主役になれなかった者達の物語   作:沙希

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「終わった…………終わったんだ!!」

 

 二天龍は滅び、ついに戦いが終わったという事実を理解した。

 誰もが笑みを浮かべ、涙を流し、疲労感に襲われ膝をついて言葉を漏らす。

 『ようやく終わった』『勝ったんだ』『死ぬかと思った』などと漏らし、自軍の仲間たちとだけでなく敵勢力の者達と顔を見合わせ安心する者達。

 今まで三つ巴をやっていたと思えない表情であり、二天龍討伐の時に生まれた心の一体感なのだ。

 そして遅れてサ―ゼクスやアジュカ、セラフォルーにファルビウムも戦いの終わりを理解する。

 

「終わった……………ようやく、終わったんだ」

 

「あぁ………。全く、もう足がガクガクでまともに立てやしない………」

 

「ふぁぁ~~~~……………。あぁ、死ぬほど眠いよぉ~」

 

 サ―ゼクスは戦いの終わりに安堵し、アジュカは全身全霊を尽くして戦ったためか腰を抜かし地面に腰を降ろす。

 ファルビウムは大きな欠伸をして、眠そうな目を汚れた手で擦る。

 セラフォルーは二天龍討伐の要であったフィアンマにうれし涙を浮かべ、フィアンマの元へと駆け寄る。

 

「やったよ、フィー君!戦いは、もう終わったんだよ!これも全部、フィー君のおかげだn―――――――――――――」

 

 

 

「うっ…………うぇぇぇええええええっ!!!」

 

 

 

 ビチャビチャビチャッと音を立てて口から夥しい量の血液を吐き出すフィアンマ。

 吐血したフィアンマは罅が入った剣を杖替わりにして膝をつき、意識を保とうと必死に目を見開こうとしている。

 体中が震え上がりながら唇を噛みしめるフィアンマにセラフォルーだけでなく、周りの悪魔たちがギョッとした。

 

『フィアンマ!!』

「フィー君!」

 

 サ―ゼクスたちは直ぐにフィアンマの元へと駆け寄る。

 セラフォルーはフィアンマを落ち着かせようと必死に背中をさすりはじめ、アジュカはフィアンマがどういう状態なのか魔方陣をフィアンマの足元に展開し、状態を確認する。

 

「どうだ、アジュカ?」

 

「くっ、膨大な魔力を体に一気に溜め込んだせいで体組織が至るところボロボロだぞっ!普通なら、とっくに死んでもおかしくない!」

 

「あの大剣が原因かな?」

 

「あぁ、間違いないだろう。今まで見たことがない術式だが、きっとあの術式は冥界などに漂う魔力を自分の物に変換する術式だったかもしれない。しかし、フィアンマがこの状態だというならあれはきっと未完成だったのだろう。あれだけの密度を帯びた巨大な剣を創り上げるには相当な魔力を身体に溜め込むはずだ」

 

「っ……アジュカちゃん、フィー君は助かるの!?」

 

「冥界に戻って、直ぐにフェニックスの涙を使って安静にさせていれば助かるだろう」

 

 アジュカの言葉にサ―ゼクス、セラフォルー、ファルビウムは安心した様に息を吐き、脱力する。

 しかし、フィアンマはいま苦しそうに息を漏らし口から血を吐きだしている。

 直ぐにでも冥界に戻るべきだと判断した4人は全陣営に冥界に帰投することを命じようとしたが、苦しそうに息を吐いているフィアンマは途切れ途切れになりながら、言葉を漏らす。

 

「ま、だ…………まだ終わっちゃいないぞ、ゼクス!!」

 

「え?」

 

 フィアンマの言葉にサ―ゼクスたちはフィアンマの方へと振り返る。

 振り返り、フィアンマを見つめる4人はフィアンマが空へ視線を送っている事に気がついた。

 4人が空に視線を映し、他の者達もフィアンマたちと同じように視線を空に向ける。 すると空には―――――――――――ドライグの腕と似た赤い籠手とアルビオンの翼に似た翼を手にしている神がいたのである。

 

「見事!よくやりました皆の者!大義であったぞ!!特にフィアンマといったか?まさか二天龍を二体とも倒すとは思いませんでした。しかし、おかげで見なさい。ニ天龍を宿す神器を作り出すことが出来ました。そうですね……………赤龍帝の籠手と白龍皇の光翼とでも名付けましょうか」

