主役になれなかった者達の物語   作:沙希

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フィアンマ・サタナキア

 

 

 正直、よく此処まで生き残れたと感心したいものだ。

 俺、フィアンマ・サタナキアが魔王ルシファーさんに拾われてから、十数年の時が経って一人で考え込んでいた。

 人間だったころの生活と今の生活を比べてみれば、悪魔になってからの生活が一番充実している気がする。

 そう思えるのはあれだな、人間だった時の出来事と前世の事が原因だろう。

 

 

 俺は生まれた時から前世の記憶があり、生まれ落ちた場所と時代背景を見つめて絶望した。転生できたことに驚きもあれば期待もあり、自分が主人公になれたのではと期待を寄せていたんだが、結果的に落胆、絶望した。

 まだ近代兵器どころか機械の概念すら生み出されてもいない世界だったのだ。

 こんな世界で、どうやって生きていけばいいのか正直頭を抱えたくらいだ。

 前世の俺はラノベの世界に憧れる子供染みた思考を持った大人だったため、主人公という存在に憧れていた。上条当麻とか兵藤一誠とか空条承太郎とかユーリ・ローウェルみたいなカッコいい主役になりたかった。

 しかし、現実は酷いものである。時代背景が小説世界とは異なり、いまだ機械の概念すら出来ていない時代に産み落とされたのだ。

 

 

 悪魔になった経緯だが、事実特典か何かなのかと疑いたくなったものだ。気づいたら羽が生えてたし、最初は魔力かどうか分からないが力を感じ取る事が出来た。

 それに羽がどことなくハイスクールD×Dの悪魔の羽と似ていたのだ。悪魔とか天使って、長寿だし簡単には死ななくね?と思ってとりあえず近代化するまで隠して人間として偽って生きていこうと思ったが、フラグだった。

 悪魔であることが教会の連中にばれてしまい、俺は生まれた町から離れる事となり、人間から追われることになった。

 そのときは力が少しあったものの、相手は歴戦の退魔師とか連れていたのでむろん何も出来ずに嬲られた。両親や町の連中からは腫れ物、化け物を見る様な目で見られたのは良く思い出せる。

 

 

 あぁ、なんて人生だったのだろうか。これじゃあ、生まれ変わった意味がねぇじゃねぇかと嘆いたその時だった。

 辺りが黒い炎に包まれ、殺しかかってきた退魔師や教会の者達が炎に包まれて灰に変わり、俺のすぐ近くに魔王ルシファーさんが現れたのである。ラノベで出てくる様な整った顔立ちのイケメンが、足元で倒れている俺を見つめていた。

 

『見たことない悪魔だな。小僧、名前は?』

 

『ふぃ、フィアンマ…………』

 

『フィアンマ、なるほど。炎という意味か。喜べ、フィアンマ。俺はお前に興味が湧いた。お前にはサタナキアという姓を与え、俺の下についてもらう』

 

 そういって有無を言わせず俺を担いでどこへと連れて行かれた。

 魔法陣で転移される前に街の住人が怯えていた表情は今でも忘れないし、俺が最後に『じゃあな』と別れの言葉を無意識に漏らしたことも覚えている。

 

 

 

 ルシファーさんに拾われてから、ここがD×Dの世界であるという事実を知って、ある計画を考え始めた。

 とりあえず原作までには生き残り、他の悪魔を踏み台にしていって何としてでも生き残ろうという計画である。なんともゲスい計画だと思うだろうが、主役になれなかったのだから、これくらいは許されてもらいたいものである。

 何せ魔王が生きているという事は大戦が起こる前であり、死亡フラグ満載の原作前に産み落とされたと知れば誰だって抗って生きたいと思うだろ。何せ大戦時にはドライグとアルビオンの乱入で7割くらいの名門悪魔が死んだのだ。

 自堕落に半端な生活を送っていれば間違いなく原作で死んだ7割くらいの72柱に俺も加わるだろう。死ぬのは嫌だ。

 

