主役になれなかった者達の物語   作:沙希

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ソラはギルドメンバー全員に招集するようメールを送った。来ないのではないか、無視されるのではないかという若干の不安もあったのだがソラの招集したメンバー全員がギルドホールに来ていた。ユウキ、ラン以外のメンバーが呼び出した理由を聞かせてほしいと言って、ソラはユウキの背中を押してメンバーの前に立たせる。ユウキの頭の中には不安もあったが、ソラがギュッと手を握りしめられるとソラに視線を向ける。

『頑張れっ』とアイコンタクトをするソラに、ユウキは安心した様に心を落ち着かせ、これからのことについて語りだすのであった。

 

「みんな、また一緒に頑張らない?自分の病に立ち向かって、病気を治そう」

 

ユウキの言葉に、ラン以外のメンバーの表情が暗くなった。メンバーの二人は結果的には助からなかった。ならば自分たちも助かる可能性などないだろう、そう思っているのだから表情を暗くするのは頷けるだろう。『今更頑張ったところで、何が変えられるというのだろうか』『頑張るくらいなら、このまま安らかに過ごせるように治療を切り替えたほうがいい』と口々に漏らしている。

 

 

とてもではないが、周りの反応を見る限り誰もユウキの言葉に立ち上がる者達は居なかった。だが、ユウキはそれだけで諦めず、アイテム欄からソラから受け取ったクリスタルを使用し、言葉をつづける。クリスタルからは、二人が残していった言葉が再生され、メンバーの誰もがクリスタルから再生される声に集中していた。

 

「思い出してよ!皆で一緒に頑張ってきた事や苦しかった事も楽しかった事も全部!ボクたちが頑張ってきたから、生きようって思ったんじゃないの?亡くなった二人は最後まで、嫌だった顔をしてた?辛そうな顔をしてた?……………違うよね。二人は最後まで、とても幸せだと感じていたはずだよ」

 

ユウキの言葉にメンバー全員が今までの思い出を振り返りだす。

ギルドメンバーで行ったレイドボス攻略、ダンジョン攻略、クエストなど全ての記憶に誰も楽しくなさそうな顔をしたメンバーは一人もいなかった。ユウキとソラの笑顔に元気づけられ、楽しさを分け与えてもらって頑張ろうと心に決めた者達もいる。患者ではないソラから『失っていい命などありはしない』と説得された者もいる。

 

 

亡くなった二人だって、とても幸せそうに笑っていた事は誰もが覚えている。誰もがギルド結成から今までの思い出を振り返ると自然と涙を流していた。『やっぱり………死にたくない』『またあの時の様に笑っていたい』『皆と会えなくなるのは嫌だ』と小さく口々に漏らし始めていた。

 

「だから、頑張ろう。また頑張って、今度はリアルで会おうよ!ALO(ここ)では出来ない事を、沢山しようよ!亡くなった二人の分まで、幸せになろうよ!………ボク達はまだ生きているんだから、きっと希望の先にある未来を掴みとれるはずだよ!」

 

『だから皆、また頑張ろうよ』と言ってユウキは皆に手を差し出す。最後の後押しがあったお蔭かメンバーの一人がユウキの手を添えて、次第に他のメンバーがユウキの手を添えはじめる。後からラン、ソラもユウキの手を取り遂にメンバー全員がユウキの手に手を添えているのであった。ユウキ達は再び、自分の病に向き合う事を決意したのである。ユウキはメンバー全員が手を添えてくれたことに喜び、ソラに見つめ微笑み、ユウキの笑みに気づいたソラは微笑み返した。

 

 

 

 

 

 

再びギルドメンバーたちが生きる目的を見出してから約2年の月日が流れた。

約2年ものあいだALOでソラたちがやる事は特に変わりはなかったが、時折ソラはリアルでメンバーたちに連絡の取り合いを始めたりしていた。ゲーム内での話は兎も角、リアルの事情についての話を聞かせれば、少しは浮世離れしないだろうと思っての事である。通院、もしくはベッドで寝たきりのメンバーもいるので正直ありがたいことだった。時折時間を忘れていると電話代が酷い事に成ったり、ログインしない時間が増えてユウキが拗ねたりするなどソラにとって前半を除けば苦笑いを漏らしたくらいだ。拗ねたユウキのご機嫌取りをするためにソラがユウキと二人きりでALO中を回り続けることになり、メンバーの誰もが二人のやり取りに微笑ましい笑みを向けていたのだから。

 

「退院おめでとう、ジュンにシウネーさん。退院祝いになるような物はないし、それにテレビ越しだけどゴメン」

 

『気にすんなよ、ソラ。今までずっと俺達はソラたちから貰ってきたんだ。言葉だけでも十分だよ』

 

『えぇ、二人にはとても返しきれないほど貰いました。それだけ言ってもらえるだけでも十分な贈り物だわ』

 

