二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 少々、遅刻してしまいました。なお、今回は正史のウルトラシリーズでも『もしかしたらあり得たかもしれない』と、言うレベルのオリジナル設定を組み込んでおります


152話 再 開

「くっ……急がなければ!」

 

 立ち込める黒煙と悲鳴、そしてパニックの予兆が色濃く現れ始めた学園内をラウラ、シャルロットと共に走り抜けながら慎吾は先程、見た流星の落下地点へと急いでいた

 

 全く予想だにしない事態に避難を促そうとしている教師陣も既に手一杯になっているのか誰も慎吾達を呼び止めようとする者おらず、慎吾達は緊急事態にも関わらず学園内を比較的自由に動き回れていたのだが、混乱で情報が伝わりづらい状況ではそれが逆に災いし、意図せずして慎吾達は侵入者とはおおよそ90度程違う方向に向かってしまっていた事に先程の流星で漸く気付かされたのだ

 

「シャルロット、セシリアや鈴達とは連絡は取れるようになったか?」

 

 行く手を塞ぐ、破壊された建物の一部であったコンクリートの瓦礫を走る脚を止めずに飛び越えながら、慎吾はすぐ後ろの左隣を走るシャルロットにそう呼び掛けた

 

「……駄目、鈴もセシリアも出てくれないよ!」

 

 問われたシャルロットは走りながら素早く自身の端末を操作する。が、何度呼び掛けても沈黙を続ける端末にその表情を険しくし、慎吾にそう伝える

 

「私も先程試してみたが……簪も駄目だった。……と、なると……」

 

 そう呟くと再び慎吾は落下地点へと視線を向ける。シャルロット、ラウラと対・詳細不明のUシリーズについて対策会議をしていた最中に起きた侵入者による襲撃だったが、慎吾は走り出した直後からどうにも胸の奥から立ち込め、まとわりつくような嫌な予感をここまで振りきれずにいた

 

「(侵入者は、まず間違いなく件の盗まれたデータで作られた不明のUシリーズで襲撃を仕掛けたのだろう。それは理解出来る。単機でこのIS学園に襲撃を仕掛けた事から相手が自信と最大限の警戒を取るべき実力を持っている事も想像出来る。しかし……それでも私が感じるこの悪寒は一体なんなんだ……?)」

 

 今はラウラとシャルロットが共にいる手前いらぬ心配はさせまいとひた隠しにしているが、慎吾は頭の中で幾度も自身でも正体が掴めないのにも関わらず確かに感じ続けている謎の恐怖の正体を必死で探ろうとし続けていた。だがしかし、まるで雲をつかもうとするかのように自身の事なのに明確な答えが慎吾自身にもまるで分からず、ただ『何か最悪の事が起きる』と言う予感が続くだけで完全に手詰まりへと追い込まれていた

 

「……待て、おにーちゃん、シャルロット。正面の曲がり角だ」

 

 と、そんな風に思考に耽りながら走っていた慎吾の右隣を追走していたラウラが突如、ハッと何かに気が付いたような表情をすると同時に足を止め、左腕を慎吾の前に突きだすと、睨み付けるように慎吾達が進む通路の先、小さな細い曲がり角に視線を向けながら慎吾とシャルロットを制し、その脚を止めさせた

 

「ラウラ……まさか敵か?」

 

「あぁ……気を付けろ、おにーちゃん。相手もこちらに気付いているだろうが……隠れもせず、堂々と来るぞ」

 

 ただならぬ様子のラウラにそう慎吾がそう問いただすと、ラウラは視線は外さずに首だけを動かして頷く事でそう返事をすると、すかさず自身のシュヴァルツァ・レーゲンを展開させる。そんな、ただならぬラウラの様子に後に続く形で咄嗟に慎吾とシャルロットもそれぞれゾフィーとリヴァイブを展開させると、一気に三人の間に重苦しい緊張が走り抜けた

 

「ん……? ハハッ、こいつは……」 

 

 その瞬間だった、まるで休日に街頭でも歩いているかの如く余裕を見せながらバトルナイザーを構えたベリアルが曲がり角の先から姿を表すと、そこで慎吾達三人に気が付き、そう言いながら首を鳴らすの小さく笑った

 

「(これが……写真に写っていた、不明のUシリーズか……)」

 

 一方で慎吾は相手が僅か一ミリでも動けば即座に戦闘に移行出来るよう、最大限の警戒を行いつつ相手のISをじっくりと観察する

 

 その姿はシルエットのみだった写真と同じく、全体的な姿を見て言えば基本的にはUシリーズ。それも自身のゾフィーに酷似している。だがしかし、そのボディーカラーは銀と赤のゾフィーのアンチテーゼの如く黒と赤。Uシリーズ共通のタイマーは不気味な紫色に輝き、通常状態のゾフィーより更に太い腕は手部分ざ合金でさえ容易く切り裂きそうな鋭利な鉤爪に変わっており、何より特徴的だったのが鋭くつり上がり上がった目と大きく裂けた口元であり、猫背にも似た姿勢も相成った事で慎吾にはまるで相手が巨大な一匹の鮫のようにも見えていた

 

「お前は一体誰だ? 何故、わざわざM-78社を選んでUシリーズのデータを盗み、IS学園を襲撃したんだ?」

 

 油断なくシャルロットとラウラが身構えているのを横目で見ながら、慎吾は自身が感じている緊張を悟られまいと言葉を選びつつ相手に問い掛ける。と、は言っても慎吾自身、白昼堂々と襲撃を仕掛けて来る相手から、まともな返事が返ってくる事はあまり期待していない。ただ、全くの不明である相手の事を僅かでも知り、ミスが許されぬこの戦闘で事を一歩でも優位に進ませんと考えた上での事だったのだ

