二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 本当に……2ヶ月も遅れてすいません。ここ最近、モチベーションが大幅に下がるような事が連発した故に、執筆が遅れてしまいました。


155話 非情なる決着

「よしっ! 行くぞ箒!」

 

「任せろ光! おおおおおっっ!!」

 

 後方から放たれる慎吾達の支援攻撃により、僅かに隙が生まれたベリアルに向かい、光は箒に合図を出すとタイミングを合わせて箒は右から、光は左からと挟むように二人同時に斬りかかる。が、しかし、その攻撃をも軌道をベリアルに見切られると同時にいなされ、三振りの刃は全てベリアルが握るバトルナイザーの柄部分に受け止められた

 

「くっ……こいつ! 一体、どこまでの……!?」

 

「引くな箒! ここで押しきるんだ!」

 

 全力、それも二人がかりの力で押していると言うのにも関わらず、まるで二人が首を上げぬと見渡せぬ程巨大な岩盤を相手にしているかのように、バトルナイザーは三振りの刃を受け止めたまま、僅かも後退しない。いや、それどころか歯を食い縛り、限界まで力を入れている二人を徐々に押し返してさえいた

 

「……どうした!! 五人がかりでそのざま……かあっ!?」

 

「うっ……ぐっ……!」

 

「うわぁっ!!」

 

 と、次の瞬間、ベリアルはそう嘲笑うと共にバトルナイザーを持つ腕に更なる力を込め力任せにバトルナイザーを振るい、踏ん張ろうとしていた二人を純粋なパワーで木の葉の如く軽々と後方へと吹き飛ばした

 

 高速で移動するベリアルを追って戦闘を続けていた結果、アリーナ上空付近へと戦いの場所を移して既に幾分かの時間が過ぎ、流石に5対1と言う条件化の為か時間と共にベリアルにも僅かに回避の合間に隙が生まれ、先程のようにそのタイミングを光と箒が付く事も幾度かあった。だが

 

「光! 箒! 大丈夫か!?」

 

 吹き飛ばされ、宙を舞う二人に呼び掛けながらベリアルの追い討ちを阻止すべくゾフィーの手からスラッシュ光線を発射して牽制しながら慎吾が二人に呼び掛ける

 

「俺は大丈夫だ慎吾! それより、もう一度仕掛けるから引き続き援護を頼む! お前は行けるか箒!?」

 

 空中でどうにか乱れたヒカリの体勢を整え、制止した光は短く返事を返すと、今まさに体勢を整えたばかりの箒に呼び掛け、箒が頷く事で答えるのを見ると再びベリアルへと向かっていく

 

 そう、ベリアルの動きに当人が意図して作った物ではない隙が生じ始めているのは確かに紛れもない真実だった。だがしかし、それでも尚、この状況下で圧倒的な実力を武器に勝負を優位に進め続けているのは常にベリアルだった

 

「はああああっっ!!」

 

 今度は箒がより全面に出て右手に空裂、左手に雨月を構えた二刀流のスタイルで怒濤の攻撃のラッシュを仕掛け、更に光がそのサポートに回るように箒が攻撃するタイミングに合わせてナイトビームブレードを振るい箒が刀を振るう際に僅かながら出来ていた回避出来る領域を更に減らし、波状的に逃げ場の無い攻撃を繰り出していく

 

「遅いっ……! 遅いぞお前ら!」

 

 だがしかし、ベリアルはその連撃をもバトルナイザーを自由自在に振るい、受け止め、さばき、全ての刃は全くベリアルの装甲には届く事は無く、次々と無効化されてゆく

 

「くっ……なんと堅い防御……! 二人がかりでこれとは!」

 

「あぁ……確かに硬い。おまけにこちらの攻撃速度を見切られてしまっている。このまま俺達が二人がかりで全力攻撃しても、隙を付かれて押しきられてしまうだろうな……」

 

