二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 ようやく更新です。これで残りは……あとほんの僅かです


176話 M(ミラクル)の一撃

 

「──────」

 

 間違いなく自身の手で機体であるゾフィーを戦闘不能レベルまで損傷させ、脅迫する材料の一つとして人質にまで取っていた慎吾の復活。激昂してた中で起きた、その信じがたい事態に流石にベリアルの頭も混乱し、僅かに思考が止まる。が、ふと視界の端に戦線から離脱せんとする見慣れぬ三機の量産型ISを見つけた瞬間、ベリアルの頭の中で欠けたパーツが埋まり、一気に謎が解けていくのを感じた

 

「……成る程、雑魚でも使い所ではそれなりの活躍が出来ると言う訳か。俺様を相手に自分達だけは戦闘を捨てて修理に専念するか……舐めた真似を」

 

「う、うわっ!! こっちを見た!?」

 

「oh……目だけでメチャクチャボク達に怒ってるのが分かるヨ……」

 

 

「って言っても防御用の装備くらいしか持ってない僕らには戦闘は出来へん! 早いこと退くで! イデ! ショーン!」

 

 ベリアルに睨まれると今の今までヒカリがキングブレスレットを発動させ続け、ベリアルのセンサーからその存在をひた隠しに続けた三人。整備科の生徒であり光の友でもあった井手、堀井、ショーンの三人は慌てて今の今までゾフィーの修理に使っていた工具を持ったまま撤退を始める。当然、ベリアルから見れば隙だらけの光景であり追撃は可能ではあり、バトルナイザーも一度は向けた。が

 

「………ふん、あんなのはいつでも倒せる。それより今は……」

 

 吐き捨てるようにそう言うとベリアルは三人に向けていたバトルナイザーを手元に戻す。ベリアルにとっては種が分かった時点で量産機、それも動きを見ただけで戦闘能力が決して優れてはいないと分かるような整備科の生徒など欠片も興味は無いものでしか無かった。だからこそ

 

「……決着ゥ? そんなボロボロの身体でかぁ? 随分と大きく出たなぁ……えぇ、慎吾?」

 

「………………」

 

 ベリアルはただ一人、自身を見据えながら構える慎吾にのみその意識を集中させていた。事実、ベリアルの言葉は正しく、三人の手によって機体は戦闘可能にまで整備されていたものの拘束され続けた事で肉体も精神も弱りきり、ISの力でどうにか動ける程度にしか力が残されておらず長時間の戦闘は事実上の不可能となっていた。だがしかし、それを見越されても尚、慎吾はベリアルの問いには答えず無言を貫き通し、ひたすら精神を集中させて睨み付けていた

 

「そうだろうな……お前の身体の様子から言って特技のM87光線も撃ててせいぜい撃てて一発か二発……と、言ったところか? ククク……」

 

 その慎吾の睨みすら、そよ風にでも吹かれているかのようにまるで動じずベリアルは余裕すら浮かべて慎吾の様子を分析してそう告げる

 

「(彼女相手に隠し通せるなんて思ってなかったが……やはり……読まれているか……。だが……それでも……!!)」

 

 事実、ベリアルの分析は的を射ており激昂した状態から直ぐ様、落ち着いた思考を巡らせる事に慎吾は動揺こそしたが、それでも打つべき手段は変わらない

 

「フッ………………!」

 

 息を一気に吐き出すと、幾度も繰り返した動作、それこそ初めてゾフィーに登場した時から何度も『切り札』として放ったM87光線を撃つべく、胸の正面に両腕を水平に添え白く輝くエネルギーを集中させる。相手の前で堂々とチャージを行うこの行動は隙を晒すこの行動は一見すれば無謀にしか見えないこの行動ではあった。が

 

「(この距離とベリアルの損傷から見れば……喩え回避や迎撃を狙おうと……それより先に私のM87が先に命中する!)」

 

 

 慎吾にはそれでも尚、ベリアルに自身の渾身の一撃を命中させる自信があった。整備科の三人の生徒もゾフィーの修理に全力を尽くしてくれていたので会話が無く、慎吾にも完全に状況が飲み込めている訳ではない。だがしかし、それでも尚、ベリアルと激闘を繰り広げている仲間達を見て状況は理解できた。ならば既に慎吾に『やらない』と言う選択は存在しなかった

 

 

「はん……いいだろう……! 正面から叩き潰してやるよ慎吾ォ!」

 

