二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

36 / 177
 調子に乗って書いていたらこんな時間に……ペース配分は考えるべきだと、改めて思いました。


36話 風呂と感謝、増えるゾフィーの妹

「……と、言うわけで父が無くなった事で私は現在、天涯孤独の身になっている。と、言うことだ……すまないな一夏、言うのが遅れて。あまり人に聞かせたくは無い話だったからな……」

 

広い湯船で数メートル程の距離を置いて隣に座っている一夏に、目を閉じて過去の事を思い出しながら静かに語っていた慎吾はそう言って息を吐き出して話を終える。

 

「慎吾さん……」

 

「だがな一夏、私は両親を恨んではいないよ」

 

 慎吾の話を聞いて複雑な表情をする一夏に、慎吾はそう言うとふっと笑いかけた。

 

「母は最後まで私を大切に育ててくれたし、父は私が人としても。そして戦士としても私が一番尊敬出来る人間だった……それこそ、今でも私が目標にするくらいにな……」

 

「慎吾さんの親父さんが目標……?」

 

「あぁ、強かったぞ……私の父は……!」

 

 一夏の呟きに慎吾は自身たっぷりと言った感じにそう言った。

 

「一夏、お前の家庭の事情や、お前の考えについて私は異を唱えるつもりは無い。だが親と子、その絆は簡単には切れたりはしない……私はそう信じてる」

 

 そう、迷いを見せないはっきりとした口調で慎吾は一夏に告げた。

 

「でも……俺は……」

 

 慎吾の言葉に何か思う所があったのか一夏は、思案するように口を開いて何かを慎吾に告げようとする。と、それを慎吾はそっと手で制した。

 

「何、今この場で結論を出す必要は無い。私達はまだ若いのだ、たっぷり考えて自分だけの答えを出せばいいんだ……さて」

 

 そこまで言うと慎吾は静かに湯船から立ち上がり、腰にタオルを巻いて浴室の出口へと向かって歩き出していく。

 

「……それでは私は、ここであがらせてもらおう。あぁ、そうだ一夏」

 

 そう最後に振り向きながらそう言っていた慎吾だったが、言葉の途中で何かを思い出したかのように付け足すと一番に視線を向ける。

 

「広い浴場で気持ちが高ぶるのは分かるが、次からはあまり大声で叫んだりするのは控えておけよ?」

 

「うっ……!」

 

 慎吾に指摘された瞬間、一夏はぎくりとしたように表情をこわばらせる。                       

 実は数十分前二人が同時に大浴場へと入った際に、一夏は檜風呂やジャグジーは勿論、サウナや全方位シャワー、さらには打たせ滝までが設置された業火な大浴場にテンションが上がりすぎたのか入った瞬間、浴室中に響くような大声で叫んでいたのだ。

 

「うっ……つ、次は気を付けます……」

 

 一瞬の間を置いて一夏は表情をこわばらせながら、ややぎこちない動きで慎吾に返事を返す。その様子を苦笑して見ながら『先に帰ってる』とだけ一夏に伝えるとゆっくりと脱衣所への扉を開いて出ていった。

 

 

 

「あっ……いっ……!……お、お兄ちゃん……上がったの?」

 

 脱衣所に戻った慎吾が手早くバスタオルで体と頭髪を拭いて下着に着替え終わった丁度その瞬間、一夏が戻ってきたと早とちりし慌てて物影に隠れて様子を伺っていたシャルルが慎吾と気付いて姿を表した。

 

「あぁ、すまんなシャルル。一人で待たせてしまって」

 

 シャルルに気が付くと慎吾は頭を拭きつつ、シャルルに笑いかけながらそう返事を返す。

 

 そう、事前に浴場へと入る前、慎吾、一夏、シャルルの三人で話し合った結果、シャルルの奇妙な程の勧めにより先に慎吾と一夏が風呂を堪能し、二人が上がった後にシャルルが一人で入浴。と言う事になっていたのだ。

 

「もうすぐ一夏も上がるだろう……私も着替え終わった事だしここで失礼させて貰おう」

 

 完全に着替え終わった慎吾がそう脱衣所から立ち去ろうとした時だった。

 