 ベリアルへの攻撃の手は止めないながらも、本体にかすらせもせずに正しく鉄壁の防御を維持し続けるベリアルに箒が歯噛みしながら叫ぶと、光もまたナイトビームブレードを振るい続けながら声を潜めてそう呟き

 

「そう……俺達二人だけならなっ……! 箒! 右! 行くぞ!」

 

 その瞬間、光は叫んで箒に合図を送ると、互いに攻撃の手を止めると、箒の手を引くように先導しながらすかさず飛び退くようにその場から離れ、ベリアルが振るうバトルナイザーの攻撃軌道からも距離を取る

 

「あん……?」

 

 ラッシュを続けていた二人の突然の攻撃の中断にベリアルは思わずバトルナイザーを振るう手を止めると怪訝な声でそう呟き、ほんの僅かな時間、その動きを止めた

 

「ハァッ……! Z光線!」

 

 その隙を付き、ベリアルに向かい慎吾が掛け声を上げ既にエネルギーを充填しおえていたのか、両腕を胸の前で付きだして揃えると、ゾフィーの両腕から青白い輝きと共に稲妻状のうねりを描いて飛ぶZ光線を発射した。しかも、それに合わせてシャルロットとラウラもここぞとばかりにベリアルに向かって最大火力で攻撃して更なる追撃を仕掛ける

 

「ち……いっ……!!」

 

 流石のベリアルも隙を付かれた上に、M87には劣るがゾフィーの持つ装備の中でも一際高い威力を誇るZ光線、それに加えてバトルナイザーでのガードの妨害に徹底したラウラとシャルロットの射撃が相成る事で咄嗟に振るったバトルナイザーでは攻撃を完全には無効化する事は出来ず、ベリアルの周囲に霧散しきれず光のミストのように無数に散らばり漂うZ光線の破片のエネルギーの光粒がベリアルに襲いかかり、ベリアルは舌打ちと共に光粒が命中するのり早く背後へと飛び退いた

 

「はぁっ!!」

 

「たああっっ!!」

 

 と、まさにその瞬間、僅かに漂うZ光線の光粒を己の刃で切り裂きながら箒と光がベリアルに向かって突撃すると、一定まで距離を詰めた所で光は一旦ナイトブレスからブレードを引っ込めるとチャージを短くしたナイトシュートを放ち、箒は雨月と空裂を同時に振るい、無数のエネルギーの刃を容赦なくベリアルに向けて放つ。更に二人の攻撃はそれだけでは終わらない。二人とも中距離からの一撃を放ち終わるや否や、二人は再び刃を構えてベリアルに更に接近し同時に刃を向ける

 

「クク……馬鹿の一つ覚え見たいにまた全開火力で突然か!? まぁ、それしか無いよなぁ!! お前程度の力量で俺様を倒そうとするならなぁ!!」

 

 ヒカリが放つナイトシュートに加えて紅椿の雨月と空裂による徹底的に逃げ場を無くした相激。更にだめ押しとばかりに再びブレスにナイトビームブレードを形成した光と箒による畳み掛けるような追い討ちの一撃

 

 だがしかし、その全てを無傷でやり過ごし、再びバトルナイザーに止められ寸前で止まった三降りの刃を見てベリアルは大声でそう嘲笑った

 

「ぐっ……!! くっ……うぅ……!」

 

「こ、これすら止めて見せるか……っ!!」

 

 笑い続けるベリアルを前にし、光と箒は悔しさで顔を歪めながらも、どうにか刃を押し込み、届かせようと懸命に力を込めるもののバトルナイザーは二人の刃を全て受け止めたまま一ミリ足りとも下がってはくれない 

 

「だがな、お前らのそんな意地らしい無駄な努力……。俺様はもう見飽きたんだ」

 

 と、そうベリアルが口にした瞬間、刃を受け止め続けているベリアルのバトルナイザーの両端の棍部分に急激にエネルギーが蓄積され、不気味に青く輝き出した

 

