主役になれなかった者達の物語   作:沙希

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 元ルシファー領の森にて。

 森の周りを大きな柵で囲い込み、ドーム状の様に魔力壁で覆っている。

 初めて見た者ならば、化け物でも封印しているのか?と疑問に思うだろう。

 しかし、その森には魔獣や魔物はおらず人間界にいる様な害の無い生物ばかり。

 森の入り口と思わしく大きな門を潜り抜け、一本道をずっと進んでいくと記念碑が設置されていた。

 

 

 そして木々の隙間から光を照らす深き森に、一人の少女、セラフォルー・レヴィアタンがいた。少女の眼前には文字が刻み込まれた石造りの記念碑には多くの花束が置かれている。

 他には魔道具らしきものなどもあった。少女は記念碑に歩み寄り、手に持っている花束を置いて腰を降ろす。

 

「元気にしてた?」

 

 セラフォルーは笑みを浮かべ、記念碑に問いかけ始めた。

 答えなど帰ってこないが、セラフォルーにとってはこうやって語り掛けるのが日課であり楽しみでもあるのだ。

 セラフォルーにとって記念碑に刻み込まれた人物は掛け替えのない存在であり、手を差し伸べてくれた愛おしき悪魔なのだから。

 

「今日はね、人間界の各地でコンサートを開いたの。みんな私の歌やダンスで喜んでくれたんだよ?男の人だけじゃなくて女の人や子供たちもいっぱいだったの。沢山のファンが応援してくれたんだ」

 

 そして付け加える様に「これも、全部君のお蔭だよ」だと言って微笑む。

 しかしその微笑みは何処か寂しげでもあり、目には小さな涙が浮かんでいた。

 

「その中にね、悪魔もいるんだよ?……………みんなが私の歌とダンスで、喜んでくれてるんだ。…………沢山…………応援、してくれるんだ」

 

 何度も此処に来るたびに少女は嬉しそうな笑みを浮かべて、涙を流し語る。

 楽しかった事、嬉しかった事、辛かった事、忙しかった事の全て記念碑となった人物に報告する様に自慢する様に…………談笑する様に語り掛ける。

 

「ねぇ…………私、頑張ったんだよ?沢山、沢山………頑張ったよ?だからね、フィー君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ―――――――また昔みたいに、頭を撫でて褒めて。

 

 

 

 

 

 

 

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 私、セラフォルー・シトリーは魔王レヴィアタンの名を拝命するまでは昔はこんなに明るくなかった。引っ込み思案で周りに溶け込めない暗い女の子だった。

 勉強ばかりで、常にシトリー家の当主としての勉学に迫られる日々だった。

 別段学力が乏しくもなかったし、人並み以上は出来ていたけれど家を背負わせられると親や周りからの期待から追い詰められていたからだ。

 そのため悪魔学園ではよく『根暗』などと言われていたけれど、事実だから気にしても居なかった。

 

 

 根暗で口下手だから、事実みんなから使用人みたいに使いっぱしりされたりしたけど私は絶対に泣かなかった。

 私はみんなを笑顔にする『魔法少女』になるから、泣いちゃダメだと決めたのだ。

 

 

 ずっと昔、物心ついたころの私は魔法で人を幸せにする大昔の人間界で流行っていた絵本や創作小説が大好きだった。

 女の子が魔法で事件を解決していく物語に憧れて、私は自分で本を書いたりしていた。当時の人間界で魔法使いや魔女という概念は異物、化け物として扱われていたし、魔女という言葉に可愛げが無いので私自身で可愛らしく『魔法少女』という名前を付けたり魔法には幸せにする力があるという設定を加えたりして自己満足に浸っていた。

 自分がもし、こんな魔法少女だったらという妄想を用紙に書き溜めていくのが楽しくて仕方が無かった。

 

 

