主役になれなかった者達の物語   作:沙希

7 / 27
7

 

 

 

 

 

 

 

 二天龍討伐の作戦が開始してから時間はそれほど経たなかっただろう。

 作戦指揮官フィアンマの全力管制戦闘において二天龍を怯ませる事が出来た。

 しかし、あくまで『怯ませる』ことだけである。

 ドライグの『倍加』の能力により攻撃力を底上げして力でねじ伏せられ、アルビオンの『半減』の能力によりこちら側の攻撃は半減し、糧とされてしまい流石のフィアンマも分かり切っていた事だが苦虫をかみつぶした様な顔を浮かべた。

 作戦指示により各戦力を交互に分散、後退させながら的確に攻撃指示を一人で送るのに目の前に浮かぶ複数の魔道ディスプレイを一つ一つ確認し、コンマ0秒すら離せない状態なのだ。

 しかしここで諦めては全勢力が蜥蜴二匹に殺されてしまう。何百何千万の勢力の命をフィアンマ一人が背負っているのだから、負けるわけにはいかない。

 

『ふはははははっ、どうしたその程度か!俺はまだまだ戦えるぞ!』

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

「っ、総員退避ぃいいいいい!!!」

 

『遅いわ!!』

 

 ドライグの口から赤い炎が噴出される。

 噴出された炎は各勢力を呑み込み、大地を焼け野原と化した。防いだ者達は防御に魔力を持っていかれ満身創痍となり、防ぎきれなかった者達は跡形もなく灰すら残されず消えていった。

 そしてドライグと反対に別の勢力を相手にしているアルビオンもドライグと同様で襲いくる者達など歯牙にも及ばないかのように反撃する。

 

『DividDividDividDividDividDividDividDivid!!!』

 

『消え失せろ、羽虫ども!!』

 

「っ、はあああああああああああああ!!」

 

 アルビオンの方を任されたサ―ゼクスは滅びの力を放ち、ブレスを消し去る。

 しかしブレスは拡散系の攻撃であるため自分以外の者達に襲い掛かる。

 サ―ゼクスは咄嗟に再び滅びの力を使おうとしたのだが、間に合わない。

 

「他は任せろ!!」

 

「絶対に止める!」

 

「これでっ!」

 

 だが、サ―ゼクスのフォローに回るアジュカとセラフォルー、ファルビウムは他の勢力 に襲い掛かってきたブレスを魔力の波動で弾き飛ばした。

 攻撃は防いだものの、あまりの絶望的な力の差に各勢力は怯み恐怖する。

 いくら作戦指揮が凄い者でも圧倒的なまでの力の差を見せつけられてしまったら、誰もが心を折れるだろう。魔王がルシファー以外全員死んだ悪魔側にとってはかなり絶望的な心情なのだ。

 優秀な若手悪魔であるサ―ゼクスたちでも二天龍の前では無傷とはいかず、所々血を流している。

 

「直ぐに満身創痍の者達を交代させろ!フェニックスの涙の残量はどれくらいだ!」

 

「もう残り少ないです!数千の悪魔の治療に使う数はありません!」

 

「くっ!ドライグ側の天使陣営、堕天使陣営は出来るだけ回避に専念しろ!防御に魔力を使っている余裕はないぞ!ゼクスたちは直ぐに後退―――――――」

 

 ディスプレイにはアルビオンの攻撃に満身創痍となっているサ―ゼクスたちが映し出されていた。他の悪魔よりもフィアンマの指示に的確に動いてくれているため前線に投下させ過ぎた理由もあり疲労や魔力の枯渇が激しいのだ。

 そして満身創痍となり膝をついているサ―ゼクスたちに対しアルビオンは口から白い炎を漏らし、攻撃態勢を取っている。

 このままでは拙い、だがこの場を離れるわけには行かないとフィアンマはどうするべきか考え出して10秒後に腰にぶら下げた剣が目に入った。

 剣を見たフィアンマは『使うべきか』と悩み眉間に皺に寄せたが、サ―ゼクスたちや他の勢力の命が危うくなると判断し、杖を畳んでポーチに収納し剣を抜いて転移する。

 