「な……! あれはマズイっ……!! 離れるぞ箒!」

 

 眼前で光が強まるバトルナイザーを前に迫り来る危機を感じとった光は、間に合わぬ事かと思いながら箒を先導して離脱するべくナイトビームブレードを引っ込めると元の半分ほどにまで減ったエネルギーを使い、瞬時加速を利用してその場から離れた

 

「無駄だっ! 二人ともここで死ねぇっ!!」

 

 背を向ける二人に向かってベリアルはそう言って嘲笑うと、二人の刃が離れた事で解放された青く輝くバトルナイザーを突き出す、その瞬間、バトルナイザーの両棍部分から稲妻のようなエネルギーの波を描くビームが放出されると、稲妻状のエネルギー波は逃げる二人に向かって、まさに雷光の如く非常なまでの速さで真っ直ぐに飛んでゆく

 

「なっ……ぐわあぁっ!?」

 

 狙いすまされたベリアルの一撃は、どうにか回避を試みた光と箒、その援護に回ったラウラとシャルロットたち四人を嘲笑うかのように、まず電撃状のエネルギー波が最初に光の背中に直撃するとその破壊エネルギーはまさに雷光のごとき速さで瞬時にヒカリの全身を多いつくし、瞬時に光の叫び声と共にヒカリを空中から叩き落とした

 

「光!? くっ……!」

 

 そして続いて、僅かに遅れて到達したエネルギー波は地上のアリーナに向かって真っ逆さまに落ちていく光に向かって叫ぶ箒へと襲いかかる。が、箒は第四世代と言う機体性能のおかげか当人の日々の努力の賜物か、顔をしかめながらも、その一撃にどうにかタイミングを合わせて迫るエネルギー波を前に素早く両手に持った二振りの刀を構え、間合いに入った瞬間、居合いでもするかのように稲妻状のエネルギー波を切りつける

 

「うっ……ああぁぁっっ!!」

 

 だがしかし、それでも尚弱まりこそしたもののベリアルの一撃は止まらず、先程の光のように直撃を受けた箒は苦悶の声をあげると墜落こそしなかったものの衝撃によって空中で吹き飛ばされ、体制を崩し大きく仰け反ってしまった

 

「箒! 今、助けに……うわっ……!」

 

「ぐっ……シャルロット! 気を付けろ!」

 

 一瞬にして窮地に晒された箒を援護すべく真っ先にシャルロットそしてラウラが動こうとしたが、箒が切り払ったエネルギーの余波が空中に漂うバリケードのように二人の前に立ちふさがり、行く手を阻む

 

「あぁ、そう言えばお前の紅椿には確か、絢爛武踏。とか、言うのがあったな。……だったら」

 

 そうしている間にもベリアルの手は止まらない。箒が体制を立て直そうとするよりも早く、思い返すかのようにそう呟くと、紅椿に向けて両手でバトルナイザーを構えると棍部分を向ける。その瞬間、バトルナイザーの棍部分から鞭のようにしなるビームが紅椿に向けて発射され、そのビームは蛇のように蠢くと、たちまち紅椿に絡み付き機体全体を拘束する

 

「こ、これは……! なっ……!?」

 

「そのまま飛んでいってろ……!」

 

 一瞬にしてビームにより梱包された荷物のように拘束されてしまった箒は必死にもがき、紅椿を硬く拘束するビームをどうにか千切ろうとするが、それよりも早くベリアルがバトルナイザーを明後日の方向めがけて無造作に振るうと、そのバトルナイザーの動きに引っ張られているかのように箒は必死にもがいて抵抗するが、結局はそのまま、ぐんぐんとベリアルの元から離され戦線を離脱してしまった

 

「さて……と、次はお前らにするか」

 