 どれだけ辛くても、どれだけ学校でイジメられても私は自分の趣味と大好きな魔法少女のお話を糧として頑張ってきた。

 だけど、ある時私が図書館で本の続きを書いている時だった。私をイジメる子達は私が書いている本を取り上げられる。

 私は必死に返して手を伸ばすが、いじめっ子たちは私が書いた本を見て笑い、本を破き、ゴミ箱に捨てられたとき、頭の中が真っ白になった。

 『子供っぽい』『バカバカしい』『妄想も大概にしろ』『自意識過剰』などと言われ、初めて涙を流した。

 

 

 大好きなものを否定される悲しみが、これほど辛いものだったとは思わなかった。

 家を継ぐために、これから頑張っていくために大好きな魔法少女のお話を書いたり読んだりして元気づけてきたのに、その日私の心は崩れ去った。破かれた本をゴミ箱から拾い上げ、私は直ぐに焼却炉がある場所へと向かう。

 此れからずっと頑張っていくために支えとなっていた趣味を捨てる事にしたのだ。

 書き殴られた用紙には矛盾のある設定、誤字脱字、下手な絵が描かれた思い出の本を手放し、もう何も要らないと自暴自棄になっていたその時だった――――――

 

『それ、どうしたんだ?』

 

 私はその日、王子様と出会うのであった。

 栗色の短髪にメガネを掛けた女の子とも言える顔立ちをした悪魔、フィアンマ・サタナキア君が立っていた。

 彼は学園では問題児、魔王様の面汚しなど陰口を叩かれている元人間であり周りから嫌われていた。最近ではサ―ゼクス君やアジュカ君、ファルビウム君と一緒にいるため『媚びを売っている』と噂までされている悪魔だった。

 そんな彼が私の手に持っている破かれた本に気づき、私の手から本を奪い取り中身を覗き込む。また馬鹿にされるのではないかと不安になった私は彼から本を取り上げようとするのだが、彼は本から視線を反らしこう言ってくれた。

 

『面白いじゃねぇか。この魔法少女マジカルセラの設定が少し甘いけど、テンプレな展開が少ないし最後の王道パターンが良いな。これ短編小説か?』

 

 聞き間違いだと、最初私は思った。彼は私の小説を嘲笑するのでなく、私が書いた本をしっかりと目を通して評価してくれたのだ。

 思わず涙が零れ落ち、その場に膝をついて大泣きしてしまった。

 初めて私の趣味を理解してくれる人がいてくれた。私の趣味を笑わないでくれる人がいたことがとても嬉しかった。

 その後、何故か分からないけど私をイジメていたイジメっ子達が何もしなくなったのは、きっと彼のお蔭だろう。

 

 

 その後、私は『フィー君』と友達となった。

 後から『サ―ゼクスちゃん』、『アジュカちゃん』、『ファルビー』とも友達にもなれアジュカちゃん以外は私を歓迎してくれてたけど、アジュカちゃんから『こんな根暗女に何を見出したんだフィアンマ?』と言われた時は歓迎されてないとは思った。

 だけどフィー君は『面白そうな奴だから』という理由で私と友達になったらしい。

 なんだか釈然としない答えだったので、私は思わず頬を膨らませてしまった。彼は私の王子様なんだから、もう少しロマンチックな感じの理由を言ってほしかった。

 でも、後から『これから大きな存在になる』という意味深な言葉を言った。

 フィー君以外、誰もが首をかしげていたけど直ぐにフィー君は話の話題を変えた。

 大きな存在になるという言葉の意味を、私たちは後から知る事になる。

 

 

 

 フィー君達との一緒にいる日々はとても楽しかった。学園を抜け出して冥界の秘境や危険地帯、はたまたアースガルズに訪問などなど。

 伝説級の魔獣や生物をフィー君自作の魔道具の実験台にしたり、魔獣を怒らせて逃げたり大変な目にあったけどとても充実した日常だった。貴族の様な日常よりも、フィー君達との日常が一番楽しくて私を大きく変えてくれた。

