二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「うっ……ぐっ……がっ……!? 単なるダメージなだけじゃねぇ……シールドエネルギー総括量減少……更にバトルナイザーとの接続も低速化……即時回復不能だと……!?」
「ち、ちきしょう……判断を誤った……! ジジイの奴が……! 慎吾を俺様が捉えている事を……奴が意識しない訳ねぇだろが……」
落雷を思わせるようなエネルギーが放たれた衛星軌道砲の爆心地でベリアルは地面に倒れ、ダメージに苦しみながら負わされた想定を優に越えた被害に悪態を付く
ベリアルの周囲は衛星軌道砲撃と言う莫大な質量の攻撃が行われたのにも関わらず周囲の海や投棄された船は殆ど無く、貼り付けにされた慎吾も全くの無事だ。が、しかし、それと反比例するかのようにベリアルの機体装甲にはあちこちに亀裂が走り、ほぼ最大値近くまで余裕があったシールドエネルギーは大きく減退し、そして何より絶対防御で守られている筈の生身のベリアル自身の身体も一瞬、呼吸が止まる程の多大なダメージを受け、一艘の廃船の甲板の上で力無く四つん這いになりながら、呼吸の確保の為に頭部装甲を解除し、荒い呼吸を繰り返しながら痛みに喘いでいる
つまり信じがたい話ではあるがこの一撃は広範囲攻撃に見せかけたピンポイントの狙撃。としか考える他無かったのだ
「衛星軌道砲で俺様ただ一人だけを狙い、回避方法を全て計算した上で被害は最小限……。クソ……ッ!! どんだけふざけてんだあのじいさんは!!」
自身の判断ミスを呪いつつ、しかしそれでも尚、常識を越えているとか思えないキングと言う人間の能力を垣間見た事で思わずベリアルは感情のまま振り上げた拳を甲板の上へと振り下ろす
ガンッッ!!
当然ながら元から波の侵食で痛んでいた甲板にはISを展開させたままのベリアルの力を受け止める余裕など残されている筈もなく、ベリアルの拳を受けた瞬間、甲板には直径一メートルを越える穴が軽々と開いて下の朽ちた船室が露になる……どころでは収まらず、ベリアルの拳の破壊力は巨大な船体そのものまで高波に飲まれたかのように大きく揺らし、衝撃のエネルギーで細かく飛び散った海水は剥き出しのベリアルの顔にまで付着する
「冗談じゃねぇ……こんなもので俺が止まるか。……止められるか……!」
そこで若干の冷静さを取り戻したのかベリアルは悔しげに歯噛みをしながらも立ち上がり、頭部の装甲を再び展開して身に纏うと上空を睨む
「ふん……まさにピッタリのタイミングで来やがったな。このタイミングまで予測済みか……つくづく舐めやがって」
まさにその瞬間、猛烈な速度でこの場に近付いてくるIS五機を目視して確認するとギガバトルナイザーを肩に構え、迎撃する為に静かに浮かび上がる
「まだ俺様が動ける以上、どれだけ弱ってようが、ガキに……それも大半が一度破った奴ばかりの烏合の衆に負けるか!」
◆
「奴を衛星軌道砲で迎撃する……ですか……!?」
ベリアルへの対策会議が行われていた最中、現段階でロールアウトUシリーズのフル出撃等が決まっていた中で、キング老人の想定を越えた提案に流石のケンも驚愕した様子で発言を聞き返していた
「あぁ、それを当てればUシリーズを基盤にした奴のベリアルでも決定打は避けられないだろう。これに関しては私に一任してくれ。タイミングも指定の時間通りに合わせよう」
それをキングは特に動じた様子も無く、世間話をするかのような雰囲気で『現代兵器でISに致命打を与える』と言うことを微塵も奢らず、しかし無謀でもなく当然のようにやってのけると言って見せたのだ。キングが放つ雰囲気に一夏は勿論、ラウラやシャルロット代表候補生、さらには千冬ですら呑まれて反論する意欲を失ってしまい、ただ唖然としながらキングの言葉に耳を貸す事しか出来なかったのだ
「……だが、しかしISを使えぬ老人の私が手助け出来るのはそこまで。決着は優れたISの乗り手に任せる他は無い」
と、そこでキングは一旦口を閉じると順番に箒、ラウラ、シャルロット、鈴。そして最後に一夏へと一人一人しっかりと目を合わせて視線を向けて行く
「さて……やってくれるか一夏君? 作戦は今、決めた通りだが、それらが全て上手く行ったとしても厳しい戦いになることは避けられないだろう。それでもやるかね?」
「はいっ! 俺は……俺は逃げませんっ!! 学校も俺の仲間達も無茶苦茶にされて引き下がってなんかいられないっ!!」
と、そこまでキングが口にしたその瞬間、一夏は勢い良く立ち上がると感情のまま一気にそう叫んだ
「………………」
「それに……慎吾さんには俺も散々お世話になったんだ! 今度は俺が慎吾さんを助けるんだ!」
「だから……だから……俺は絶対にベリアルを倒す!」
一夏の言葉をキングはじっくり最後まで言葉に耳を傾け続けると、満足げに頷いた。
「……いい目をしている。決意は堅いようだな一夏くん。……それに君達もだ」
やがて、そう言って緩やかに微笑むと一夏。そして『その周り』に視線を向けた
「えっ……?」
「全く……そこは『俺達が』くらいは言いなさいよね?」
そこには呆れたような口調ながら微笑みを浮かべる鈴がいた
「この局面でもそんな言葉を吐けるとは、相変わらずの無鉄砲さだな一夏。だが……その……戦いに赴く前の決意表明としては悪くないぞ」
視線を反らしつつ何処か照れ臭そうに一夏にそう言う箒がいた
「露払いは僕達に任せて。アイツの所に行くまでしっかり一夏を守りきるから……一緒にお兄ちゃんを助けよう!」
「おにーちゃんの為だ、遠慮はいらん。そもそも嫁を守るのは当然の事だからな」
並んで立ち、得意気に笑いながら一夏にガッツポーズを送るシャルロットとラウラの姿があった
「みんな…………ありがとう……!」
被害で見れば未だかつて無い程の強敵が相手なのにも関わらず、自身が何も言わずとも当然のようについてきてくれる仲間達の姿を見て一夏は感慨深そうに呟くと、自身もまた笑顔を作り彼女達に例を言う
「……相変わらず、良い仲間を持ってますね彼は。そんな彼等の仲間に慎吾が入っていると言うのが誇らしいくらいだ」
「……まぁ、多少青臭さ過ぎるのは難点だがな」
そんな一夏達を見ながらケンがそう告げると、千冬はそれに苦言を呈しつつもケンの言葉を否定することは無く受け入れる。が、その時、千冬本人は気が付いているのかどうかは不明ではあったがその表情はケンが向けるものと変わらない程に暖かさに満ちていた
こうしてMー78社に到着した時の重苦しい雰囲気は氷解し、彼等は対ベリアルに向けて最高の雰囲気で会議を進めることが出来たのだ