二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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87話 紙一重の熱戦

「ふっ……ぜやっ!!」

 

「おっと! へぇ、中々に早いキックじゃあないか……!」

 

 先制気味にゾフィーが放った上段蹴りを避け、バードは口元に笑みを浮かべる。余程、自身の乗るIS『バードン』の回避能力に自信があるのか横に軸を反らして回避する際に腰に手を当ててポーズまでしている

 

「だがなぁ、甘……!」

 

 バードはそう得意気な顔で、右手のパイルバンカーをゾフィーに向け

 

「いいや……甘いのはお前だ!」

 

 直後、振り上げたままのゾフィーの脚が右斜めに降り下ろすようにして動き、そこから放たれた踵落としがバードンへと炸裂した

 

「んなっ……がっ!?」

 

 完全に攻撃の体制へと入っていたバードはダメージを軽減する事も叶わず、ゾフィーの踵が直撃したバードンの装甲から火花を吹き、驚愕の表情のまま、重力に従い、つんのめるようにして崩れて床へと倒れてゆく

 

「て、てんめぇっ……!」

 

 と、バードは完全に地面に叩き付けられる寸前で体制を変え、側転に似た回転するような動きで回転して激突を避けると、一転して先程までの必要以上の余裕はどこへやら、激昂した様子で青いウィングの両翼の中央に取り付けられた二問の砲門を開き、素早く水色の小さなエネルギー弾をゾフィー目掛けて次々と発射し、攻撃してきた

 

「くっ…………うっ……!」

 

 砲門が開いた瞬間、咄嗟に地面を蹴って空中に飛び退く事で回避を試みた慎吾ではあったが、バードンから放たれたエネルギー源は慎吾の予測を越える程に素早くかつ単純に弾数が多く、回避し損ねた何発かの弾がゾフィーの脚に命中し、即座に伝わる衝撃に慎吾は苦悶の声をあげる

 

「まだまだあっ!! さっきみたいにあたしがぼさっと油断して待ち構えてるだけだと思うんじゃねぇぞぉっ!!」

 

 当然と言うべきか激昂した様子のバードンはさながら機銃の如く勢いでエネルギー弾を乱射してゾフィーへと追撃を続ける

 

「はぁっ……!!」

 

 慎吾はそれを常に移動して回避し続けながら、ゾフィーの腕からスラッシュ光線を発射してエネルギー弾を相殺しつつ、バードンが連射の際に見せるほんの僅かな隙を付いて、砲門に向けて何発かのスラッシュ光線を放ち攻撃を続けた

 

 慎吾自身も無意識の内に、その動きは自然と一夏と共に楯無の指導の元で鍛えぬいた円状制御飛翔(

サークル・ロンド)へと変化してゆき、ゾフィーとバードン、二機のISは互いに攻撃と回避を同時にこなし、つつ徐々に上昇してゆき、そうして、二機のISが天井に開けられた穴、つまりは先程バードが慎吾に奇襲を仕掛ける際に破壊した部分に差し掛かった瞬間

 

「くらいやがれっ!!」

 

「はぁっ!」

 

 バードはバードンの右手のパイルバンカーを構え、慎吾はゾフィーの右腕で手刀を作ると、二人は円状制御飛翔を止め、弾かれたように相手に向かって急加速して飛び出すと交差して激突し、二機のISはそのまま加速の勢いで同時に天井を突き破って屋根の上へと飛び出した

 

「ぐっ! あっ……ううっ……!」

 

「……ち、ちきしょう……あたしと、このバードンがただの手刀一発でここまで……!!」

 

 

 激突した際、どうやら二機のISはそれぞれ攻撃するタイミングが全く同じで、相討ちのような形になったらしく、慎吾とバードの両者は共に飛翔を続けながらも相手からの強烈な一撃に悶え苦しみ、声を漏らした

 

「(な、何と言う威力なんだ……あのパイルバンカーは……)」

 

 バードンのパイルバンカーの強烈な一撃が命中し、黒煙をあげる胸部の装甲部分を庇うようにゾフィーの両手で覆いながら慎吾は激痛を堪え、その恐るべき威力に戦慄していた

 

「(私の手刀が同タイミングで命中した事でパイルバンカーもいくらか威力は落ちているはずなのだが……まさか、それを含めてもゾフィーのシールドエネルギーをこれほどまでに削るとは……!)」

 