 

 

 

 

 アルビオンの攻撃により、満身創痍となっていたサ―ゼクスたちはアルビオンを睨む。

 なんとかして怯ませ、滅びの力で傷をつけたのはいいものの滅びの力さえ半減されてしまいダメージは鱗に焼け目が付いた程度だ。

 いくらバアルの力を持ってしてでも、優秀な悪魔として生まれたからと言ってもサ―ゼクスの攻撃など二天龍の前では無力にも等しかった。

 

『若造でありながら、中々粘ったものだな。だが、それも終わりだ!!』

 

「くっ、ここまで………なのか…………っ!」

 

 このまま死ぬのか、とサ―ゼクスは歯軋りする。

 このまま友であるフィアンマと顔合わせ出来ず終わるのかと嘆いた。

 セラフォルー達もサ―ゼクス同様に同じことを考えていた。

 フィアンマに会えなくなるなんて嫌だ。

 まだ死にたくない。

 生きて、生きてまた昔みたいに楽しい日常を過ごすのだと願った。

 

『終わりd――――――――――』

 

 

 

  ―――――――ディメンション・バインド――――――――

 

  ―――――――アストラル・バインド――――――――

 

 

 

『なっ、なんだこれは!?』

 

「あっ………………」

 

 セラフォルーが、聞きなれた声に顔を上げた。

 目の前に浮かんでいたアルビオンは色彩豊かな光の鎖、綱に巻かれている。

 そして上空には白いローブを靡かせ、メガネを指で押し上げてアルビオンを睨み付けるフィアンマ・サタナキアが剣を手にして立っていた。

 

「フィア!!」

「フィアンマ!」

「……フィアンマっ!」

「フィー君!」

 

 サ―ゼクスたちはフィアンマの名前を叫び、フィアンマはサ―ゼクス達の居る方へ視線を向けて不敵な笑みを浮かべる。

 頼もしく、そして力強い瞳がサ―ゼクスたちを捉えていた。いきなり現れたフィアンマにアルビオンは光の鎖や縄で縛られた状態で睨み付ける。

 

『貴様、ただの悪魔じゃないな。この複雑な術式を悪魔が使っているところを見たことがないぞ……………………』

 

「それは何よりだ。さて、アルビオン。早い話なんだがお前には退場してもらいたいもんだぜ。勿論ドライグ共々な。こっちが喧嘩している最中に乱入されてキレてる奴もいるからな」

 

『ほざけ、悪魔風情が!こんな糸っきれなど、こうして―――――――――』

 

 アルビオンが体を動かし、フィアンマの魔法を引きちぎろうとした。

 しかし、何故か体が動かない。いや、動いているのだが『遅い』のだ。

 そしてアルビオンは目に映る光景がスローモーションで動いている事にも気づき、フィアンマに何をしたと怒鳴り散らそうとするのだが口すらスローモーションになってしまう。

 ならば能力で消してやると思い、発動させるのだが発動しなかったので驚愕し、何故だと内心焦り出すアルビオンだった。

 

 そんなアルビオンの疑問にフィアンマは淡々とした口調で説明する。

 

「アストラル・バインド。行動阻害の為に時空間を操る術式を付加させた魔術であり、一定時間の間だけ体感時間を遅くさせる効果がある。そしてディメンション・バインド。バアルの滅びの力の構造を真似て編み出した術式を付加させた魔術であり、一定時間は特殊能力全てを使えなくなる」

 

『そ……ん……なっ………………バカ……………なっ!』

 

 アストラル・バインドにより体感時間を遅くさせられたアルビオンは遅れて出てくる言葉を並べて驚愕するのである。アルビオンだけでなく、サ―ゼクス達以外の悪魔や堕天使、天使ですらフィアンマの魔術に驚いているのだ。

 此れだけの高等魔術を魔力の力を効率よく、尚且つ精密に扱う天使や堕天使ですら扱える訳でも無いし生み出せる訳でも無い。特に時空間を操る力など、まさに神でも恐れる芸当でもあり、力の構造を理解して真似る事など出来るわけがない。

