主役になれなかった者達の物語   作:沙希

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ヴェント・カンパネラ

 

 

 なんちゅう世界に来てしまったんだと嘆いた。それは俺が物心ついて、両親に捨てられ孤児院に預けられて数年のことである。俺、*** ***もといヴェント・カンパネラは前世の記憶があることを知った時だった。転生とか、流行らないしギャグでしかないのに俺はこんな世界、ISの世界に転生させられたのである。勿論、前世の記憶は殆どおぼろげだし、二次小説みたいに神様なんぞと対面して『すまん。私のミスで殺してもうたからお前、転生しろ』などと言われた記憶もない。

 

 

 しかし、俺はこの世界に生まれて嘆き、絶望したことがある。それはISの世界だったと知った時だった。前世の頃の俺は、言っちゃなんだかISが嫌いだった。アホみたいに鈍感な主人公、それに加え頭悪そうなヒロインやキャラクター、更には女尊男卑とかいう風潮などの設定。ストーリの展開が壊滅的、キャラクターの良さが発揮されていないし、作画だけの作品と俺個人の評価である。バトルというキャッチコピーもあるのにバトルの場面が短いし、訓練するシーンなんてごく限られている。なのになんで強くなってるの、おかしくね?訓練風景なんて2割真面目、8割主人公の取り合いじゃねぇか。明らかにラブコメパートが多いせいで、内心『エタるな』と自己完結できる。ハーレムバトル作品を作るのは大いに結構だが、もう少しストーリ性が欲しかった、キャラクターの個性を生かす様な設定を作ってほしかった。まぁ、だから二次小説というものが生まれたんだろうけれども話を戻そう。

 

 

 正直、俺はISの世界なんかには来たくなかった。理由としてあげるなら、キャラクターとかもそうだがまずは女尊男卑である。現実的に考えて、いや、考えるどころか目の当たりにしているから言えることだけど最悪である。前世の世界と比べて差別の割合が急激に増しており、成人男性の退職率、子供問わず男性の自殺率はISの世界と俺の前世の世界と比べると目が点になる程の差が広がっている。よくこんな世界で成り立ってるなと、嘆いたくらいだ。女は男よりも偉い、男は家畜同然、人畜、奴隷などと人権すら無視する女のバカげた思考には夜も眠れなかった。表向きだけ隠しているつもりだが、裏ではかなり汚いことをやっている女の所業には、前世のIS好きの友人に話したら間違いなく『なんだそりゃ、マジ萎えるわ』と言って『ISのファン、やめます』と明らかに某軽巡のアイドルのファン、やめますと大差ないくらいISを嫌いになるだろう。

 

 

 昔は女が男、家の所有物と言われており、その風潮を改変するべく婦人参政権という法案を創り上げて男女平等になったが、ISが出た途端これでは最悪だ。某万歳三唱して散っていったラスボスが知ったら、絶対に『終↑段!顕正!』とか気合い入れながら技名を言って世界をぶっ壊しかねないだろう。ほんと、そんな世界だから……………復讐なんて考えて、外道を走るバカな人間が増えていくんだよ。

 

 

 俺は孤児院の院長に頼まれて、夕飯の食材を買って帰ってきた時だった。視界いっぱいに、真っ赤な炎が映りこんだ。何が起こっているのか、俺はそんな事を考える瞬間に身体が動いた。炎に包まれた孤児院の中に入った俺は、必死に子供たちを探した。だが、見つけたのは院長や務めていた大人たちの死体ばかり。子供たちの死体はどこにもなかった。消防車が到着し、孤児院を包んでいた炎を沈下させて誰も居なくなった後、俺は孤児院があった場所に座り込み泣いた。女尊男卑の社会の中で、女性だったけど優しかった院長と職員の皆さんが死んだ。家族だった子供たちが、居なくなっていたことにだ。そして孤児院の残骸の中で泣いていた俺はある人物たちに出会い、連れていかれ最悪な実験を施されるのである。

