二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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74話 空舞う蹴り、燕の一撃

「ぐっ……!」

 

 『完璧に避けきった』不覚にも僅かに油断してそう『思い込んでしまった』いた楯無の一撃が慎吾のガードをすり抜けて左の二の腕をかすめ、慎吾は思わず顔をしかめて苦悶の声を漏らす

 

「っはぁっ!……はぁ……はぁ……」

 

 が、それでも慎吾は直後に放たれたた楯無の攻撃を軸反らしと右腕、それでも足りなければ左脚で受けきり直撃を避けた。

 が、常に極限近くにまで緊張し、道着に汗が滲む程に疲労困憊している慎吾にじわりじわりと限界は近付き始めており、慎吾自身もそれをしっかりと感じていた

 

「あらあら結構……いや、かなり頑張るわねぇ……少し甘く見すぎたかな?」

 

 そんな慎吾を見て楯無は、今度こそ心底驚いた様子の口調でそう口にする

 

 慎吾が物心付くときから毎日ように続け、学園に入ってから更に量を増やした訓練と努力の成果か、それとも本当に楯無が慎吾の実力を見誤っていたのか、試合が始まってから既に一時間が経過した今でも慎吾は1度たりともダウンを奪われる事はなく、不屈の闘志で攻撃を続け、同時に反撃の一撃を耐えきっていた

 

「(とは、言っても左腕はさっきの一撃で殆んど限界で全身もガタガタ……体力は、あと一分持てば良い方か……)」

 

 心を落ち着かせてそう自身の体調を分析しつつ、慎吾は眼前の楯無に視線を向ける。その表情は現在進行形で大量の汗が滲む慎吾とは対称的に一筋の汗も無く、試合前と全く変わず涼しげな物であり、楯無にまだ余裕が残されているのを、たとえ言葉にせずとも理解する事ができた

 

「(どうやら……すぐにでも勝負を決めないと、私の敗北はほぼ確実なようだ……ならば、やるしか無い)」

 

 そんな危機的状況を前にして思わず生唾を飲み込む慎吾ではあったがその目には諦めは無く、危険な賭けに挑む力強さがしっかりと残っていた

 

「(今の私でどこまで『アレ』を出来るか分からんが……たとえ楯無会長を相手に勝利を掴み取る可能性があるのは『アレ』以外には……)」

 

 覚悟を決めた慎吾は、とっておきの秘策を使うべく楯無へと向かって走るような勢いで踏み出し、射程距離に入った瞬間、特技としている蹴りでは無く、集中して腕に残っている力を全て出し切る勢いで、音を立てて空気を切り裂き、うっすらとだが残像が見えるほど鋭い手刀を楯無に向かって両腕を使い、連続で放った。

 

 が、当然、その連続攻撃も楯無相手ではかすめる事すら敵わず手刀はその全てが空振りへと終わり、何も捕らえる事はなく空しく虚空だけを裂いて行く。が、勿論この手刀での連続攻撃が慎吾の秘策では無い。本当に狙っているのは……

 

「(……今だっ!)」

 

 次々と手刀を放つ慎吾の腕の動きを完全に見切った楯無が反撃に移るべく半歩距離を縮め、慎吾の腕に向かって手を伸ばした瞬間、腕を捕まられるよりコンマ一秒早く慎吾は両足で畳を蹴り、空中へと飛び上がった

 

 

「ん~、こんな近距離で空中技は……普通に考えたらちょっと甘いんだけど……?」

 

 確かに威力はあるものの、窮地の中で空中に浮かぶ事で無防備な姿を晒してしまうような苦肉の策と言うような空中技を使う慎吾を見て、少しだけ不思議そうに呟く楯無であったが、それも一瞬にも満たない僅かな時間の事であり、直ぐ様空中に浮かぶ無防備な慎吾に向かって強烈な連続突きが放たれる。その瞬間

 

「たあっ……!」

 

 慎吾は、掛け声と同時にムーンサルトスピンのように『空中で体を激しく回転』させる事で楯無のその一撃を回避してみせた

 

「……!?」

 

 流石にそんな大胆すぎる回避方法は全く思慮に入れてなかったのか、ここに来て楯無がはっきりとした動揺を表情に見せ、その動揺は完全だった楯無の攻撃に紙一枚程の僅かな隙を作った

 

「今だっ!!」

 

 その与えられた僅かな隙を逃さず、慎吾は空中で更にスピンを繰り返して追撃の楯無の攻撃を回避し続けると、急降下しながら回転と落下の勢いを利用して楯無に向け、通常ではあり得ないような角度と早さ、ほそして凄まじい威力を持つ蹴りを放った

 

「…………!」

 