 

 

 戦況において不利だった状況を僅か数分もしないうちに覆す作戦指揮能力に、術式の制作能力を秘めた存在。これがフィアンマ・サタナキアという悪魔、天使、堕天使を超越した存在なのかと畏怖するのであった。

 フィアンマはそんな事の為に時間を使いたくなかったので、直ぐにアルビオン討伐部隊に作戦指示を送る。

 

「今から二天龍に対抗する術を準備を行うから30秒だけ時間を稼げ!!バインドの効果時間は残り20秒だから、その隙を叩け!!」

 

「っ、フィアの言う通りだ!全軍、突撃するぞ!!」

 

『おぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

「天使陣営も向かいます!みな、剣を持て!!」

 

『おぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 サ―ゼクスとミカエルの指示に各陣営が雄叫びを上げて、アルビオンに突撃する。

 効果時間は残り20秒の間にフィアンマはある準備をしなくてはならない。

 地上に降りて足元に巨大な術式を展開し、剣を両手で握りしめる。

 バインドの効果が解けたのか、アルビオンはようやく元通りに動けるようになったの だが既に遅い。アルビオン討伐部隊がアルビオンに襲い掛かっているのだから。

 

『くそぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!舐めるなよ、羽虫共があああああああああああああああ!!』

 

「させるか!セラフォルー、頼むぞ!!」

 

「Ok☆ お水は如何かな、蜥蜴ちゃん?くっらえ~~~~!!!」

 

『ごぼぼぼぼっ!?』

 

 ブレスを吐こうとした瞬間にタイミングよくセラフォルーが大洪水にも等しい水の量をアルビオンの口に叩き込んだ。

 大量の水で思わず息が出来なくなったアルビオンはブレスを中断し、水を吐き出す。

 吐き出すと同時に隙が大きくできたため、他の陣営から一斉攻撃が放たれる。

 優位だったはずのアルビオンだったがフィアンマの登場により、圧倒的不利な状況へと叩き落され、アルビオンはフィアンマの言葉通りに地面に叩き落された。

 そして叩き落されたと同時に、フィアンマの術式は完成する。

 フィアンマを中心に魔方陣が輝きを放ち、剣から巨大な光の柱が伸びる。

 光の柱は刃となり、羽とも言える形に見えた。

 

『っ、それは!』

 

「さて、二天龍が一柱アルビオン。覚悟はいいか?」

 

『や、やめろ!!』

 

「これで………終わりだあああああああああああああ!!」

 

『くそがああああああああああああああああああああああああああああ!!』

 

 光の大剣はアルビオンを呑み込みこむのであった。

 力を使おうにも、この空間中に広がる魔力を使っているため膨大な量となりキャパシティーが超えて半減できなくなったアルビオンはただ悔しさの絶叫を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 そしてドライグを相手にするルシファーとアザゼルたちの陣営にて。

 アルビオンが光の柱に呑み込まれる少し前の事である。

 

「あの蜥蜴をぶっ飛ばすぞ、アザゼル!」

 

「おう!」

 

 アザゼルが巨大な光の槍を、ルシファーが練るに練った巨大な魔力の塊を立て続けに放つ。他の悪魔やサ―ゼクスたちの攻撃とは違って桁外れなくらい強力な力だった。

 フィアンマからの指示がない事はアルビオン側に何かがあったのだとアザゼルは判断し、フィアンマが戻るまでのあいだ粘るのである。

 

『グォォォォォォォォ!!!』

 そしてアザゼルの槍とルシファーの魔力の塊はドライグに命中し、ドライグは悲鳴をあげる。今までで一番大きな悲鳴だが、もうルシファーとアザゼルに魔力は残っていない。

 今ので最後の攻撃だったのだ。

 

「どうだ?……………やったか?」

 

「っ……ルシファー!!!」

 

「がっ!?」

 

『くっ、流石魔王と堕天使総督と言ったところかっ…………かなり効いたぞ!』

 

