二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 すいませんまた遅れてしまいました。なお今回で過去編は一先ずの区切りとなります。


164話 覆水凡に帰らず

 

「う……ぐ……あ……」

 

 全身がミキサーで骨ごと細かく粉砕されたかのような激しい激痛と天も地も分からぬ程に激しく回転して吐きそうな目眩の中、アリアは静かに意識を覚醒させる。だがしかし、そこに広がるのは一筋の光すら見えず、自身の体でさえ全く見えない深い闇の中だった

 

「オ……レは……。こ、ここは……」

 

 一寸先も見えぬ暗闇を前に途方に暮れてると、追い討ちの如く頭が割れそうな頭痛までしてくるのを感じながらアリアはうめく

 

「っ……! そうだ俺様は……」

 

 と、その瞬間、濁流のように記憶が自身の頭の中へと流れ込みアリアは思わず苦痛の悲鳴をあげて頭を抱えた

 

 

 新型ISの実験、事故、焼けるような痛み、自分に背を向けたケン、身動き出来ない自分に分厚い壁が迫り、そして今まで感じたことが無いような激しい衝撃と苦痛が……

 

「オレは……あれで……死んだ……のか……?」

 

 

 そこまで思い返した所でアリアは一つの結論を出し、掠れた声で呟く

 

「はっ……はははっ……ははははははっ……!!」

 

 

 と次の瞬間、アリアの口からは自然と笑い声が溢れだし、やがてその声は次第に大きく変わっていく。が、勿論、それは歓喜の声などでは無い。アリアにとって僅かな希望すら奪い去った無情な現実と、何もなす事が出来なかった自身への深い絶望が込められた自嘲の笑いだった

 

「くそぉっっ!!……情けないっ! 情けない……! 俺は……俺様は……!」

 

 笑いを止めた瞬間、アリアは奥歯が軋むほど強く噛み締めながら感情のまま叫ぶ。周囲にもケンにもあれだけの事を言っておいて女性としての幸せも、出世への道をも全て捧げて強くあらんとしたのにも関わらず自分のこの様がどうしても許せず、それが確実に出世し結婚をして子供まで授かったケンと重なって見えたアリアは精神的に追い込まれた事、そして絶望に心が負けそうになり……追い込まれた末にアリアはこう思ってしまったのだ

 

「(力が欲しい……俺様を見下すこの世界をぶち壊す力が……!!)」

 

 それは打倒篠ノ之束を掲げ、多少過激な言動が目立っていたとは言え、それでも己が信じる正義の為に、平和を守る為に動いていたアリアにとってはつい溢れてしまった言葉。だがしかし、それでも僅かながら『本心』で思ってしまった事であった

 

「………っ!? なっ……!」

 

 その瞬間だった。アリアの周囲をすっぽりと包み込んでいた漆黒の闇が風に吹かれた水面のようにさざめき揺れると、一瞬のうちにその姿を無数の気味の悪い触手へと変えると、アリアが目を見開いて動揺している一瞬のうちに延びていき、全身に絡み付いて来たのだ

 

「ぐっ!? っ……がっ……!! ぎっ!? ぐぁっ……ぐああぁぁっっ……!!」

 

 絡み付いて来た触手は録に抵抗も出来ぬアリアを強固に拘束すると怪我でボロボロの皮膚を薄く突き破り、何らかの薬剤を次々と注入する。視界が黒一色で録に見ることも叶わぬ中、感覚だけでそれを感じていたアリアは薬剤が注入された瞬間、あまりの苦痛と不快感に悲鳴をあげた

 

「や……めろぉ……! オレさまがっ……!! あ……ぐ……」

 

 自分の中に激痛と共に何かが注入される度に身体の奥から自分が変えられる。少しずつ少しずつ元の自分が強制的に変えられていく。そんな異様な感覚にアリアは録に動かない身体を必死に動かして抵抗する。が、そうしてる間にも次々とアリアの身体に液体は注入されていき……やがて激しい苦痛と不快感でショートするようにアリアの意識は少しずつ薄れていき、悲鳴の声すら弱々しくなっていく。伸ばしていた指もゆっくりと垂れ下がり始めた

 

『くっ……ククク……気が変わった……俺様が少し力を貸してやろうじゃないか……』

 

「……だ……れだ…………?」

 

 と、その時だった消えそうになる意識の中、確かにアリアに向かって何者かの声がかけられたのだ。

 

『俺様が何者なんてどうでもいい……お前が望むものに到達する力をくれてやろうって言うんだ。悪い話じゃないだろう?』

 

 

 頭の中に響くような、その声は聞いたことが無い男の声……の、筈ではあるのだが妙に何処か馴染みがあるように苦痛で薄れるアリアの中に毒のように身体の奥底へ、魂へと染み込んでいく

 

『これで精々、好きに暴れまわれ……この世界の「□□」よ』

 

 

「う……あ……う…………」

 

 

 最後の言葉はアリアには良く聞き取る事が出来ない。だがしかし嘲笑ってるようにも暖かくも聞こえる謎の声と、アリア頭の中に流れ込んでくる一つの武器の設計図がアリアに一つの事を確信させた

 

「(勝てる……これならばブリュンヒルデも篠ノ之博士も相手じゃねぇ……! 俺様が……俺様こそが最強に……!)」

 

 アリアが抱いた、そんなどす黒い想いに呼応するようにアリアを包む黒い液体は身体に浸透していき……

 

 

 まさにこの瞬間、苛烈で横暴な言動が目立ちながらも己の信じる正義を持っていた『アリア』は死に、ただ己の野望の為に全てを利用し踏みにじり蹂躙する『ベリアル』へと成り果ててしまったのだ

 

 

 二度とは戻れぬ、悪魔の姿へと

 

 

◼️

 

 

「……未知のウィルスだと?」

 

 今の今までじっと口を閉ざし、ケンが語る過去の話を聞いていた千冬がその言葉を聞いた途端、静かに口を開き、ケンが言った言葉をオウム返しにする

 

「あぁ……先程告げた通り、即死しても可笑しくない事故状況だったのにも関わらずアリアは大怪我を負いながらも生存した。その治療と事故原因を探るために破損した件のIS機体の断片を回収していた際に機体とアリア。……その両者から全く同じ未知のウィルスが検知された」

 

「……それは……! もしや……!」

 

 ケンが語る言葉に箒が目を見開き、驚愕した様子でそうケンに尋ねる。それに続くように一夏達の驚愕の視線も答えを求めるようにケンへと集まっていた

 

 

「あぁ……そうだ。最初からこの話はアリア個人を狙って仕掛けられた罠だ。事故の直後、以来をした政府関係者に探りを入れた結果、判明したよ」

 

 

『!!』

 

 

 

「当時は証拠隠滅が徹底されてた故に我々にも特定する事は出来なかったが……皮肉でしか無いが今回のIS学園襲撃事件で、その正体がハッキリと判明した」

 

 

 その視線に答えるようにケンは慎重に言葉を選ぶようにゆっくりと一つの結論を述べる

 

 

「過去のアリアの事件、そして今回のIS学園襲撃事件……その裏で暗躍し、全ての元凶は国際テロ組織『レイブラッド』の仕業だ」

 

 

 ケンの話が一区切りを終えた時、会議室に差し込む日の光は幾分か傾き始めていた。


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