 一度だけフィー君から髪留めをプレゼントしてもらい、髪型を当時は知らなかったツインテールという名前の髪型にしてもらった。

 ずっと顔を自分の髪で隠していたのでフィー君に見られるととても恥ずかしくなり、髪留めを解いて元に戻すのだが―――――――――

 

『可愛い顔してるんだから、顔を見せないと勿体ないぜ?それにさっきのツインテールはかなり似合ってたぞ』

 

 フィー君の言葉に私は前髪を調髪して自分からツインテールにするようになった。

 その髪型で学園に行くと、男の子たちが誰しも私に視線を向けており、その視線は今までの視線とは違い熱い視線だった。男の子たちは私にアプローチをするように話しかけてきたり、女の子から嫉妬もあったけど友好的に話しかけてくる子もいた。

 なんという手の平返しだと思わず笑ってしまうほどに。

 

 

 男子からアプローチされたり、告白されたりしていたけど私には既にフィー君という想い人がいるので告白や恋文は全て断り、お茶やパーティーのお誘いも全て無視してフィー君達といる事を優先していた。

 魔道具を作ったりアジュカちゃんとの小難しいを聞かされたりサ―ゼクスちゃんを一緒に困らせたりファルビーと一緒にお昼寝をしたり、家に帰らずフィー君の隠れ家に皆で泊まったりした。

 両親からこっぴどく怒られたけど、『いま楽しいか、セラ?』と両親が笑顔でそう尋ねてきた時は『楽しい!』と満面の笑みで答えた。

 両親は私が自分を追いつめていた事に心配していたらしく、何も出来なかった事を悔やんでいたようなので、フィー君のお蔭だと両親に話すと良い友人を持ったなといって頭を撫でてくれた。

 だけど未来の御婿さんと言った瞬間、『まだ嫁には出さん!』とお父さまに詰め寄られたのは言うまでもないけれど。

 

 

 

 ある日のフィー君が楽器を作ったと言ってみんなと一緒に隠れ家にやってきた。

 フィー君が作ったという楽器は人間界でも冥界でも見かけたことない楽器ばかりで、ギターやドラム、ベース、エレクトリックピアノ、アンプといった当時は知らなかった現代の楽器だった。当時はギターとベースが弦楽器でドラムが打楽器、エレクトリックピアノがピアノだったのは見た目で分かったけど、他の機材がどんなものか見当もつかなかった。

 楽器だと聞いたけど、あまりにも見たことがない楽器だったのでアジュカちゃんがギターを手に『これは超音波攻撃を放つ魔道具の一種か?』と言ったときフィー君は爆笑していた。

 

 

 そしてフィー君は私たちに楽器を持たせ使い方を教えたのだが、かなりハマった。

 独特な音が鳴って、他の楽器とはまた違った楽しさを感じたのだ。サ―ゼクスちゃん達も同じでフィー君の楽器を楽しそうに弾いており、思わずみんなと音を合わせてみようと提案し、演奏した。

 初めてだったので音が大幅にずれたりしたけど、とっても楽しかった。

 演奏し終えた私はこれほど凄い道具を作るフィー君が凄いと思い、冥界に広めるのはどうかなと提案したのだが、きっぱりと断れた。

 なんでも今の時代にこういう邪道は流行らないということらしく、時代の流れを待つしかないと言っていたけど当時の私達からすればそんな事はなかった。

 でも、広めないのなら広めないでなんだか私達だけの秘密と思えるから特に主張はしなかった。

 

 

 

 ……………ホント、楽しかったなぁ。楽しい時間は、いつの間にか早く過ぎていく。

 学園生活が終わって、社交界にデビューしても頻繁に会っていた。サ―ゼクスちゃん達と冥界中を旅行したり、フィー君と二人きりで魔法少女のお話を書いたり服を作ったり、偶に演奏の練習をしたりしてとても楽しかった。

 でも、そんな日々がずっと続いたわけではなかった。

 

 


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