 

 

 黒服の連中を連れている科学者たちに俺が連れていかれた場所は牢獄とも言っていい場所であり、そこには孤児院の子供たちがいたのだ。生きていた事に俺は喜び、子供たちを抱きしめる。しかし、そんな喜びは束の間に過ぎないことを俺は後々知る事になった。俺達を連れて来た科学者らしき人物たちは、俺達を手術室らしきところに案内され、ベルトに固定されベッドに寝かされた。何をするのかと思ったら注射器を取り出し容赦無用で俺や寝かされた子供たちに刺した。女性看護師が、優しく刺すのとは違い奴らは子供の事を考えずに刺したのだ。案の定、俺以外の子供たちは大泣きした。ベルトで縛られているため、暴れる事はできないもののあまりに煩い子供には殴って黙らせていた。それを目の当たりにした俺はキレて奴らに罵詈雑言を吐きまくったが、結果的に俺も殴られてしまった。

 

 

 注射を終えた俺や子供たちは、元の牢獄に戻された。若干ふらふらするのだが、俺はなんとか意識を保たせながらも泣いている子供たちを必死に宥めながら牢獄へと戻った。牢獄では『怖かったよな』、『よく頑張ったな』と必死に褒めながら宥め、俺はこれで終わりなのかと安易に結論付けていたが、ここからが地獄の始まりだった。俺と孤児院の子供たちが連れてこられてから数日後のこと。あれから注射と検査、薬の日々が続いた。注射をされるたびに身体が段々苦しくなっていき、子供たちが高熱を出して倒れたりした。そんなことはお構いなく、検査に連れていかれ終われば掌から零れ落ちるほどの薬剤を飲まされる日々。高熱を出した子供たちは連れていかれ、それっきり戻る事は無かった。そして今日も、再び子供たちは牢獄から出され、どこかへと連れていかれていく。俺は呼ばれなかったので、残りの子供たちを必死に宥めながら連れていかれた子供たちの帰りを待つことにした。

 

 

 俺は、気づくべきだった。牢獄から出された子供たちが、戻ってこないのだ。それも2日や3日だけじゃない。ずっと、戻ってこないのだ。俺は大声で子供たちはどうしたと怒鳴り散らすが、答えは帰ってこない。日に日に子供たちは減っていき、戻らない日々がずっと続いた。いったい何が起こっているのか。もしかして子供たちは死んでいるのではないのかと最悪な想像をしてしまった。そして牢獄に残されたのは俺と…………俺と同い年の女の子、エウリュディケという変わった名前の少女だった。

 

『もう………わたしと貴方だけになっちゃったわね』

 

 エウリュディケ、通称エリーは俺と同時期に引き取られ、同じ歳で孤児院では俺とエリーが最年長だったので子供たちの面倒をみたりしていた。小柄な体だが、まるで西洋人形の様に美しい少女。包容力があり気配りも出来て、子供たちにとっては母親ともいえる存在だった。家族から捨てられた、もしくは初めからいなかった子供たちにとっては院長や職員さんよりエリーは人気だった。勿論、俺はそんなエリーを姉の様に見ていた。何でもできて、優しく包んでくれる彼女を姉と思っていた。

 

『………エリー』

 

『大丈夫。不安にならないで、ヴェン。私が傍にいるから。大丈夫。きっと、きっと出られるようになるわ。子供たちも、一緒にね』

 

 不安になっていた俺を抱きしめ、優しく頭を撫でてくれたエリー。何を根拠に、不安にならないでだよと普通なら言うだろう。だが、俺はその言葉を口に出すことなく押し込み、ただ俺はエリーの言葉を信じた。外に出られる。また、あの時の様な日常を過ごせるのだと信じて。

 

 