 それに対しベリアルはせせら笑いを浮かべると自身もまたバトルナイザーを掴んでエネルギーの向きを一気に腕に集中させると、不気味な赤と黒のエネルギーが急速に蓄積されバチバチと凶暴に音を立てる

 

「はああぁぁぁぁあぁぁぁっっ!!」

 

「ふうううぅぅぅっっ!!」

 

 ゾフィーの白とベリアルの黒、相対するように2つの光がそれぞれの色に輝く中、2つの気迫の声が響く。それは長く続いたこの戦いに終演をもたらす事を知らせるファンファーレのごとき音にも似て

 

「終わりだ! 慎吾!! デス……シウム……!!」

 

 その刹那、一瞬早くエネルギーの充填を終え、右腕を上に左腕を水平にし、十字に組んだベリアルの両腕。その右の掌部分から赤と黒の光を纏い、放たれた瞬間にあまりの熱に周囲の大気が陽炎のように歪むほど猛烈な高波熱線、ベリアルにとっての切り札の一つであるデスシウム光線が未だにエネルギーを溜めている最中のゾフィーに向けて発射された

 

「…………!! M87っ!!」

 

 その一瞬後、僅かに遅れる形で慎吾もM87のチャージを終えてすぐ目前にまで迫ったデスシウムを迎撃する形で青白く輝くM87光線で受け止める。が

 

「ぐっ……うううぅぅっっ!!」

 

 2つの光線が正面から激突し、その衝撃で反動が身体へと戻ってきた瞬間、先にベリアルのデスシウム光線に押し込まれ、傷だらけの腕に襲いかかる高熱に苦悶の声をあげたのは慎吾だった。

 

「慎吾さんっ!」

 

「お兄ちゃん!!」

 

「今行くぞ! おにーちゃん!」

 

 全力で堪えてM87光線を負けじと放出し続けてこそいるものの、じわじわと押し込まれている慎吾を案じてたまらず一夏とシャルロット。そして一足早くラウラが慎吾を救助しようと向かい

 

「皆、来るなっっ!! 余波に巻き込まれるぞっ!!」

 

『!?』

 

 

 その足を他ならぬ慎吾自身の怒声にも似た激しい口調で封じられ、救助しようとした三人は強制的に足を止めさせられる

 

「だい……じょうぶ……だ。……ここは……私に任せて……くれ……!!」

 

 不安そうな妹達の視線が集まる中、返ってくる反動に苦しげに呻きながら慎吾は落ち着かせるように出来るだけ穏やかな口調でそう言うと光線の押し合いを続行する。だが早くも応急修理がたたって限界が近付いてるのかゾフィーの胸に輝くエネルギー残量を示す水晶状のタイマーが早くも赤く点滅し警告し始め、ついにはベリアルのデスシウムはゾフィーの手前にまで迫り始めていた。

 

「…………っっ!! 慎吾さんっ!!」

 

 そんな状況を見るに見かね、一夏はブレードを構えると忠告を無視して飛び出そうとする。既に一夏自身もギリギリであり、更に燃費が最悪の自身の白式では慎吾の言う通り下手すればこの凄まじい破壊力を秘めた熱線が激突する余波だけで残り少ないシールドエネルギーが付きかねない。しかし、それでも慎吾を僅かでも救える可能性があるならと覚悟を決めて強く刃を握り締めた瞬間

 

「思えば……私がIS学園に来て一年も経たぬ間に良くも悪くも様々な事があった。ありすぎた……と、言えるくらいだ」

 

「……それら全てが私にとっては間違いなく正解だった。たとえ遠回りでも、酷い悪路だったとしても決して間違いじゃあ無かったんだ」

 

 次第に押し込まれていく緊急事態の最中、突如、慎吾は過去を懐かしむように、そんな言葉を口にした

 

「慎吾さん…………?」

 

「ハッ……何だ? 辞世の言葉かぁ!? それとも走馬灯でも見てんのかぁ!?」

 

 

 そのあまりに異質な行動に一夏は怪訝な顔を浮かべ、ベリアルはそれを諦めと見たのか嘲笑すると更にデスシウムの出力を強め、決着を付けにかかり、押し込まれ続けたM87はついにほんのゾフィーの指先から1メートル程度しか出ていないレベルにまで押され、デスシウムの赤い光がゾフィーを包み込もうとし

 

「……だからこそ今、こう断言しよう。一夏、君に会えて本当に良かった。君との出会いが無ければ私は決してこの一打を放つ事が出来なかっただろう」

 

