1
グレモリー領地にて、リアス・グレモリーとその眷属たちは『乳龍帝おっぱいドラゴン』のヒーローショーを終えてリアスの実家でゆっくりと食事していたことであった。
用意された食事を兵藤一誠ことイッセーはマナーに精通した動作で口に運んでいく。
最初の頃は勉学共々注意される所が多かったけど今では至極一般的にマナーや悪魔としての知識などを会得している。
そんな中、ふとイッセーは一番奥の向かい側に座っているサ―ゼクスの背後の壁に飾られてある絵に目が入る。
その絵にはサ―ゼクス、セラフォルー、アジュカ、ファルビウムの四大魔王という知り合った魔王が描かれている。
しかし、そんな中に見覚えのない人物が一人混じっており、思わず小首を傾げた。
「どうかしたのイッセー。お兄様をジッと見て」
「あ、いえ………サ―ゼクス様の後ろにある絵が気になって。サ―ゼクス様達の他に、知らない人が描かれてるから誰だろうなぁって」
「あぁ、フィアンマ・サタナキア様ね」
「フィアンマ・サタナキア?」
聞いたことのない名前に、イッセーは小首を傾げる。
悪魔の一人なのか、と考えたのだが自分が知っている72柱にはサタナキアという悪魔は聞いたことがなかった。ましてや番外の悪魔にもだ。
しかし、リアスが『様付け』するほどの人物であり、親しそうに四大魔王の一人のサ―ゼクスの肩を掴み、セラフォルーに腕をからまれている人物はいったいどんな人物なのかと思った。
するとイッセーの疑問に答える様に、サ―ゼクス・ルシファーが語りだす。
「フィアンマ・サタナキア。彼はかつて大戦時において英雄、もしくは次期魔王と言われても過言でなかった悪魔だよ、イッセー君」
「え、そんな凄い悪魔だったんですか!?どう見ても、普通の悪魔にしか見えないんですが…………………」
見るからに栗色の短髪でメガネを掛けた少し中性的な顔だち。
イケメンの部類にも入ってもいいのだが周りに比べると普通である。
イケメンの男魔王達と美女のセラフォルーに挟まれているフィアンマという男は何度も見つめても普通でしかなかった。
するとサ―ゼクスは笑いながら「見た目よりも中身だよ」と言って訂正を加える。
「中身?」と更に小首を傾げたイッセーだが、すると赤龍帝の籠手に宿った龍、ドライグが語り掛けて来た。
『フィアンマ・サタナキア、どこかで見覚えがあると思ったらあの悪魔だったか』
「知ってるのか、ドライグ?」
『知ってるも何も、アイツのせいで俺やアルビオンは神器に封印される切っ掛けになったんだよ。それと断片的にしか覚えていないが、神を殺したのも奴だ』
「はい!?」
『え!?』
ドライグの言葉にイッセー達が驚いた顔をした。勿論、リアスも含めて。
フィアンマという悪魔を文献や悪魔学校の授業で習っていたのだが、神を殺したとまでは教えられてはいなかった。
3勢力の会談では神が死んだとまでは話題が出ていたが、死の原因については伏せられていた。というよりも、トップや大戦に参加していた者達以外が二天龍によってだと勘違いしていただけである。
「ドライグの言う通りフィアは二天龍を追い込み、そして神を倒した歴史に名を遺している悪魔だ。魔力に乏しく、フェニックスの『再生』やバアルの『滅びの力』といった特別な力を持たなかったが、アジュカやファルビウム以上の術式と魔道具の制作、作戦指揮において天才的な一面を発揮させるほどのものだった。天界側と堕天使側との戦争では先代魔王からも期待されるほどでもあったからね。ドライグやアルビオンが乱入してきたときだって、彼のお蔭で両勢力は最小限の被害で済んだ」
『奴のせいで俺やアルビオンは身体を滅されかけたからな。あの野郎が生きていたら、今ごろ間違いなく禍の団なんぞ壊滅している』
「ま、マジかよ………うん?生きていたらって、もしかしてその人…………」
「…………………彼は大戦時に亡くなった。彼は幾千、幾万もの勢力と引き換えに自らの命を賭けて神を討ち、戦争を終結させた」
サ―ゼクスはそういって懐から長方形の四角い紙、古くなった写真を取り出す。
写真には背後に飾られてある絵と同じ情景が映っていた。
フィアンマ・サタナキアはサ―ゼクスや他の魔王達にとって、掛け替えのない友だった。
■■■■■■■
当時学生だった私ことサ―ゼクス・ルシファーは彼、フィアンマ・サタナキアという悪魔と知り合う前は仮面を被って周りに溶け込んでいるだけの愚かな男だった。
母がバアル家の出身であるため、滅びの力を受け継いだ私は周りから期待されていた。
誰もが私に話しかけ、媚を売り、純粋に友人と成ろうとする悪魔などいなかった。
悪魔であるから仕方がないとことだ。欲を持つことが悪魔の常であり常識だ。
