二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 大分、調子やモチベーションを崩してしまって大分苦戦しながら書きました……。一度崩すと戻すのが大変ですね……


163話 明かされる過去(後編)

 

「ぐっ……うおおぉぉぉっっ!!」

 

 僅かに気が緩んだ瞬間、熱波で木の葉の如く吹っ飛ばされる体。そのままの勢いで頑丈な実験場の鋼鉄製の壁に叩きつけられそうそうになる瞬間、気合い声と共に通路に設置された手すりを掴みとると、それを支えにしてその場に堪え、やがて熱波が収まるとケンは再び立ち上がりゆっくりと前へと進み出す

 

 先ほどの物だけでは無く既に何度か受けた熱波と衝撃で既に着ている白衣はあちこちが焼け焦げ穴が開き、骨もあばらを数本程折ってしまっている。感覚からして脚の骨にもヒビが入っているが構っている暇はなく、一刻も早く前に進まなければならない。と、ケンは自身を鼓舞させる。何故なら

 

「ぐ……お……うわぁあぁぁぁぁぁっっ!?」

 

「っ……!! 今行くぞアリア!!」

 

 ケンの視線の先、そこで暴走してしまいオーバーヒートした機器から熱波等を撒き散らし、勝手に動く機械の腕が手にして離れてくれないブレードを振り回して実験場のあちこちを破壊してしまう中、ISを苦しみながらどうにか押さえ付けようとしているアリアの姿があったのだ

 

「(何故だ……何故こんな事になってしまっている!? チェックでは機体やアリアにも何の問題も無かった! それは間違いない!)」

 

 吹き付ける高熱や容赦なく飛んでくる散弾のような勢いで飛んでくる壁や床や実験器具の破片から目を守りつつ前身しながらケンは思案する

 

 アリアの強引とも言える志願によってM-78社は政府からの依頼を正式に受諾する事が決まり、その後は特にトラブルも無く政府から一機のISが運びこまれた。そして、アリアがパイロットに決まった事を切っ掛けにケンもまた言い様の無い不安を感じていたアリアの動向を近くで見るため、その実験担当の職員へと志願し、実験に使用するISの最終調整、および管理の役割を担当していたのだ。

 

 そして今なら一時間前、テスト当日の今日に、他ならぬ自身のチェックによって『問題なし』と判断されたISで動作テストは始まった。のだが……

 

「ちっ……くしょおおお!! 制御がまるで効かねぇっ!」

 

 テスト開始から十分が過ぎ、ある程度の動作や武装が何ら問題なくカタログが示す通りの動きを見せた所でいよいよ対ISとの戦闘を意識した訓練へと移行しようとした時、突如としてアリアが乗ったISは暴走を開始し、アリアの意思に反して動き、実験場で大暴れを開始したのだ。アリアはそれに全力で抵抗しているおかけで未だに参加した研究員や作業メンバーには軽傷以上の負傷をしたものはいないがISのパワーを押さえ込むと言う無茶苦茶を行い続けるアリアの体は確実に傷付き限界は近付いてきていた

 

「……制御端末だ……! まずはテスト用の遠隔操作端末までたどり着かなくては……!」

 

 

 自身の額からうっすらと血が滲むのを感じながらケンは自分に改めて言い聞かせるようにそう叫ぶ。既に負傷者を含めた自身以外の殆んどの研究員は殆んど避難させ終わってているので必要以上に周りに気を配る必要は無い。だからこそケンはわき目も降らず真っ直ぐに、実験に使用していた床に固定された制御端末を目指していた

 

「(あの制御端末は……部分的にだが遠隔操作で部分的にアリアが装着しているISを操作できるようにしてある……! あれを使えば……強制的にパージする事も出来る筈だ!)」

 

 と、その可能性ただ一点に賭けて、道を塞ぐ瓦礫や暴走したISから出鱈目な方角に向けて放たれる実弾を危うい所でどうにか避けながら歩みを進めるケンの視界についに瓦礫の壁に覆われるように端末がその姿を表した