 

「クッ……ハッハハッハハハハッ! 俺が『誰か?』だって!?」

 

 そんな慎吾の問いかけに侵入者は何がそれほどまでにおかしいのか手にした武器を手にしたまま腹を抱えて笑い

 

「声で俺が分からねぇか? 十年とちょいとぶりとは言え随分と薄情になったじゃねぇか……えぇ? 『慎吾』」

 

 次の瞬間、へらへら笑いながら慎吾にとってあまりにも衝撃的な言葉を口にすると、平然と頭部の装甲のみを解除し何の躊躇いも無く全身装甲の仮面の下に隠されていたその素顔を見せた

 

「あっーーーーー」

 

 その黒髪を、日に焼けた肌を、特徴的なつり目を慎吾が目にした瞬間、雪崩のように過去の記憶が一気に慎吾の中で有無を言わさず一斉に再生された

 

 父のように強くなりたいと朝の道場で自習練習している幼い自分を『頑張りすぎだ』と苦笑しながら技を教えて貰った日

 

 ケンと共に手を引いて初めて自分を仕事場である研究施設へと連れていってくれた日

 

 そして父、母、両親の葬儀に真っ先に駆け付け、肩を撫でながら乱雑ながらも暖かい言葉で慰めてくれた日

 

「アリア……さん……?」

 

 自分が当初から感じていた悪寒の正体が『これ』だと理解し、決して忘れぬ記憶がより鮮明に慎吾の記憶に甦った瞬間、慎吾は我を忘れ、恐る恐る昔のようにその名を呟いていた

 

「フッ……そんな名、とっくの前に前に捨てたよ!」

 

 そんな慎吾をせせら笑うようにベリアルは口を開き、歯を見せながらそう言うと一時的に解除していた黒い頭部装甲を再び纏う

 

「今の俺の名は『ベリアル』! この機体も同じ名前だ……!」

 

「……何故」

 

 そんな、あまりにも変わり果ててしまったアリア、否、ベリアルを前に慎吾は悲しみ、絶望、動揺、失望、怒り。と、次々と涌き出てくるあらゆる感情で言葉を震わせながら口を開く

 

「何故、あなたがそこまで堕ちてしまったんです!? あなたとケンさんは友ではなかったのですか!?」

 

 次の瞬間、慎吾に驚愕で目を見開いている妹達に配慮する余裕も無くベリアルに向かって叫ぶ。慎吾の口から放たれたその叫びは声量そのものは大きかったがそれは何処か悲鳴にも似ており、事実、それは慎吾の心の底からベリアルへの想いが込められた叫び声だった

 

「あん……? そうか……ケンの奴は伝えてないのか。ククッ……相変わらず、お優しいこった……」

 

 その叫びを正面から受けたベリアルは一瞬、怪訝そうに首を傾げたものの直ぐに何かを悟ったように一言呟くと笑い始め、再び手にしたバトルナイザーを慎吾へと向ける

 

「それが知りたいなら……! そして、この学園を守りたいのなら! 今すぐかかってきやがれ慎吾! 鼻たれだったガキがどれだけ成長したか俺様に見せてみろ!」

 

「あなたは……!」

 

 それはもはや戦闘が不可避である事を指し示すベリアルからの宣言であり、慎吾は気付いた時には思わず拳を握りしめていた

 

「……おにーちゃん。あいつは一体、おにーちゃんにとって何者なんだ?」

 

「うん……僕も、お兄ちゃんが言いたくないならいいけど……それは知りたいかな」 

 

 と、そこで堪えきれなくなったように目の前のベリアルを見据えながらラウラがそう問いただし、それに続いてシャルロットも遠慮がちに慎吾に尋ねた

 

「彼女は……」

 

 二人から向けられる視線を向けられた慎吾は言いよどむ、ベリアルは様子見だと言わんばかりにこちらを視線を向けるだけで動こうとしない。話すならおそらく今、以外には機会は存在しないだろう。だがしかし自分の、いやケンを含めた自分達の過去の因縁に彼女達を巻き込む事は間違っているのでは無いだろうか?そんな考えが慎吾の頭の中でぐるぐると回る

 

「彼女は、私の武術を教えた師の一人だ。……恐ろしく強いぞ。それこそ私は、あの人の半分の力も出させた事は無いだろう」

 

 そのせいか、慎吾は気付いた時には自然とそう口にし、自身が言っても引きはしないだろう妹達を思ってせめてもの想いでベリアルに対する更なる警告を促した

 

「おにーちゃんにそこまで言わせる相手な上に、師匠とまで来たか……」

 

「それなら、いつも以上に精一杯頑張らないと駄目そうだね……!」

 

 その言葉にラウラもシャルロットもより一層、表情を引き締めベリアルに向き直る

 

「ラウラ……シャルロット……」

 

 慎吾から見て、二人の表情には緊張こそあれど恐怖は無い。そんな二人を見て頼もしい。と、思う反面、まず間違いなくベリアルとの戦闘になればどれ程奇跡的な事が起ころうとも全くの無事で済むものはいないだろう。と、直感的に感じていた慎吾は本音では二人を守るためにも下がっていて欲しかった。が、しかし、当人達の選択を自分の都合で歪める訳には行かない。と、慎吾は自身の想いを口には出さず胸に留める事にした

 

「それじゃあ三人纏めてかかってきな! ひょっ子共!!」

 

「行くぞ! ラウラ! シャルロット!」

 

 次の瞬間、それが戦闘の合図だと言わんばかりに宙へと飛び上がったベリアルを追い、三人は慎吾の合図と共に空へと飛び出していった


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