二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 どうにか投稿できました。これからも自分のペースで確実に最終話に向けて投稿していきたいと思います


167話 一夏の決意

 

「……っ! だったら……! だったら俺が!」

 

 何度目かも分からぬ重い空気に室内が包まれた瞬間、今の今まで受けの体制で話を聞いていた一夏が堪えきれないと言うように立ち上がると、その勢いのまま両の手のひらで机を叩くと一気に言葉を続ける

 

「だったら俺と白式でベリアルの膨大なシールドエネルギーを全部削り取ってやる! 例えどれだけシールドエネルギーの量が多くても零落白夜なら関係ねぇ!」

 

 そう宣言すると一夏は光、続いてケン、最後に千冬へと順番に視線を向ける

 

『……確かに、単純だが理屈では確かにそうだ。俺も打倒ベリアルには一夏君。つまりは白式と零落白夜が必須だと考えている』

 

「じゃあなんで……っ!」

 

「お、落ち着いて一夏!」

 

 てっきり否定の言葉が来るものだと思っていた矢先に思いがけず自身の話を肯定してきた光の言葉に一夏は思わず身を乗り出して食らい付き慌ててシャルロットに静止された

 

『その答えは単純だ。俺は、あのタイラントをも撃破した君の実力を決して見くびる訳ではないが……』

 

 

 が、それでも光の態度は変わらない。が、顔の大部分に包帯が巻かれた顔で一旦、息を吸い込んで呼吸を整えると静かに口を開き

 

『その上で聞くぞ? 君は自信を持って自分がベリアルと戦って勝てると言えるか?』

 

 

「…………! そ、それ……はっ……」

 

 

 本来ならば一夏は長所であり短所でもある真っ直ぐさで、慎吾を救うべく『勿論だ』と迷わず答えていただろう。だがしかし、一夏にもベリアルが引き起こした『学園在籍の代表候補生達と教職員を薙ぎ倒し単騎でのIS学園制圧』と言う余りにも荒唐無稽。理解の範疇を超えた惨状の凄まじさを嫌と言うほど理解できた。その強さを理解していた箒やラウラ、楯無、更には慎吾までもが誰一人ベリアルに有効打を与えられず敗北して大損害を負い、今現在、戦闘が可能なのは一夏、ラウラ、シャルロット、箒のみだ。その上に相手はモンスターズと言う機械兵士100近く存在しており人数的にも圧倒的不利。がその残酷な事実が一夏の心を迷

わせる

 

『どうなんだ一夏君。君の答えを聞かせてくれ。……安心しろ。どんな答えであれ俺はそれを否定したりはしない』

 

 そんな一夏の心境の変化を画面越しからでも感じ取ったのか光が畳み掛けるように話しかける。それは少々強引にこそ見えたが口調そのものは柔らかく、一夏をベリアルとの戦闘と言うあまりにも危険な行為から暗に『逃げろ』と引き留めているようにも一夏には感じれていた

 

「(光さんでも、そうするくらい相手はヤバいって事かよ………どんだけ強いんだよベリアルは……!)」

 

 先程、光自らが話題に出したタイラントとの戦いでも光自身がタイラントの凄まじさを身を持って理解してこそ、光は決して戦う前から仲間達に逃走を進めたりはしなかった。だからこそベリアルと言う存在がいかに絶望的に強い相手なのかを理解させられる。が

 

 

「……それでも……それでもっ! 慎吾さんを見捨てるなんて訳には行かない!」

 

 

 それでも尚、一夏は呼吸を整え、迷わず力一杯そう吠える

 

 

「確かに戦っても俺に勝ち目は無いかも知れねえ! でも……っ!

ここで慎吾さんを見捨てて逃げるなんて事をしたら絶対に一生後悔する!! だから俺は絶対に諦めねえ! 白式でベリアルを倒してやる!!」

 

 一夏は次々と感情に身を任せて言葉を放ち、会議室にいる全員に、そして画面の向こうでベッドに横たわったままの光に向けて言葉を告げる。それはさながら癇癪を起こした子供の主張のように無茶苦茶にも見えたが、飾らず心の底から放たれた言葉だと聞いた誰もが理解できていた

 

「……さて、どうします織斑先生? 経験談ですが、こんな目をして主張をするような子は、私達大人がいかなる手段を取って説得しようが揺るがないと思いますが?」

 

 そんな一夏を見ると、今まで黙って会話を聞いていたケンが口を開き、千冬へと問い掛ける。その表情に浮かぶのは苦笑のような笑顔。しかし、それは何処か一夏の決意を優しく受け止め、高く評価しているような暖かさが込められていた

 

「……私に確認を求めなくとも既に結論は出ているのでは? ……こいつはこうなっては私が殴った所で止まらぬでしょう」

 

 対する千冬もまた呆れた顔こそしていたが、その目は教師から弟の成長を見守る『姉』の暖かい目に変わおり、一夏の決意を否定するつもりは無い事が読み取れた

 

『ふ、ふふ……やはりか。君が引くことは無いことは分かっていたよ。……その上で、俺から一言、君達の先輩だとか78社の研究員としての立場を一旦置いて、一言だけ言わせてくれ』

 

 そして光もまた一夏の言葉を笑って受け入れると、表情を若干変え、じっと画面の向こうから一夏へと視線を向け

 

『……織斑一夏君。こんな絶望的な状況の中でも俺の親友を迷わず救おうとしてくれてありがとう。慎吾が君を高く評価していた理由が改めてよく理解できたよ』

 

 そう告げると傷を負った体が痛むのも構わず短く一礼すると丁寧に一夏に礼を言った

 

「光さん……」

 

『さぁ、話はここまでだ。方針が決まったのならば早速、対ベリアルの対策を─』

 

 そんな光に思うところがあったのか一夏が話しかけようとしたものの光はそれを遮るように話を反らそうとした、まさにその時だ

 

 

「あぁ、確かに見事な言葉だった。君の揺るぎ無い覚悟が感じられたぞ。元から助力はするつもりだったが、より決意させられた」

 

 突如、会議室に明瞭な、しかし年季を感じさせる低く落ち着いた声が響いた

 

「(え、この声って……?)」

 

 その声を聞いて一夏に一つの記憶が甦る。自分がこの声を聞くのは初めてじゃあない。確か以前、五反田食堂で……

 

「こうして再び巡りあったのも一つの縁だ。この私も君達に助力するとしよう」

 

 会議室に入ってきた老人。かつて慎吾と光に『万能の超人』とまで言わせた人物。キング老士が特徴的な長い顎髭を揺らし、一夏を見つめながらそう告げていた


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