主役になれなかった者達の物語   作:沙希

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 二天龍の乱入により、各勢力は戦いを止めて一時休戦という形となって数分が経つ。

 各勢力のトップとも言える者達が共に集まり会議を開いていた。

 勿論、その中にフィアンマたちも含まれている。

 

「さて、二天龍が乱入して来るとは予想外だった。お蔭さまでこっちの勢力の中級から下が8割ほど消えた」

 

「こっちは魔王が俺だけだ。全く、あの蜥蜴共はやってくれたな………」

 

「しかし、これからどうするかについてです。お二方は何か策はありますか?」

 

 聖書の神の言葉にアザゼルとルシファーが眉間に皺を寄せる。

 二天龍の攻撃の余波で自分たちの陣営の被害はとても大きいものだった。

 特にアザゼル率いる堕天使勢力においては少数派なため、一番被害が大きいだろう。

 

「有ったら有ったでとっくに対策を出してるよ。おい、ルシファー。僅か数分で戦況を覆せる策を取った手腕を見せてくれよ」

 

「それは俺がやったんじゃない。そこにいるフィアンマがやった事だ。全力管制戦闘と言ったか?全勢力の動き、弱点などの情報を把握していきまるで未来を見ていると言わんばかりの指示を出すからな」

 

「マジかよ、てっきり最上級悪魔か魔王達の誰かと思っていたんだが…………」

 

「まさかこのような悪魔が………」

 

 驚愕の表情を浮かべ、フィアンマを見つめる2勢力のトップ。

 見た目は魔導士の様な服装でメガネを掛けているフィアンマの見た目の印象から知的と取れるとは思うが会話すれば本当に頭が良いのか疑いたくなる性格である。

 

「二天龍が現れなかったら間違いなく俺達が勝ってただろうな」

 

「はぁ、とんでもねぇ奴がいるもんだなお前の陣営には。俺の陣営にもそんな事出来る奴が一人でも欲しいくらいだぜ。で、話を戻すが作戦指揮はソイツに任せるのか?」

 

「俺はそれで構わないが、神やお前の陣営のメンバーがいう事を聞くかどうかだ」

 

「仮にも敵同士。流石に作戦の全指揮権を敵側に委ねる事は出来ません」

 

 聖書の神は用心深く、ルシファーの案を却下した。

 聖書の神自身、悪魔と手を組みたくはなかったのだが二天龍を止めることが先決であるため手を組むことにしたのだが流石に背中を任せる相手が悪魔など断じて認めなかった。用心深く堅物という感じなのだが、どうもそうは感じられなかった。

 もっと別の意味が込められている様にも感じた。

 あーだこーだ3人が案を出し合い、却下し合っても埒が明かずついには頭脳担当が居なくなった代わりにフィアンマに声を掛ける。

 

「フィア。お前はどう考える?どうすれば二天龍を止められる?」

 

「そうだな………………」

 

 顎に手を当て、フィアンマは考え出した。

 悪魔陣営の誰もがフィアンマに期待を寄せた視線を送っている。

 その中にはフィアンマをバカにしていた悪魔も含まれている。

 二天龍乱入前の全力管制戦闘においてのフィアンマの活躍に関心を寄せているのだが、サ―ゼクスたちにとってはなんという手の平返しだと複雑な気分でもあった。

 そしてフィアンマが考え出してから2分経過し、口を開く。

 

「今回は一時休戦という形だから、全勢力を持ってして二天龍を討つ。文句たれる連中もいるだろうが、今は同胞たちと未来の同胞達の命が掛かっている。ならば作戦指揮権を全て俺に委ねてほしい」

 

「バカな!誰が悪魔を背にして戦わなければならないのですか!そんなことは断じて認めるわけがない!貴様たち悪魔に作戦指揮を任せるくらいならば私がやった方がましd――――――――――――」

 

「ごちゃごちゃうるせぇんだよ矛盾の塊風情が!!」

 

「!?」

 

「いいか、聖書の神。俺は全勢力を最小限の被害で済ませる事を前提にして俺に任せろと言ってるんだ。そんなに信用がないなら勝手に一人で自分の同胞を引き攣れて犬死しやがれ、カス風情が!」

 

「か、カスっ!?」

 

 フィアンマの言葉に聖書の神は唖然としてしまった。

 それは聖書の神だけでなく、この場に居たアザゼルやサ―ゼクスたちもある。

 思わぬ一面にルシファーだけがくつくつと笑っていた。

 言いたい事を言い終えたフィアンマの顔は何処となくスッキリした表情だった。

 そして表情を戻し、話をつづける。

 