 迫り来る慎吾の攻撃を見たことで、楯無は瞬時にして冷静さを取り戻すとこの試合で見せた中で最小の時間で流れるように迎撃の構えを取ると、慎吾の蹴りに対するカウンターのように右腕を付きだす

 

 

 そして二人の技が全く同じタイミングで重なり

 

 

「ぐうっ…………!」

 

 その結果、崩れ、膝を付いて力無く畳の上に倒れ伏したのは慎吾であった

 

「し、慎吾さんっ……!!」

 

 それを見た途端、呼吸さえ忘れかける程に熱中して二人の試合を見ていた一夏は、そこでようやく拘束が解かれたかのように慌てて仰向けの状態で倒れたまま荒く呼吸をしている慎吾を助け起こした

 

「……この技でも駄目と言うのなら……悔しいですが私には最早打つ手段も体力もありません……私の負けです」

 

 一夏に支えられる事でようやく楯無を見ることが出来た慎吾は、楯無が試合開始前と殆んど変わらないような涼しげな表情をしている確認すると深く溜め息を付き、素直に敗北を認めた

 

「うん、よろしい。なら、今日は慎吾君も疲れきってるし……明日からしっかりと私が二人纏めて教えてあげる。あ、慎吾君は大丈夫だと思うけど、念のために保健室で診てもらいなさいね?」

 

 それを見ると楯無は小さく、しかし決して見下したり同情とは違う、純粋に慎吾を称賛するような笑みを浮かべた

 

「はい……それでは……一夏、悪いが保健室までしばらく肩を貸してくれないか?……今は自力で歩くのも少し難儀しそうなんだ……」

 

 そんな楯無に慎吾もまた、疲労の為に非常に弱々しいながらも笑顔を浮かべてそう言い、一夏にそう頼んだ

 

「勿論、任せてください」

 

 その頼みを一夏は快く引き受け、力を込めて慎吾の肩を支え、側に寄り添いながらゆっくりと保健室へと向けて歩き始めた

 

「すまないな一夏、今回は私から言い出した話なのに、敗北してしまって……」

 

 肩を支えて貰うことでどうにか歩きながら、慎吾はそう申し訳無さそうに一夏に謝罪した

 

「いやいや……今回は本当は俺こそが挑むべきだったんだろうし……会長と戦うのが慎吾さんじゃなくて俺だったら、きっとカッコ悪く会長に負けてましたよ……」

 

 そんな慎吾に一夏は自嘲するように軽く笑ってそう答えると、歩みを進めゆっくりと畳道場から出ていき、最後に慎吾の『そんな事は無いと思うんだがなぁ……』と言う呟きを最後に二人の姿は見えなくなった

 

 

「……………………」

 

 そして、そんな二人を変わらない笑顔で微笑みかけていた楯無はしばし待ち、二人が引き返しそうにも無いと思うと

 

「……っ! はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 糸が切れたかのように苦しげに息を切らし、畳の上で片膝を付いて崩れた。それと同時に楯無の額から、そして全身から今の今まで堪えていた汗がじわじわと涌き出し、一気に着ていた道着をバケツの水を頭から被ったの如く濡らしてゆく

 

「マーシャルアーツ、古武術、カポエラ、ボクシングにおまけに相撲……全部使っても最後以外ダウンすらしないってのは予想外だったな……うん」

 

 先程の慎吾との試合を思い返し、楯無でさえ若干、理不尽と感じてしまった程のその実力に感嘆したかのように楯無は畳道場で一人、静かに呟いた

 

「慎吾君に技を教えたのが……一体どんな人なのか……ちょっと想像出来ないわね……」

 

 未知としか言えない相手の存在にたまらず苦笑する楯無。どうやら再び立ち上がる為の体力を取り戻す為にはもう少し時間がかかるようだった

 

 

 一方、その頃、部活棟の保健室の前では

 

「おにーちゃんをここまで痛め付けるとは……どうやら相手は死を覚悟の上で挑まなければならない相手らしいな!」

 

 千冬からの情報でその場に部活棟にまで駆け付けていたラウラが、一夏に肩を支えられていた慎吾を見て何故か妙な勘違いをしてしまい、どこの最終戦争だと言わんばかりの装備を取り出して向かおうとするラウラを止めるのに一夏も慎吾も相当に体力を消耗し、ただでさえ疲労していた慎吾はますます疲労することになり、結局、その日は保健室へと泊まる事になってしまうのであった




 と、言うことで今回はウルトラマンタロウの特技『スワローキック』を使用と言う事にさせて頂きました。果たして生身で出来るのかは疑問ですが、この技を使った事により彼の登場を確定へと決めました

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