主役になれなかった者達の物語   作:沙希

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鈴の転校から、数日が経つ。正体不明機の襲撃で一段と騒ぎになったが、今では普段通りの日常である。クラス対抗戦が中止となり、その商品が『織斑一夏と付き合える』という根の葉もない噂を信じていた生徒にとっては気の毒だろう。しかし、もっと気の毒だと思えることは、好意を受けていることに気づかない男に惚れたということだが。

 

「あぁ、悔しいぃい!!あと少し、あと少しだったのに!!あの訳の分からないISが襲撃してこなければ、あぁもう!」

 

「まぁまぁ、落ち着けよ鈴。確かにあの試合はお前の勝利だっただろうけど」

 

「よね!?零もそう思うでしょ!?」

 

 寮の一室にて、真月零と凰鈴音がクラス対抗戦についての不平不満を漏らしていた。一方的に漏らしているのが鈴だけではあるが。クラス対抗戦による一回戦は織斑一夏VS鈴の試合だった。優勢だったのは鈴であり、流石短い時間の間で代表候補に上り詰めるだけの実力をみせていた。普通なら1年や2年間訓練を受けただけでは専用機は与えられないのに、鈴はそれを1年でやり遂げてみせた努力は前代未聞だろう。更に加えて、真月による指導もあったからこそである。

 

「思うんだけど、零ってIS初心者なのに指導は適格よね」

 

 真月の指導、トレーニングメニューの形成はとても効率的で実用性が高かった。更にはバランスの良い食事のメニューやら飲み物まで考えてくれる。鈴は真月にスポーツトレーナーとしての経験があるのではと思ったくらいだ。

 

「入学からそれなりに時間が経っているんだから、これくらいが普通だよ。1年で代表候補になった鈴に言われたくないけどさ」

 

「ふふんっ。わたしに掛かれば、あれくらい軽い軽いっ」

 

「何せ織斑に会いたくて、頑張ったんだからな」

 

「……………」

 

零の言葉に鈴は思わず黙ってしまう。何時まで嘘を続けていく引け目を感じていた。少しでも零の恋が本当なのだろうと知るために名前で呼ぶように許可し、鈴自身も真月の名前を呼んでいる。だがしかし、本当は一夏ではなく零の事が好きなのにどうしても嘘をついてしまう。不安なのだろうか。あれだけ自分の恋の為に頑張ってもらったのに、今さら他の男を好きになったと言って尻軽女と思われてしまうのではないだろうか。失望されてしまわないだろうか。そんな不安が、胸に広がっている。

 

(このままでもいいのかも、しれないわね……………)

 

 嘘を吐き続けていれば、きっと壊れはしまわないだろう。鈴は零との今の関係も悪くないと思っている。ただくだらない話をして、笑って、一夏を建前にしてデートするその日常も悪くないと思っている。しかし、心の何処かで『意気地なし』と自分を罵ってしまった。頑固者で、ザバザバした性格なのにどうしてこうも臆病なのだろうと。

 

「零、あのねっ」

 

「どうした?」

 

「その………明日、暇?」

 

「暇だけど、なんだ。もしかしてデートの予行演習か?」

 

「そ、そう!だから、その……………」

 

「分かってるって。付き合うよ」

 

「………………ありがとう」

 

 『これで、いいのかもしれない』。そう鈴は、ただただ本心を誤魔化すのであった。尻軽女として軽蔑されるくらいなら、こうなった方がましだと言い聞かせながら。

 

 

 

 

 

 

そして鈴の転校から、更に数か月が経つ。ドイツの代表候補生のラウラとフランスぢ表候補のシャルルもとい、シャルロットが転入し、学年別トーナメントを終えてからでも相も変わらず、一部を除きIS学園の生徒達は真月零という一人の男子生徒に嫌がらせを送っていた。飽きもせず陰口を、ゴミを送る、足を引っ掻ける、アリーナでの訓練中にワザとらしい妨害などといった行為が続いている。しかし、鈴がいるお蔭で最小限に済んでいるのが救いだろう。零がイジメを受けている事実は零の味方である鈴といじめを行う生徒達や教師以外は誰も知らない。時折鈴が零に『織斑先生とかに報告すれば?』と言うのだが零は『必要ないよ』と言って笑うため鈴自身がその言葉の意味を理解できなかったが深くは問わなかった。

 

「もうすぐ臨海学校ね。楽しみだわ」

 

「といっても、二日目と三日目は専用機持ちの新装備のテストだから最初だけしか遊べないけどね。メインは二,三日目だし」

 

「はぁ、そうよね。それがなければ、最高だったんだけどなぁ」

 

「確かに。まぁ、専用機持ちじゃない俺には関係ないからいいけどね」

 

「きぃ~~!なんかムカつくわね、その言い方!いい加減アンタにも専用機のオファーとか来ないの!?」

 

「必要最低限成果みせない限り、オファーは来ねぇよ」

 

「通りで学年別トーナメントとか、訓練時にISを使わなかったのはその為ね。ほんと、アンタってずる賢いわね」

 

「褒め言葉だよ」

 

「ふふふ。誰も褒めてないわよ、バカ」

 

