主役になれなかった者達の物語   作:沙希

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風鈴 - インフィニットストラトス - 《完結》
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 今日はとても爽やかな天気であり、雲一つ浮かんでいない。ちりんと髪留めの鈴が鳴り、風で揺れる髪をわたしは手で押さえながら洗濯物を干していく。うん、今日もいい洗濯日和ね。数日前までずっと雨だったから、中々干せなくて困ってたから助かるわぁ。

 

「せんせぇ~、てつだう~」

 

「俺も手伝うよ、先生!」

 

「あら、ありがとう。じゃあ、隣の籠をお願いね?」

 

『は~~いっ』

 

 元気のいい返事で、洗濯籠を運んでいく子供たち。孤児院を始めて、最初は中々軌道に乗るか悩んでいたのだがすんなり乗ってくれた。資金は学生時代に貯めた分と今の働いている分を合わせると子供たちや私以外の職員達は生活に困らないだろう。

 

 

 IS学園を卒業して、日本を離れて孤児院を始めたんだけど、いまどうなっているのかしらね。正直、年々生徒の減少で廃校になるんじゃないのかと思ったんだけど、まぁどうでもいいわね。もう卒業したんだし。

 

「よしっ、終わり。それじゃあ貴方達、洗濯物が終わったら籠は脱衣所に持っていくのよ?」

 

『は~~い』

 

「いい返事ね。その元気に免じて今日のおやつはケーキよ」

 

『やった~~~っ!』

 

「えぇ~、ずるいっ!私も手伝うから、先生、私にもケーキっ!」

 

「僕も僕もっ!」

 

「アイツらだけずるいぃ~!」

 

「ふふ、分かってるわよ。ちゃんとみんなの分も作るから」

 

 何やら遊んでいた子供たちが私の周りに集まって服を引っ張る。子供たちをなだめた後、私は直ぐに施設内へと入り台所に向かった。まぁ、あらかじめ今日のおやつはケーキにしようと思っていたので予め作っておいてある。

 

 

 人数分に切り分け、カップに飲み物を注いで職員に運ぶように任せて、私は次の仕事に取り掛かる。仕事と言っても、送られてくる手紙を一つ一つ確認するだけなんだけどね。偶に政府から『ぜひ戻ってほしい』との手紙が幾つも来ている。はたまた金か身体目当てか、『是非ともお会いしたい』『食事でも?』とかという手紙が送られてくる。まぁ、勿論そんな手紙は全部ゴミ箱にぶち込んでるんだけどね。いくら学生時代に世界大会優勝して、IS制作に大きく献上させたからってわたしは他の男なんぞには興味はない。

 

「院長。お客様がお見えです」

 

「追い返して。どうせいつもの地上げ屋とか政府関連でしょ。ついでに『二度と来るな短小風情が』って言っておいて」

 

「た、短小って………えっと、お客様は織斑様です」

 

「姉?弟?」

 

「弟です」

 

「はぁ…………分かった。いま行くわ」

 

 気乗りせず、思わず盛大にため息が漏れた。軽かった腰が急に重たくなり、重くなった腰を上げて立ち上がる。重たい足取りで階段を降りて、玄関方面まで向かう。

 

 

 逢いたくない、とは思わなかった。むしろ『忙しいくせに何しに来たのか』と、言ってやりたいくらいである。アイツはIS学園の教師をやってるんだし、態々日本から数日掛かる場所まで来れるほど休暇は少ないはずだ。それに時差を考えると、まだ大連休すら入っていない。

何を考えているのかしらね、『あのバカ』は……………。

 

「鈴、久しぶり」

 

 玄関の扉を開けると、そこには幼馴染だった織斑一夏が旅行鞄を手に立っていた。学生時代の頃より大人びており、私以外の女だったら間違いなく『カッコいい!』とか言っているだろう。もうかれこれ数年は会っていないけど、久しぶりに見たわね。

 

「とりあえずお越しいただきありがとうございました」

 

「ちょっ、待って、閉めないで待ってくれよ!せっかく有休とって来たのに!」

 

