二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「それにしても今日の決勝戦は死闘だったな……」
「うん……ラウラの援護が無かったらもう少しで負ける所だったよ……」
「そ、そうか……二人の活躍は見ていたが頑張っていたたからな」
時刻はあれから進んで午後7時、大広間三つを大胆に繋げた大宴会場で食事を取りつつ、対面する形で今日のビーチボールについて語るシャルロットとラウラに、慎吾自身は試合に参加しなかったものの、自身が見ていた数々壮絶な試合を思いだし、困惑しながらも慎吾は二人にねぎらいのエールを送った
「うぅ……あそこでサーブミスなければ頭を撫でてもらったのは私のはずなのに……」
「これが……これが敗者の末路か……」
「無念……がふっ」
事実、そんな風に慎吾と楽しく話す行為を涙を飲んでひそひそと呟く周囲のクラスメイト達の声が聞こえてきたが、何とかしてあげたいとは思えども自分ではどうにも出来ない事故に、慎吾はこれを苦笑しながら聞くことしか出来ず、結果、慎吾は申し訳なさを誤魔化すように少しスピードを上げて食事に意識を集中させる事に決めると、肝付のカワハギの刺身をメインとしているのであろう和膳を味わい始めた
「……お、おにーちゃんよ、少し頼みがああるんだがいいか?」
「ん……どうしたラウラ?」
と、慎吾が食事に集中し始めて数分ほどした時、慎吾の隣に座っているラウラが慎吾の浴衣の裾をそっと引っ張りながらそう言い、慎吾はそれに答える為に口の中の食べ物を飲み込むと一旦食事の手を止めてるとラウラの方へと向き直った
「私は、おにーちゃんに、あれをしてほしいんだが……」
「あれ……? あぁ………そうか、そう言う事か……」
少し恥ずかしそうにラウラが指差す先に、慎吾は怪訝な表情で顔を動かし、すぐにその意味を理解して困ったような顔で溜め息をついた。
ラウラが指差す先にあったのは隣席の一夏に向かって目を閉じ、恥ずかしげながらも上品に口を開いたセシリア。そして、一夏はと言うと余り恥ずかしそうな様子もなく刺身をつまんだ箸をセシリアの口へと持っていこうとしており、とどのつまり一夏とセシリアは所謂『あ~ん』をしようとしていたのだ
「ラウラ、私自身はしても構わないと思っているが、この場だと……」
「あぁぁーっ!? セシリアずるい! 反則!」
「織斑君に食べさせて貰うとか……許さんっ! 私もやるっ!」
慎吾の言葉が言い終わらないうちに当然ながら、全員が揃っている宴会場で大胆な行動をしようとしていたセシリアと一夏は女子達に囲まれると、セシリアはその行動を弾糾され、一夏は自身も食べさせて欲しいと雛鳥の如く一斉に口を開く女子達に囲まれた
「……大丈夫だ、私は周囲の目はあまり気にしないぞ」
その様子を見て、若干のタイムラグがありながらもラウラは再びそう言って慎吾に懇願する
「いや、そうでは無いんだラウラ、私が言いたいのはこの場には……」
ラウラの言葉にゆっくりと首を降りながら慎吾が説明しようとした瞬間
「ほぅ、諸君らは自由時間をたっぷり満喫したように見えていたが……静かに食事が出来ん程にまだ体力が残っていたか」
今まで、それなりに食事を楽しんでいた様子の千冬がゆっくりと立ち上がり、身も凍り付くような気が込められた声で一夏とセシリアの元へと集まった女子達に視線を向ける。それだけで一瞬前まで非常に賑やかだった宴会場には時が制止したかの如く沈黙が走った
「折角だ、その体力を有効活用する為に今から砂浜を50km程ランニングしてくるといい。いや、待て、その体力ならば70……」
「いえいえいえ! 疲労困憊です! ヘロヘロのクタクタです! だから私達、大人しく食事をしてますね!?」
千冬が恐ろしい数値を口にするより早く、一人の女子が一気にそう言うと、蜘蛛の子を散らすような勢いで集まっていた女子達はそれぞれの席へと戻って行った
「なるほどな、おにーちゃん」
「そう言う事だ、ラウラ」
その様子をしっかりと見ていたラウラは短くそう呟き、慎吾もそれに一声だけを返すと二人は食事が終わるまで一切無駄口を話す事はしなかった
◇
「くっ!……流石は織斑先生、こっちも一流と言うべきですね」
「ほぉ、大谷はここが弱いようだな……とっ……んっ! こら、一夏少し加減しろ!」
「はいはい……じゃあ、今度は……」
「確かに織斑先生は強い、ですが決着は付いていない以上私はまだ負けるつもりはありませんっ……!」
「くあっ! そこに来たか……! あぁぁっ!一夏、やめっ……!!」
夕食を終え、風呂上がりに千冬、慎吾、一夏三人が泊まることになる部屋で行われていた。二つの対決が決着を迎えようとしていた瞬間、ぴたりと千冬が動きを止めた
「……一夏、それと大谷。少し待て」
千冬は二人にそう言って寝ていたベッドから起き上がると、何故か足音を立てぬよう、しかし滑らかな動きでドアに近寄ると次の瞬間、勢いよくドアを開いた
。すると
「「「へぶっ!!」」」
「……箒、それにセシリアに鈴? 何故そんな所にいるんだ?」
千冬が急にドアを開いた事で、ドアが直撃した事により勢いで床にひっくり返ってしまった三人を見ながら慎吾は不思議そうに首を傾げていた
◇
「け、結局、一夏は織斑先生とセシリアに腰のマッサージをしてあげてただけで……」
「おにーちゃんは、その傍らで教官と将棋とやらをしていた訳か……」
「織斑先生だ馬鹿」
「私は自分から対局を挑んでおいて負けてしまったがな……。それも飛車角落ちのハンデを貰って」
顔を赤くしつつ、今回の出来事を纏めるシャルロットとラウラ。と、ラウラの言葉の訂正すべく千冬が出席簿でラウラの頭をはたき、慎吾はそのマグネット将棋盤の上でボロボロになった自軍の銀矢倉を見ながら、対局に熱中し過ぎた為に出てきた汗を拭いつつ苦い顔でそう呟いた
「部屋を汗臭くされると叶わん、お前達はもう一回風呂に入って汗を流して来い」
「ん、そうする」
「分かりました……皆は、まぁゆっくりとしていくと良い……」
千冬はそんな慎吾と、セシリアのマッサージをした事によって汗だくになった一夏にそう指示をし、二人はそれに従ってタオルと着替えを持つと、慎吾が少し元気の無い声で部屋に集まった箒、鈴、セシリア、そしてシャルロットとラウラにそうとだけ言うと並んで大浴場へと向かって行った
「……何、あれが最後の一戦と言う訳では無い……なら、次は織斑先生に一矢報いて見せるさ……」
こっそり持ってきたマグネット将棋盤を見つつそう決意を決めた目でそう、慎吾は呟いた。
その後、風呂を上がっても対千冬対策を将棋盤片手に慎吾は考え続け、偶然にも偶然、歩いてきた真耶と曲がり角でぶつかってしまい、慎吾が慌てて自分とぶつかった事でバランスを崩した真耶を受け止めた所、真耶が顔を真っ赤にし、それを偶々通りすがった女子に見られてしまって、ちょっとした騒ぎとなったおかげで慎吾の帰りは一夏より大分遅れてしまう事になるのであった
千冬vs慎吾(将棋)
勝者 千冬