 それを確認した瞬間、ベリアルは返す刀で行く手を遮るエネルギーのバリケードに手間取っていたシャルロットとラウラに狙いを変え、未だに燻るバリケードをバトルナイザーの一撃で吹き飛ばすと恐ろしい程の速さで二人に襲いかかった

 

「くっ……!!」

 

 まず『近いから』と言う理由でベリアルに狙われたのはラウラだった。自身らが手間取ったエネルギーのバリケードを軽々と蹴散らして突撃したベリアルにほんの一瞬、驚愕の表情を見せたもののすかさずそれを回避すると、自ら接近して来たベリアルに向けて両肩、腰部左右、六つのワイヤーブレードを一斉に解放して迎撃を始めた

 

「フンッ!!」

 

「……っ!?」

 

 だがしかし、宙を自在に舞うワイヤーブレードも、前進を止めないベリアルに向け、更なる追撃としてラウラが両手首に展開させたプラズマ刃までもベリアルはただ一声と共にバトルナイザーを1度振るうだけで軽々と蹴散らし、それだけの攻撃で放ったワイヤーブレードのワイヤーの半数近くが強引に捻切られ、ベリアルの眼前にしてラウラは全く想定にしなかった隙を生じさせてしまう

 

「ラウラ! 下がって!!」

 

 その瞬間、シャルロットが素早くラウラを庇うようにラウラとベリアルの間に割り込むとベリアルにむけ近距離からショットガンを連続で叩き込む

 

「はん、その程度の攻撃なぞ……俺の前では無駄だと言うのがまだ分かってねぇのか!?」

 

「うっ!?」

 

「くっ……シャルロットォ!」

 

 しかし、その攻撃もベリアルには届かない。一笑すると共に放った弾丸の全てを空いたベリアルの片手ではたき落とされ、更にベリアルが追撃でシャルロットの腕目掛けて蹴りを放つと、シャルロットが手にしてショットガンは手から吹き飛ばされるのと同時に歪に変形し、破壊されてしまい、シャルロットも咄嗟にラウラの助けが入ったものの、蹴られた腕を押さえながら強制的に後退させられてしまった

 

「この俺様を前に中々粘った……それだけは認めてやろう」

 

 無防備な姿を見せるシャルロットとラウラを見てベリアルは愉快そうにそう笑いながらバトルナイザーを乱雑に握りしめる。と、その両棍部分に再び電撃状のエネルギー流が迸り出し、周囲にバチバチと電気が弾けるような音を鳴らし始めた

 

「だが、そいつもこれで終わりだ!」

 

 その直後ベリアルはバトルナイザーを両手で持ち、必殺の一撃を放たんとする剣士の如く大きく降りかぶると、身動きが取れぬ二人に向かって空気を切り裂き唸りを上げるバトルナイザーを居合い切りのように叩き付け、ラウラとシャルロットを纏めて軽々と地面に向かって撥ね飛ばし

 

「あぁん……?」

 

 その瞬間、ベリアルは再び怪訝な声を上げる。電撃状のエネルギーが充填されたバトルナイザーは確かに二人に回避の隙を与えずに命中した。それは間違いない。だがしかし、ベリアルの手に伝わってきた感触と衝撃、そしてつい先程響いた音はIS機体に直撃したものとは明らかに異なるものだったのだ

 

「ハァハァハァ……!」

 

「ま、間に合った……!?」

 

 見ればシャルロットとラウラ、二人を守るように二機のIS全体を鮮やかな赤の表地に、銀色の裏地を持つ一枚のマントが優しく包み込んでおり、更にマントの表面には堂々と銀色の盾が一枚そびえ立っていた

 

 

 バトルナイザーの一撃を受けた影響か、マントには複数の風穴が空いてマントに包まれているラウラとシャルロットの姿が僅かに見えていたし、銀色の盾に至ってはそびえ立っていはいるものの盾には表面に地割れのような大きな亀裂が中心に走り、上部分に至ってはあまりの熱エネルギーによってドロリと融解しており、結果として盾は元の八割程のサイズへとなってしまっていた