「そう言ってもらえると嬉しいよ。再来月あたり、ユウキも外に出られる様になれるらしいから、その時はみんなの都合がなければ集まろう」

 

『再来月は確か、夏休み辺りか?じゃあ海にしよう!みんなで海!』

 

『ふふふ、もうすぐユウキも退院なのね。楽しみだわ』

 

「気が早すぎだよ。あと、退院したからといって海はまだ早いからな」

 

約2年もの間に、メンバーの殆どが退院した。諦めず、懸命に生きようと願い頑張ってきた事が積み上がり奇跡を創りだしたのだ。突如容態が良くなる者もおり、時には手術に成功する者、治療薬一つで病が突如消滅した者達が出始めたのである。残されたのはユウキだけだが、ユウキは誰よりも仲間たちの退院を聞いて喜んで『おめでとう』と言葉を送っていた。ユウキの容態についてだが、徐々に良くなり始めている。薬剤耐性型のウィルスが徐々に消滅していきもうメディキュボイドを使わずとも、このまま何事も無ければ生きていけるそうなのだ。

 

 

今はメディキュボイドから出て、新たな無菌室の部屋に用意された病院のベッドの上で眠っている。10年以上闘病の末に得た希望はとても大きなものだった。メディキュボイドのテスト試験者だが、もう十分すぎるくらいにデータが取れたとの事であり、実用化を進めているとの事である。これなら近いうちに製品化されたメディキュボイドが量産され、ユウキ達以外の重病患者を救うきっかけになっていくだろう。

 

『あ、ソラ!』

 

「おっす、ユウキ。見ないうちに肉が少しづつ付いてきたんじゃないか?」

 

『うん!最近は病院のごはんじゃ物足りないから、お父さんとお母さんに内緒で姉ちゃんにお菓子を買ってもらってるんだ。えへへ、今日はクリームたっぷりのプリンだったんだよ!』

 

「そんじゃあ、仕方ない。せっかくアパート近くで経営してるパン屋のラズベリーソースチーズタルトを持ってきたのに、クリームたっぷりのプリンを食ったんだから要らないだろうな。今からランさんと一緒に食べるか」

 

『あぁっ、ずるいよそんなの!ボクもラズベリーソースのチーズタルト食べたい!』

 

「ははは、退院したら幾らでも食べられるぞ。今はお預けだけどな」

 

『むぅぅぅ……ソラの意地悪っ!』

 

ガラス越しではあるが今では元気にソラとリアルで会話している。

最初はウィルスによって視力が失われかけたり、エイズによる脳症でまともに体を動かせなかったりするが、日に日に回復しており今ではユウキの目にはリアル世界の景色が映し出され、自分の身体を動かせることが出来るようになった。これもずっと傍で応援していたソラやユウキの家族、そしてALOで出来たbeyond the hopeのメンバーたちのお蔭なのだとユウキは信じている。

 

『そういえば、ソラはバイトで忙しくなってから全然ログインしてないけど、そんなに忙しいの?』

 

「もう飯とかどうでもいいと思うくらい忙しいかな。バイトに来なかった分だけ頑張ってるんだ。注文は多くて遠くの家やマンションとかに運んだりしてキツイけど、クビにされなかっただけでマシかな。あ、今日はバイト休みだから、ログインできるけどユウキはどうする?」

 

『勿論、ログインするよ!世界樹の下で待ってるね!今日はボクとデュエルしようね!』

 

「いや、それだけは勘弁。俺、お前に一度も勝ったことないんだけど」

 

『せっかく大型アップデートしてOSSを作れるようになったんだから、ソラも自分のOSSを作った方がいいんじゃない?他のソードスキルは兎も角、OSS無しだから勝てないんだよ』

 

ソラは決して弱く無い訳ではない。ALOが一度中止となったが大型アップデートと共に復活を果たし、ソードスキルが導入される前のALOではユウキとほぼ互角の実力を有していたのだから。バイトやギルドメンバーのテレビ電話のせいで時間が取れなくなり、腕は少々鈍っているもののソードスキル無しのユウキとならまだ互角に戦える。オリジナル・ソードスキルを作ろうにもバイトなどで時間がないため、ソラにはOSSを作る余裕はないのだ。

 

「オリジナルを作れるほど、器用じゃないよ俺は。じゃあ、先にログインしておいてくれ。直ぐにアパートに戻って、世界樹に来るから」

 

『約束だよっ!』

 

部屋を出るソラに、元気に手を振って見送るユウキにソラは笑みを浮かべ降り返す。

メディキュボイドを使わなくなり、このまま行けば退院できるのは間違いなしだと思っていた。HIVが完治されるわけではないが、日常生活になんの影響なく過ごせられる。

ソラはこれからもユウキの事を支えていこうと改めて誓うのであった。

 

 


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