 

 原作までに何としてでも生き残りがたいために俺は魔術や魔道具の制作に励んだ。

 最初は書籍を読むことから始まり、魔道具に関しては実物を見て触って構造を確認したりしたのだが2年後くらいには書籍や道具を置く為の隠れ家を作って次第に自分から作り出していた。

 偶にルシファーさんや他の魔王さん達が俺の所に遊びに来たりもしてアドバイスしてくれたお蔭で、僅か2年で済んだのだ。というか、魔王さんって原作じゃ登場しないけどかなりフレンドリーなんだなと驚いたのはその時だった。

 

 

 ある日、俺が12歳の年齢を達した時の事である。ルシファーさん達が俺に『学校に行け、フィア』と言われた時、『え?今頃遅くね?』とタメ口で言ったのは言うまでもない。魔王さんたちとは親しかったのでプライベートの時はタメ口が許されているのだが、それよりも学校に行けと言われた事には流石に疑問と驚きを感じた。

 普通ならば7歳くらいから学校に通い始めているのに、12で学校へ行けと言われれば驚く。しかし冥界では12歳前までは家庭教師もしくは従者から教わり、12歳となって学校に通わせることが義務付けられているそうなのだ。

 人間界とは違うんだなとカルチャーショックを受けたのは言うまでもないだろう。

 

 

 さて、学校に通わされたのだが数日後くらいに言うまでもなく俺は噂の的だった。

 『元人間の悪魔』『魔王さまの面汚し』などと道を通れば陰口を叩かれる。

 まぁ、魔王さんの付き添いで世間に紹介させられたけどその時の俺の態度がと喋り方がなっていなかったからな。

 だがしかし、俺はそんな噂など前世に比べれば、その程度の陰口などどうという事はない。魔王さんが拾ってくれたという立場がなければ、手を出されているだろうが中学の頃の俺なんて根暗でラノベが好きだったからイジメの対象にされてたから暴力や私物の損失なんてほぼ日常茶飯事だ。

 利用する形にはなっているものの、魔王さんには本当に感謝している。ほんと、悪いこともあったけど良い事もあるもんだな。

 

 

 学校に通い始めて、俺が驚いたことが二つほどある。

 一つは飽きれるほどの学校の悪魔や他の悪魔が脳筋だったということだ。実技の授業でペアを組んでペアと子と戦うのだが、全員魔力を高めて放てばいいという明らかに『レベルを上げて物理で殴ればいい』という逆パターン思考の戦いを繰り広げていたのだ。『72柱の7割が死んだ理由が、これなんじゃねぇか?』って思うくらい呆れたものだ。

 せめて拘束系とか、付加とか補助魔法を使えよ。魔法耐性が付いてる敵を相手する時は、どうするんだって話だよ。FF13じゃ死ぬぞ、普通に。

 しかし、魔王さんの前以外では口下手で態度が悪いので俺の言葉など参考にはならないだろうと思って何も言わず黙ったのは言うまでもない。因みに俺のペアだが、よくあるペアがいない余りものの様な感じだった。

 その時は魔王さんの従者が実技の授業を担当していたし、魔王さん経由で仲が良かったので従者さんが居てくれて助かりました。

 ……………入学して数日経っているのに友達いないとかって、泣けるな。

 

 

 さて、二つ目だがサ―ゼクスたちがなんとまぁボッチだったり、根暗だったりと言った感じだったのに驚いた。

 サ―ゼクスは高校の時の俺みたいに中身のない薄っぺらい笑みを顔面に張り付けたみたいな奴だったし、アジュカなんて悪魔では珍しい効率と性能を追い求めたている理論馬鹿であり性格が捻くれていたので避けられていたし、ファルビウムなんかはやらせれば何でも出来るタイプだったので基本的は学校に来ない場合もあれば来ても寝ている奴だし、セラフォルーに関してなんか一番酷い思い出だった中学の頃の俺と似ているくらいイジメを受けていたのだ。