 

「こいつは……!」

 

 その二つを見た瞬間、ベリアルは思わず声をあげる。両者共に痛んではいたが見間違えようが無い。あれはベリアルが某国機業に『協力者』として力を貸してた期間、エムことマドカからベリアルの頼みにより『親切丁寧かつ笑顔で』見せて貰った某国機業の重要資料ファイルの中に書かれていた防具でもあるマント、ブラザーズマントとウルトラブレスレットが変形した盾、ウルトラディフェンダーに違いなかったのだ

 

「行くぞシャルロット!!」

 

「うん! 分かった!!」

 

 と、そうしてベリアルの動きが一瞬、制止した瞬間、凄まじい速度で落下し続けながらもラウラの合図と共にレーゲンのレールカノンとシャルロットが新たに手にしたマシンガン、その二門が一斉にベリアルがバトルナイザーを持つ左手目掛けて一斉に火を吹き、その直後、二人は重力に従って同時にコンクリート地面に叩き付けられ、二つの土煙をあげた

 

「ぐ……!」

 

 二つの砲撃は見事にベリアルに命中すると、ベリアルは苦悶の声をあげる。と、それと同時に左手から滑り落ちるようにバトルナイザーが離れると、バトルナイザーは重力に従って真っ逆さまに落下してゆく。その瞬間だった

 

「……待っていた。この瞬間を……! このタイミングを……!」

 

 丁度バトルナイザーが落下したベリアルの真下、十メートル圏内にまで距離を詰め、仰向けのような姿勢でベリアルを睨み付けながら溢れ出さんばかりのエネルギーが渦巻くゾフィーの両腕を胸の前に水平に添え、緊張からか慎吾が声を震わせそう口にしたのは

 

「ちっ……!!」

 

 それに気が付いた瞬間、ベリアルは舌打ちと共に機体を空中で翻しゾフィーに背を向けると、ベリアルの持つ加速力を持ってして全速力で予想する攻撃範囲から飛び退いた

 

「逃がすものか! エムッッ……!!」

 

 無論、慎吾にはそのままベリアルを逃すつもりなど微塵もない。声と共に右腕を胸の前へと付き出すと、ただこの瞬間を狙い打つが為に蓄積していたエネルギーを解放する

 

「(外せない! 光や箒の……そして、シャルロットとラウラの為にも、この一撃だけは絶対に!)」

 

 瞬きする事すら止め、烈迫の形相でゾフィーのハイパセンサーでベリアルを睨み付けながら慎吾は心中でそう強く決意していた

 

 シャルロットとラウラを囮とするような形でゾフィーのエネルギーチャージを続け、慎吾がM87による一撃決殺により勝負を付ける。行く手を阻むバリケードに苦戦させられるラウラとシャルロットからプライベートチャネルによりそんな戦法を提案された瞬間、慎吾はまず自身の耳を疑い、それが間違いなく二人の口から発せられた物であると理解すると、慎吾は余りにも危険すぎる二人の賭けに止めるよう強く宣告した。だがしかし、慎吾は聞いてしまったのだ

 

『大丈夫、僕達がお兄ちゃんを信じるように、お兄ちゃんは僕達を信じて』

 

 襲いかかる電撃に顔を歪めながらも前へと進むことを止めず、そう優しくもはっきりと誓うシャルロットの言葉を

 

『ここは私達にまかせろ! 頼んだぞ、おにーちゃん!』

 

 そして、シャルロットと同じく箒達を救い出すためベリアルに決して背を向けず進み続けるラウラが放った決して迷いの無い力強い宣告を

 

 だからこそ、慎吾は自身もまた最愛の妹達を信じている以上、引き留める事は出来なかった。

 

 故に外すなどあり得ない、この一撃に自身が持つ全てを賭ける

 