「…………!」

 

 その時、その瞬間、一夏は気が付いた。ゾフィーの周囲に立ち込めてる赤いエネルギーの光が迫り来るデスシウムでは無くゾフィーから放たれている事を、ゾフィーの両腕両脚が通常形態より大きく肥大している事を、つまり

 

 ゾフィーは既に第二形態である『スピリット・ゾフィー』へと移行していると言うことを

 

「行くぞ……っ!! これがその証明だっっ!!」

 

 そしてスピリット・ゾフィーの特性はIS同士でのネットワークで繋がり『絆』が生まれた機体のワンオフ・アビリティーの模倣

 

「零落……白夜っ!!」

 

 ついに目と鼻の先にまで迫ったデスシウム光線を前に慎吾は一時的に右腕からの放出し続けていたM87を止めると、M87とはまた 違う白い輝きを放つ『左腕』でデスシウムを正面から殴り付ける

 

 

 その瞬間、あれほどの破壊力を持ったデスシウムはガラスの如く砕けると、海風に吹かれ僅かに赤い煌めきを残しながら儚く四散しながら崩れ、瞬き程の一瞬の内に消え去っていった

 

「なっっ……にいいいいぃいっっ!?」

 

 自身の渾身の一撃を無効化されベリアルの驚愕の声が響く。確かにベリアルは慎吾の戦闘傾向については完全に把握しており、それは当然ながら全てのスペックが上昇したスピリットゾフィーでも変わらない。だがしかし、流石にこの状況

 

『土壇場でゾフィーが白式の零落白夜を使う』

 

 等は完全に予想の範囲を越えていた。だからこそ無敵の戦闘能力を持っていたベリアルに隙が生まれる

 

「はぁぁぁ……!!」

 

 その僅かなチャンスに慎吾は今まで右腕だけで放っていたM87のエネルギーを左腕にも送り、渾身の一撃を放つべく急速にエネルギーをチャージさせていく

 

 この殆ど右手だけでM87を打つ技術は、タイラントとの戦いでゾフィーの腕部を負傷した際に身に付けた変則的なM87を放つ技術の応用であり、慎吾の言葉が真実であると言うように今この瞬間、過去の激闘も経験もその全てが導火線に火が付いたのかのように、この一瞬で一気に炸裂せんとしていた

 

「Mっっ……87っっ!!」

 

 その瞬間、慎吾の全ての気合いを込めたM87光線が構えたゾフィーの右腕から発射される

 

 

 

 その瞬間、ゾフィー周辺の大気は有り余る程の熱量と質量で捻れるように大きく歪む。目映い光はその場にいた全員の視界を青と白で埋めつくし、竜巻の如くエネルギーが激しく渦を巻きながら突き進む

 

「…………!!」

   

 その速度はあまりにも早く、ベリアルが添付の才を持って反応しても尚、その瞬間には既にどう足掻いても回避も防御も不可能なまでの距離にまで距離を詰められていた。だからこそ

 

「ハッッ……やるじゃねーか……。流石はアイツの……」

 

 光線が自身を完全に包み込むその最中、ベリアルは何処か仮面の下で何処か満足そうに笑みを浮かべる。彼女は今、自分の前に堂々と立ち打ち破って見せた慎吾の姿にかつて自身がケンの他によく組んでいたもう一人、慎吾の父親の姿を無意識のうちに重ねていた事に気が付いていた

 

 それは決別した筈の自分が結局、過去に囚われているようで腹立たしくもあったが、それでも何処かどうしようも無い『誇らしさ』を感じていた。そう思えば腹立たしさも少しは薄れ、ダメージもあってベリアルの動きは自然と止まる

 

 つまり結果から見ればベリアルは端から見ればまるで抵抗できず青白い光の濁流へと飲まれ吹き飛ばされいく形となり、M87光線が撃ち終わる頃には光線のった道を示すように雲が食いちぎられたように散り、慎吾達から大きく離された所でシールドエネルギーがすっかり消し飛び、衝撃で気絶したベリアルは廃棄された船舶の上で倒れ、ピクリとも動かないベリアルだけが残されているだけだった

 

 こうして世界を巻き込み後に『ベリアルの乱』と呼ばれる騒動は世間一般的には終わりを告げる事になる

 

「ぐ……う………」

 

 そう、あくまで世間一般的に公表された話はここまでなのだ

 

 この場に集まった者達にとっては騒動はまだ終わっていない。


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