 そう一撃、バードンから放たれたパイルバンカーの一撃がゾフィーの脇に命中した瞬間、慎吾に体の芯から砕かれてしまいそうな衝撃が走るのと同時に満タンまでゾフィーのシールドエネルギーは一気に半分近くにまで大きく削られてしまっていたのだ。

 

 恐らく自身の手刀でバードンがのけ反らず、完全にパイルバンカーを打ち込まれてしまっていたのなら間違いなく自身は崩れ落ちてバードンに敗北していただろう。と、慎吾は確信じみて感じ、仮面の下で静かに顔を青ざめさせた

 

 

「(次にあれをまともに受けてしまったら最後、ゾフィーのシールドエネルギーが枯渇して私は敗北してしまう……ここは長期戦をも覚悟で奴の隙を伺うのがベストだが……)」

 

 それが最善の選択ではあると頭では理解していながらも、しかしながら慎吾はそれを選択では出来ずにいた何故なら

 

「(しかし、仮に長期戦を挑んだとしても、今の私に残る体力ではバードより私が先にスタミナを切らしてしまう……そうなるとまず最悪。完全に勝機は潰えてしまうだろうな。それに下手に事を長引かせた場合、一夏の身が心配だ)」

 

 そう、皮肉な事に学園祭で少しでも皆の力になろうと必死で作業し、なおかつ舞台での全力乱舞、そしておまけに一夏を見うしなとばかりに緊張しながらの全力疾走が引き金となったのか既に慎吾は体に疲労を感じ始めていたのだ

 

「(危険だが……やはり、ここは短期で一気に勝負を決める他無い。早く一夏を助けに行くためにも……そして、私自身の為にも!)」

 

 そうして慎吾は覚悟を決めると、突如、ゾフィーを一気にバードン目掛け、全身でタックルでも仕掛けるような勢いで一直線に加速しながら突撃した

 

「……!! ふんっ……そんな馬鹿みたいな真っ正面からの攻撃が通じるかよっ!!」

 

 そんな慎吾の大胆な動きにバードは一瞬だけ目を見開いたもの、直ぐにその行動を鼻で笑うと、その場で静止したままウィング部分から大量のエネルギー弾を発射して弾幕を構築しながらゾフィーを待ち構え、大量のエネルギー弾がゾフィーを捉えようとした瞬間

 

「はぁっ!」

 

 気合いの声と共に慎吾はゾフィーをその第二形態、揺らめくオーラのような赤い輝きのエネルギー光を纏うスピリットゾフィーへと変化させると、決して加速を止めず、両腕を胸の前に水平に置いた

 

「Z光線!!」

 

 そのまま慎吾は放課後の訓練の中で実戦で使えるレベルにまで進歩させた円状制御飛翔でのZ光線を両腕から放つ

 

「んなぁっ……こいつは!? がっ……あああぁぁっつ!!」

 

 空中に稲妻のように細かくギザギザの軌道を描きながら放たれたZ光線はバードンの放った弾幕を障子紙でも破るように軽々と突き破るとそのままバードンに命中し、バードの悲鳴と同時にバードンは全身から上げ、真っ逆さまに地面へと墜落すると、鈍い激突音と衝撃と同時に大地にクレーターを作った

 

「よし! これであとは……!」

 

 Z光線が見事に命中したのを確認すると、慎吾はバードンにトドメを指すべく倒れているバードンに接近する

 

 その場に誰かがいて、この状況を見ていれば誰もが慎吾の勝利を確信し、事実、慎吾も決着が付いていないのにも関わらず、内心で僅かに、ほんの小さくだけ『この一撃で勝利に大きく近付いた』と、判断してしまっていた。

 

 

 だからこそ

 

「へっ……馬鹿め、甘く見やがったなっ……!! あたしと! このバードンをっ!!」

 

 

 倒れて身動き一つしなかった筈のバードンが起き上がり、向かってくるゾフィーに左手を向けている事が、ゾフィーの警戒音に慎吾が気付いて反応する事が僅かに遅れ

 

 

「ぐわああぁぁぁっっ!!」

 

 次の瞬間、ゾフィーの全身はバードンの左腕から放たれた真っ赤な炎に包まれ、回避も防御もする事が叶わず直撃を許してしまった慎吾の悲鳴が空へと響きわたった




 果たしてここから慎吾に勝機はあるのか……?その答えは次回で

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