 

 周りの者達と比べ、小奇麗なままの聖書の神が赤い籠手を赤龍帝の籠手と白銀の翼を白龍皇の光翼と名付け、掲げる。

 いままで見ないと思っていたら、自分だけ安全圏で高みの見物をしていたのだ。二天龍を瀕死の状態に周りが追いやっている間に籠手と翼として封印するまでは自分だけのうのうと眺めていたのである。

 

「てめぇ、聖書の神っ!まさか、まさかそれが目的か!!」

 

「えぇ、その通りですよアザゼル。魔王を滅ぼす龍の力さえあれば、貴方たち魔に堕ちた者共を簡単に滅ぼす事が出来る!さぁ同胞達よ!今こそ戦いのときだ!!」

 

「なっ、そんな馬鹿なっ!それは条約違反なのでは!」

 

「おや、私は『同胞の力を貸す』とは言いましたが――――――――――――――別に私は戦争をやめるとは言っておりませんよ?それに、例え戦争をしないと言って止めない訳がないでしょ。」

 

『っ!?』

 

 白々しい顔で聖書の神はサ―ゼクスを笑った。

 いや、サ―ゼクスだけでなくアザゼルたち堕天使陣営の全ての敵に向けて笑った。

 ここに来て、神の裏切りときたのは、誰もが唖然とし次の瞬間怒りが込み上がる。

 誰もが『ふざけるな!』『卑怯者が!!』『恥を知れ、神が!』と叫び声を上げる。

 しかし神にとってはまるで負け犬の遠吠えでしかなく、笑みを崩さなかった。

 流石の神の言葉にミカエルや他の天使でさえも、戸惑っている。

 

「しゅ、主よ。流石にそれは、あまりにも非道なのでは…………」

 

「ミカエル、彼らは魔に堕ちた邪悪な存在です。野放しにするだけでも害でしかないのですから。魔王達がいなくなり、敵が満身創痍であるいまいつ攻めるのです?」

 

「し、しかし!!だからといって共に二天龍を倒した同志なのですよ!そんな卑怯な真似が…………………」

 

「なるほど、ミカエルはそういう捉え方をするのですか………………ならば不要です」

 

『み、ミカエル様!!』

 

 神はミカエルに魔力弾を放った。

 咄嗟の攻撃にミカエルは反応できず、魔力弾をまともに受けてしまう爆発する。

 魔力弾を受けたミカエルは意識を失い、ボロボロになって地面へとまっさかさまに落ちていくのだが、仲間であるセラフ達がミカエルの元へと飛んでいき、受け止める。

 同じ同胞であり、慕われていたというのにも関わらず表情一つ変えずにミカエルを見つめた後、視線を戻す。

 

「同胞達が動かぬのなら、私だけでやりましょう。幸い赤龍帝の籠手と白龍皇の光翼があるのです。これさえあれば、私は負けるはずがない。ではまず―――――――――――そこに転がっている私をカス呼ばわりした薄汚い悪魔から消すとしよう」

 

『っ!』

 

 神が満身創痍のフィアンマを見つめ、笑みを浮かべて手を翳す。

 手には魔力が集中し、巨大な光の球が出来上がる。

 ドライグの力が合わさっているため、魔力密度が今までとは比べ物にならない。

 神に標的にされたと気づいたサ―ゼクスたちはフィアンマの前に立ちはだかり、庇う。

 少しだけ溜まった魔力を最大限に発動し、魔力の壁を創り上げた。

 

「ふっ、小賢しい真似を」

 

 聖書の神は巨大な魔力の塊を小さく圧縮させ、発射する。

 発射された小さな光弾は目にも止まらぬ速さでサ―ゼクスたちのいる場所へと飛んでいき、着弾する。

 するとサ―ゼクスたちが居た場所から大きな爆発が巻き起こり、浮かんでいた浮雲が一瞬にして消え去る。爆発が治まるとサ―ゼクスたちやフィアンマ、周りに居た悪魔や堕天使、同胞であるはずの天使たちが倒れ伏せている。

 何とか防いだものもいれば、奇跡的に生き残った者達もいる。

 しかし大半は死者で埋め尽くされており、死屍累々の状況だった。

 

「がはっ!………ぐっ……………くそぉぉっ…………」

 

「ファルビウム、無事かっ!」

 

