二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 悩んだ結果、ほぼ説明会となってしまいました。本格的なバトルは次回で……と、言うことでお願いします


94話 背水の戦い、慎吾の戦略

「SYAaa……」

 

 唸り声をあげながら倒れたゾフィーを睨み付け、太い両足で岩を踏み締めながらゆっくりと迫り来るタイラント。その体の装甲にはあちこちにゾフィーの攻撃によって作られた傷があるのだが、とてもそれで弱っている等とは思えないような迫力が滲んでいる

 

「うっ……くっ……」

 

 一方の慎吾は疲労と体へのダメージで膝を付きながら決して闘志は失っていないものの、肝心のゾフィーの装甲はタイラント以上に傷付き、余力が全開時の半分ほども残されていない事を示してカラータイマーが赤く点滅し、鳴り始めていた

 

「(こちらにはあまり余力は残されていないと言うのに、ヤツはまるで健在か。決して多くは無いシールドエネルギーでいかにして奴を撃破するかが問題だが……)」

 

 じりじりと迫り来るタイラントを油断無く睨み付けながら、慎吾はそう脳内で思考する

 

 実はと言うと慎吾はこの凄まじい強敵を相手に全く作が無いと言う訳では無く、確率は決して高いとは言えないもののタイラントを撃破しうる方法があるにはあった

 

「(いくら奴の防御や耐久性が優れていたとしても、このゾフィーのM87の直撃を受けてもなお耐えきれるとは思えない。M87さえ奴のボディに命中させれば勝機はあるのだが……)」

 

 そう、ゾフィーの装備の中で最大にして最強の破壊力を誇り、命中さえすれば現存するどのISだろうが一撃の元に静める事が可能なM87光線。この直撃をボディに受ければ例えタイラント言えども確実に撃破する事が可能であると慎吾は確信していた。が、しかし、同時にそれを実現させるのは非常に険しい道を進まねばならない事を慎吾は理解していた

 

「(ゾフィーの残りシールドエネルギーでは万全の状態でM87が撃てるのは、せいぜい二発……。しかし、奴も黙って撃たせてくれる筈が無い。再び奴の攻撃を受けてしまえばM87を発射するエネルギーは無くなってしまうだろう。そうなってしまえば……考えたくは無いが私の敗北は免れないかもしれん……おまけに)」

 

 タイラントを警戒しつつ、ゾフィーのエネルギー残量を見ていた慎吾はそこで視線をゆっくりとタイラントの腹部、六角形状のエネルギー吸収器官に向ける

 

「(二つ目の問題が、あのエネルギー吸収器官の存在も実に厄介だ。今の所、スラッシュ光線程度の質量では軽々と飲まれてしまう事、そして例え腹部から軸をずらして光線を放っても途中で強制的に起動を変えられて腹部に向かってしまう事くらいしか分からない……つまりはM87も結果的にだがエネルギー吸収器官に向かって放つことになるが……今のゾフィーに残されたシールドエネルギーで、エネルギー吸収器官で吸収出来ない、かつ奴の装甲を打ち砕く事が出来るのだろうか……?)」

 

 と、そんな風に慎吾が泥のごとく体にまとわりついてくる不安と焦りを感じていた瞬間

 

「SYAッッ!」

 

 じりじりとゾフィーに近付いていたタイラントが左腕のハンマーから再びワイヤーを噴出すると、それをムチのように振り回して鞭のごとく横凪ぎの一撃を放ってきた

 

「……!」

 

 それは凄まじく早い一撃ではあったが、休み無く思考をしながらも常にタイラントの動向に気を配っていた慎吾はワイヤーの動きを見切り、それを回避や防御では無く、スピリットゾフィーの力を使って一瞬の輝きの後、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンのものを再現したAICを発動させてワイヤーを空中で止める。

 しかし当然と言うべきかタイラントの攻撃はそれに留まらずタイラントはうなり声をあげたまま、空いた右手の鎌を大きく振り回すと、そのまま遠心力を利用しながらAICを使っているゾフィーを狙って躊躇無く鎌を降り下ろし

 

「……はぁっ!!」

 

 鎌が命中する直前、足元の岩を蹴って飛び上がったゾフィーの蹴りがタイラントの腹部に炸裂し、直撃部からの火花と共にタイラントを若干背後へと仰け反らせた

 

「やはり、この程度の攻撃では怯ませる事すら難しいか……!」

 

 が、それでもなおタイラントは怯んだ様子すら見せず、何事も無かったように蹴られた事でずれた自身の体勢を緩やかな動きで戻すと、再びゾフィーへと向き直り、それを岩場へと着地しながら見ていた慎吾はうっすらと冷や汗をかきながら呟いた

 

「(スピリットゾフィーに残された時間は決して多くない……M87を打ち込むために何か一つ……僅かでもチャンスがあれば……)」

 

 再びこちらに狙いを付けながらじりじりと迫りくるタイラントを見ながら慎吾は焦りを堪え、祈るようにそう考えていた。

 

 そう、タイラント撃破に向けて慎吾に課せられた最後にして最大の問題こそが今現在も消費し続けてしまっている『時間』であった

 

 

 ゾフィーの第二形態であるスピリットゾフィーは通常状態に比べて純粋な機体のパワーから、機動力、光線の出力に至るまで全ての能力が大きく優れている。

 が、その反面シールドエネルギー消費、慎吾の肉体やゾフィーにかかる負担も大きく、慎吾の肉体やゾフィーの事を考えるのならばスピリットゾフィーの状態を維持可能な時間は『約180秒』と第二形態が発動した時から慎吾は光に強く聞かされており、そして現在、慎吾が既にスピリットゾフィーになってから100秒近くが経過していたのだ

 

 そうして近付いて来る制限時間に追われながらも、ここで焦りを見せれば敗北に繋がると理解している慎吾がタイラントと睨みあっていた時だった

 

「……SYAッ!?」

 

 突如、タイラントが何かを感じ取ったかのようにゾフィーから視線を反らして虚空を見つめる。その瞬間

 

「GIィッ……!」

 

 突如、空の上から一つ、雲を切り裂き白熱して輝く光の刃がタイラント目掛けて飛んでくると、その背中から生えた刺の数本を切断して吹き飛ばすとタイラントに悲鳴のような叫びをあげさせる

 

「これは……!」

 

 その鋭くかつ強烈で、一夏や箒が放つ物とはまた異なる斬撃を見た直後、慎吾は一瞬タイラントを視界から外し光の刃が飛んできた方向を見つめる

 

「すまん慎吾……予定到着時間少しより遅れてしまった」

 

 そこにはやはり、自身のISヒカリを展開させ、ナイトブレスから光輝く剣ナイトビームブレードを伸ばして、タイラントに向かって構える者。慎吾の親友、光の姿があった


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