「いまはプライドなんぞ知った事じゃない。俺たちの戦いの間に乱入してきやがった蜥蜴二匹を退治することが何よりも最優先だ。あの糞トカゲどもせいで親友や家族、愛しき人を失った者達も多いだろう。もしあの糞トカゲどもに一泡吹かせたい奴がいるなら、俺に全指揮権を預けろ。絶対に全同胞、全勢力から死人すら出さず最小限に抑えて尚且つあの糞トカゲどもを地に叩き落す策を練ってやる」

 

『…………………………』

 

 フィアンマの言葉に誰もが口を閉じた。

 自信に満ちたフィアンマの瞳に頼もしく感じる者もいれば、良く言ったと頷く者達、惚れ直したと言う者もいる。

 そして悪魔側の勢力のトップであるルシファーが立ち上がり、後から堕天使陣営のトップであるアザゼルも立ち上がる。

 

「同胞の未来、お前に託すぞフィア」

 

「死人が出なくて最小限の被害で済むなら是非もないぜ。俺の力と同法の力、お前に預けるぜフィアンマ」

 

 残るは神だけとなり、誰もが聖書の神に視線を注ぐ。

 此処で断り、自分の仲間を連れて自分たちだけで二天龍に挑むとなると厄介である。

 だからと言ってこのまま尻尾を巻いて逃げれば両陣営から腰抜けと言われるだろう。

 神は諦めた表情となり、椅子から立ち上がる。

 

「貴方に私の同胞を預けます」

 

 これで全員から指揮権を受け取ったフィアンマ。

 期待に満ち溢れた目で誰もがフィアンマを見つめる。

 3勢力すべての命を背負う責任はフィアンマに任せられた。失敗は許されない。失敗すれば天使や堕天使だけでなく、同じ仲間たちからも恨まれる役割なのだ。

 しかし、フィアンマはその責任を前にして笑みを浮かべる。

 

「――――――作戦が決まり次第、各自英気を養え。以上だ!」

 

 今日、この日。

 歴史に残る戦いが、いま刻まれようとしている。

 フィアンマ・サタナキアという一人の『転生者』の最後の戦いの火蓋が切られようとしているのであった。

 

 

 

 

 

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 作戦開始前、各陣営のトップは同胞たちに二天龍討伐の作戦を発表する。

 二天龍討伐に燃える血の気の盛んな者もいれば戦争を邪魔した怒りを抱く者達もいる。だが何よりも多かったのが『無理だ』『死んでしまう』『帰りたい』と口ぐちに弱音を漏らす者達だった。

 二天龍の実力は誰もが耳にしており、いくら束になっても勝てない。それに悪魔陣営は魔王を3人が二天龍によって失ったのだ。絶望的とも言える心情だろう。

 しかし、生き残った魔王ルシファーが作戦指揮をフィアンマ・サタナキアが行うと言った瞬間、作戦指示を受けていた部隊長たちが本当か!?と聞き返したくらいだ。作戦指揮を出していたのがフィアンマだったと知らなかった悪魔たちが、戦争中に僅か数分で戦況を覆したのはフィアンマの全力管制戦闘のお蔭によるものだと知ると驚きもあれば疑いもある声が上がり、そして次第に『勝てるかもしれない!』という声が上がり、段々と沈んでいた士気が上がっていったのだった。

 『手の平返すの早っ』と内心ルシファーはツッコミを入れたのは言うまでもない。

 作戦開始までには時間があるため互いの陣営は英気を養い、傷を癒すことに専念した。

 

 

 そして作戦指揮を任されたフィアンマは―――――――――――

 

「…………………」

 

 軍部にて作戦を練っていた。

 地形や天候、魔道具の状態を確認し後はどうするべきか頭の中でまとめ上げる。

 サ―ゼクスたちは家族たちの元へと向かい、共に英気を養っているのでその場にいなかった。

 しかし、軍部のテントにセラフォルーが現れた。

 

「…………フィー君」

 

「セラか。何か用か?作戦開始までにはまだ早いぞ」

 

「違うよ。フィー君の分の食料を持ってきたの」

 

 そういってトレイに乗せた食事を見せる。

 トレイにはパンとスープ、干し肉といった貴族にしては何とも質素な食事であった。

 どこの世界でも戦争においては保存がきいた食べ物が当たり前であり、豪勢な食事は出ない事は知っていた。

 セラフォルーはフィアンマの前において、隣の椅子に腰かける。

 

「ねぇ、フィー君。私にできるコト、ない?」

 

「なら二天龍を丸ごと氷漬けにしてくれ。それなら助かる」

 

「もう、そういうことじゃなくて!フィー君の気が楽になれることをしてあげたいの!」

 

「気が楽になれる事、か……………………ならガブリエル呼んできてくれ。天界一の美女をゆっくりと眺めて落ち着きたい」

 

「怒るよ!」

 

「冗談だって」

 

