主役になれなかった者達の物語   作:沙希

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「やっと退院だ~~!」

 

ユウキの嬉しさの籠った声を上げ、大空に向けて両手を広げる。闘病から約15年もの間、ついにユウキの努力が報われる日が訪れたのである。担当医だった倉橋ですらも驚きの回復力だと驚愕していたが喜びもあった。ユウキの努力もそうだが、ソラがいてくれたお蔭なのかもしれない。ソラが今まで病院まで来てお見舞いに来たり、一人暮らしで大変なのにも関わらず高額のアミュスフィアを購入してまで逢いに来てくれたことでユウキが頑張れる切っ掛けとなったのだろう。ユウキの家族はユウキの為に毎日会いに行くソラがユウキの彼氏だと言葉を漏らし、笑っていたくらいである。ユウキの退院に、ユウキの家族やソラたちが来ておりギルドメンバーたちまでは流石に来れなかったのだが、それだけでもユウキは嬉しかった。

 

「じゃあ、今日はソラ君と一緒にいろんなところに行ってきなさい」

 

「ふふふ。頑張るのよ、ユウキ。良い雰囲気になったら、ちゃんと自分の気持ちを言っちゃいないさい」

 

「も、もう姉ちゃん、からかわないでよっ!べ、別にボクは、その……」

 

「はっはっは、若いな。じゃあ、私たちは先に家に戻っているよ。ソラ君、良かったら今日の夕方はウチで夕食を摂りなさい。盛大にもてなすよ」

 

「ありがとうございます」

 

ユウキの家族が自宅へと戻った後、ソラとユウキは街へと向かうのであった。リハビリの末に未だ少し歩く速度が遅いユウキにソラはユウキの歩幅を合わせる。ユウキは若干合わせてもらって悪いと思ってソラの顔をチラリとのぞくが、視線に気づいたソラは笑って手を差し伸べてくれる。ソラはユウキの歩く速度が遅い事に不満を感じていないし、こうやって二人きりで歩いていることが新鮮でもあり、ようやくこうやって現実の世界で一緒に居られるのだから気にしてなどいないのだ。手を差し伸べられたユウキは頬を若干赤く染めてソラの手を取り、笑みを浮かべて自分の歩幅と速度で歩く。

 

 

特に特定の場所や目的もなくソラとユウキは街の中を歩き回る。最近新しくなった公園やソラが途中まで通っていた学校、繁華街、住宅街など。時折ソラの小学校からの友人と出会い、ユウキの事を紹介すると『この子がお前の言ってた彼女さんか』と言って笑ってからかわれ、ソラは苦笑いする尻目にユウキは思わずトマトの様に真っ赤になって、『ち、違うよっ!そ、ソラとは『まだ』友達で!』と慌てていたせいで意味ありげな言葉を滑らせてしまい、更にからかわれてしまった。ソラの友達と別れた後、ちょうど昼食の時間になり二人はソラのアパートの近くで経営するパン屋でお惣菜パンやドーナツを買って、近くの公園で口にする。

 

「う~~っ、美味しい!ふわふわの生地に、カリカリに焼けた外側が何とも言えないっ!こんな美味しいパンを毎日食べれるソラが羨ましいよ!」

 

「だけど、美味いぶん高いんだけどな。油断してたら財布が薄くなるよ。それと、食べ終わったらどうしようか。一通り適当に歩いたけど、行ってみたい場所はないか?」

 

「じゃあタワーに行こうよ!スカイツリー!」

 

「じゃあ、次はスカイツリーに行くか」

 

傍から見れば、カップルにも見て取れる二人のやり取り。ソラはユウキの事は異性として好きなのだが、まだ踏み出せない感じでありユウキも同じなのである。献身的にお見舞いに来たり、ALOの世界に来てくれるソラにいつの間にかユウキは惹かれていったのである。自分の病気に負い目を感じて諦めたりしたのだが、ランや家族から後押しされソラと仲を深め合っていくうちに好きという想いが勝ってしまったので負い目を感じなくなっている。しかし、意識すると赤面したり普段から大胆なのだがソラを意識してしまうと手を握る事すら躊躇ってしまう初心な子なのだ。

 

 

因みにだが、ランや家族、Beyond the hopeのメンバーたち全員ソラとユウキが両思いだというのは認知しているのだが、お互い一歩踏み出せないため目を輝かせ二人のやり取りを見つめる者もいれば、『若いなぁ』と言う者も『羨ましい』と言う者もいる。勿論、皆はソラとユウキの恋が成熟することを望んでおり後押しだってしている。

昼食を食べ終え、ソラのアパートから東京都墨田区押上へとバスに乗って向かった。

 

 

入場料を払って、スカイツリーの天望回廊へとエレベーターで登った二人。

平日にも関わらず人が多いのでエレベーターに乗るまで待たされた二人だが、ようやく自分達の番が回ってきて疲れた笑みを浮かべていた。そして、エレベーターから降りたユウキは真っ先に手摺の近くまで急ぎ足で向かう。ガラスの向こう側に映る街並みを見て、『ALOみたいに、飛んで外側から見てみたい』と無茶な事を言いだし『流石に無理だ。ALO内で我慢しろ』と言ってソラは苦笑いし、ソラの言葉に唇を尖らせるユウキの頭を撫でるのである。

