二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 大分遅れてすいません。生きております。


166話 絶望

 

「光!? 意識が戻ったのか!? ……いや……ダメだ! 君はまだICUで絶対安静の筈だぞ! 会議に参加するより今は治療に専念するんだ!」

 

 突如、映し出された光の姿にケンは一瞬、驚愕したように絶句したが直ぐに眉をひそめると光の行動を咎め、毅然としながらも反論を許さぬ強い口調でそう命じた。

 

『いえ……それでも、これだけは……何としても伝えなくては……っ……!』

 

 が、画面に映る光はケンの言葉にも全く怯まず片目ながらも鋭く睨み付けるようにケンを見て言葉を返そうとするが傷が痛むのか話している途中で言葉を詰まらせ、苦しげに顔をしかめる

 

『何度も止めたのですが頑として譲ってはくれなくて……彼女の強い信念は美点なのですが今回ばかりは……』

 

 

 と、その途端、ベッドに横たわる光が映る画面に新たな声と共に白衣を着たマリの姿が映り、光の行動に納得出来ないと言うのが言わずとも分かる難しげな表情をしながら光の腕に薬品が入った注射を打つ

 

 

『はぁ……はぁ……自分が……いかに無茶な行動をして回りに心配をかけているのか理解しています。ですが……それでも……たとえこんな身体とは言え、私も慎吾を救いたいのです』

 

「光……お前は……!」

 

 

「……君が、そこまでして火急に伝えるべきだと判断した情報を聞かせてくれ」

 

 薬が効いているのか光は顔色は依然として青ざめているものの、数度、ゆっくり呼吸を繰り返すと落ち着きを取り戻し、迷いのない口調でそう自らの決意を語る。深く傷付いても尚、揺るがないその覚悟を前に、箒は光の身体を案じて放とうとしていた制止の言葉をそれが彼女への無礼にあたると判断し、苦渋の表情で無理矢理飲み込み。彼女の人となりを理解していたケンは深くため息を吐き出しながらも、仕方ないと言うように言葉の続きを促す

 

『ありがとうございます。……奴の持ってる装備についての詳細ですが、まずはこれを。……偶発的にヒカリのハイパーセンサーでスキャン出来た物ですが……』

 

 ケンから許しが降りたのを確認すると光は器用に片手で小さな機器を操作すると空中ディスプレイに一つの映像をケンや一夏達に見えるように角度を調整しながら投影し、それを見た瞬間、千冬が小さく息を付きながら呟く

 

「……これは」

 

 映像はアリーナで光が自爆覚悟でウルトラダイナマイトを放った直後の映像だった。ヒカリの破損が大きいせいか映像には絶え間なくノイズが走るものの、しっかりと崩れ落ちたアリーナの残骸と、燻る炎の中で尚も平然と佇むベリアルの姿を捉えていた

 

『注目して欲しい箇所はここ、画面の端のベリアルのシールドエネルギー残量です。……あの時、私はウルトラダイナマイトを放っても尚、奴に細工で押し負け、ダメージを与えられてないのだと判断しましたが……』

 

 ケンや千冬がいるからか何時もより畏まった口調の光の指示の元、一同がベリアルのシールドエネルギーに注目する。連戦の影響かはたまた光の奮闘の成果かその両方か、バトルナイザーを高速回転させて防御していたのにも関わらず、シールドエネルギーは満タンの状態から半分を切りある程度の消耗が見られていた。が、次の瞬間だった。

 

「なっ……!? 光さん……これは……!?」

 

 ベリアルが手にするバトルナイザーが一瞬、発光したかと思った瞬間、失われた筈のシールドエネルギーはコップにホースに水を注ぐような勢いで急速に回復し、瞬き程の僅かな時間で傷一つ無い満タンの状態へと変化してしまったのだ。冗談のようなその光景に一夏は思わず声に出して驚愕した

 

「これは……これじゃあアイツ……タイラントにそっくりじゃあないか!!」

 

 そう、一夏の脳裏に甦るのはかつて慎吾や仲間達と協力してどうにか撃破する事に成功した暴走IS『タイラント』。敵ISの正体は未だに掴めないがそれならば楯無やラウラ、セシリアと言ったメンバーを相手取るのも理解できる。そう一夏は判断した。の、だが……

 

 

『俺も分析当初はそう思った。何らかの装備を用いて……シールドエネルギーを急速に回復させてまるで不死身のごとき耐久性を見せつけているのだろう……とね。だが一夏君、実際は更に悪質な物でな……今、見せよう』

 

 

 光はその言葉に静かに首を降って動かすと、途端に元より負傷で悪かった顔色が更に悪くなった気がした

 

