二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 この展開が書きたい為にこの編はあったと言える回です


64話 目覚める紅、もう一つの群青

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

 

 大きく紅椿のシールドエネルギーを減らされ、アリーナの大地へと倒れた箒は荒い息でどうにか呼吸を整えようとしてつた。心臓は極限に近い疲労と緊張で破れそうな勢いで鳴り続け、冷や汗も流れ始めていた

 

「(焦りと動揺で二度も攻撃を受けてしまうとは……くっ、これでは何のために鍛練をしたのか分からんではないか……)」

 

 自身が選んでしまった失策をきっかけとして光から二度も致命的な一撃を受けてしまった事でそう内心で想う箒の心には静かな絶望が生まれ始めていた

 

「(やはり私では芹沢には勝つ事が出来ないのか……?)」

 

 紅椿を追うようにアリーナの大地へと静かに着地し自身に向けてナイトビームブレードを構えるヒカリを見ると、箒はどうにか起き上がり自身もまたヒカリに向けて剣を構えるが、箒の心の中には解消できない濃霧のようなモヤモヤが立ち込めてとても精神を集中させて戦う事など出来そうには無い

 

「(私は一体、どうすれば良いのだ……)」

 

 そうして晴れない心のまま、箒が光へと挑もうとした時だった

 

「箒ぃいいっ! 頑張れ! まだまだこれからだぞっ!」

 

 箒の耳に観客席から聞こえる、一つの、しかし決して聞き間違えたりはしないような声が聞こえてきた

 

「いち……か……」

 

 その声を認識した瞬間、相手が目の前で構えていると言う事も一瞬、忘れて箒は声の聞こえた場所に視線を向ける

 

「負けないでくれよ……箒!」

 

 そこには観客席で立ち上がり、額に汗を滲ませ身を乗り出さんばかりに必死になって大声で応援している一夏の姿があり、視線を向けた瞬間に一夏と箒は目が合い、一瞬二人の視線が交錯する

 

「箒、たとえこんな状況でも……お前なら勝てるって俺は信じてるぜ……!」

 

 箒と目があった瞬間、一夏は力強くそう箒にそう告げると笑顔を向ける

 

「一夏……!」

 

 その声を、一夏を見た瞬間、箒の心からは渦巻いていた靄が凪ぎ払われ、突沸するかのように急激に強大な熱を持って跳ねあがった。

 

「(そうだ、私は何を迷っていたんだ……私は一夏と共に戦いたい、一夏の背中を守れるようになりたい。そう願ってこの力を、紅椿を欲したのでは無いか……)」

 

 もはや箒の心には一分の迷いは無い。あったのはただ一つ、純粋かつ力強い一つの願いだった

 

「(私は欲しい……! 一夏が向けてくれる想いに答える力を! 私の願いを叶えれるような力を!)」

 

 そして、紅椿はその箒の強い想いを受け止め

 

「これは……!」

 

 突如、紅椿の展開装甲から赤に混じって黄金の粒子が溢れ出したかと思えば、ハイパーセンサーは機体のエネルギーが急激に回復しているのを知らせる

 

「『絢爛舞踏』、これが私のワンオフ・アビリティー……!」

 

 項目に書かれた文字を読み上げ、箒は新たな自分の力の目覚めに感嘆するかのように強くそう口にした

 

「どうやら……この状況で更に成長したようだな篠ノ之」

 

 と、そんな箒を見て、戦闘が始まってから殆ど言葉を発する事が無く、光がナイトビームブレードを構えたままどこか嬉しそうに箒に向かってそう言った

 

「あぁ……試合中なのに待たせてすまないな、芹沢」

 

「何、俺は既に一年待ったんだ、これくらい待つうちに入らんさ」

 

 それに答える箒の声は口元に笑みを浮かべる余裕があるほどに非常に落ち着き、精神は限りなく完璧に近いほどに研ぎ澄まされ、光と言う強豪と戦う事に対する緊張は、心地好いと感じれるレベルに変化していた

。そんな箒の変化を前にしても光は全く動じた様子は無く、冗談のような口調でそう箒に答える

 