 

「端末は……! よし、無事だ……これなら……」

 

 ケンが近付いて来た時、制御端末の周囲には天井や壁から瓦礫が崩れて寄りかかるように倒れて来てはいた。が、幸いな事に端末そのものには瓦礫が倒れた時についたのであろう小さな外傷しか見当たらず、ケンが祈るような気持ちで画面に触れた瞬間、何の問題も無く作動し画面が発光し、ケンの操作を受け付けて管理画面に移行すると非常用のシステムを発動前の準備状態にさせた

 

「アリア……ッ! 今、こちらからの操作でISを強制パージさせる! あと少しだけ堪えてくれ!!」

 

 その画面を確認するとケンはすかさずこの騒音の中でも消えないような大声で未だに苦しみ続けているアリアに向かって叫ぶ。

 

 それが単に慰めでしかなく、只でさえ苦しんでいるアリアに更に無理をさせるような言葉であるのは承知の上であったがそれでも、自らISを纏うことが出来ない状況でケンが叫ぶのは友をスグサマ助けに行けぬ無力を感じてしまう自分を振るい立たせようとしているのも無意識のうちにあったのだろう

 

「っ……! この状況で軽々と要求してくれるな……ケンよぉ! こっちも限界が近いんだ!」

 

 そんなケンの叫びにアリアは怒鳴るようにそう文句を言う。が、途端にケンの方角へと向かう攻撃や機器から放たれる熱波は目に見えて減り、ケンは直ぐ様、端末にのみ集中して作業に進める事が出来るようになった

 

「(流石だアリア……! これならば……!)」

 

 内心でその技量に惜しみ無い感心を送りつつ、痛む体に鞭を打ち、作業の手を決して緩めず作業を進めていくケン。カードリーダーに自身のカードキーを読み込ませ安全の為、やたら長い解除コードを電子キーボードで直接打ち込んでいき、精神を研ぎ澄ませたケンは普段操作するよりも数段は速く入力し続け、あっと言う間にあと数文字の所にまでたどり着いた

 

「よし……これを打ち込めば……! アリア……!」

 

 絶望的な状況からようやく掴む事が出来た希望。勿論、これで決して終わりではない。研修場の被害は決して小さくは無いし、これから後始末は大変な事になるだろう。しかし、これでようやくアリアを救える……。

 

 そう、ケンはこの時、若さゆえか全く意識せぬうちに一つの過ちを犯してしまっていた。まだ事態は完全には終わっても無いのに、既に『解決した』と思い込み、あまつさえその後の事さえ考えてしまった。

 

 だから

 

 

「…………っ……!」

 

 

「な…………」

 

 

 今、まさに最後の一文字を入力しようとした瞬間、皮肉にもアリアが最後の力を振り絞って押さえようとしたまさにその瞬間、ケンの耳に一つの圧し殺すような悲鳴が聞こえた。しかも、その悲鳴は……

 

 

「マ……マリッ……?」

 

 それは正しく危機的状況だった。マリは負傷したらしい研究員。恐らくは最後の一人に肩を貸し、肩を貸す研究員からの出血で白衣が汚れるのも構わず懸命に脱出口へと向かって歩いていた。が、二人が歩く通路の天井は一連の騒動で既に崩れかけており、既に落ちてきた破片が何個か当たったのかマリの背中にはうっすら血が滲んでおり、これにより集中するケンを気遣って堪えていたマリが堪えきれず悲鳴を上げた事は間違い無かった。

 

 だがしかし、二人はあと少しで出口へ、加えてマリに向かって救助しようと駆け付けてくる他の研究員達の元へと到着しそうではあった。しかしまだケンが視線を向けて2、3秒もしないうちに更に状況は悪化する

 

「なっ……ん……だとっ……!?」

 

 

 そう、駆け寄る研究員達の腕が、マリの足があと一歩で出口へと到達しようとした瞬間だった

 

ピキ……ピキ……!

