離さない。

 

「このカードはアドバンス召喚したモンスターをリリースした場合、一体のリリースでアドバンス召喚出来る! 現れろ、烈風帝ライザー!」

 

風帝が姿を変える。荒ぶる風を纏う、烈風帝へと。

 

烈風帝ライザー

レベル8

攻撃力 2800

 

「烈風帝ライザーの効果発動! このカードのアドバンス召喚に成功した時、フィールドのカード一枚と墓地のカード一枚を、持ち主のデッキの一番上に戻す! 俺が選択するのは俺の墓地の風帝ライザー、そして戻れ! マドルチェ・ピョコレート!」

 

風に誘われ、雛がデッキへと帰って来る。

……。

 

「お前にとってはこのデュエル、忘れられないものかもしれないが、俺にとっちゃこんなのはすぐに忘れちまう程度のもんだ」

「……」

「だから、お前も俺に忘れられたくなかったら、しっかりついてこい」

「――――はい!」

「――俺はライザーで、直接攻撃!」

 

風が私を通り過ぎていく。私が抱えていたものすべてを、心の翳りすべてを流しながら。

 

 

EIKA LP:0

WIN SAWATARI

 

 

アクションフィールドが解除されていく中、私は自分の手札に目を落とした。

私の手札にあるのはマドルチェ・プディンセス、そして……フィールド魔法カード、マドルチェ・シャトー。

たとえリアル・ソリッドビジョン・システムが解除され、アクションフィールドが消えても、お伽の国は私の手の中にある。

そう私のデッキは伝えたかったのだろうか。それとも……今までの仕返し、なんだろうか。本当に、誰に似たのか天邪鬼なデッキです。

 

私にはお似合いの、私のデッキ。

少しずつ形を変えながら、私はこのデッキと共に生きていく。

大好きな人のそばで、これからも。




おい、アクションしろよ。ってツッコミは次回まで待ってください……
次回でネオ沢渡さん編は終了です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。