「な、なんとかぁ……………」

 

 魔力を全部使い切って作った壁は呆気なく壊されたものの、サ―ゼクスたちは生きていた。しかし、身体に血が滲んでおりこのままでは命が危ない。

 サ―ゼクスがセラフォルーとフィアンマが居ない事に気づき、あたりを見回した。

 辺りを見回したら、フィアンマとセラフォルーはサ―ゼクスたちから少し遠くに吹き飛ばされている。2人は無事なのかと声を掛けようとしたのだが。

 

「フィー………くん。……………どこぉ?……ねぇ、ふぃーくん………返事、して……………ねぇ…………フィー君っ…………ふぃー、くんっ」

 

「っ、セラフォルー!!」

 

 身体に鋭利な岩が腹に突き刺さり、虚空に手を伸ばしフィアンマを探し続けるセラフォルーがそこにいた。両目とも爆発で焼かれており、完全に景色すら見えていない。

 いまセラフォルーが手を伸ばしている場所はフィアンマとは反対側の所なのだから。

 それにフィアンマに関してはピクリとも動いていない様に見える。

 サ―ゼクスたちはすぐさまセラフォルーとフィアンマの元へと駆け寄り、サ―ゼクスはセラフォルーの手を掴んで、抱き上げる。

 

「あっ…………ふぃーくん?」

 

「フィアじゃなくて、ごめん。セラフォルー、今すぐフェニックスの涙で治療するっ」

 

 そういって自分用にとっておいたフェニックスの涙を取り出し、セラフォルーの腹に突き刺さった鋭利な岩を慎重に抜き取り、涙を使った。

 すると焼けた両目の傷は無くなり、腹に空いていた大きな穴が塞がった。

 正直一つだけで足りるのかと不安だったのだが、思いのほか治って安心する。

 

「サ―ゼクス、ちゃん………そうだ、フィー君は!?フィー君はどこ!?」

 

「落ち着いて、セラフォルー。今すぐフィアンマの所へ向かおう」

 

 そういってサ―ゼクスとセラフォルーはアジュカとファルビウムがいる場所へと向かう。2人の元へと到着すると、すぐさまセラフォルーはフィアンマの安否を確かめるのだが、フィアンマの状態に目を見開く。

 

「っ、これって!」

 

 フィアンマの身体には罅が入っていた。

 まるで鉱物に罅が入ったかのように、フィアンマの身体には亀裂が走っている。

 神の攻撃により、消える事はなかったものの完全に防ぐことは出来なかった。

 生きているのだが息は荒く表情はとても苦しそうだったため、いま一番重症なのはフィアンマである。

 フィアンマの状態にセラフォルーは心が安定しなくなったのか泣き叫ぶ。

 抱きしめようとしたのだが、万が一崩れてしまう可能性があるためサ―ゼクスはセラフォルーを押さえつける。

 

「離して!!………行かせてよ、サ―ゼクスちゃん!!!」

 

「ダメだ、セラフォルーっ!フィアの身体は脆くなっているっ…………衝撃を与えてしまえば、取り返しのつかない事になるかもしれないんだ!!」

 

「でも!!………でもっ!!フィー君が、フィー君が苦しそうな顔をしてるんだもん!」

 

「頼む、セラフォルーっ!頼むから、頼むから落ち着いてくれ!!」

 

「離せええええええええええええええええ!!!」

 

 セラフォルーは見たことないくらい焦り、泣き叫び、フィアンマに手を伸ばす。

 苦しそうに息を漏らし苦痛を耐えるフィアンマを抱きしめてあげたい、痛みを少しでも和らげてあげたいと思った。

 だが、フィアンマは直ぐそこなのにどうしても遠く感じてしまう。セラフォルーはただフィアンマの名前を呼び続ける事しか出来なかった。

 

「ふはははははっ!!さぁ、これで悪魔側の切り札は全て消えた!!次は誰が死にたいか言いなさい。この私が直々に苦痛を与えず滅してあげましょう!あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」

 

 高笑いする神に誰もが苦虫を噛み潰したよう顔をし、悔しさと怒りに満ち溢れる。

 しかし、怒りを抱いたところでもう魔力は残っていないし戦える者達もいない。

 このまま神に滅されてしまい、終わってしまうのだろうかと絶望するのだった。

 

 