「ま、待って!お兄ちゃん……っ!」

 

 慎吾の背中に向かって慌ててシャルルが呼び止める。

 

「なんだ、シャルル?」

 

 シャルルの言葉を聞いた瞬間、慎吾は足を止めそのままゆっくりと振り替える。

 

「あのね……こんなタイミングで言うのもおかしいんだけど……改めてありがとう。一夏とお兄ちゃんの言葉と優しさが僕に勇気をくれた……僕にここにいたいって思わせてくれたんだ……。ありがとう……お兄ちゃん……」

 

 するとシャルルは少し恥ずかしそうにしながらも淀みなく慎吾に向かって、静かに自分の思いを語り始めた。

 

「どういたしまして……シャルル」

 

 慎吾はシャルルの純粋な感謝の想いが込められた言葉を少し照れ臭そうにしながらも、しっかりとそう返事を返した。

 

「あと……我が儘を言うみたいだけど、お兄ちゃんには僕を本当の名前で読んでほしいんだ」

 

「本当の……そうか……」

 

 シャルルの言葉に慎吾はそう、どこか納得したように一人で頷いた。

 

「そう……シャルロット。それが僕の本当の名前。お母さんがくれた名前なんだ」

 

 慎吾の言葉をシャルル、いやシャルロットは柔らかく肯定した。それを見た慎吾はふっと笑い、再び振り向くと振り返らないまま歩き出した。

 

「……シャルロット」

 

「なぁに、慎吾お兄ちゃん?」

 

 去り際にぼそりと慎吾が呟き、シャルロットは可愛らしく小首を傾げながら答えた。

 

「礼を言うならば、私もだ。君のおかげで私は二度と得る事は叶わないと思い込んでいた家族を持つ出来た。私にとって真に守るべき物が生まれたのだ。……ありがとう、シャルロット……」

 

「どういたしまして、お兄ちゃん……」

 

「ふふっ………」

 

「あははっ」

 

 先程の趣向返しのようなシャルロットの言葉に二人の間から共に笑顔が溢れる。

 

「それでは今度こそ、私はここで……」

 

 そう慎吾は言うと、今度は足を止めずに真っ直ぐに脱衣所から出ていった。

 

「う、うん、じゃあね、お兄ちゃん!また明日!」

 

 そんな慎吾にシャルロットは背後から何故か少し上ずった調子の声をかける。と、それと同時に脱衣所の扉は閉められた。

 

「(気のせいか……?最後のシャルロットの声が何か妙だったような……そう、まるで何かを隠すような……うぅむ……)」

 

 自室へと向かいながらも、僅かに感じた違和感を胸に抱えながら慎吾は悩んでいた。

 

 その予感は的中していた事を慎吾は知るのは翌日の事であった。

 

 

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

「(シャルロット……昨夜、勇気を持ったとは聞いたが、さすがにこれは……大胆すぎるだろう)」

 

 翌朝のホームルームで『スカート姿の』シャルロットはそう言ってクラスの皆の前で丁寧に礼をし、クラス中が唖然とする中、慎吾はそう内心でそう思いながら頭を抱えて苦笑していた。

 

「デュノア君が……男!?」

 

「嘘……デュノア君、好きだったのに……」

 

「いやいや、待って!昨日。確か男子が大浴場を使ったわよね!?」

 

 当然と言うべきかシャルロットの告白に一瞬のうちに教室中は喧騒に包まれ、視線が慎吾と一夏に集中する。

 

「……誤解しているようだが……私は一夏と共に大浴場を使用したが、シャルロットとは入っていないぞ?シャルロットは私が上がった後に入ったはずだ」

 

 皆の視線が集まる中、慎吾は動じず静かに口を開いて冷静な口調でそう告げる。

 

「一夏だって、そうだろう?」

 

 慎吾の全く慌てた様子の無い落ち着いた口調の影響でクラスの空気が若干、落ち着いたのを確認すると慎吾はいよいよもって事態を沈静化すべく一夏とシャルロットに視線を向ける。が、

 

「た、確かに慎吾さんは………」

 

「うん、お……慎吾は入ってないけど………」

 

