二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「うぐっ……くっ……!」
一瞬の隙を付いて放たれた激しい銃撃と斬撃の二つがゾフィーを襲い、慎吾の苦悶の声と共に直撃を受けたゾフィーはアリーナの台地へと叩きつけられた。
「おにーちゃん、大丈夫か!?」
警戒は怠らないながらも、そう慎吾に心配そうに声をかけるのは慎吾のパートナーであるラウラ。現在慎吾達が参加している学年別トーナメントはペアを組んでのタッグバトル。慎吾はラウラとタッグを組み次々と勝ち抜いて今現在、二人は決勝戦にまでたどり着いていたのだ。
「あぁ、大丈夫だラウラ。ダメージはさほど大きくは無い……が、時間が無いな」
ラウラにそう言って緩やかに胸のカラータイマーを点滅しながら立ち上がり、慎吾は自身とラウラのシールドエネルギー、そして残り時間を確認して仮面の下で一筋の汗を流した。
「おっ、落とせなかった!?確かに直撃してたのに……」
「っ……焦らないで一夏。まだ……まだ僕達が有利だよ!」
そんな慎吾とラウラ、並べばそれぞれ銀と黒が鮮やかなゾフィーとシュヴァルツェア・レーゲンに対峙するのは白と橙の白式とラファール・リヴィヴ・カスタムⅡ。一夏とシャルロットのタッグである。
「そうだな……確かにこの調子のまま試合が続けば一夏とシャルロット、お前達が勝つだろう」
先程の一撃もあり、エネルギーの総合量から見れば激闘の中、一夏とシャルロットが幾分かゾフィーと慎吾を押してはいた。だがしかし今現在、焦っているの一夏達であった。
「先程のような奇襲、あれが二度も私に通用するのならばな」
「うっ……」
はっきりとした口調でそう断言する慎吾に思わず図星を付かれたのか一夏は小さく呻く。
そう先程の奇襲、ゾフィーと白式が激突している間に、どうにかラウラの隙を突いてゾフィーにシャルロットが攻撃を仕掛け、更にだめ押しとばかりに怯んだゾフィーに一夏が追撃を仕掛ける言うシンプルな戦法。この戦いでどうにか二人はゾフィーを撃破するつもりだったのだ。
しかし、予想を越えるほどにより成長したラウラからは更に隙が減り、必然的に発射された弾丸の数も減り、一夏の追撃も慎吾が体制を崩しながらも直撃を回避した事もありゾフィーを倒すことは叶わなかった。こちらの手を知られてしまった以上、もはや慎吾とラウラにはこの手は通用しないだろうし、新しい作戦を考えるには時間が厳しい。その事実が一夏とシャルロットを焦られていたのだ。
「残り時間はそう多くない、一気に決めさせて貰おう!……サポートは任せたぞラウラ」
「任せておけ、おにーちゃん!」
ラウラにそう指示を出すと同時に慎吾は地面を蹴って飛び立ち、そのまま空中でM87光線の構えを取る。
「やはり、このタイミングで仕掛けて……くっ!」
「ふん、そう簡単におにーちゃんの邪魔はさせんぞ!」
そんな慎吾の動きを読んでいたシャルロットはM87の発射を接近しつつ射撃で何とか止めようとするが、瞬間、ラウラが割り込むようにシャルロットの前に立ち塞がり、一定の距離から大型カノンとワイヤーブレードでの攻撃を仕掛けてきて慎吾へ攻撃する隙を与えない。いや、それどころかシャルロットは逆に押し返されてしまっていた。
「シャルロット!」
思わずシャルロットを助けに一夏が動くと、ラウラは一夏に一瞬だけ視線を向けると直ぐ様攻撃を止め、瞬時加速を使って勢いよく後ろに後退した。その瞬間
「M……87光線!!」
猛烈な音、そして衝撃波と共にゾフィーの右腕から思わず目を閉じてしまう程に強く輝く極太の青白い光線、M87光線は発射され、冗談のような攻撃範囲であっという間に射線上にいるリヴァイヴと白式を飲み込まんと迫り来る。
「うっ……おおおおおっ!!」