 

「うわぁ、綺麗なアクセサリーが沢山………。ねぇ、何か記念に買っていかない?」

 

「小遣い、大丈夫か?」

 

「…………………」

 

ソラの言葉に、ユウキは財布を覗くと静かになった。察するにもう無くなり掛けているのである。それにユウキはこのまま全額使ったら、両親に怒られるだろうし次のお小遣いは減らされてしまう。それはユウキにとって致命的な事だろう。ソラも何か買ってあげたいと思ったのだが、生憎と今日使い分のお金は使い切っているので買えるのはコンビニで買えるお菓子か飲み物一つずつくらいだ。しかし、ソラは財布をしまって自分の首に下げていたペンダント外し、ユウキの首にぶら下げる。

 

「代わりにあげるよ」

 

「え、いいの!?これって、大切なものじゃ………」

 

「いや、それほど大切なものじゃないよ」

 

嘘である。なけなしのお金で買って、母親に送ったプレゼントが大切な物じゃない訳がない。ソラがユウキに渡した理由は、母親以上に大切な人だからという理由でユウキに託したのである。自分に勇気と前に踏み出す切っ掛けをくれたユウキに最大の感謝と、そして遠まわしの好きという気持ちの形である。ユウキは首にぶらさがっているペンダントを手に取り、見つめる。

 

「とっても綺麗…………あと可愛いっ。本当に貰ってもいいの?」

 

「あぁ、勿論」

 

「えへへ、ありがとうソラ!」

 

太陽の様に明るく、眩しく、今迄最高の笑みをユウキはソラに向けて浮かべた。

帰宅する時間帯になり、ソラとユウキは再び手を繋いでユウキの自宅へと向かう。

帰路を歩いている中、特に二人は会話しなかったが幸せそうであった。

この時間がずっと続けばいい、これから先も幸せな未来でありますようにと願う。

家族や仲間、そして大好きな人と共に歩んでいく暖かな未来を。

 

 

 

 

 

夏になり、小中高大といった教育学校にとっては夏休みに入ったというべきだろう。

外では元気に子供たちが元気そうにはしゃいでいたり、夏の暑さに嫌気がさした表情をしている大人たちも居たりなど夏の評価は人それぞれである。そんな暑い中、ユウキやソラ、ラン、beyond the hopeのメンバーたちが歩いている。

 

「あ、熱いぃぃ………この炎天下で町を歩くなんて無理ぃぃ」

 

「と、とりあえずファミレスで涼もうよぉ。もうお昼になるから、丁度いいし」

 

『さ、賛成…………』

 

炎天下の前では全員元気にはしゃぐ気力が失せている。ユウキも流石に炎天下の前ではほぼ無言状態になっており、若干ソラの服を掴んで歩いている程だったのだ。メンバーの一人がファミレスへ向かうのを提案し、全員が同時に賛成の声を上げる。ファミレスまでの道のりに愚痴を漏らしたりしていたが、エアコンが効いたファミレス内に入った途端に元気になったのは言うまでもない。ファミレス内は涼み目的もあればもうすぐ昼なので昼食目的のお客が沢山いたが席は確保できている。全員席について好きな物を頼み、来るまでのその間は談話する。

 

「やっぱり海に行くべきだったんだよ!水着は涼しいし、泳げるし、屋台だってあるし!」

 

「……………で?本音は?」

 

「女性陣の水着が見たいだけですごめんなさい!」

 

「素直でよろしい」

 

「だけどユウキに無理させるわけにはいかないだろ。海は来月にするって約束だろ?」

 

「だけど、やっぱりこの暑さだとまいっちゃうよ?海に行きたい海っ!」

 

「かといって海に行ったら他の人達もいるだろうから一杯だし、かといってプールに行けば海と同様で人でいっぱいになって狭くてあんまり楽しめないし」

 

「県外に行くにしてもお医者さんの許可が下りるまでダメだからね」

 

「うわっ、よく考えれば八方塞がりだった!」

 

東京は誰もが憧れる場所でもあるため人口密度はかなり高い。そのため夏になればプールや海などと言った場所は人で埋まっているのである。都会という大きな利点もあるがその分不便な所が見え隠れしているので何とも言えない。県外へと行けばいいのだろうがメンバーの幾らかがまだ許可が下りていないため隣の県は兎も角遠出は出来ない。皆が東京の暑さに頭を悩ませているとソラはある事を思い出した。

 

「確かアインクラッドに大きな湖があったよな。そこで泳げばいいんじゃないか?」

 

「あぁ、確かに。でも、せっかく集まったのにこれで解散なのはちょっとどうかと思うんですけど……………………」

 

「ネカフェにアミュスフィアは置いていないからね…………」

 

「とりあえず、ソラの案は夜に取っておこう。今日はせっかく皆でこうやって集まったんだし、リアルを楽しもう」

 