 そして、地獄の最終日。俺は、信じていたはずの希望(エウリュディケ)すらも奪われてしまった。1人だけとなった牢獄に、奴らは現れ俺を連れていく。連れていかれた場所は検査室でも手術室でもなく、大きな広間だった。そこには一機のISが鎮座しており、奴らは俺に触れてみろと進言して来る。ISとは、本来男では動かせる代物ではない。それを分かっているのかと思い、俺は渋々と触れる。やはり起動しない。誰もが、『やはりか』、『想定の範囲だな』などと口々に漏らす姿に俺は苛立ちを覚え、俺は子供たちと、エリーの安否を問いかけた。しかし、やはり答えは帰ってこなかったものの俺は諦めず何度も問いかける。

 

『気になるかね?なら、見せてあげよう』

 

 科学者の一人が、そういって壁際に貼り付けられたモニターの電源を入れた。映し出されたのは――――――――――泣き叫ぶ子供たちが白衣の連中から腕を斬られ、脚を切り落とされ、腹の中を弄繰り回されている光景だった。絶句した、思考が停止した、息が止まった、いったいなんなんだこれは!!子供たち、主に女の子が身体を斬られ、腹の中を弄り回れており、そして男の子たちは両手両足、そしていくつもの臓器がないままベルトで体を縛られており女の子たちの身体から切り落としたものを接合させられている。泣き叫ぶ子供たちの声が、耳から脳へと響き渡る。地獄絵図が、目の前に広がっていた。

 

『この映像は数日前のものだよ。餓鬼共みな、実験に失敗して既に処分してある。なぁに、気に病むことなどない。所詮は実験動物なのだ。我々の計画の糧となっただけでも、感謝してもらいたいがね』

 

 感謝だと、ふざけるなよ塵屑が。だから嫌なんだよ、女尊男卑だのロボットだのバトルだのなんだのとかいう世界は。そんな世界で主人公とか、幸せになれる保証なんてあるわけないのに夢見ている奴は正直言って、考えなしのバカだ。選ばれた存在?ふざけろ。こんな糞みたいな世界で生きてきた俺は、俺達はこんなにも不条理だってのにそんなふざけた理論をぶちかましてんじゃねぇよ。そして地獄絵図の光景が消えた途端、広場の奥の扉が開いた。扉の向こうから…………エリーが現れた。

 

 

 病院服を着せられ、腕や脚には幾つもの注射をされた後が残されている。こちらに向かって静かに歩み寄り、エリーは地に膝をついている俺に視線を合わせる様に腰を落とし、見つめる。その瞳は、とても悲しそうな目をしていた。気がつけば、俺の背後には黒服の男達が立っている。エリーは俺の頬に手を当てて、涙を浮かべて最後の言葉を残した。

 

『ヴェン。……………ごめんなさい』

 

 そして俺の首に衝撃が走り、視界が黒く染まっていく。消えかけていく意識の中で、ただ只管『ごめんなさい』と何度もつぶやくエリーの声が聞こえるのであった。

 

 

 

 

 

 目覚めた時は、手術室のベッドの上だった。周りには科学者が俺を囲んでおり、『成功だ』、『おぉ、遂にか!』、『これでようやく、計画の第1段階は終わった!』と歓喜の声が上がる。いったい、何を喜んでいるのか俺は分からなかった。俺が寝ている間に、何があったのか、エリーはどこにいるのかという疑問を言わせぬまま、俺は再びISが鎮座する広間へと連れていかれた。そして俺は再びISの前に立たされ、触れてみろと命令される。男だから、動くわけないだろと思って触れたその時だった。

 

『バイバイ。ヴェン』

 

 ISが、起動した。動くはずがなかったISが、動いたのだ。ISが動いたことに、奴らは喜びの声を上げる。なんで動かせなかった俺が、ISを動かせるのだと疑問に思った。そんな疑問に答える様に科学者たちは俺に説明する。『新人類創造計画』。それは、男でもISを動かせるように女性の身体を使って肉体改造をする実験だった。そして俺はその成功体である。なら、今迄やってきたことは全てこのためだったのかと気づいた。そして俺は、計画を聞いてすぐにある事に気づく。成功した俺は―――――――――いったい誰の身体をつかったのか。分かり切った事だった。