欲望を持たぬ悪魔などいるわけがない。
私は争い事が昔から嫌いだったので、偽りの笑みを浮かべ只管穏便対応する日々だった。
自分にも周りにも家族にも被害が来ない様に最低限にして最大の処世術で相手と交流を深めていき、何時しかそれが定着してしまっていた。
笑うとはどうすればいいのか、友人とは何か、信頼とは何かなんて考えなくなった。
しかし、一人だけ――――――――――――――
『お前、そんなんでつまらなくないか?』
一人だけ、私の仮面の奥を見抜いた悪魔がいた。
フィアンマ・サタナキア。貴族らしくもない口調と態度に服の着崩し方。
現代風に言うのであれば、チャラ男という部類に入る悪魔だった。
この時の時代は貴族風習が強かったのでそんなだらしない服装をする悪魔など爪弾きにされるし、陰口を叩かれるのが当たり前だった。
ましてや彼は学園では『問題児』、『魔王様の面汚し』などと噂があるのだから。
そして私は話しかけられたとき、思わず戸惑ってしまった。
彼が私を見つめる瞳はまるで私の中身を見透かす瞳だったからだ。
『暇なら付き合え』
私が言葉を返す前に彼は私の手を掴んで校舎を出ていく。
真面目に学園に通っていた私が初めて無断で学園を欠席したのはあの時が初めてだった。
そして連れてこられた場所は、ルシファー領から少し遠くにある一件の小さな家。家の中に案内され、中へ入るとそこには当時では見たことない魔道具が沢山置かれていた。
機械という概念は私の世代では存在しなかったので教えてもらうまでは分からなかったが凄く好奇心に駆られた。
『どうだ、凄いだろ?』
二カッと子供の様に笑うからに私は子供の様に心を躍らせ、「触っていいか?」と問うと彼は快く了承してくれた。
許可を得た私は誕生日プレゼントをもらった子供の様に彼が作った道具に触れて、使い方を教えてもらったり、その日に冥界の魔獣に向けて試し撃ちして怒らせて逃げ回ったりした。
そして…………いつの間にか私は忘れていた笑みを取り戻していた。
忘れていた笑みに若干の戸惑いもあったが、彼が『ようやく笑ったな』と喜んでいた。
どうやら彼、フィアは私が仮面をつけた様な笑みが癪に障ったらしいのだ。
その日以降、私はフィアの友人となった。
彼といると本当の自分をさらけ出せる、それが何とも心地よかった。
父や母に紹介すると見た目で判断されてフィアがいないところで「彼は大丈夫なのか?」と問われたのがとても可笑しかったりした。父と母は心配していたがフィアと会話を重ねていくたびに「良い悪魔じゃないか」と褒めてくれる。
普段の彼は誰彼構わず崩した口調になり本音を口にするタイプなので、周りから期待されていた私の前でさえ敬語なんて最初から覚えていないと言わんばかりだったものだ。
そんな度胸と物怖じしない素直な心に両親は逆に清々しい、「良い悪魔だ」と褒めたのだろう。グレモリー家の次期当主にして滅びの力を得た悪魔なのだから、誰一人フィアの様な悪魔などおらず常に私を道具としてしか見ていないような眼だった。
だから私は、フィアと出会えて本当に良かったと思う。
思うんだけど―――――――――――――
『深海にいるバハムートって美味いんだろうか?今度魔道砲弾をぶち込んで討伐しようぜ』
『それは絶対にやめてくれ』
流石に破天荒過ぎて伝説級の生き物と戦うフラグは作らないでほしい。
その時の私はまだ今よりも強かったわけではないのだから。
だがしかし、彼の破天荒さと形振り構わず連れ回す癖は嫌いではないけどね。
ある日の事、私は学園の講義を終えた後にフィアの所へ向かおうとした時だった。
突然同じクラスの悪魔たちが僕に、『どうしてサ―ゼクスさんは問題児といるですか?』と急に話を振られた時だった。
質問してきた悪魔たちからは、『あんな奴といると品格を疑われる』、『バカが移る』、『魔王様に拾って貰ったからといって調子に乗り過ぎる』などと伝染する様にクラス中の悪魔たちが口ぐちにフィアの陰口を言い始めた。
フィアンマ・サタナキアは72柱にも番外の悪魔にも属さない悪魔であり、その理由はフィアが元々人間だったということである。
生まれた時は人間だったと本人が言っていたのだが悪魔になった原因は分からないそうだ。悪魔だと民衆にばれてしまい、殺されかけそうになっているところに魔王様に助けられ、引き取られたとの事。
そして彼を引き取ったのは先代ルシファー様であり、サタナキアという苗字はルシファー様が彼に与えたものだそうだ。
フィアが引き取られた噂が冥界中に広まり、フィアの態度のせいで大半の悪魔からは『悪魔や魔王様の面汚し』『プライドの無い屑』『人間風情』だと言われるようにもなったのだが、だとしてもそんな事は関係ない。