「そうだね。じゃあとりあえず、お昼済ませたら皆で駅ビルとかに行こうよ!」

 

ユウキの提案に皆は賛成し、昼食後に駅ビルへと向かった。

駅ビル内は涼しい所もあるし、広いのでゆっくり歩きながらショッピングが出来る。

8人という人数で駅ビル内の色んな店を歩いたりした。駅ビルなど何度も行ったことがある者達にとっては特に楽しむ様な事はないだろうが、ソラは兎も角ユウキ達は滅多に外に出られなかった元重病患者であったため久しぶりの者もいれば初めて来る者もおり周りの御客とは比べ物になれないほど楽しんでいた。

 

 

こうやって外に出られて、仲間たちと出逢えたことに何よりも価値があったと誰もが思っただろう。前まで『もういい』『このまま安らかに逝けるのを待つだけだ』と諦めていたが、今ではもうそんな思いを抱くこともなくなっている。ソラとユウキ、ラン達が作り上げたギルド『Beyond the hope』に入れて良かったと思ったくらいだ。今ではメンバーたちがソラやユウキ達の様に他の重病患者に生きる気力と勇気を分け与えようと応援しているそうである。僅かだが、重病患者たちもギルドメンバーたちの様に頑張ろうと努力している者達も増え始めている。切っ掛けはソラであり、ソラという小さな波紋が次第にユウキ、ラン、ユウキの家族、ギルドメンバーたちへと伝わり大きくなってきたのだから、知らない者達にとってはどうでも良い存在であるが、助けられた者達にとってはとても大きな存在なのである。

 

 

駅ビル内を歩いていれば、既に空はオレンジ色に染まり終わりを迎えようとしていた。

態々遠くから訪れた者達もいるので、時間的にはここで解散となってしまう。一日が経つのは本当に早いのだが、ALOがあるのだからこれからもずっと会える。しかし誰もが名残惜しそうな顔をしていたのは言うまでもないだろう。ALOで会おうと約束して、3人以外のメンバー全員を見送った後、ソラ、ユウキ、ランは自宅へ帰宅するべく帰路を歩くのである。

 

「今日は本当に楽しかったね。今度は冬に会えないかな」

 

「都合が都合だから、分からないわよ?」

 

「でも、年越しは皆で一緒ってのいいかもしれないな。皆で朝日を拝みたいよ」

 

「そうね。あ、気が早いけどソラ君は冬、主にクリスマスや元旦はどうする?もしよければ、ウチで過ごしてもいいのよ?もちろん、クリスマスは気を利かせるけどね」

 

「か、からかわないでくれよランさん」

 

「そ、そうだよ姉ちゃん!く、クリスマスはソラと家族と一緒に過ごそうよ!」

 

ランの言葉に二人は顔を見合わせ照れはじめる。

反応から気づけばいいのだが、どうしてこうも鈍感なのかとランはため息を吐いた。

しかし、いつか近いうちにソラとユウキは結ばれているに違いないだろう。何せ二人は両想いなのだから、きっと結ばれているはずだ。

 

「そ、それよりもソラ。今日の夕飯も家に来ない?お父さんとお母さんがぜひ来てほしいって言ってたから」

 

「それ、もう何度目なんだよ。まぁでも、断るわけにはいかないからな。行くよ」

 

「やった!!」

 

嬉しそうにスキップするユウキ。何度も家に招待され、夕食を共にしているソラは流石に『これって引き込もうとしてない?』と内心苦笑いしながら思ってしまう。ユウキの両親はソラがユウキを貰ってくれることを望んでいるため、勿論ソラが思っている通りなのだが本人もユウキもその事は知らないし、知らない方がいいだろう。

ソラ自身、そろそろユウキに告白するべきかなと考えているその時だった。

 

「ねぇ、ソラ―――――――――」

 

プップーッ!!

 

「え?」

 

車のクラクションの音にユウキはこちらへ向かってくる車に気づく。

大型トラックが信号を無視してこちらに迫って来ていたのだ。

横断歩道を渡ろうとしていたユウキに向かって大型トラックが突っ込んで行き、そして―――ソラがユウキの肩を掴み、歩道沿いに押し戻した。

 

 

 

 

 

「―――――――――――あっ」

 

押し戻されたユウキはソラに向けて手を伸ばした。

手が届くその瞬間にソラがトラックと衝突し、身体が宙を舞い地面に叩きつけられるのであった。しかしトラックはそれだけで止まらず、叩きつけられたソラの身体を踏み潰した拍子に方向が変わり、電柱に直撃して停止したと同時にユウキがアスファルトに腰が落ちるのであった。周りにいた者達とユウキとランは何が起こったのか理解できなかった。急にトラックが自分の所に突っ込んできたのだが、ソラに押し飛ばされてソラが吹き飛んで、地面に叩きつけられた。地面に叩きつけられたソラはピクリとも動かず、身体から夥しい量の血液が地面に広がり始めたのを目の当たりした時、ユウキが先に反応した。

 

「いやああああああああああああああああああああああ!!!」

 

ユウキの悲鳴が、あたりに響き渡るのである。

 

 

 

 


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