「『有休とって来たのに』? アンタ、何様のつもりよ。とりあえず荷物纏めて日本に戻りなさい。わたしはこれから子供たちとおやつの時間なのよ」

 

「だから待てって!せめて上がらせてくれ!」

 

 はぁ、まったく面倒な奴が来たわね。有休をとって来たって事は、帰国後は間違いなく残業で忙しくなるだろう。此奴が教師になれたのはある意味奇跡みたいなもんだし、きっと4徹する羽目になって疲労で寝込むに違いない。幼馴染として流石に寝込まれたら寝覚めが悪いし、即刻かえってほしかったんだけどね…………。

 

 

 とりあえず施設に上がらせ、二階の私室でなく一階の院長室へと案内する。院長室には書類整理やお客さんとの話し合いに使い場所。書類整理は自室でも出来るし、お客さんと言っても碌なお客さんが来ないのであまり使われていないので作った意義がなくなりかけている。いっその事、この部屋を遊具部屋にしてみようかしら。もしくはリフォームしてシアタールームとかも良いわね。子供たちに映画を見せたりできるから、きっと喜ぶかも。

 

「で、わざわざ何しに来たわね?顔を見に来たって言ったら殴り飛ばすわよ」

 

「いや、違うって。というか、本当に変わったよなお前。性格は相変わらずだけど、前までは――――――」

 

「小さくて貧乳だったって言いたいんでしょ?ゴチャゴチャとくだらない話をするなら殴るわよ」

 

 ホント、忙しいくせして何しに訪れたのやらと呆れてしまう。周りが事情を話せば、卒業してすぐに何も言わずに去って行った幼馴染の顔を見るために態々有休とるとか、IS学園の教員って存外忙しくもない職業なのでは?と勘違いされてしまうだろう。

すると一夏はわたしの言葉に少しだけ顔を紅潮させ、口を開いた。

 

「…………なぁ、鈴。あの時の答えなんだけど」

 

「あの時?どの時よ?」

 

「って、覚えてないのか!?ほら、卒業式終わった時に屋上でのこと!」

 

「………………あぁ、あれね。はいはい、思い出したわ」

 

 いきなり、『あの時の答え』とか言われて『は?何言ってんのコイツ?』って思ったんだけど、あの時ね。そういえば卒業式終わった後、一夏に屋上に呼び出されて告白されたんだった。いきなり告白してきたことには驚いたけど、その当時からわたしは『アイツ』一筋だったのでどうでもよかった。卒業前、もしくは『アイツ』を好きと気づく前までは一夏の事は好きだったので告白が早かったら間違いなく喜んでOKしていただろうけどね。

 

 

 で、告白についてだけど告白されたと同時にわたしは卒業後に孤児院を開きたいと考えていたので卒業後すぐに海外に行く準備を済ませていたのだ。時間に気づいたわたしは一夏の告白の答えをそっちのけにして、イタリアに飛んだのである。

しっかし、まさかあの一夏がねぇ…………プロポーション的にセシリアとか会長さんとか箒とかシャルロットとかいろんな奴らに目を向けると思ってたんだけど。まぁ、いまのわたしは昔と違って成長したからね。学生時代のセシリアには負けないと思うわ。

それにしても、此奴が外を歩くだけで女が顔を赤くさせ黄色い声を上げるんだから、選り取り見取りでしょうに。まさかと思うけど、いまだ誰とも付き合っていないとか?

うわっ、なんだか一夏に好意抱いている奴らが哀れに思えてきた。

 

「てか、まさか告白の答えを聞きに態々?」

 

「政府から戻ってきてほしいって伝える様に頼まれんだけど、こっちが建前かな」

 

「はぁ、呆れた。幼馴染使えば、なんでも頷くとでも思ってんのかしらアイツらは」

 

 手紙だけでなく、お母さんからも『政府から連絡が来たのだけれど』と困った声を電話越しで聴かされているのに遂に幼馴染の立場を利用してくるとは。最終手段と考えるべきなのだろうか。政府は未だわたしが一夏に異性として好意を抱いている女と勘違いしているのだろうが、わたしは『アイツ』一筋なので一夏は眼中にない。

 

