主役になれなかった者達の物語   作:沙希

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 悪魔、天使、堕天使の三竦みによる戦争が始まった。悪魔と堕天使が冥界の覇権を掛けて争い、そして古来より続く天使と悪魔の小競り合いも同時に発展し戦争が始まったのである。

 2対1という不利な語りであるが堕天使側に堕天させた神が憎いと者も少ない訳ではなくいわば三つ巴といった感じなのだ。戦争にはサ―ゼクス、アジュカ、ファルビウム、セラフォルーといった優秀な悪魔たちが参加しており、そして魔王ルシファーが引き取ったフィアンマも参加していた。

 

「これは流石に拙いな………」

 

「そうだねぇ~。流石に作戦指揮が詰めが甘いせいでこっちが不利かも~」

 

「だけど、これ以上被害が出ない様に私たちが全力で迎え撃つまでだ」

 

「ねぇ、フィー君。この状況、どう思う?」

 

 サ―ゼクスたちは現状的に拙いと判断する戦況化は悪魔側が不利になっている。

 バカスカと効率の悪い力だけの魔法を撃ち込み、戦闘経験が浅いせいで殆どの悪魔がやられていっている。

 そんな状況に不安になるセラフォルーはフィアンマに問いかける。

 白いローブを纏い腰には魔道具を入れるポーチを腰に下げ、メガネを指で押し上げて戦況を見つめている。

 

「確実に最初にくたばるのは俺達だな。このままでは天界側に殆どやられて数が少数派の堕天使側に劣るかもしれない。ゼクス、アジュカ、セラの3人は前線に居てくれ。今から俺とファルビウムで軍部に向かう」

 

「もしかして!」

 

「ふ、そういうことなら通話用の魔道具がいるな」

 

「二人の指揮なら問題ないね☆」

 

 するとフィアンマの頼もしい言葉に笑みを浮かべる。

 フィアンマの実力を何よりも理解しているメンバーだけしか知らないフィアンマの力がここで発揮されると思うと頼もしくて仕方がないのだ。

 

「それじゃあ行くぞ、ファルビウム」

 

「りょうか~い」

 

 転移魔方陣を展開し、二人は悪魔側の軍部へと転移した。

 二人が転移した時には既に3人は囲まれており、戦闘態勢に入る。

 

「それじゃあ彼の全力管制指揮まで粘るとしよう」

 

「アイツの本領が此処で明かされるのが楽しみだ」

 

「というわけで…………そういわけだから天使ちゃんたちごめんね☆」

 

 その瞬間、3人の猛攻が天使に襲い掛かる。

 流石の天使も3人の前では手も足も出ず、滅されてしまうのであった。

 

 

 

 

 

 悪魔側軍部にて。

 魔王達と最上級悪魔の指揮官が頭を悩ませ、戦況を眺める。

 天界側の思わぬ力と悪魔側の戦いの効率の悪さに嘆いていた。

 

「くっ、実践戦闘を怠ったのが裏目に出たかっ!」

 

 魔王ルシファーが苦虫を噛み潰したような顔で机を叩く。

 戦況は圧倒的とまでいかないにしろ、こちら側が不利という事実を叩きつけられた悪魔側は戦意喪失してもおかしくはない状況だ。

 実践戦闘が生温かったと理由も挙げられるが、悪魔の誰もがこんな事を予想していなかっただから仕方ないと言えば仕方ない。

 しかし、今の現状で仕方ないで済む状況ではないのだ。

 眉間に皺をよせ、被害を最小限に抑える策を魔王達が頭を悩ませ他の悪魔たちが魔王様と心配そうに声を掛けるその時だった。

 軍部に魔方陣が展開され、魔方陣からフィアンマとファルビウムが現れた。

 

「邪魔をするぞ」

 

「フィアか。前線を離れて何をしに来た?こっちは冥界の魔獣にも手を借りたい状況なのに…………」

 

「ルシファーさん。俺とファルビウムに作戦の全指揮権をくれ。二人で作戦を伝える」

 

「なっ!?バカか貴様は!貴様らの様な若造どもに作戦を任せられるか!元人間風情が出しゃばるんじゃない!」

 

 そうだそうだ!と最上級悪魔たちがフィアンマに非難の声をあげる。

 しかしフィアンマは最上級悪魔たちの言葉など全く耳に入れていない表情でルシファーと他の魔王達を見つめていた。

 魔王達はフィアンマの強い瞳に何か策があるのではと読み取り、ルシファーが周りで騒いでいる上級悪魔たちを無視して話を進める。

 