彼は頭が悪い訳でも無いし、彼は私の大切な友人なのだから陰口は許さない。
しかし、仮面を定着させ過ぎたせいで表向きに怒りを露わにできなかった。怒りを露わにすれば、私や家族たちに酷い噂が立つかもしれない。ましてやフィアに迷惑をかけてしまうかもしれない。
だから私はただ周りの声に逃げる様に早足で教室を出て行くことしかできなかった。
『フィア、君はどうして実力を隠すんだい?君は魔力は私ではないにしろ乏しい訳ではない。頭もいいし、魔道具を生み出せるほどの才能を秘めている。なのになぜ、君はいつも周りから見下されるような態度をとる?』
二人きりの部屋でフィアが魔道具を弄っている時に問いただした。
しかしフィアはただ一言、「面倒だから」という言葉で片付けてしまう。
それから何度も同じ質問を繰り返したのだが、同じ答えが返ってくる水掛け合いの様な形となる。
『どうしてフィアはいつもそうなんだ!私がこれほど心配しているのに、君はどうしてそんなに無関心でいられるんだ!』
私は思わずフィアに怒鳴り散らしてしまった。
フィアの表情は、目を点にさせて私を見つめる今迄見たことない表情をしていた。
数秒後、私は思わず意識をハッと戻してフィアの隠れ家を出て行く。
その時は、やってしまったと何度も後悔してしまった。
フィアが元々人間であるため、態度を直したところで結果的に見下されるのは変わりはない。今も昔の貴族社会であり純血主義の風潮であったため下級悪魔は多少見下されがちだし、ましてや元々人間だったフィアは下級悪魔よりも更に見下されるだろう。
覆せない事をフィアが一番知っていて、それを私は理解しているのに私ときたら。
『おっすサ―ゼクス。元気か?』
しかし日が変わるまで私はフィアの事で後悔し続けていたのにも関わらず、フィアは何気ない顔で私の元へと訪問してきた時は思わず私がポカンとしてしまった。
あれだけ怒鳴り散らしたのに、どうして私の前に現れたのか分からなかった。
本当なら文句の一つでも帰って来るのではないのかと覚悟していたのだが、そんな事は知らんと言わんばかりに最初の時と同様で私を連れ出す。
『昨日の事、怒っていないのかい?』
『怒るもなにも、心配させた俺が悪いからな。気にするな。それよりも面白い奴を見つけたんだよ。いま屋上で待たせてるから、紹介するぜ』
そう言って私の手を引いて、屋上へと向かう。
彼が気にしていないと言ってくれたことに、私は少しだけ安心し彼の背中を見つめながら、小さく「ごめん」と声に出して謝った。
彼が紹介したいという悪魔、アジュカ・アスタロト。アスタロトの名門悪魔であり、その名を知らぬ悪魔などいないだろう。
なぜフィアがアジュカといるのかと尋ねたのだが、面白そうだったからだということ。あまりの応答に思わず呆れもあり笑いもあった。
対するアジュカはフィアに小難しい会話を繰り広げており、フィアもフィアでアジュカの会話が理解できているかのように頷きながら答える。
当時の私はあまり理解できない会話であったため、彼とアジュカが楽しそうに会話している光景を目にすると胸の奥がモヤモヤした。
私と居る時よりも、フィアがとても楽しそうに笑うので思わずアジュカに嫉妬していた。 フィアとの最初の友は私なのだ、私が一番なのだ主張する様に二人の会話に割って入ったこともあった。
フィアには失礼な例えになるかもしれないが、玩具を盗られた子供の心情と言ったところだろう。
ある日、アジュカにフィアについて聞くと「ある意味で面白い奴だから気に入った」と答え、続いて「フィアンマが作る魔道具と術式に興味を抱いた」とのこと。
その時の私は子供であったため、何だか面白くなかった。
それからというもの、彼は次々にファルビウム、セラフォルーといった悪魔たちを連れて紹介してきた。
グラシャラボラス、シトリーといったどれも名門中の名門であり、アジュカと同様で面白い奴だからとの事。
なんだか同じ答えを二度も聞いた気がすると呆れながら、嫉妬していたのがバカらしくなってくる。
しかし、フィアが紹介する悪魔は共通点を持った個性的な者ばかりだとは思った。
私を含めフィア以外は魔力が高く、成績がトップという共通点を持っており、アジュカは魔術や術式の研究に没頭。
ファルビウムは冥界で流行っているチェスでは負けなしなのだがフィア以上の面倒くさがり屋。
セラフォルーは当時ではまだ知らなかった魔法少女好きといった、何とも濃い個性を持った悪魔たちばかりだった。
まぁ、私も大概変わった個性を持っているからブーメランなんだけどね。
そしてアジュカと同様でファルビウムとセラフォルーと私は友人となった。