 これが未来の魔王なのかと思わず疑いたくなるくらいだったぞ。本当なら、原作であんな感じなんだから放っておこうと思っていたのだが、どうもサ―ゼクスは癪に障るしセラフォルーに関してはほっとけないので俺は未来の魔王4人と関係を深めることに決めた。

 

 

 しかし、今もそうだが本当に俺は酷い奴だと改めて思う。

 何せ俺は魔王さん達だけでなくサ―ゼクスたちまでも利用しようと考えているのだ。

 サ―ゼクスたちと友人になってから、術式や魔道具の開発と試し撃ちの為にバハムートや幻獣を狩りに有無を言わさず連れ出したり、魔力が少ない俺は魔力が欲しいために精霊と契約に行ったり、ルーンから魔力が生み出されると知ればオティヌスもといオーディンのいるアースガルズへ行こうと提案したりして迷惑を掛けていた。

 アイツらは俺のことを友人だ、大切な人だ、掛け替えのない人だと言っているが俺はそう言われるような事はアイツらにはしていない。

 今までずっと利用して、ただお前らの前では本心隠して嘘だとばれない様に上っ面だけの笑みを浮かべていた最低な野郎だ。生き残るためであり、別段後悔しているわけではない。

 だからせめて4人の思い出になる道具を作り、プレゼントしたりした。今の時代では生み出されていないギターやベース、ドラムやピアノと言った楽器を見せてみれば案の定サ―ゼクスたちは驚いていたし、アジュカなんか『超音波攻撃を放つ魔道具の一種か?』と言われた時は思わず本気で爆笑したものである。

 使い方を教え、4人に演奏させてみたがホント下手だった。音程が合わないやらなんやらだったけど、4人は本当に楽しそうな顔をしていたのは今でも覚えている。

 アイツらの顔は、その時が一番輝いている様に見えた。

 

 

 思ったんだけどさ、俺ってセラに好かれているんだと思う。

 毎回後ろからギュッと抱きしめてくるし、サ―ゼクスたちがいない時は積極的に体を押し付けてアプローチしたりするので時折、『襲いてぇ』と思ったことがあるが、理性を振り払い我慢に徹したものだ。

 大戦で生き残ることが一番の目的であったので恋愛事に現抜かして死ぬことになったら洒落にならない。だから俺は敢えて気づいていないふりをしてセラと接し続けた。

 だがしかし、年を重ねてくるごとに成長するセラのオッパイがスゲェ気になるんだけどさ、本当に。毎度背中に押し付けられたり腕に挟まれたりされるんだけど、勘弁してほしい。ほんと、よく耐えたな俺。

 

 

 

 学園を卒業し、俺達は社交界デビューをする年頃になった。

 卒業すれば毎日の様に会えないと思っていたのだが、そんな事はお構いなしにサ―ゼクスたちは俺の隠れ家に集まって来る。上っ面ばかりの笑みを浮かべて賛辞の言葉を貰うよりも俺と居る方が気楽で楽しいという理由だそうだ。

 アイツらの言葉に俺は思わず涙が出そうになった。今まで本性を見せたことがないのに、アイツらは俺のことを一切疑わずに友達だと今でも思っていてくれたことが嬉しかった半面、胸が痛んだ。

 三つ巴と二天龍の乱入から生き残るためとは言え、友達や魔王達を利用しており、その事に関して後悔はしていなかったはずなのに、今になって後悔している。

 

 

 

 だから――――――――――――――

 

 

 

 

「フィー君!起きて、フィー君!終わったよ?もう、戦いは終わったんだよ?二天龍も神もいなくなって、もう戦わなくていいだよ?ねぇ、起きて!」

 

 これは、その代償なのかもしれない。

 リゾマータの公式を似せた未完成の術式を使ったせいで、身体が機能しなくなっていた。何とかして力を込めて目を開けるとセラやサ―ゼクス、アジュカ、ファルビウムたちが泣いているのが目に入った。