 昔の様と変わらない笑みを浮かべからかうフィアンマ。

 そんなフィアンマに唇を尖らせえてぶうたれるセラフォルーだが、何だか昔のやり取りみたいで落ち着く。

 本当はフィアンマを安心させたくて来たのだが、何故か自分が安心していた。

 学園生活の時や、卒業後の時と変わらないやり取りが今では何だか懐かしく感じる。

 

「フィー君は怖くない?全勢力の命を背負ってて、逃げ出したくない?」

 

「さぁ、分からねぇ。あんな事を言ってなんだけど、全勢力の同胞の命を背負うって実感が湧かねぇんだよ。なんというか………………そういうの全く感じない」

 

「でも、怖いって思ったりしないの?死んじゃうとか、周りから恨まれるとか」

 

「……………………ないと言えば嘘になるかな。仮に二天龍を討ったとしても、殺してしまった分だけトップの連中から恨まれて殺されそうだと思うと怖くなる。指揮権を任せてくれたのは有難かったけど、こう意識するとマジで怖いな」

 

「………………………」

 

 笑っているが、その笑みには恐怖があるとセラフォルーは感じた。

 いくらフィアンマでも恨みを買われ、死や失敗を恐れることだってあるだろう。

 セラフォルー自身だって、もしかしたら生き残れないかもしれないし家族を失うことになるかもしれない。

 これから生まれる妹の未来を奪ってしまうと思うと、怖くて仕方がない。

 だがしかし、それと同時に愛しきフィアンマを失う事にも恐れている。

 だからセラフォルーはフィアンマの手を握りしめ、見つめる。

 

「セラ?」

 

「約束して、フィー君。私は絶対に生き残る。私だけじゃない、サ―ゼクスちゃんやアジュカちゃん、ファルビーや他の悪魔たちも絶対に生き残るから!」

 

「……………………」

 

「だから、だから………………フィー君も絶対に………死なないで!まだ私、フィー君に言わなくちゃいけないことがあるんだから!」

 

 いまだ恥ずかしくて愛しているという想いを告白していないセラフォルー。

 タイミングを見計らって何度も告白しようとするのだが、どうしてもフィアンマの顔を見てしまうと顔が熱湯の様に沸騰して言葉が出なくなるのだ。

 セラフォルーがフィアンマに好意を抱いていることなどサ―ゼクス、アジュカ、ファルビウムも認知しており応援はしているものの全然セラフォルーの恋は成就しない。

 セラフォルーのヘタレな部分があるせいでもあるが、フィアンマの鈍感な所も悪いと言えば悪いだろう。

 潤んだ瞳を向けられたフィアンマだが頭をボリボリ掻いて、こういった。

 

「あ~~~…………それってフラグになるから約束は出来ねぇわ」

 

「ちょ、なんでよフィー君!それにふらぐって何!?『旗』ってどういう意味なの!」

 

 折角良い雰囲気だったはずなのにぶち壊しである。

 空気を読めないフィアンマに思わずセラフォルーは怒って詰め寄り、詰め寄ってくるセラフォルーを笑って宥めるフィアンマの構図の出来上がりである。

 本当にこれから二天龍を相手にするかという光景ではないだろう。

 そしてそんな二人のやり取りに第2にの空気を読めない男が現れる。

 

「お~~~い、フィア。ちょっと用事が………何やってんだお前ら?」

 

「もういい!フィー君のバカ!戦争が終わっても絶対謝るまで許さないから!」

 

 そういってセラフォルーはプンスカと怒ったままテントを出て行った。

 セラフォルーはルシファーが居る事さえ認知出来ない程怒っていたの、そのまま横を通り過ぎて行ってしまった。

 いったいどうしたらああなるだとルシファーはフィアンマを見つめ、フィアンマは普段の笑みを浮かべて何も言わなかった。

 

「それよりルシファーさん。俺に何か用だったんだろ?」

 

「あぁ、そうだったな。……………悪いな、作戦面を全部押し付ける形になって」

 

「気にしてないさ。元より俺自身が言いだそうと思っていたことで、ルシファーさんが悔やむことなんてないんだよ」

 

「お前がそう言ってくれると、ありがたいもんだ。しっかし、あれから十数年が経つんだな、お前を拾ってから。ほんと、とんだ悪ガキを拾ったと思ったよ」

 

「何だかんだ言いながら手放さないあたり、かなりルシファーさんは変わってるよ。他の魔王さんをそうだったけど」

 

「うるせぇよ、バカ息子が。………………それより気を付けろ。神の奴は何かをたくらんでいるかもしれない。絶対に何かやらかすに違いないだろうぜ」

 

「分かってる。その時の対策は……………『覚悟』の上だ」

 

 そういってフィアンマは立ち上がり、腰にベルトにぶら下げた剣を見つめる。

 今回の作戦においての切り札となる武器、剣をフィアンマは見つめるのであった。

 

 

 

 


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