 もうダメだ、お終いだ。

 誰もがそう、絶望していた時であった。

 

「おらぬのか?ならば纏めて滅してやると――――――――――――」

 

 神は赤龍帝の籠手がはめられた左腕を掲げた時に気づいた。

 目に映るのは、肘関節から指先までの部分が消えているのだ。

 そして次の瞬間、消えた左腕から血が吹き出し神は悲鳴を上げる。

 

「あああああああああああああああああああああ!!腕、腕ええええええええええええええええ!!私の腕がああああああああああああああ!!」

 

 左腕から勢いよく血が吹き出し、痛みに悶える神。

 直ぐに痛覚を遮断させ、腕を再生させて無くなった腕と籠手を探そうとした途端、次は翼を展開している背中に痛みが走り、背中から勢いよく血が噴き出す。

 いったい何が起きているのか神は焦りながら考えた。

 籠手がはめられた腕は切り落とされ、光翼を付けた背中は切り落とされ光翼を失うことになる理由は何なのかと原因を探るために当たりを見回すと次は胸に痛みが走る。

 

「ごふっ……………き、貴様はっ!!?」

 

「―――――――よぉ、神っ。随分と調子に乗ってくれたじゃねぇか」

 

『フィアンマ!?』

 

 何時の間にか、身体に大きな亀裂を生んで苦しい表情を浮かべて息を荒げて眠っていたフィアンマがいつの間にか神の眼前に来ており、胸に剣を突き刺している。

 腕が消えたのも、背中の光翼が切り落とされたのも全てフィアンマによるもの。

 近くにいたサ―ゼクスもセラフォルーも、アジュカやファルビウムがちょっと目を離したすきに、いつの間にか神の元へと転移していたのだ。

 

「お、お前はさっきの!?なぜ、なぜ動けぐっ!?」

 

「さぁて、スクラップの時間だぜ糞野郎!今までやった分、覚悟して受け取れよ!!」

 

「っ!?お、おのれ、離せ薄汚い悪魔風情が!!くそっ、この程度でぇえええええええええええ!!」

 

「ディストラクション・バインド、アストラル・バインド!!」

 

「がっ!? こ、この術は二天龍の時の!?く、くそ、今すぐ解け!さも…………な……………く……………ばっ!!」

 

 バインドの効果で体感時間を遅くさせられ、力を一時的に封じられた神。

 効果時間は20秒だが、20秒たっても効力を失わない事に気づく神。

 フィアンマに視線を向けると、フィアンマの身体にはいくつもの術式が刻み込まれており、刻み込まれた術式が輝きだしている。

 そう、術式を増やす事で効果時間を伸ばしているのだ。

 しかし、デメリットも存在する。

 

(正気か、この悪魔っ!?これ程の術でも負担があるはずだというのに、そんなボロボロの身体に術式を刻み込めば更に負担が掛かるのだぞ!?この悪魔は、死が怖くないというのか!?)

 

 死は誰もが恐怖する概念であり、神でさえもそれを恐怖している。

 しかし、自分の目の前にいるフィアンマという悪魔は死を恐れていないどころか笑っているのだ。

 死んでもおかしくないという状態なのに、なお笑っている。

 

 

 

 フィアンマは他の魔術を使い、更に縛り付けられた神を空中で固定し、地上へと降りる。二天龍の時と同様で自分の足元に術式を展開し、剣を両手で握りしめる。

 足元の術式が輝きを放ち、空間に漂う魔力をフィアンマの魔力と同調させて体に送り込み始める。

 

「瞬け、明星の光!!!」

 

 剣を空に掲げ、魔力を解き放つ。

 解き放たれた魔力は剣から放たれ、光の柱が形成される。

 術式が未完成であるため出力がオーバーロードするので一度使えば剣はボロボロになってしまい、二天龍を葬るのに一度使ってしまったため剣はボロボロなのだがフィアンマはそんな事を気にせずに力を解き放つ。

 

 

 

 そして光の柱から別の形へと形成させ、光の羽の様な剣となった。

 ピシピシッと剣とフィアンマの身体から嫌な音が鳴っており、手が震えている。

 しかし、それでもなおフィアンマは笑っており、神を睨み付け剣を強く握りしめた。

 睨まれた神は背筋を凍らせ、アストラル・バインドの効力だけが解けたので必死に弁解を試みるのである。

 

「これで……………」

 