 

「………………ぁっ」

 

「フィー君!」

 

 途端にセラが笑みを浮かべる。

 あぁ、ホント、お前の笑顔は本当に可愛いよセラ。

 あれだけ気づいていないふりされてたのにもかかわらず、ずっと振り向いてもらおうと頑張ってきたのに、結局お前の気持ちを無駄にさせちまった。

 だから俺の死を忘れて、幸せになりやがれ。

 

 

 

 

「嘘…………いや………………嫌っ!!消えないで、フィー君!お願いだから、消えちゃいやだよっ……………。サ―ゼクスちゃん、アジュカちゃん、ファルビー!!フィー君が大変なの!フィー君に早く、早くフェニックスの涙を!!」

 

「セラフォルーっ…………受け入れろ。フィアンマは、もうっ!」

 

 サ―ゼクス、強くなれよ。

 冥界の未来を背負えるような魔王になって、兵藤一誠という主人公を導いてやれ。

 周りの言葉に惑わされそうになったら、セラやアジュカ、ファルビウム達を頼れ。

 お前は何だかんだで自分一人で抱え込む奴だからな。

 

 

 

「嫌だ!!約束したんだもん!また、また皆で一緒に集まって遊んだり………演奏したり……………旅行したりするんだもん!!」

 

「………………セラフォルー、もういい。もういいんだっ。だから――――――」

 

 アジュカ、お前には幾つもの術式を残すがそれを頼りに冥界の悪魔たちを導いてやれ。

 お前だけしか、俺の術式が理解できないだろうから頼んだぞ。

 あと、お前とこれから話せなくなると思うと滅茶苦茶残念だ。

 俺の魔道具や術式に対して賞賛してくれた、数少ない友人なのだから。

 

 

 

 

「戦いが終わったら、告白するって…………大好きって伝えるって決めてたんだもんっ……………フィー君と二人きりの、でーとを……するんだもんっ…………」

 

「……………………」

 

 ファルビウム、お前はどう思っているか知らないが謝らせてくれ。

 あの時、お前と出会わなければお前が今こうして無言で泣くことなんてなかったと思う。

 普段から面倒くさがりだったのは分かるが、それはつまらなかったからでもあるだろう。

 俺なんかと出会わなければ、原作通りになれたのかもしれないのにな。

 だから、悪かったな…………ファルビウム。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体中に亀裂が走り、瞼が重くなり視界が段々と薄暗くなってくる。

 痛みも感じなくなり、段々意識が薄れていくのが分かってくる。

 前世で死というものがどういうものなんか、分からなかった。

 一瞬で死んだのか、それとも記憶が残らない程ショックだった死だったのか。

 だけど、いまこうやって死がなんなのか、分かる。

 これが…………………死なのか。

 

 

 は、ははははははっ。あぁ、ホント……………悪くない人生だったよ。

 振り返ってみれば、最低な事をしてきたけどサ―ゼクスたちと居た日常の中で純粋に楽しんで笑っていたことは嘘じゃなかった。結果的に原作には関われなくなったけど、こうやってアイツら生き残って、アイツらに囲まれて死ねるなら本望だ。

 だからこれで、何も思う事なんて―――――――――――

 

 

 

 

  ――――――――ねぇ、フィー君……………起きてよっ。

 

 

 

  ――――――――いつもみたいに、冗談だって言って起き上がってよ。

 

 

 

  ――――――――からかってるんでしょ?…………ねぇ。

 

 

 

 

 …………………あぁ、もう、本当。

 どうしてこんなにも、苦しんだよ。

 どうしてこんなにも、理不尽なんだよ。

 目の前に、『好きな女』が泣いているのに、どうして涙を拭えねぇんだよ。

 

 

 

  ――――― ごめん ―――――

 

 

 

 ごめんな、セラ。

 そして…………こんな最低な奴を好きになってくれて、ありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  …………ホント、死にたくねぇな。

 

 

 




成りたかった役割にはなれない。

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