二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 年内最後の更新となります。あまり思うように進められませんでしたが来年もどうか本作をよろしくお願いいたします


174話 運命の一打

 

「おら、どうした? 俺はそもそも構えてないし反撃すらしてない。十二分に手加減しているぞ? それとも全員降参か?」 

 

 ある日、ケンに頼まれる形で自身が時折ではあるがアリアが面倒を見ていた道場で、そこに通う初等部の子供達が冬休みに突入した翌日、アリアは抜き打ちの形で通う子供達相手に試練を課していた。

 

 その内容自体は言うだけならば単純で『アリアに一撃当てる』……だけなのだが

 

「はぁ……はぁ……」

 

「も、もう無理だよぉ……」

 

 レベル差を考え、アリアは反撃を行わずガードと回避のみと言うハンデを付けた条件でも尚、格闘技を覚えて十年にも満たない程度の子供達しかいないこの道場ではアリアに一撃当てる者等が現れる筈もなく、一時間後には汗一つ流さぬアリアの周囲には疲労困憊により冬なのにも関わらず汗まみれで立ち上がれなくなる子供達が円を描くように倒れ伏す異様な光景が広がっていた

 

「(ふん、心を鍛える為の荒修行とは言え……ま、鍛えていても普通の

ガキじゃあこんなものか……)」

 

 そんな様子をアリアは特に関心も抱かず、つまらなそうに見つめ、内心で溜め息を吐く。元よりこの試練の目的は課題をクリアする事では無く困難中でも決して諦めない精神力を磨くものであり、そう言う意味で言えば端から合格はさせないつもりではあったのだが……

 

「(だりぃ……どいつもこいつも……雑魚ばかりじゃねぇか……)」

 

 アリアはどうしても退屈を隠しきれずにいた。無論、子供達がまだまだ未熟な事も、それでも懸命に自分に挑んで来ている事は理解している。だがしかし、それでも尚、アリアが想定していたハードルを乗り越えるほどに強い精神や才能を見せるものは殆どおらず、ベリアルの心は覚め続けてていた

 

 そう、唯一の例外は

 

「まだ……まだ……もう少し……おねがいします……!」

 

 ベリアルが思考に耽っている僅かな間、額に流れる汗を道着の袖で拭き取り、荒い呼吸を無理矢理整え、身体はボロボロでも確かに瞳には闘志を携え、ベリアルの前に立ち上がる一人の少年がいた

 

「ふっ……! やはりお前が残るか慎吾!」

 

 その姿を見た瞬間、アリアの口角が僅かに上がる

 

 確かにアリアの目線から見ればこの道場に集まっている子供達の実力は慎吾を含めて自身の爪先にも劣る程度。それに間違いはない。だがしかし、その中でも慎吾は明らかに周囲と比べても異質とか言えない程の精神力。より具体的に言えば遥かに高い壁を前にしても自分の中に残らされた力が尽きるまで挑み続けられる強さを既に身に付けていたのだ。だからこそ『期待する』

 

「やああぁぁっっ!!」

 

 身体に鞭を打ち気合いの雄叫びを向かって来る慎吾を見ながら、静かにアリアは自身の中で鼓動が脈打ち、冷えた身体が熱を帯びていくのを感じていた

 

「(そうだ……それでいい慎吾。お前のような奴がいるからこそ俺達は安心して世界を……)」

 

 

「(守るべき、この世界の平和を託せる……)」

 

 

「(黙れ……黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れッッ!!)」

 

 頭の中にリフレインするように浮かび上がる過去の残像を苛立ちながら消し飛ばし、かつてアリアと呼ばれた女性、ベリアルは一夏が放った突きをバトルナイザーで弾き飛ばしながら無理矢理戦闘に意識を戻した

 

「(戦う時のコイツと慎吾の目や心構えが似ている!? だからどうした! 俺様は既に……平和を守ろうとする心など、とっくにの昔に世界に絶望して捨てた! そう! あるのは……!)」

 

「復・讐! だけだあぁぁぁぁっっ!!」

 

 一瞬だけよぎった過去の残り香から生まれた迷いを否定するためベリアルは叫ぶと手にしたバトルナイザーにエネルギーを充填させる。と、その瞬間、ギガバトルナイザーは蒼白く不気味な輝きを放ちながら唸り、瞬く間に狂暴に煌めき始めた

 

「……!! ヤバい! 止め……!!」

 

 その光に、途轍もない一撃が放たれようとしていると確信した一夏は何としてもベリアルを止めるべく、残り少なくなったシールドエネルギーを使って瞬時加速を発動させると残像も残らぬ程の超加速でカミソリのように鋭くバトルナイザーを向けるベリアル向かって飛びかかる