「良いだろう。お前の言葉と、そこにいるグラシャラボラスの小僧を信じる」

 

「魔王様!?このような小僧たちにそんな事――――――」

 

「ならお前達にこの戦場を覆せる策があるのか?ただ俺たちの腰巾着のお前らに天界側と堕天使側に圧倒する秘策が思いつくのか?」

 

『…………………』

 

 誰もが魔王の言葉に黙ってしまった。

 ここに居る最上級悪魔たちは無能とは言えないものの腰巾着でしかなかった。

 いくら頭が良くて魔力が少し多いからと言っても役に立てなければ意味がない。

 現に今の最上級悪魔たちが現役なのに前線にいる悪魔たちと違い安全圏にいるのだから。大口叩いても所詮中身は小心者の集まりである。

 

「指揮権は全部お前らに委ねる。それで…………俺たちは何をすればいい?」

 

「まずはルシファーさん、ベルゼブブさん、レヴィアタンさん、アスモデウスさんの全員を前線に投下します。勿論、ここに居る最上級悪魔全員」

 

「なっ、貴様はバカか!?私達だけでなく魔王様達を投下するとは、後先考えていないのか―――――――――――――――」

 

「黙れ、貴様等。いまはフィアンマの話だ。……………続けろ」

 

「ありがとうございます、レヴィアタンさん。まず4人にはアザゼル、神といった面々のいる所へ向かわせます。熾天使や他の堕天使は我々が相手しますので」

 

「熾天使側にはサ―ゼクスとアジュカ、セラフォルーを行かせよう。アザゼルを除いた他の堕天使側にはフェニックス、バアル、グレモリー陣営を敷いて魔王様の所に過剰戦力が行き渡らない様にベリアルをいかせようか~」

 

「となればベリアル側にシトリーとアガレス、ハルファス達も含めよう。陣形的には熾天使を神から引き剥がす感じがいいな」

 

「だねぇ~。でも流石にサ―ゼクスやアジュカ、セラフォルーたちだけじゃきつくないかな?」

 

「俺が全力で補助に回る。ファルビウムは魔王陣営に指揮をとってくれ」

 

「りょうか~い」

 

 まるで息があった様にスラスラと作戦を立てる二人に魔王たち以外は唖然となる。

 作戦を考察した二人は話し合いをやめてから僅か3分もかからずに終わった。

 そしてフィアンマが伝令係の悪魔を呼び、魔道具を預ける。

 

「通信用の魔道具だ。直ぐに部隊の隊長に渡して来い」

 

「え、……あ。はっ!了解しました!」

 

「よしっ!準備は整ったなら俺達も出るぞ!各員、配置に着け!」

 

 魔王の言葉に悪魔たちが急いで準備し始める。

 戦況化では魔王を投下しかねない状況であるため他の悪魔たちは戦意喪失しかけていたが魔王の言葉に慌ててはじめた。

 流石のめんどくさがり屋のファルビウムでもいまの戦況下で焦っていないと言えば嘘になる。額には汗が流れており、緊張していた。

 

「大丈夫かな………」

 

「問題ねぇよ。被害は出るだろうが、俺達の指揮で最小限に抑えるだけだ」

 

「でも、実戦は初めてだよ?フィアンマは怖くないの?」

 

「怖いに決まってるだろうが。でも、怖がってる暇があるなら何としてでも生き残るって事だけを考えたるだけだ。……………なんとしてでも」

 

「フィアンマ?」

 

「行くぞ。これより、全力管制戦闘を行う」

 

「……………うん。分かった。死ぬなよ、フィアンマ」

 

「そっちもな、ファルビウム」

 

 お互いに拳を合わせ、魔方陣を展開し別々の場所へと転移する。

 しかし、ファルビウムとの約束は果たされることなどファルビウムは知らなかった。

 

 

 

 

 

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 作戦指揮をフィアンマとファルビウムに譲られてから、悪魔陣営の戦況は劇的に変わった。フィアンマが作った魔道ディスプレイで各部隊と敵部隊の状況下が映し出され、ディスプレイに映し出された悪魔の状態や敵の状態、部隊長からの情報を駆使して作戦を練るフィアンマとファルビウム。