 ルシファーの身体はドライグの巨大な爪によって貫通されてしまった。対するドライグの目は潰れ、鱗は剥がれてはいるが依然としてその巨体は空を飛んでいる。

 ダメージは与えたのだが、ドライグはまだ戦える力を備えている。

 

「がはっ……………ぐっ………………くそったれ………がっ!!」

 

『とっさに鱗の硬さを倍化しなければ俺もやられていただろうな』

 

「おい!ルシファー!しっかりしろ!」

 

 アザゼルがルシファーを助けようと魔力を無理やり引き出し、渾身の光の槍を投げる。しかし先程の一撃で力を使い果たした所為で、その威力は下級堕天使のそれと変わりなく簡単にドライグに弾かれてしまう。

 

『まったく、時間を取らせてくれたものだな…………………これでお前も終わりだな魔王ルシファー。残る脅威はアザゼルと聖書の神のみだけだ』

 

「くっくっくっ……ハハハっ……ハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!」

 

『何が可笑しい?ついに気が狂ったかルシファー?』

 

 ルシファーが急に大声で笑い始める。腹を貫かれ絶体絶命であるはずのルシファーが笑っていることにドライグは違和感を感じた。

 腹を貫かれ口や腹から大量の血液が流れ出て、死にかけているルシファーはドライグを睨み付け、不敵な笑みを浮かべ口を動かす。

 

「確かに…………お前の言うとおり俺は終わりだ。だがなっ、俺はただで死ぬつもりはねぇよ!――――――――やれっ、フィアあああああああああ!!!」

 

『っ、まさか―――――――――――』

 

 ドライグがアルビオンのいる方角へ視線を向けたその時だった。

 恐ろしい速度で光の柱がドライグに向かって飛んでくる。

 近場にいたアルビオンは既に光の大剣に呑み込まれており、消え失せていた。

 

「悪魔の未来を………頼んだぞ、バカ息子」

 

『お、おのれえええええええええええええええええええええええ!!!』

 

 魔王ルシファー共々、ドライグは光の大剣に呑み込まれていった。

 消えていく際にルシファー安らかな笑みを浮かべ、フィアンマのいる方角へと視線を向け言葉を残し、ゆっくりと目を閉じるのだった。

 

 

 飲み込んだのはアルビオンだけではない。

 フィアンマが剣を振りかざし前に事前に部隊長とルシファーに連絡を入れていた為、光の柱に呑み込まれることなく各勢力に被害が及ぶことはなかったのだ。

 ルシファーの近場にいたアザゼルも咄嗟に力を振り絞って光の柱から逃れられたので生きている。そして光が消えると二天龍の存在が無くなっており、誰もが目を疑ったが直ぐに喜びへと変わった。

 これでようやく終わったのだ、と……………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見事!よくやりました皆の者!大義であったぞ!!」

 

 

 

 

 

 しかし、戦争はまだ終わらなかった。

 ドライグの腕と似た赤い籠手とアルビオンの翼に似た翼を手に、神が現れる。

 

 

 




・フィアンマの技の参考Ⅱ
『ディメンション・バインド』……参考例無し。バアルの滅びの術式を加えており、特殊能力を一時的に使用不可能にする魔術。チェーン・バインドの様に魔方陣を複数展開できないため対象が小さければ小さい程命中率は下がる。しかしドライグやアルビオンと言った巨体ならば確実に当たる。

『アストラル・バインド』……参考例はログホライズンのシロエの魔法を参考。移動制限魔法だが、フィアンマが時空間を操作する術式を組み合わせたので相手の体感時間を一定時間遅くさせる魔術として生み出された。ディメンション・バインドよりも命中率は高いがチェーン・バインドと比べれはディメンション・バインドとは団栗の背比べ。

『光の剣』………参考例は極光剣かエクスカリバー、ではなくTOVの天翔光翼剣。剣術に長けているわけではないが、敵の一掃に役立つのではと考えたフィアンマが生み出したもの。リゾマータの公式がエアルの昇華、還元、構築、分解によって構築される物質を自由自在に操ることができる事と同じように、フィアンマはリゾマータの公式に似た公式を創り上げた。因みに剣は明星弐号と形は同じ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。