 

 

 科学者たちは―――――――――俺にエリーの身体の一部を接合したのだから。

 

 

 それからと言うもの、成功体である俺は休む間も、発狂して殺す間も与えられず訓練と実験の日々が続いた。何度も体中の骨を折られた。何も知らずにつれてこられ泣き叫ぶ子供や女たちの断末魔を聞きながら、殺し続けた。死体や飛び散った臓器を見るたびに、何度も嘔吐した。休みなんてごく僅かの中で、俺は何度も泣き叫び、壁を殴った。そんな俺は、何時しか死にたいと望むようになった。死ねば楽になる。死ねばエリー達に会える。そう思っていた。

 

 

 だけど、俺と言う存在が死んだらまた同じことが繰り返されるのではないか。俺が死ねば、また新たな犠牲者を生み出していき、永遠にその連鎖が繰り返される。エリーや子供たちの様な犠牲者が、また……………………。そう考えているうちに、俺は決意を固めた。

 

『………2度と俺たちの様な犠牲を生ませぬよう、破壊するっ』

 

 それは俺が、エリーや孤児院の皆の為に出来る逆襲(ヴェンデッタ)なのだから。

 

 

 休憩終了後、俺はISのランク検査を受けに広間へと連れていかれる。連れていかれる途中、俺は付き添いの男を殴って気絶させ、武器を奪い取り他の付き添いを殺した。銃の発砲音に気づいたのかアラームが鳴り響き、俺は急いでISが置かれてある広間へと向かった。広間へ着くと俺はISを起動させ、纏う。ISを纏うと同時に武器を持った連中が広間へと押し寄せてきたが、俺はすぐ傍に置かれてあったアサルトライフルを発砲し、殺した。この施設内には女はいないので、ISを扱える者は俺以外にいない。そのため、警備員は全員生身であるため殺しやすかった。施設内の人間を、俺はISで移動しながら問答無用で殺す。隠れていようとも熱源センサーで探れるので、一人残さず殺した。

 

『た、頼む、殺さないでくれ!』

 

『ほ、ほら、武器は捨てたぞ!だから、殺さないでくれ!』

 

『そ、それにお前は分かっているのか!お前はわたし達が作った薬なしでは、生きていけないことに!』

 

 そう言って敵意がないとしめす者達は、蜂の巣となった。殺さないでくれ?敵意がない?お前はわたし達無しでは生きていけない?知った事じゃねぇよ、ゴミ風情が。嬉々して子供たちを殺してきた奴らが、何を言ってやがる。『もうしません、許してください』と言われて、『はい、分かりました。許します』なんて仏や神でもなんでもねぇんだよ、俺は。

 

『死ねぇぇえええ!!全部、全部死ねぇっ!お前ら全員、消え失せろっ!』

 

 銃で穴だらけにし、球切れになれば銃を鈍器にして殴り殺し、銃が壊れれば手で掴んで握り潰し、首を引っこ抜き、上半身と下半身を分断していけば気がつけば、施設内は血の海で沈んでいた。全部破壊しつくし、殺しつくした俺は施設の出入り口らしき場所を見つけ、外に出た。外に出れば、満天の青空が広がっていた。当時、どこなのか分からなかった綺麗な景色が目に映った。遠くから見える街は、何やら祭りだったようで遠くいる俺の所まで音楽が聞こえた。ISのハイパーセンサーに映るのは、楽しそうにパレードを見る人たち。屋台で嬉しそうに何かを買う人たち。そんな幸せそうな光景が、目に映り、俺は―――――――――――――。

 

 

 

 

 

『なんで………なんで同じ空の下で生きてるのに、こんなにも違うんだろうな』

 

ただ嫉妬の感情を表した言葉を漏らし、笑いながら泣くのであった。

 

 

 

 

 

 


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