二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 遅れながら更新です。いよいよラストスパートです


175話 作戦決行 結

 

「ぐっ……がああぁぁぁっっ!!」

 

 白い閃光が収まった瞬間、ベリアルは背中を曲げ零落白夜で斬られた箇所、即ち頭部を左手で押さえながら悶絶する。見れば機体としてのベリアルの頭部装甲は右部分が受けた斬激により破損して亀裂が走り、その亀裂からは絶体防御をも貫かれて負った頭部の切創からの血液が一筋、滲み出て、赤い涙のように頭部をつたい、一滴の血液がベリアルから落ちる。と、海面へごくごく小さな赤い波紋を作ると、一瞬のうちに青い波の勢いに流され掻き消えてしまった

 

 

「こ、この……野郎……っ! 織斑っ……一夏あぁァ!!」

 

 傷の痛み、そして何よりプライドを傷つけられた事でベリアルは激しく激昂し、憎悪に満ちた声で一夏の名を叫ぶ

 

「っ……はぁ……っ……はぁ……。どうだ……!」

 

 それに対し、一夏は息を切らし、額に大量に汗を浮かべながらもベリアルの激昂に飲まれるどころか得意気に笑い、してやったりとばかりに笑みを浮かべて見せた

 

「ぐっ……! うっ……う……」

 

 だが、その笑顔はなけなしの意地で飾った単なる虚勢である事が、一夏の隠しきれぬ苦悶の声が、左手の雪羅の消え行くエネルギーの爪が、流れる血が、青ざめた顔が、そしてISのセンサーで既に白式のシールドエネルギーは枯渇している事が簡単に見て取れた

 

「たたが一撃、傷を負わせた程度に調子に乗るな! 死にぞこ無いの小僧がぁ!!」

 

 

 そんな一夏にベリアルは吠えると痛む傷口バトルナイザーを持って身構えながら一気に加速すると、一夏を仕留めようと襲いかかる

 

 一夏によって思いがけずに記憶の奥底に封じていた自身がかつて抱いていた理想の一つを揺り戻された事、そして何より勝利を確信していた状況から零落白夜によって絶対防御をも貫通するような傷を負わされた事で完全に頭に血がのぼり冷静さを失っていた。無論、ベリアル自身にもそれは理解していた。が、その上で未だにモンスターズと戦闘を繰り広げている箒達が救援に来るより早く、移動しつつもバトルナイザー先端部分に急激に形成され、死神が持つ鎌を思わせるようなエネルギーの刃で一夏を一閃し、仕留められる事を導き出せていた為にベリアルは敢えて冷静さを投げ捨てて全力の集中と殺気を一夏に向けていたのだ

 

 事実、その計算自体は正しかった

 

 あと。ほんの瞬き一つ程の時間さえあればベリアルはデスサイズによって難なく一夏を白式ごと切り捨て、己の鬱憤を晴らせただろう

 

 ただ、それよりも早く

 

ゴォォーン……ゴォォーン……

 

 奇跡のように澄みきり、耳から入って心に働きかけ全身に響き渡るような美しい鐘の音色が響きわたり、星の欠片のように夢の如く煌めく光の粒子が辺り一面に降り注いだ

 

 

「……! これは……!」

 

 ダメージでふらつく身体でどうにか意識を保ち続けていた一夏は思わず目を見開き、驚愕を露にしていた

 

 迫り来るベリアルの刃を前に、無理に等しい事だとは思いつつも回避を試みようとしていた、その最中。戦闘の最中、張りつめた緊張すら和らぐような美しい鐘の音色と共に粒子が降り注いだ瞬間、戦況は瞬時に変化していた

 

「ぐっ……がっ……!? こ、この……音色は…………!!」

 

 さっきまで一夏に決着の一撃を放たんとしていたベリアルはまるで音波攻撃でも受けているように頭を押さえてもがき苦しみ、機体もあちこちでエラーを引き起こしているのか火花が吹き出し、空を制止して浮遊するベリアルの軌道は不安定にガクガクと上下さえしていた

 

 しかも、起きている事はそれだけではない

 

『ーー! ー………………』

 