「87光線っっ!!」

 

 次の瞬間、肺の中に溜まっていた全ての空気を吐き出すような慎吾の叫びと共に、退避途中のベリアルに向かって可能なレベルにまでエネルギーを充填させた結果、青白く輝き、文字通り極太の光の柱と化したビームが襲いかかった

 

「ぐっ……うっおおおおおっっ!!」

 

 それを見た瞬間、ベリアルは早々に回避を諦めたのかバトルナイザーが無くなった事で空いた両手でエネルギーシールドを展開させるのと同時にうずくまるように体を丸め、機体をすっぽりと自身が展開させたエネルギーシールドの中に覆い隠し、迫り来る莫大な質量を持つM87光線を防ごうと試みた

 

「ハアアアアァァァ……!!」

 

 だがしかし慎吾は理解している、『その程度』のシールドではどれだけ踏ん張ろうとも、決してここまで充填させたM87光線は防ぐ事は出来ないと言う事を、そしてシールドを砕ければ確実にベリアルを打ち倒せると言う事を、だからこそ慎吾はダメ押しの如く更にゾフィーの腕から放出されるM87の出力を強め

 

 

 その結果、心中で『決着が付く前に勝利を確信する』と、言うこの土壇場に置いてとは余りにも致命的な失策を犯した

 

 

「ぐっ……おおおっ……!! ハッ……ハハハッ……なるほど、こいつがM87……大した威力じゃねぇか……!! バードの奴が何時までもビビってる訳だ……」

 

 M87光線のエネルギーの嵐に晒され、機体を風に舞う木の葉の如く大きく揺さぶられ、唯一の防御策であるシールドが一瞬で亀裂で覆い尽くされ、今にも砕けちりそうなのを見ながら、それでも尚ベリアルの声色からは余裕の色は消えない

 

「(何だ……!? 一体、何を考えている!?)」

 

 そんなベリアルに対し、決してM87光線の放出は緩めはしないものの、慎吾はじわじわと不穏な気配を感じ取り、自然と胸の鼓動が早くなるのを感じていた

 

 確かに何が起きたのは分からないが、自分が知っていた『アリア』と今の『ベリアル』では、とても同一人物とは思えない程、見た目や言葉づかいから見える性格等、あらゆる所が異なっている

 

 だがしかし、それを前提としても攻守共に異様レベルで優れた武装であったバトルナイザーをほんの一時的とは言え使用不能にされ、唯一の防御策であるエネルギーシールドさえ崩壊寸前だと言うのにも関わらず全く余裕を失わない。それは戦士としてのベリアルの強さをよく知る慎吾から見て、狂気に犯されていたとしても、あまりにも異常過ぎる行為にしか見えなかったのだ

 

「ぐぐっ……! うおっ……! ところでなぁ……慎吾。さっきのバトルナイザー……俺が落としたと思っていたか?」

 

 その時だった、拭い切れない違和感と動揺を感じ始めた慎吾の心を嘲笑うように、そして見透かしているように、絶え間なく放たれ続けるM87光線の衝撃により時折、苦悶の声をあげながらもベリアルが唐突にそんな事を呟き始める

 

「そうだろうなぁ……! 『普通だったら』誰だってそう思う! ぐがっ……だが冥土の土産だと思って教えてやろう……!」

 

 そう話している間にも、ベリアルの全身を包んでいたエネルギーシールドは崩壊は進み、次の瞬間、ついに割れたシールドの小さな隙間から入り込んだM87の一部がベリアルの装甲に命中し、ベリアルは思わず言葉の途中に悲鳴をあげる。だがそれでも、なおベリアルは余裕の態度を崩さない

 

「何を……! 一体、何を言いたいんですか!!」

 

 そんなベリアルの態度に遂に精神に巣くう不安と動悸を堪えきれなくなった慎吾は怒声と悲鳴が入り交じったような震える声で叫ぶ。それは圧倒的有利の立場である慎吾が心の隙間を付かれて見せてしまった決定的な隙だった

 

「分からないのか? 俺様はあのバトルナイザーは投擲したんだ。ここで、こうなる状況まで予想してな」

 

 と、最早、慎吾の攻撃など最早無いものであるかのように、そうベリアルが宣告した瞬間だった

 

 ガスッッ!!