「ま、待て!!戦争は止めにしよう!争いは何も生まないのは、分かり切った事!ここは和平を結んでだな――――――――――――――――――」

 

「終わりだああああああ!!」

 

 神の言葉を無視し、フィアンマを咆哮をあげる。

 重たくなった足を前に踏み出し、そしてもう片方の足を大きく前にだし、高らかに叫び声を上げて光の大剣を振りかぶる。

 

 

 振りかざした大剣が神へと襲い掛かる。

 二天龍でさえも滅ぼされかけた、光の剣が迫りゆくのだった。

 

「い、いやだああああ!!死にたくない、死にたくない!!私は……僕はこんな所で死にたくないんだ!せっかく生まれ変わったのに、こんな死に方は嫌だあああああああああああ!!」

 

 神は情けない顔のまま泣き叫ぶのだが、剣は止まらない。

 光の大剣は神を呑み込み、大地を穿ち、空間を裂いた。

 そして今日……………神と言う名の転生者は、死を遂げるのであった。

 

 

 

 

 

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 パキンッと光の柱がガラス細工の様に砕け散り、空から光の粒がはらはらと落ちてくる。光が弱点な悪魔でも触れても問題ない光で、とても暖かかった。

 まるでフィー君とすごした、あの日の陽だまりの日常と同じ。

 

「フィアンマ!!」

 

 サ―ゼクスちゃんの叫びで私はハッと我に返り、フィー君に視線を向ける。

 視線を向けた先にはフィー君が崩れ落ち、横たわっていたのだ。私は思わず最悪な結末が頭に過り、そんな事はないと振り払いフィー君の元へと駆け込む。

 フィー君の元へ駆けこむと、フィー君の身体から光の粒が浮かび上がり空に昇って行く。

 私はフィー君を抱き上げ、名前を呼んだ。

 

「フィー君!起きて、フィー君!終わったよ?もう、戦いは終わったんだよ?二天龍も神もいなくなって、もう戦わなくていいだよ?ねぇ、起きて!」

 

「………………ぁっ」

 

「フィー君!」

 

 薄らと目を開け、意識を回復した途端私は嬉しくなった。

 フィー君はゆっくりと目を開けて私を見つめ、微笑む。

 連れられて私もフィー君に笑みを返そうとした途端、ピシッと嫌な音が響いた。

 フィー君の亀裂が、顔にまで達したのだ。

 亀裂が大きくなり、光の球が更に数を増やし空に消えていく。そして微笑んでいた筈のフィー君が再び目を閉じ、段々と体が薄れ始めていくのであった。

 

「嘘…………いや………………嫌っ!!消えないで、フィー君!お願いだから、消えちゃいやだよっ……………。サ―ゼクスちゃん、アジュカちゃん、ファルビー!!フィー君が大変なの!フィー君に早く、早くフェニックスの涙を!!」

 

「セラフォルーっ…………受け入れろ。フィアンマは、もうっ!」

 

「嫌だ!!約束したんだもん!また、また皆で一緒に集まって遊んだり………演奏したり……………旅行したりするんだもん!!」

 

「………………セラフォルー、もういい。もういいんだっ。だから――――――」

 

「戦いが終わったら、告白するって…………大好きって伝えるって決めてたんだもんっ……………フィー君と二人きりの、でーとを……するんだもんっ…………」

 

「……………………」

 

 誰もがみな口を閉ざし。唇を噛みしめ涙を浮かべる。

 分かり切っている事なのに、受け入れたくなかった。

 私にとって、大切な友達で……………愛しい人が死んだなんて思いたくなかった。

 

 

 

  ――――――――ねぇ、フィー君……………起きてよっ。

 

 

 

  ――――――――いつもみたいに、冗談だって言って起き上がってよ。

 

 

 

  ――――――――からかってるんでしょ?…………ねぇ。

 

 

 

「フィーk――――――――」

 

 

 

 

 

パキンッ!!

 

 

 

 

 

「――――――――――あっ」

 

 フィー君の身体は跡形もなく砕け散り、光の粒子となって空に昇って行く。

 私は光の粒子となって登っていくフィー君をただ茫然と眺める事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ――――― ごめん ―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁぁっ…………あああああああああああああああああっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日この日、私達は。

 大切だった彼を、愛おしかった優しくて暖かな光を―――――失うのであった。

 

 


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