二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「ふぅ……良い日差しだな……」
赤地に銀のストライブが色鮮やかな競泳用の水着へと着替え、意気揚々と砂浜へ出てきた慎吾は、雲一つ無い青空でいっそう眩しく太陽の光を胸板にたっぷりと受けつつ、心底心地良さそうにそう言うと大きく伸びをした。太陽光線で熱された砂浜は素足の慎吾の足の平に容赦なく熱さを伝えてきたが、それもまた海の醍醐味だ。と、慎吾は思っていた。
「あ、大谷さん!相変わらず脱ぐと、細マッチョ!」
「あ、あれが……あれが大谷さんの生大胸筋……」
「ちょっ……何で涎足らしながら大谷さん見てるの!?怖いよ!」
「み、皆も、元気そうで何よりだ……」
と、そんな慎吾にそれぞれ良く似合った水着を着たの女子達が明るく(一部除く)話しかけ、それを聞いた慎吾は少し顔をひきつらせながら手を振ってそう返事をした
「……準備体操を始めるか」
その後も時折、通りすぎていく皆にそれぞれ軽く挨拶をしつつ、周囲を見渡すと慎吾は砂に足を取られぬよう慎重に準備体操を始めた
「(……水の流れのないプールなら兎も角、波があり流れが予測しにくい海で足がつってしまえば私でも自力で岸へ戻るのは非常に困難。用心に越したことは無いな)」
そんな事を考えながら慎吾は特にアキレス腱、そして肩と両手両足首に注意しつつ緩やかながらも手慣れたスムーズな動きで準備体操を進めていった
「あっ……慎吾さん」
「おお、来たか一夏。……どうした、私には部屋にいた時より疲れているように見えるのだが」
と、熱心に準備体操をしていた慎吾の背後から一夏が声をかける。その声に反応して振り向く、が、その表情に僅かな違和感を感じ、体操の手を止めて一夏に訊ねた
「それは、その……色々ありまして……ええ」
慎吾の問いに一夏はそう、頭を掻きながら何か困ったように曖昧な言葉を口にした
「……何、説明しにくい事ならば構わない。一緒に準備体操でもするか?」
慎吾はそんな様子の一夏を見て何かを察したように一瞬、沈黙してから何事も無かったかのように再び動き出して体操を始めようとしていた
「……はいっ!」
一夏も慎吾のその計らいに助けられたらしく、そう言うと直ぐ様動き、互いの腕が当たらない距離を保って慎吾の隣に並ぶように立ち、揃って全く一緒の動きで準備体操を開始した
「よし、次で最後、深呼吸だ」
「はい、慎吾さん……」
二人はまるで実の兄弟であるかのように時折、動きをシンクロさせながら次々と体操をこなしてゆき、最後の深呼吸に取りかかっていた
「い、ち、か~~っ!!」
「うっ……ぶふおっ!?」
「鈴!?」
と、その瞬間、突如、鈴が助走を付けて砂浜を蹴り、一夏の背後からそや背中へと飛び乗って来た。完全に無警戒の一夏は息を思いきり吸っていた途中で鈴が飛び乗った故に、深呼吸とはお世辞にも言えないような中途半端な呼吸をしてしまい、盛大にむせかえって倒れそうになったのを慎吾に支えられ、ギリギリの所で堪えた。と、そこで顔を上げた慎吾が鈴に気が付いて驚きの声を漏らす
「あんたら二人揃って一生懸命に体操してて真面目ねぇ……あ、これ意外と遠くまで景色が見えていいじゃない」
当の鈴はと言うと、そんな二人をあまり気にした様子は無く一夏によじ登って肩車の体制になって周囲を見渡しながらそう言った
「おい鈴、こんなに人目の付く場所でそんな事をすれば……」
「あっ、ああっ!?な、何をしてますの!?」
そんな鈴の大胆の行動を危惧して慎吾が注意しようと声を出そうとした瞬間、優雅なパレオ付きのブルーのビキニを着て手にはビーチパラソルとシートを持ったセシリアが姿を現し、すぐに鈴がしている行動が目に入って半ば怒鳴るような口調で問いただす
「んー、肩車……いや、移動監視塔&監視員ごっこ?」
「ごっこかよ……って、そうなると俺、監視塔!? 生物ですら無いのかよ!!」
「と、とにかく! 鈴さんはそこから降りてください!」
「セシリアも話を聞いてくれ!!」
セシリアの問いに鈴は一夏の頭の上で顎に手を当て
、首を傾げながらそう答えた。そんな鈴の答えに思わず一夏がツッコミを入れるが、まるで当然のようにそのツッコミはセシリアにスルーされ、一夏は思わず叫んだ
「ヤダ、まだ乗ったばかりだし」
「何を子供じみた事を……!」
鈴の言葉に怒りに火がついた様子のセシリアが傘を地面に突き立てて鈴を睨み付ける
「お、揉め事? ……って、織斑君が凰さんを肩車している!」
「い、いいなぁ~あ、でも私は……織斑君も良いけど大谷さんがいいかも!」
「空いてる今の内に私が肩車一番乗りっ!」
と、そんな二人の騒ぎを聞き付けて、何故か一夏や慎吾に肩車をさせて貰おうと一気に集まる
「……生憎、一夏はそう言う事はしていない。代わりと言ってはなんだが私で良ければ担当しよう」
そんな現状を見かねた慎吾が女子達の間に割って入るとそう言った
その瞬間、集まった女子達から歓声が上がりたちまち慎吾の周囲を囲むように行儀良く並んで慎吾の肩車の順番待ちを始める
「いつも、すいません慎吾さん」
鈴を肩から下ろした一夏が、申し訳無さそうに頭を下げてそう言う
「なぁに……これくらいは軽い物さ」
そんな一夏に、慎吾は『気にしていない』とでも言うかのように笑顔を返した
「おー、しんに~の背、高い、高~い」
慎吾の頭の上で満足そうに、偶然か否か肩車を一番乗りし、着ぐるみのようにも見える奇妙な水着を見ながらそう呟いていた
のほほんさんは書いていて、優しい気分になれますね。日常回ではお世話になりそうです。