 

「うぐっ!? うっ……! あぁ……」

 

 突如、そんな鈍い音と共にゾフィーの側面部から強烈な衝撃と爆炎が慎吾に襲いかかり、M87の放出と目の前で破壊の光に飲み込まれる寸前で堪えるベリアルに集中していた慎吾はそれを回避どころか反応すらする事が出来ず、M87を放つ体勢のまま空中で大きく吹き飛ばされ決着を付ける一撃となるM87はベリアルと言う目標を離れ、滅茶苦茶な方向へと飛んでいってしまった

 

「そん……なっ……!! ま、まさか……っ!?」

 

 そんな激痛で歪む景色と、天地すら分からなくなる程の浮遊感の中、それでも慎吾の目は確かに自身を攻撃した物の正体を捕らえていた

 

 それは、あたかも『最初から慎吾がこの位置でM87を放つ』事を想定してたかのように、ついさっきまでゾフィーが浮遊していた場所に片側の棍部分の先端を向け、アリーナの外壁に突き刺さっているバトルナイザーだった。はっきりとは慎吾には見る事が出来なかったが棍部分からは白煙が上がっており、そこから慎吾に向けてつい先程、戦闘中に幾度も見せた光弾が放たれたのは明らかであった

 

「いや全く、大した成長だったぞ慎吾? まさかこの俺がお前を相手にするのにほんの一瞬でも焦りを感じるとはな……その強さは学園で誇ったっていいだろうぜ」

 

 と、そうして悶絶する慎吾に向かい何処からかすっかり調子を取り戻し、それどころか機嫌さえ良くなっているかのような様子のベリアルの声が投げ掛けられる。だがしかし、慎吾はその言葉に何一つ返答する事は出来なかった

 

「まぁ……それでも俺様には届かなかったんだがな!!」

 

「がっ……あっ……! げはっ……!」

 

 何故ならばその瞬間、M87のエネルギーの嵐から解放された瞬間、急加速したベリアルの右足がゾフィーが第二形態移行した際に大幅に強化された筈の装甲を軽々と砕き、その腹部に正真正銘、決定打となる一撃を打ち込み、そのあまりの破壊力に慎吾は叫び声すら出せず、仮面の下で肺の中に溜まっていた全ての息と、込み上げてくる血を吐き出す事しか出来なかったからだ

 

「うおらあぁぁっっ!!」

 

 しかもベリアルの攻撃はそれだけでは終わらない。加速の勢いをつけたまま、そのままの体制でベリアルは地面へと向かって落下するよりも早く加速して行くと、やがて蹴りを喰らったまま動けない慎吾をクッション代わりにするような姿勢で大地へと降り立ち、アスファルトの大地に巨大なクレーターを作った

 

 

「さぁて……いい加減出てこいよブリュンヒルデ。じゃないとお前のこの学園、俺が滅ぼしちまうぜ?」

 

 衝撃で立ち込める鬱陶しい土煙を片手で振り払うとベリアルはそう言って含み笑いを浮かべる

 

「ぐ……う……ぁ……」

 

 その足元では機体ダメージと急速なシールドエネルギーの枯渇で、今にも消えてしまいそうな程に弱々しくゾフィーのカラータイマーを点滅させていた慎吾が掠れる声でもがいていたが、ベリアルはそれに僅も視線を向ける事は無く、やがて慎吾が意識を失うと共にゾフィーの展開も解除されてしまい、後にはベリアルの足元で口元から血を流して気絶している慎吾の姿しか残らなかった


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