 チェスとは全く違い、一人一人の力は違うし意思を持っているが二人にとって相手がどんな動きを取るのか手を取るようにわかった。

 作戦指示を受けとる部隊長の誰もが『フィアンマ・サタナキアは化け物か』と内心恐怖し、敵で無かったと心から安心する程だった。

 

 

 二人の作戦により、悪魔陣営は最小限の被害ですみ二人の作戦指揮から死者はでなかった。多少満身創痍になりかけている者達もいるが、2つの勢力を上回っている事により部隊の士気が上がりつつもある。

 悪魔陣営の誰もが戦意喪失しかけていたというのに二人の作戦指揮のお蔭で徐々に戦意を取り戻していき、堕天使や天使側の勢力が焦りを見せる。

 戦意喪失していた敵陣営がいきなり戦意を取り戻し、剰え行動の全てを見破られもすれば誰だって焦るのは間違いないだろう。

 堕天使陣営を指揮するアザゼルや天使陣営を束ねる神でさえも焦りを露わになる。

 いったい、どんな奴が作戦指示を出しているのだ?と冷や汗を流していた。

 

(やっぱり凄いよ、フィー君!間違いなく功績として讃えられるよ!)

 

「セラフォルー、援護を!」

 

「任せて☆ くっらえ~、『零と雫の霧雪(セルシウス・クロス・トリガー)』☆」

 

『―――――――――――っ!』

 

「アジュカちゃん!」

 

「任せろ!いまだ未完成だが、いけ、『覇軍の方程式』・破の式!」

 

 セラフォルーのもっとも得意とする水と氷の魔法で天使側は絶叫を上げることなく氷漬けになり、アジュカのフィアンマと作り上げた未完成の術式を用いての追撃に荒野と共に凍らせた天使と堕天使が爆ぜ、荒野に巨大なクレーターが生み出されていた。

 天使を引き連れていたセラフたちは流石にサ―ゼクスたち力の前に退いている。

 

「不利だった戦況を覆す作戦指揮に、これほどの実力………流石に感服せざる負えませんね………………。」

 

「天使長にそう言ってもらえるとは、フィアンマもきっと鼻が高いだろう」

 

「フィアンマ…………作戦指揮を出しているのは、そのフィアンマという悪魔なのですか?」

 

「あぁ。私たちの自慢の悪魔だ。ファルビウムっていう悪魔も作戦指揮をしてるけれど、全部隊に全ての敵の動きや弱点などの情報を読み取って作戦指示を出せる悪魔なんて彼だけだろうね」

 

「なっ、敵全員の情報を一人で!?そんなの、主でも出来ない芸当ですよっ!?」

 

「どんな化け物だ、そのフィアンマという悪魔はっ」

 

「―――――――――こういう悪魔だが?」

 

『!?』

 

 熾天使の一人、ウリエルの言葉の後にサ―ゼクスたちの立っている場所に魔方陣が展開され、フィアンマが現れた。

 白いローブを身に纏い、魔道具らしき杖を手に熾天使たちを見つめる。

 

「貴方が、フィアンマ…………」

 

「初めましてだ天使長ミカエル。それに神の炎ウリエル、天界きっての美女ガブリエル。俺がフィアンマだ」

 

「貴方が全ての部隊に作戦を指揮していた、悪魔ですか?」

 

「あぁ、その通りだ。流石に無能な最上級悪魔たちには任せられないんでね。このままお前らに殺されるのだけは御免だ」

 

「短時間による戦力の分断と負傷した仲間を交代させるその指揮…………悪魔でなければ間違いなく私達の陣営に欲しいくらいです」

 

「天界の美女からそう褒められるのは嬉しい限りだよ……………おい、セラ。なんで頬をつねる?魔力が籠って滅茶苦茶痛いんだが?」

 

「敵の女に現を抜かすなんて、フィー君のバカ!!」

 

 戦場にいるとは思えないセラフォルーとフィアンマのやり取りに敵陣のセラフたちも苦笑いする。

 しかし、だからと言えどフィアンマに警戒していない訳ではない。

 不利だった戦況を僅か数分足らずで覆すフィアンマの知能とフィアンマの余裕な態度にセラフたちは警戒を解いてはいなかった。

 そしてセラフォルーとのやり取りが終わり、フィアンマの表情は変わった。

 

「さて。素直にここから去ってもらったら助かるんだがな」

 