「……それでは、行くぞ篠ノ之……っ!」

 

「あぁ……来いっ! 芹沢!」

 

 そして、二人が確認するかのようにそう言い合った瞬間。

 

 爆発的なエネルギーと二人が同時に動き、今度は地上を舞台として再び互いに超高速で剣技を放つ熾烈な激戦が開始された

 

「(剣にまるで動揺も乱れも無い、いや、それどころかより洗練されてさえいる……やはり芹沢は強いな)」

 

 今までシールドエネルギーが枯渇寸前だった箒が急にワンオフ・アビリティーを発現させ、エネルギーを回復して猛攻を仕掛けていると言うのにも関わらず、まるで動じた様子も無く、自在に振るうナイトビームブレードの剣を振るう光を見て箒は気付けば素直にその精神の強さを賞賛していた

 

「(が、しかし……それでも今の私ならっ!)」

 

 それでも箒はもう、『自分が勝てるのか?』等とはとは全く思わなかった

 

「(剣の軌道が見える! 奴の次の動きが予測出来るっ!)」

 

「くっ……!」

 

 光の猛攻をきっちりと捌き、あるいは防ぎながらも箒の目には剣の軌道がしっかりと見えており、互角の状態から冷静に少しずつ手を早めて繰り出して行く箒の剣撃は次第に光の攻撃を押し返し始め、光を攻撃寄りの体制から防御中心へ徐々に変えさせて行く

 

 そして

 

「せやあっ!!」 

 

「…………!!」

 

 遂に箒の一太刀が光の強固な防御を打ち崩し、ナイトビームブレードを弾いた

 

「行くぞっ!」

 

 その瞬間、箒は光が弾き飛ばされたナイトビームブレードを直ぐ様構え直そうとしているのを、更には構え直した直後に斬撃のカウンターを放とうしているのも見切りながらも、被弾覚悟の瞬時加速で一気にヒカリの懐目掛けて飛び出した

 

「せやぁあぁっっ!!」

 

「うっ……!」

 

 懐に飛び込むなり箒が放つ、肩上から切り裂く問答無用の猛烈な斬撃に思わず光は怯み、ヒカリは後方へとのけ反らされた

 

「まだまだぁっ!」

 

 そろでも箒の攻撃は止めない、光が放った決死のカウンターをも撥ね飛ばし、雨月で更なる追撃を加えてヒカリの装甲から激しく火花を飛び散らせた

 

「そう、何度も決められてたまるか……っ!」

 

 が、光も負けてばかりではいない。箒の二撃めも受けて火花を撒き散らして倒れながらも、咄嗟に倒れ際にナイトビームブレードを振りかぶってブレードから光輝くエネルギーの刃、ブレードショットを紅椿へと放った

 

「うわっ……!」

 

 倒れ際ながらも見事に箒は攻撃後の隙を付いて放たれたブレードショットは紅椿に見事に直撃して、攻撃中の箒を転倒させる

 

「くっ……」

 

「……見事、実に見事だ篠ノ之。まさかヒカリの装甲を二撃で吹き飛ばしてしまうとはな……」

 

 直ぐ様、体制を立て直して起き上がった箒に光は静かに声をかける

 

「それは……」

 

「あぁ……これが本当の……いや、もう一つのヒカリの姿だよ。篠ノ之」

 

 声をかけられた箒は、ヒカリの姿を見て思わず息を飲む

 

 ヒカリの姿は先程の箒の連撃によって装甲を剥がされ、先程とは大きく異なる姿を見せていたのだ。

 

 より鮮やかになった青と銀色のボディ、その胸で輝くのは形状こそ違えどゾフィーと同じくカラータイマー。そして銀仮面に作られたどこか優しい白い瞳が箒がじっと箒を見つめていた

 

「互いにシールドエネルギーは多くは残されていまい……次の一撃で決着を付けよう」

 

 身軽になったヒカリは、箒にナイトビームブレードを突きつけてそう告げる

 

 ヒカリの胸では赤くカラータイマーが点滅していた




 次回、決着

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