M87光線をもはや回避出来ないと判断した一夏は、だがしかし諦めはせず気合いを入れるように叫ぶと零落白夜を発動して真っ直ぐにM87へと突っ込んで行く。
一夏が狙うのは一瞬、零落白夜によって迫り来るM87を出来うる限り打ち消し、僅かに出来た隙間に体をねじ込みゾフィーへとどうにか一太刀浴びせ撃破する。それが一夏の考えたM87への捨て身の対抗策であった。
「良いだろう……私のM87とお前の零落白夜、どちらが勝つか勝負だ一夏!」
その戦法を理解しながらも慎吾のやる事は変わらない。ただ自身の最強最大の技であるM87光線で真っ向勝負をして叩き潰すのみ。
そして、慎吾と一夏が互いに一歩も引かぬままM87と零落白夜が正面から激突し………
◇
「む…………?」
押しきって勝利して見せると気合いを入れた慎吾が目を開くと。そこは試合が行われてるアリーナなどではなく見慣れた寮の自室、そのベッドの上に慎吾はいたのだ。
「夢、か……ははは……妙にはっきりとしていたな」
一瞬、混乱した慎吾ではあったが深呼吸をして落ち着きを取り戻すと、先程まで夢と現実の境が分からなくなっていた自身を思い返してふと、軽く失笑した。
学年別トーナメントは既に一夏&シャルロットのペアが激戦を勝ち抜き優勝を果たして終了している。慎吾、そして何故かラウラもトーナメントを棄権し試合観戦に回っていてた為にトーナメントが終了するまで一戦たりともしていない。では、何故こんな夢を……
「……分かりきった事か、私も参戦したいと思っていたんだ……あのトーナメントに」
そこまで考えて慎吾は、そう言うと口元に小さく苦笑いを浮かべた。決勝戦の激戦は未だに脳裏に焼き付いている。あの戦いに参戦したいと思い観客席で歯がゆい思いをした事も一度や二度では無かった。
「でも、良いんだ。私はこれで満足だ……」
しかし、それでもなお慎吾はそう迷い無く断言した。自分があの時あの場で動かなければ、唐突ながらも自分を兄と慕ってくれている、もう一人の少女ラウラの身が無事では無かったかもしれない。それを守れたのならば後悔は無いと胸を張って慎吾は誓える。
「もしかしたら、この夢はお前が見せてくれたのかもしれないな……ゾフィー……」
慎吾がそう言って待機状態のゾフィーにそっと声をかけると、待機状態のゾフィーはそれに答えるように薄く輝く。少なくとも慎吾にはそう見えた。
「さて……そろそろ一夏を起こさねば」
寝起きから思考して良く目が覚めた慎吾は、シャルロットの性別が判明した事により自身の部屋に引っ越してきた一夏を本人が希望してきた朝のトレーニングに誘うべく起こそうとした、が
「む……?」
そこで慎吾はふと違和感に気付いた
この部屋のもう1つのベッドで寝ているのは確かに一夏一人。その筈ではあるのだが一夏が寝ているベッドの膨らみは明らかに奇妙。例えるならば、そう、まるで人が一人入っているかのような膨らみだ。
「……いや、まさかな」
心中である予感をしつつ、慎吾は真相を確かめるべく一夏に内心で悪いとは思いながらもベッドに近より布団の端をつかんでバッと勢いよく布団を払いのけた。
「なっ!?」
「へっ……?ちょっ……し、慎吾さん何を……うおおおっっ!?」
布団を払いのけた瞬間、慎吾は目を見開き、布団が剥がされた琴電志度目を覚ました一夏も寝ぼけながら慎吾に抗議しようとして真実に気付き直ぐ様大声と共に意識を覚醒させた。そう、そこにいたのは
「ん…………すぅ………」
一夏の自称夫にして突如、慎吾の妹になった人物、ラウラその人が気持ち良さそうに眠っていた。しかも何故か一糸纏わぬ姿である
一応の補完としますと、前半のバトルは『ゾフィー』が慎吾の想いを受け、今までの慎吾の戦闘データ等から擬似的に夢の中で戦闘を再現した。そう言うつもりで書いております。