 

「させると……思ってるのかぁぁ!?」

 

 が、その寸前、ベリアルは完全に一夏の動きを予測していたかのように身体をくるっと一回転させると遠心力と一夏自身の加速を利用した回し蹴りが吸い込まれるように剣を振り上げてがら空きの白式の腹部に叩き込まれる

 

「ぐっ……がっ……!?」

 

 当然、加速の勢いに乗っていた一夏にそれを防ぐ術などある筈もなく、カウンターとして放たれた蹴りをまともに受けた事で身体をくの字に曲げさせられ、逆回しの映像のように背後へと吹き飛ばされていく

 

「これで……終わりだぁっ!!」

 

 そんな致命的な隙を晒した一夏に対しベリアルがギガバトルナイザー向けるとその瞬間、鋭く凝縮された電撃状のエネルギーが体勢を崩したままの白式を貫かんと真っ直ぐに飛んで行き

 

 そして、白き光が全てを覆い尽くした

 

 

「(く、くそっ……!! ここまで……かよ……!!)」

 

 絶体防御を介しても尚、全身に響き内蔵が潰れてしまいそうな蹴りで意識がぐらつく中、一夏は自身に迫り来る電撃状のエネルギーを見ながら諦める寸前の胸中にいた

 

 いくら自分でも見ただけで分かる。今の白式に残されたシールドエネルギーでどうやった所で耐えきる事は不可能であると。つまり、自身が将棋で言う詰みの形へと追い込まれてしまったのだと

 

「(せっかく……皆が俺を信じて協力してくれたのに……慎吾さんを助けなくちゃ……いけないのに……!)」

 

 

 体勢を維持する余裕すら無く、ただただベクトルに沿って飛ばされながら一夏は込み上げる悔しさを越えられず、思わず手が裂けんばかりに強く握りしめる。極限まで意識を集中させているせいか迫り来る電撃が矢鱈に遅く感じ、脳内で走馬灯のように千冬や箒、弾、鈴、そしてIS学園で出会った仲間達が甦り……

 

『いいか一夏。私と君、つまりゾフィーと白式では格闘と刀。と、基本戦闘スタイルは見ての通り大きく異なる。が……互いに切り札のコンセプトそのものは同じだと私は考えている』

 

『即ち、それは一撃必殺。リスクはあれど決めればいかに不利に追い込まれていても瞬時に逆転して勝利する事を可能とする一撃だ』

 

「(え……?)」

 

 突如一夏の脳裏に走馬灯を吹き飛ばすように、思い返されたのは日課となっている放課後の訓練の後、汗を拭いながら水分補給を行ってる時に交わされた慎吾との会話の一部だった

 

『だからこそ、私も一夏も倒れて指一本動けなくまでは一瞬のチャンスを狙い撃つチャンスを諦めてはいけない。むしろその為にこその一撃必殺だと私は理解しているよ』

 

「(慎……吾……さん……。そう……ですよね……!)」

 

 何故、この極限の状況下に置いてこの記憶を思い出せたのかは一夏自身でも分からないでいた。が、それでも理解出来たのは

 

「まだ……決着は付いてないぞぉおっっ!!」

 

 そう叫びながら一夏は電撃に向き直りながらしっかり刀を握り締めると不安定な体制のまま零落白夜を発動させる。残るシールドエネルギーは確かにこの電撃を『耐える』にはどうやっても不可能。……だが、零落白夜を発動させる分には支障は無かった

 

「(集中……しろっ……!!)」

 

 とうにギガバトルナイザーから放たれた電撃は目と鼻の先にまで来ている中、既に極限まで集中させていた意識を更に濃縮するように細く張り詰めさせ、激流のようにうねり狂う電撃の軌道とその奥にいるベリアルを一夏は見やる。ここまで来てミスは決して許されない。だからこそ覚悟を決めて

 

「はぁああぁぁあああぁぁぁっっ!!」

 

 一夏は雄叫びをあげると、零落白夜を発動させながらスラスターを全快に吹かす。そして次の瞬間、電撃をさながら高速船が水面を切るように零落白夜で切り捨て、無効化しながら超高速で一気にベリアルに向かってへの電光石火の突撃を仕掛けた

 

「なっ……にいぃぃっっ!!」

 

 流石のベリアルもこれを読みきる事は出来ず、感情に任せて放ったあの一撃が致命的な失策だったと理解し……

 

「おりゃあぁぁっっ!!」

 

 その瞬間、間近まで迫っていた零落白夜の白い閃光がベリアルに襲い掛かり視界を多い尽くした


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