「光さん? 一体どうし……」

 

 その様子が気になった一夏は光を案じて尋ねようとし

 

「…………っ!!」

 

「ちょっ!? 嘘でしょ……!?」

 

 ディスプレイに写し出された目を疑うような映像に思わず絶句して次の言葉は衝撃と動揺に瞬時に飲まれ喉からは掠れたような声しか出てこず、それはラウラやシャルロットと言った代表候補生達も同じだったらしく鈴がいつもの勝ち気な態度からは考えられないような小さな声を出すのが精一杯であり、千冬とケンの二人でさえ表だった態度にこ出さないが共に眉間に皺を寄せ、画面を凝視している

 

『……このような数値が出ている理由はベリアルが手にしたバトルナイザー。そこに量子変換によって収容されている複数……いえ、数値からして無数と言うべきモンスターズの影響で間違いないでしょう』

 

 そんな中、出来るだけ平静を保とうとしているのか光が平坦な口調で話を続ける。しかし、やはりと言うべきかその額には身体に負った傷とは別の理由からなる汗が滲み出ていた

 

『モンスターズはISには質こそ劣りますが全ての機体がシールドエネルギーを持っている事が資料で確認されています。それを装備しているバトルナイザーを経由してベリアルへと流れ込み、この数値が出ていると仮定すれば……』

 

 

『……約100体のモンスターズが収容していると仮定すればベリアルが第二世代型のラファール・リヴァイヴと比較して約百倍近いシールドエネルギーを持つ理由が説明出来ます。……最も個人的には奴と自分自身で戦闘してなければ数値の誤差だと考えたいですが……』

 

 そう、画面に表示されていたのはハイパーセンサーで光が読み取ったベリアルのシールドエネルギーの総量の予測。そのあまりにも理不尽としか言えない数値、しかし交戦したメンバーは誰もがそれが決してセンサーの故障や誤差などとは断じて違う事を確信として心で理解し

 

『このシールドエネルギーを削りきる方法を編み出さねばベリアルに勝利する術は無い』

 

 と言う、子供にでも分かるほど単純、しかしながら絶望しか感じない事実に言葉が出てこなかった

 

 

「う……ぐ…………あ……」

 

 海風が頬を打ち付ける感覚を感じ慎吾は、ようやく意識を取り戻し目を開ける。その途端、身体全身にずきりとした鈍い痛みが纏わりつくように襲いかかり、慎吾は思わず苦悶の声をあげる。

 

「こ、ここは……」

 

 実に目覚めの悪い夢から覚めた、慎吾の視界に広がったのは今にも降りだしそうな鈍色の空とあちこちが一目で廃船と分かる程、錆に覆われ、その錆をなぎ払うように刻まれた鋭い傷跡が刻まれただらけの飛行甲板だった。

 

「空母……か……?」

 

 全身の打撲のせいか慎吾は呼吸する度に鈍い痛みを感じたがそれを押さえ、更に目を凝らせば甲板の向こうには濁った海と水平線が見えたものの、現状を確認しようとする。が

 

 がちゃり

 

「……やはり私を、そのままにはしておかないか。例えゾフィーの損傷が甚大でも……」

 

 そこで漸く、自身が死刑囚の如く両手両足が拘束された上で鉄筋等の廃材を組み合わせて作られた十字架に貼り付けにされている事に気が付いた。念の為に少しばかり動かせる首で手首にブレスレット型の待機状態に移行しているゾフィーに目を通し、一応展開しようと試みてみたものの、想像通りゾフィーを展開して纏う事は出来ず慎吾は大きく溜め息をついた

 

 ベリアルとの戦闘により受けたダメージにより慎吾、ゾフィーは共に全体に深刻なダメージを負い戦闘困難の状態だ。が、幸いか否か慎吾には全く記憶の損傷は無く、アリーナ上空の戦いでベリアルに大地に叩き付けられ胸部装甲を踏み抜かれた所までしっかりと記憶していた

 

「くっ……! う……! すまない……皆……!!」

 

 当然、信頼出来る仲間、そして『妹達』と共に持てる力を知恵を作を全て出し切っても尚、敗北したと言う無念もだ

 

「私は……私はどうすれば……いいんだ……?」

 

 その事実が今まで数多くの困難に対面しても尚、冷静を努める事を意識していた慎吾の心を折れそうにならんばかりに揺さぶり、思わず慎吾は心のまま不安げに呟く

 

 慎吾の呟きに答えるものは誰もおらず、ただ海風と波の音だけが傷付いた慎吾の心に空しく響くだけだった


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