二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「えぇと……その……楯無会長、質問しても良いですか?」
少し時間が経ち、部屋に入っていつも使用しているイスに腰掛ける事でいくらかの落ち着きを取り戻した慎吾が、勇気を出して楯無に問いかける
「もちろん。でも、その前に二人ともお茶をどうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
「ど、どうも……」
慎吾と一夏、と言う男二人がいる前で体のラインが殆ど見えてしまう裸エプロン(一応、水着は着ていると言う事を早々に楯無は打ち明けたが)と言う格好をしているのにも関わらず、楯無は全く変わらぬ落ち着いた態度でそう言うと二人に向かってそれぞれ暖かいお茶が入った湯呑みを差し出し、慎吾と一夏は異様な光景に冷や汗を流しながらもひきつった笑顔で湯呑みを受け取った
「それで……楯無会長は何故、私達の部屋に? ……そして、その格好は一体……」
自身を落ち着かせようとするように湯呑みの中のお茶を一口だけ飲みながら、慎吾は水着とエプロンで本当に危ない所は守られているとは言え臆する事無く大胆に柔肌を見せている楯無の体を出来る限り見ないようにしながら楯無にそう尋ねる。ちなみに慎吾の近くにいる一夏も顔を赤くし、楯無を直視出来ない視線は盛大に泳いでいた
「あぁ、この格好? これは夏に……いや、ここはあえて今日頑張ったお二人の為に私からのサービス! と言う事に変更しておきましょう」
「そ、それはどうも……ありがとうございます」
楯無は途中で言葉を妙に気になる形で途切れさせながらも冗談っぽくそう笑って、胸元が見えてしまうようなセクシーなポーズを取るとウィンクしてみせ、慎吾はますます困惑しながらも一応、楯無の言葉が真実ならばそれは自分達のためらしい事なので形式的に礼を言って見せた
「……それで、私がここに来た理由だけどね」
特にさほど大きなリアクションもツッコミを入れる事が無かった慎吾に楯無は何やら一瞬だけ頬を膨らませて少しだけ不満そうな表情をしたが、瞬き程の一瞬でいつもの笑顔に戻ると、ぴっと、人差し指を立て口を開く
「今日の二人の特訓を見て……はっきり言えば慎吾くんが何とかやっていける合格ラインだったけど……一夏くんは残念ながら落第点って感じだったのよ。それで私、一夏くんにだめ押しの一手を打つ事に決めました」
「「だめ押しの一手……?」」
先程と違って真剣な様子の楯無の言葉に注目が集まり、慎吾と一夏と声が重なる。その瞬間、物理的に隠せる場所が極端に少ない姿なのにも関わらず楯無はマジシャンのようにどこからか扇子を取り出すと音を立てて開いた
「それ即ち、寝食も共にして波長を合わせる事! ……と、言うわけで今日から私が、この部屋で一夏くんと暮らす事を決めました。主に生徒会長権限で」
「…………へっ?」
再び楯無から放たれた衝撃的な言葉に、先程、部屋を開けた瞬間にエプロン姿の楯無を見た時のように一夏の口は開かれたまま、その体はフリーズしてしまっていた
「(も、もしや…………!)」
一方の慎吾はその発言で、楯無の衝撃的な姿の影響で見過ごしていた部屋を慌てて見渡し、あまり多くは無かった自分の私物が消え、代わりに楯無の物と思われる私物が置かれている事に気が付いた
「あぁ、ごめんね、無断で悪いけど慎吾くんには今日から他の部屋に引っ越して貰うわ。そのお詫びに、既に慎吾くんの荷物は引っ越し先の部屋に運び終えてあるし……」
と、そこで慎吾の様子に気が付いた楯無が軽く謝罪すると、そこで一旦言葉を止めて慎吾にじっと視線を向ける
「同室の子は、これまた生徒会長権限で凄くスペシャルな子だから期待しているといいわよ?」
「……? わかりました」
そんな意味ありげな楯無の様子に疑問を感じながらも、あまりにもヒントが少ない為にそれが分からず不思議そうに首を傾げながらそう言うのであった
◇
「私の部屋は……ここか」
楯無から渡された新たなる自室となる部屋のルームキーに係れている番号と、とドアに掛けられた部屋番号を確かめながらそう呟く
あの後、多少のトラブル(事情を誤解した箒の乱入、慎吾の説得が0.1 秒でも遅ければ箒が紅椿を展開していた)等はあったものの、最終的に一夏と慎吾二人の納得により話し合いは成立し、慎吾はこうして新たな部屋へと訪れているのであった
「もしもし、楯無会長から話は伺っているとは思うが、今日からこの部屋で同居させて貰う大谷慎吾だ。……入っても構わないか?」
部屋内にいる人物にも聞こえる程度の声と共に慎吾はドアを軽く三回叩いてノックした。が、いくら慎吾が耳を澄ませても返事らしい返事が帰ってくる事は無く、静かな沈黙だけが慎吾の耳に響いた
「……入るぞ?」
このまま廊下で待っていても無意味だと判断した慎吾はドアに鍵が掛かっていない事を確認すると、念を押すようにそう言うと静かにドアノブを回して扉を開くと部屋の中へと入っていった。
が、室内には同居人の姿は見当たらず、部屋には名前が書いてない為に断言は出来ないが、慎吾の荷物が入ったいると思われる梱包された数個の段ボール以外には備え付けの家具、以外には同居人の私物が殆ど見当たらず、その特徴を読み辛くさせた
「……同居人はもしや……シャワーか?」
室内に入った時から静かに聞こえる水音を頼りに慎吾が視線を向けると、どうやらその予想は的中したらしく、慎吾には磨りガラス越しにシャワールームに蛍光灯の光と、シャワーを浴びる人影が見えた
「これは……一端、出直した方が良さそうだな」
相手がシャワーに入っていると言う事を予測しなかった自身の迂闊さを後悔しつつ、慎吾が部屋を出ようとしたその瞬間
「……あぁ、悪いな。今日から同居する者だろう? 気分転換にシャワーを浴びていて気がつかなかったよ」
水音が止まると、共に『聞き慣れた声』が聞こえ、慎吾がドアに向かおうとしていた脚を止める。
そう言えば、よく見てみれば部屋にある同居人の家具の一部は何度か見たことが……いや、『つい最近にも見たことがある物』だった
「そうだ、驚くかもしれないが言っておくと、俺は同級生では無く二年生だ。楯無会長に頼まれて何の因果かは分からないが、今日引っ越して来たんだよ」
慎吾の頭の中でパズルのピースのように一つ一つのヒントが重なって一つの答えを作り出そうとしていた瞬間、シャワールームの扉が開いて同居人が姿を表した
「俺は、芹沢……って、慎吾か?」
「やはりヒカリ、君なのか……」
慎吾の姿を見た瞬間、バスタオルで自身の青い髪から水分を拭き取っていた光は目を大きく開いて驚き、慎吾は楯無が仕掛けたこの状況に堪らず苦笑しながらそう呟いた
「とりあえずヒカリ、話す前に下着くらいは履いてくれよ……?」
「む、そうだな……」
苦笑しながら慎吾は手近なベッドに腰掛けると、苦笑したまま、そうヒカリを諭す。
女性しか来ないと想って油断していたのか、それとも素なのか、ヒカリは上下に下着すら付けておらずバスタオル一枚のほぼ全裸と変わりが無い姿だったのだ。
最も、光は慎吾にそれを見られても特に恥ずかしがる様子を見せなかったが
裸を見られても特にリアクションも無い光ですが、単に長い付き合いの中で慎吾に慣れてるだけです。それこそ、裸を見られても何とも思わないくらいには