 臨海学校前の日に、二人はショッピングモールでデートをしていた。鈴にとっては本命とのデートなのだが零は今までの事からデートの練習に付き合わされていると勘違いをしている。態々ツインテールから髪を下ろして大きなオシャレ安全ピンをつけた帽子をかぶり、赤と黒のメインカラーのゴスロリチックな服装だった。どこかの大罪小悪魔少女とも言える服装だが、正直髪の色を統一させれば本人そのものとも言える。しかし、正直似合いすぎていると零は改めて思ったのは言うまでもないだろう。しかし、その服は勝負服として零が中学の時に鈴と一緒に見繕ったものなので、正直零自身は何故いま着るんだと水着売り場で水着を選びながら疑問を感じたのは言うまでもないだろう。

 

「ねぇ、零。どんな水着がいいかな」

 

「見栄張ってビキニとか選んだんじゃないだろうな」

 

「み、みみ、見栄なんか張ってないし!それに胸が小さくたって、ビキニ着てる女性だっているし!って、誰が貧乳じゃこら!!」

 

「いや、明らかに自爆だろ。で、どんな水着か見せてみ」

 

「ま、まだ選んでないわよ。どんな水着にするか迷ってたから、参考までにアンタの意見が聞きたかっただけだし………」

 

実は既に選択は絞れてはいるのだが、想い人である零の意見が聞きたくてワザと言わなかった。鈴の言葉に零は顎に手を当てて辺りを見回しながら考えだした。そしてじっくりと考えた末に選んだ水着は――――――――

 

「これなんてどうだ?」

 

「アンタ、そういう趣味があるわけ?」

 

レースがついた黒のビキニ。といえばそうだが、バンドゥホルターネックのビキニ。セクシーさを滲みだす構造だが、正直鈴の予想ではもう少しスポーティーで可愛らしい水着を選んでもらえると期待していたのだが、大いに当てが外れた。

 

「まぁ、あくまで俺の意見だし織斑の趣味がどんなのか知らないけど、俺はこれが似合ってるんじゃないかって思う」

 

「で、本音は?」

 

「バンドゥビキニって、バストアップ効果があるらしいぜ?」

 

零は鈴の胸を見つめながらそう言うと、鈴は満面の笑みを浮かべる。

そして第一声を出すのである。

 

「沈めるわよ?」

 

「さーせん」

 

 しかし、何だかんだ言いながらも鈴は自分が選んだ水着は元に戻し零が選んだ水着を会計で済ませた。零のファッションセンスを疑うわけでもないし、それに好きな人に選んだものだからこそ零が選んだ水着に決めたのだから。買い物が終わった後、時間が残っていたので二人は遅くまで街を歩くことにした。零自身はデートの予行演習だと思っており、対する鈴は本当のデートの様にこの一日を楽しむのであった。

 

「あぁ~~、楽しかった。なんだか久々よね、外に出るのって」

 

「そうか?割と頻繁に出てるじゃねぇか」

 

「いや、そうだけどさ。IS学園やショッピングモール、この街から少し離れた場所に出るって意味で言ったのよわたしは」

 

 鈴の言葉に零は納得した様に頷く。中学までは休みの日や期間となれば普通に町の外に出たり、少し遠出だってしていた。IS学園に入学してからは少しずつ、いや、格段と回数が少なくなってきている。休みの日に出かけたりしたいのだが、零が組み込んだトレーニングメニューを熟さないといけないので休みは昼と夕方の間となってしまう。

 

「臨海学校が終わって、直ぐに夏休みだけど零はどうするの?やっぱり、帰省する?」

 

「いや、たぶんないと思う。…………よほどの事がない限りは」

 

「??」

 

「それよりも鈴はどうするんだ?実家、中国に戻るのか?」

 

「たぶん、後半あたりになると思うわね。まぁ、臨海学校の試験装備のデータ次第と思うけd――――――――――――――」

 

そう言いかけた時だった。

 

「げほげほっ!!っ――――――ごほっ!くぅぅぅぅぅっ………」

 

「ちょっ、零、大丈夫!?」

 

「ぐっ……っ!!」

 

 突然零が血を吐いて苦しみだしたのだ。鈴は零の背中をさすり、心配そうに声を掛ける。零は酷く苦しそうに胸を抑え、顔を歪ませながらポケットからプラスチックの容器を出して容器から数粒の豆状の薬らしきものを口に入れる。薬らしきものを服用してから数分後、呼吸が落ち着き始め、顔色が良くなっていく。中学まで見たことなかったが、IS学園に転入してから鈴は零が時々このように苦しそうな姿を見せる様になった。最初は、食べ物に毒を仕込まれていたのではと思ったが零が『持病の発作だ』と言って誤解を解いた。病名までは教えてもらえなかったが、喘息の様なものだと聞かされているのだが鈴は正直心配で仕方なかった。最初見た時と比べ、咳と顔色が更に酷くなっている。そもそも、喘息の様なもので、少量と言えども血は吐いたりしない。

 

「ねぇ、零。病院で見てもらった方がいいんじゃない?」

 

「いや、大丈夫だ。薬だってあるし、問題ない」

 

「でも…………」

 

不安な表情を浮かべる鈴に、零は大丈夫だよと念を押して鈴の頭を撫でる。頭を撫でられた鈴は零の言葉を信じるしかなかったが、不安が消えるわけではなかった。症状が酷くなっているのを見る限り、臨海学校に行けるのか疑問になってくる。臨海学校はよほどのことがない限りは強制的に参加させられるが、零のさっきの状態を見せられてはとても行けそうには見えない。薬があるからと言っても、あくまでそれが治す薬ではないのだと鈴は薄々だが感じていた。

 

 

そんな不安を抱きながら数日が経ち、臨海学校当日。

零は急な体調不良により、臨海学校を欠席することになった。

 

 


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