「そうはいきません。私たちは主の命によって悪魔を殲滅しなくてはなりませんから」

 

「あぁ、そうかい。なら―――――――――――」

 

 

 

 

 

  ――――――――チェーン・バインド――――――――

 

 

 

 

 

『!?』

 

「神がくたばるまで眠っててもらうぜ」

 

 フィアンマが杖を向けた途端に空間から多数の魔方陣がセラフ達を囲み、魔方陣から鎖の形をした光の線がセラフに襲い掛かる。

 咄嗟に回避したものの、幾つかのバインドに縛れてしまう。

 

「くっ、こんな魔法など!」

 

「っ、いけませんウリエル!」

 

「はぁああああ!!」

 

 ミカエルの忠告を無視し、ウリエルは炎の剣で鎖を切り落とそうとした。

 鎖は簡単に千切れ、鎖から解放されたウリエルはフィアンマに向けて不敵な笑みを浮かべる。

 しかし、対するフィアンマはウリエル以上に不敵な笑みを浮かべていた。

 フィアンマの笑みに気づいたウリエルは咄嗟に斬り裂いた鎖を見つめる。

 バラバラになった鎖の環状の部分がU字型となって大きくなり、ウリエルの首、腕、胴体、足などにはめ込まれそのまま地に落とされる。

 そしてU字型となった環状の部分が地面に突き刺さると同時に重力が加えられウリエルは身動きが取れなかった。

 

「ぐっ、なんだ………これは!?」

 

「束縛魔法+重力付加の多重付加術式。下手に暴れるなよ。未完成だから、衝撃を加えるたびに重力が加わって最悪肉が分断されるからな」

 

「っ!?」

 

 フィアンマの言葉にウリエルはギョッとした様に目を見開き、大人しくなる。

 神の命に掛けて何としてでも破りたいのだがフィアンマの顔と言葉は嘘でない事はウリエルでも分かる。

 もしもこのまま暴れていれば、無様な姿を晒して神の命を全うできぬまま死んでいきたくはない。

 流石のミカエルもガブリエルもサ―ゼクスたちほどで無いにしろ、魔力が少ないフィアンマがこんな高等術式を扱えるとは思ってもみなかった。

 

「さて、ミカエルとガブリエル。残るはお前らだけだ。このままウリエル共々寝てもらうか、肉体が分断されるか選ばせてやる」

 

「っ……………」

 

「ミカエル様、ここは一度引くべきでは………」

 

「だが、ウリエルを置いて行くわけにはいかないっ。ここは何としてでも主の命を成し遂げなければ……………」

 

 ミカエルはフィアンマを見つめ、苦虫をかみつぶしたような顔をする。

 フィアンマを含めサ―ゼクスたちを二人で相手にするのは不可能。

 援軍を待っている間には倒されているだろうし、乗り切れる自信はない。

 フィアンマという存在により、戦況を覆されてしまえば勝敗は分かり切った事。

 しかし――――――――――――

 

『グォォォオオオオオオオオオオオンッ!!』

 

「!?」

 

 突如として空から二天龍と称される赤龍帝ドライグ、白龍皇アルビオンが現れた。

 二天龍は悪魔、天使、堕天使たちが争っているのを気づいていないかのように争い初め周りに大きな被害を出し始めた。

 一部を除き最強である二天龍が争えば、そこらの魔獣の被害とは比べ物とならない被害を出すだろう。お蔭で本人達にその気がなかったとしてもその争いに依る余波は各陣営に多大な被害をもたらしていたのだった。

 二天龍の登場により、結果として一旦戦争は休戦となり各陣営のトップによる対二天龍の会議が開かれる事となった。

 

 

 




・フィアンマの技の参考
『全力管制戦闘』……敵味方のリソースの変動を精密に把握・予測して戦う戦法。ログ・ホライズンのシロエが得意とする戦法を参考。

『チェーンバインド』……技の名前に特に参考例はない。魔方陣から鎖が放たれ、絡む付かれた者によって破壊されると破壊された破片が相手の身体に取り付き、重力付加により地面に叩き落される。鎖で捕らえる事が目的でなく、破壊させて捕らえる事を目的としている術式。因みにウリエルの状態はワンピース243話ウォーターセブン編でルフィとパウリ―がカクとルッチにU字型の磁石の形に似た金属針を地面に突き刺されて身動きを取れなくされた時のあれと同じ状態。



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