 先程まで箒達と交戦していたドラム缶状のパーツが目立つ機体、そしてシャルロット達と交戦していた黒いカミキリ虫に似た機体、二機の機体が共に鐘の音と共に光の粒子を浴びた途端、糸が切れた人形のように急激に力を失い、次々と海へと着水していった

 

「はい! 一夏さん! これこそがミーティングで話した僕達の……Mー78が誇る切り札です!!」

 

 

 そして衝撃の光景を前に思わず呟いた一夏の声に答えるように上空から、光太郎の声が響く

 

「光太郎! 無事だっ……」

 

 その声に反応し視線を向けた瞬間、一夏は再び驚愕し目を見開く

 

 そこにいるのは三人目のIS適合者である光太郎が駆るIS、タロウだけでは無く、一夏達をベリアルの元に行かせるべくモンスターズと戦ってくれたUシリーズの機体が勢揃いしていた。それだけならば一夏も驚愕はしなかった。……のだが

 

「その名も『ウルトラベル』! この力で僕達が皆様をお助けします!」

 

 タロウを含めたUシリーズ五機は全員で力を合わせ、黄金色のロープで彩られた一艘の御輿、あるいはソリにも似た白と赤のコントラストが美しい台座を力を合わせて抱え、その台座の中心にはクリスタルで構成された小さな塔が作られていた

 

ゴオォーーン……ゴオォォーーン……

 

 そして、その塔の中心に収められていたのが遠くからでも目をひく程美しい黄金色の輝きを持つ洋鐘。その鐘の内部に取り付けられた舌と言う分銅部分から伸びた黄金の紐がタロウの手に握られ、タロウが手の動きに合わせて鐘はなり、シャワーのように煌めく光を辺りに飛散させていたのだ

 

「か……身体が楽になっていく……シールドエネルギーも!?」

 

「これほどの……装備とは……」

 

 その光の粒子を一夏、そしてモンスターズと戦闘を繰り広げていた箒達も盛大に浴びてはいたが、その光が彼等を害することは無い。それどころか緩やかにはではあるがベリアルとの戦いで負った傷を治癒させ、それぞれが搭乗するISのシールドエネルギーを回復させていく

 

「っ……!! バカなっっ……! バカなバカなバカなっっ!! お前らが……ガキどもそれを使うだとっ!? ふざけるなっ!!」

 

 と、そんな最中、憤怒と言うべきまでに怒りを露にしたベリアルが光太郎を睨み付けながら叫ぶ

 

「ベルを手にするには試練を突破しなければならない筈だ! あの試練は……ケンと俺様でも突破するのに二週間も必要としたんだぞ!? それがお前らガキごときに……!」

 

 

「それだけ私達が貴女の予想を超えて成長してきた。と、言うことですよ『アリア』さん。……例え今、実力が及ばなくとも決して最後まで諦めないで努力し続けるのなら成長し続ける事が出来る」

 

 と、そんな中、一つの明瞭な声がベリアルの叫びに答えるように響く

 

「あっ…………」

 

「この……声は…………っ……!」

 

 その瞬間、シャルロットとラウラは自然と声の方角へと視線を向ける。それは、この場で今、何より聞きたかった声だった

 

「上手く……行ったか……!」

 

 光は無理がたたり、箒に肩を貸して貰わねばならぬ程に衰弱しながらも、仮面の裏で笑みを浮かべ『出撃時から発動し続けたキングブレスレット』の効果を解除する

 

「あ…………!」

 

 そして一夏は見た、自身の目の前、ベリアルから守る盾のようにしっかりと立つ赤と銀の誇り高い姿を

 

「それは性別でも才能でもなく全員に与えられたチャンスだ。……その言葉を教えてくれたのは貴女ですよ」

 

 最後にベリアルを堂々と正面から見据え、胸に輝く勲章を模したシンボルを太陽の光に煌めかせるゾフィーを動かし

 

「未来の為……そして、あなたの教えが正しかった事を証明する為に……私の部屋全てを賭けてもここで決着を付ける!」

 

 ベリアルに向かい迷わず慎吾はそう宣言した


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