 

 答えを待つ一夏を尻目に、私は机の上に置いてある写真を見つめる。わたしと………ヴェンと二人で撮った写真。恥ずかしそうに赤面になりながらアイツに肩を掴まれ、肌がくっつきあうくらい近くに寄せられているわたしとニッコリ笑っているヴェン。写真を見るたび、懐かしくて思わず微笑んでしまう。

 

 

 此奴が私のもっとも『愛した』男、ヴェント・カンパネラ。バカで狡くて、頼りがいがあって、とっても優しい奴。だけど、そんな優しいヴェンは…………………もうこの世にはいない。

 

 

 

 

 

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 わたしは小学生だった頃、一夏に好意を抱いていた。好きになった理由は小学生の頃の女の子はカッコよくて、颯爽と危機から現れ守ってくれる男の子が好きになるのと同じような感じである。小学生の頃のわたしは、本国の中国から日本へと渡り一夏のいる学校に転校した。日本に不慣れだったわたしは、当時は上手く日本語を話せなかったし海外からの転校生は珍しいためよくからかわれていた。女子はそんなことなかったんだけど、男子からは『日本語下手すぎ』『りんいんって、パンダみたいな名前だな』『や~いっ、チビっ』などとからかわれたものである。勿論、舐められるだけのわたしじゃなかったわ。からかってきた男子にムカついたので拳を握りしめて男子を殴り、喧嘩が勃発。男子が複数いたので、勝てるなんて思わなかったけどだからと言ってバカにされて黙って逃げるのは悔しい。だから、わたしは逃げなかった。複数相手に勝てるわけがないのは分かり切っている。案の定、男子達に押さえつけられたわたしは、殴られるのを覚悟して目を瞑った。そしてそんな時、一夏が現れたのだ。

 

『女の子をイジメてんじゃねぇよ!』

 

 ガキ大将らしき男子を殴り飛ばし、現れたのである。わたしを取り押さえていた男子達を一人でボロボロになりながらも追い払って助けてくれた。ただからかわれていたから、それにキレて一方的にわたしが喧嘩を売っただけなのにボロボロになりながらも一夏は『大丈夫か?』と言って手を差し伸べてきた。で、好きになったのでした。まぁ、仕方ないと言えば仕方ないと思うわよね。子供の恋心なんて、イケメン芸能人が現れるたびに乗り換えるみたいな感じなんだから。本当に好きになるという意味をいまだ知らなかったわたしは、一夏に虚像とも言える好意を向けていただけだった。それが中学まで続いたのが、正直凄いと思った。病気といえるくらい鈍感な一夏に何度もアプローチしたりしても全然きづいてもらえず数年が経つのだから、普通なら諦めているだろうに。

 

 

 

 一度だけ告白まがいな事を言ったことはあるが、それでも気づいてもらえなかった。魅力がないのかな私って何でも嘆いたわね、そう言えば。昔のわたしは背が低かったし、胸は小さかったし、魅力なんてあるのかなって思いたくなるじゃない。お母さんやお父さんは可愛いって言ってくれるけど、正直あれだけアプローチしているのに気づいてもらえないのだから、正直落ち込んでしまう。諦めようかなって、思っていた時があった。そう思ってた時期に、『アイツ』と出会ったのである。

 

『少し、自分を変えるのもいいんじゃないか?』

 

 ヴェンもとい、真月 零という同い年の男子に。一夏達と一緒のクラスになれなかった時期もあったので、当時は友人か相談相手の様な感じの真柄だった。クラス替えの初日だったか、アイツとの出会いは。一夏の事を諦めようかとぼやいていた時に話しかけられたのである。話を振られた時は『なに此奴?』と誰もが思ってしまうだろうけど、私は『自分を変えるって、どういう意味よ』と聞き返していた。見た目は顔が髪で隠れている根暗なイメージが強く、女子からイジメの対象にされそうな奴だった。まぁ、事実アイツはかなり女子からパシられたり、イジメの対象にされていたけどね。そしてわたしはいつの間にか、当時は初対面だったそんな奴と友人の様に会話していたのだから。

 

 

 

 


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