 

 まるで狙ったかのようなタイミングでマリ達の頭上の天井に悲鳴のような音と共に亀裂が入った。それに気付いた研究員が『あっ』と言うよりも早く天井が崩れ、瓦礫がさながら雪崩のように二人に向かって降り注ぎ始めるたのだ。

 

「マリッ! ……うっ、おおおおおぉぉぉっっ!!」

 

 その瞬間ケンは端末に背を向け、雄叫びと共に床を蹴りとばしてマリの元へと向かってさながら背中にロケットエンジンでも積んでるかのような猛烈な勢いで一目散に駆け出す。

 

「はあぁぁっっ!!」

 

 瞬時に瓦礫の元へとたどり着いたケンが繰り出したのは助走に加えて空中で回転する事で遠心力を加えた強烈な回し蹴り。その強烈な一撃を前に重いコンクリートで出来た瓦礫は一瞬で全体に亀裂が走るとマリ達に当たるより早く木っ端微塵に砕け散ると、ケンが着地した瞬間、当たっても傷を負わない程の小さな小石と変り、雨粒が降るような軽い音と共に落ちてきた

 

「はぁ……はぁ……! 無事か……マリ……?」

 

「は、はい……あなた……」

 

 

 着地したケンには傷は無い。だがしかし、流石に何の備えもなく身の丈に匹敵する大岩を蹴りで砕くと言う行為はケン程に精神と肉体を共に徹底的に鍛え上げた人物であっても尚、大きく体力と神経を消耗し、ケンは額に汗を滲ませ肩で息をついていた

 

「(まだだ……まだ……止まる訳には……っ!)」

 

 だがしかし、そこで休んでいる暇など存在しない。とケンはマリの無事を確認した途端、文字通り息つく暇もなく自身を鼓舞すると軽く腕で額の汗を拭ったのみで無理矢理呼吸をして立ち上がる。コンマ一秒でも無駄にはできない。何故ならば今もアリアは危機に晒されている。あと一手で助けられるとは言え決して止まる訳には……

 

「っがっ!?………ケエエエェェェンン……ッッ!!」

 

 

 だがしかし、その時既にケンは叩きつけられていたのだ。僅かに手を誤った罰を……そして何処までも非情かつ残酷な現実を

 

 

「ッ……! アリアッ!?」

 

 

 ケンの耳に聞こえたのは怒声にも悲鳴にも似たアリアの声、その声に素早くケンが振り返った。そして

 

「ケンッ……! うっ……わああああぁぁぁぁっっ!!」

 

 その瞬間、ケンは目撃した。暴走する機体から、それが彼女自身の鮮血のように火花と炎を吹き出しながら宙を吹き飛んで行くアリアの姿をそして、そのまま何も出来ず頑丈な防壁へと吹き飛ばされて行くのを

 

 

「アリア! アリッッ…………!!」

 

 一瞬で顔が青ざめる。最早手遅れだと言うことは頭の中で理解していた。だが、それでもケンはアリアに向かって手を伸ばしながら走る。無茶に無茶を重ねて負荷を掛けすぎた事で足首は既に悲鳴を上げていたがそれでもケンは精一杯アリアに向かって手を伸ばし

 

 

「ぐっ……がっっああああぁぁぁぁぁっっ~っ!!」

 

「ア……………………」

     

 当然ながらその手がアリアの元に届くことは無く、むなしく空を切り、アリアは悲痛な叫びと共に隔壁に搭乗していた機体ごと背中から叩きつけられるとその瞬間、機体は鼓膜が破れそうな轟音と共に爆発し、激しい炎と煙に包まれてアリアの姿はケンから全く見えなくなった

 

 

「アリア……アリアァァァァァッッ!!」

 

 

 後に残ったのは己が一手誤ったことの後悔、親友を救えなかった悲しみが込められたケンの慟哭の叫びだけだった。


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