 二人から帰って来たのは気まずい雰囲気の漂う口調、そしてそれをより頷けるように同じタイミングで二人は目を反らした。

 

「ま、まさか……」

 

 予想外の二人の返答に慎吾の顔が青ざめ、思わず口から言葉が溢れた。

 

「織斑君とシャルロットさんが………!?」

 

「だ、大胆すぎる………!」

 

 途端、収束仕掛けていたクラスメイト達の喧騒が再び、いや先程よりも更に激しくなって盛り返し始めた。

 

「一夏ぁっ!!!」

 

 と、その瞬間、その賑わいに更に油を注ぐように烈火の如く怒りの顔をした鈴がドアを蹴破る勢いで姿を表し、勢いよく一夏に向かって走り出し

 

「いやいや、落ち着け鈴!冷静になるんだ!!」

 

 直前で慌てて駆け寄った慎吾に止められた

 

「大丈夫よ慎吾、あたしら超冷静だから、ちょっとドロップキックを一発アイツにくれてやるだけだから」

 

「それは明らかに落ち着いては無いだろう鈴!?」

 

 妙に落ち着いた口調でそう語る鈴を何とか宥めながら慎吾が一夏に何か言うように振り向いた瞬間。

 

「おい、な、ーむぐっ!?」

 

『!?』

 

 この騒ぎの間に乗じて接近してのであろうラウラが胸ぐらを引き寄せて一夏の唇を奪っていた。しかも、妙に長い。そして、慎吾をも含む教室中が呆然として何もリアクションが出来ない中、ラウラは高らかに宣言した。

 

 

「お前は私の嫁にする!決定事項だ!異論は認めん!」

 

 

「あっ……あんたねぇっ……!!」

 

 その瞬間、憤怒の叫びと共に怒りを堪えきれないよ様子の鈴が甲龍を展開させる。更に良く見てみればセシリアとシャルロットもまた自身のISを起動させ、箒に至っては日本刀に手をかけている。

 

「ボーデヴィッヒ!何故、そうしたかは聞かないが……!」

 

 四人は怒りで錯乱している。ならば仕方ないかとゾフィーの使用を考えた慎吾がラウラにそう言おうとした瞬間

 

「……私の事はラウラと呼んでくれ、『おにーちゃん』」

 

『!?』

 

 何気ない様子で発せられたラウラの言葉に教室中の空気が制止し、ISを展開していた鈴、セシリア、シャルロットの動きもピタリと止まり、箒は刀に手をかけたまま完全にフリーズしていた。

 

「そのラウラ?……おにーちゃんと言うのは私がか?」

 

「うむ、日本では心から尊敬する年上の異性を、おにーちゃんと言うのが伝統なのだろう?」

 

 一足先に硬直が溶けた慎吾がラウラに尋ねると、ラウラは胸を張って自身満々にそう答えた。

 

「と、言うわけでこれからよろしく頼むぞ、おにーちゃん」

 

 そう言いながらラウラが手を未だに困惑している慎吾の右手を握った瞬間だった

 

「ずっ……ずるい!」

 

 我慢出来ないように起動させたリヴァイヴを解除しながら駆け寄り、慎吾の左手を握りながらラウラに抗議した。

 

「お兄ちゃんは、僕のお兄ちゃん!後から来て勝手に妹になるなんてずるいよ!」

 

「むむっ……これがライバル出現と言う奴か……だが、嫁もおにーちゃんも渡さん!」

 

 そう言うと互いに威嚇するように視線を交差させる

シャルロットとラウラ。

 

『………………………』

 

 そして、慎吾に向けられるクラスメイト、そして一夏達仲間達の視線。嫌悪の視線こそ無かったものの逆にそれが慎吾にとってはじわりと胃に来ていた。

 

「(あぁ……今日と言う日は……)」

 

 牽制しあうシャルロットとラウラ、そしていっそ痛いくらいの沈黙の中、慎吾は内心でそう深く深くためいきをついた。




 はい、と言う訳でラウラが無事に兄妹入りを果たしました。トーナメントは残念ながら話の展開故にほぼカットでほぼ決まりです。やりたい気持ちはあるんですがどうにも上手く纏められそうにないので……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。