二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「あの……お兄ちゃん大丈夫? 今日もだけど……何だか最近、とっても険しい顔ばかりしてるよ?」
自動販売機近くの休憩スペースに設置された椅子に一人腰掛け、購入した飲み物にもろくに口を付けず真剣な表情で何かを考えていた慎吾の元にシャルロットが通りかがると慎吾の顔を覗き、心配そうにそう話しかけてきた
「あぁ……シャルロットか……」
そんなシャルロットの善意に慎吾は悪いとは思いながらどうしても気力が出てこず、結果として力無い声でそんな気の抜けた返事を返す事しか出来なかった
「いったい何があったのだ、おにーちゃん? 見たところ何か焦っているように見えるが……」
と、そこでシャルロットに同伴していたラウラもまた気になるのか自然な動きで慎吾の隣の席へと腰かけると慎吾にそう尋ねてみた
「そうか……こんな時こそ、動揺してはならんと頭では理解しているのに表情にまで出てしまっていたか……全くら私もまだ未熟だな」
二人の問い掛けに慎吾は自身の頬を両手で触り、その言葉が正しかった事を改めて確認するとそう言って小さく苦笑した
「すまんな、シャルロット、ラウラ、君達に下手な気を使わせてしまったようだな」
「ううん、気にしないで。僕達は好きでやった事だから」
「妹として相談なら何時でも乗るぞ、おにーちゃん!」
そう言う慎吾にシャルロットは慎吾に向かってにっこりと優しく微笑みながら、ラウラは妙に得意気な顔で胸を張りながら、互いに僅かも迷わずにそう言ってみせた
「ありがとう二人とも……本当に勝手だとは思うが事情故に話せない事もあるが……そこはどうか勘弁して私の話を聞いて欲しい……」
少し声を押さえてそう切り出しつつ、ケンから『口外してはならない』と言われた部分を隠しながら語りつつ、慎吾は同時に脳内で一週間前、M-78社での光を交えたケンとの会話を頭の中で思い返していた
◇
「現状から言って犯人の次の狙いはIS学園にまず間違いは無いだろう。故に既にこの件については君達に連絡を入れる前に私から学園側とコンタクトを取って警戒を促している。が……しかし、私が警戒していることはまた別にあるのだ」
重苦しい空気の中、未だに動揺を隠せない慎吾と光に向け、ケンは慎重に言葉を選びながら語り始めた
「私は恐らく相手が盗んだデータを使用して独自のUシリーズ……とも言うべき機体を作り上げたと見ている」
「ば、馬鹿なっ……!? Uシリーズは俺達開発チームが丸三年かけてやっとの想いで編み出したM-78社独自の機体ですよ!? いくらデータを盗み出したとは言え、そうそう簡単に真似出来るハズが……!」
「光! 君の気持ちは私にも分からないでも無いが……今は落ち着くんだ!」
ケンがそう告げると、やはりUシリーズの開発に大きく関わっていた立場上決して見逃せぬものがあるのだろう。何とか落ち着きを取り戻さんとしていた光が思わず声を張り上げて叫ぶようにそう言い、それを慎吾は光の肩に手を乗せ、軽く力を込める事で制した
「ふぅ……すまん慎吾。つい頭に血がのぼって冷静さを欠いてしまっていたみたいだ。ケンさんも話を中断させてしまって、申し訳ありません」
慎吾に制された瞬間、光はハッとしたような顔したが一呼吸すると落ち着きを取り戻したのだろう、肩の力を抜きながらそう言うと、慎吾とケンに向かってそれぞれ頭を下げて謝罪した
「いや……光、君の動揺は至極当然のものだ。私だって先程、自分が言った事が起こり得るなど考えもしなかったさ。……この写真を見るまではな」
そう言うとケンは光に顔を上げさせ、先程メモを写し出した端末を手に取り、手の中で操作し始めた
「時刻は同じく一昨日。これはM-78社の気象観測用に設置されたカメラが沈む街中と空を撮影した際、偶然空に映り込んだ不明のISを拡大加工した画像だ」
そう言いいながらケンが再び端末を机の上に乗せると、二人に新たに端末に写し出された画像を見せた
「これは……」
それは元となる気象観測用カメラ画像が相当遠くに映り込んでいた物の上に、逆光であったのだろう。加工してもはっきりと分かる程に対象となる一機のISは大きくブレている上に、その上、姿は全身真っ黒なシルエットに覆われておりどうにか二色の色で塗装されていると言う事しか分からない
が、しかし、それでも尚、特徴的な全身装甲に包まれたスマートな造形はどう見てもゾフィーやヒカリに酷似しており、光と開発チームと言ったM-78社が作り出した他のUシリーズが現在、全てM-78社の倉庫に保管されている以上、画像に写し出されている謎のISは間違いなく、盗難データを元にM-78社の知らぬ所で産み出されたUシリーズの一機に違いなく、それに気が付いた瞬間、知らずのうちに慎吾は声を発していた
「……全体だけを見て言えば純粋なパワー型に見えますが……脚部スラスター部分から判断するとゾフィーやヒカリに負けないレベルで速さもありそうですし……総計で言えばパワー寄りの万能型のUシリーズ……と、言った所でしょうか」
一方で光は逆に画像を見ることで、動揺をある程度取り払いら本来の冷静さを取り戻したようで、画面を食い入るように見ながら冷静に端末に映る不明のISを分析してそう口にした
「実際に稼働している所を見るまでは断言出来ませんが……これは決して、単に盗んだ設計データで作り上げただけの劣化した贋作じゃない。悔しいですし、正直に言えば認めたくは無いですが……ここに写し出されている不明機は、俺達が開発した今までのUシリーズに勝るとも劣らない機体だと俺は判断します」
と、そこで光は言葉を止めると端末に集中するため屈めていた顔を上げ、ケンを見つめた
「今は相手が何人なのかも不明な現状ですが……仮に学園にこの機体が侵入して来た際に、もしもUシリーズに不慣れな専用機持ちのウチの生徒が遭遇した際、苦戦は免れない……運が悪かったらあるいは……」
「……そうだ、だからこそ私は君と慎吾をここに呼び出したんだ」
光が最悪の状況を想像したのだろう、顔をしかめながら、そこまで言った時だった。ケンが目を瞑り、感情を押し殺すように声を絞り出しながら苦渋の決断でだったのであろう一言を口にした
「現在、稼働しているUシリーズはゾフィーとヒカリのみ。つまり君達こそが最も実戦に置いてのUシリーズを知っている……対処する事が出来る二人と言う事だ
「ケンさん、それはつまり……」
「…………」
その言葉で慎吾は、そして光も何故自分達がわざわざ呼び出されたのかを理解した。ケンは暗に最もアドバンテージを小さく不明のUシリーズと戦う事が出来る二人に、戦闘するよう頼んでいるのだ
「……すまない、自分がどれだけ卑怯な事を言っているか分かっているつもりだが……それでも、やはり君達にこれを頼む以外、方法は無いのだ」
二人に自身が言わんとせんとしていた事が悟られた事を理解すると、ケンは申し訳なさそうにそう言って頭を下げた
「いえ……ケンさん。貴方の考えは決して間違っているとは思えませんし……そもそも相手がUシリーズと分かったのならケンさんから頼まれなくとも学園を襲うのなら、不明のISとは戦うつもりでしたよ」
「俺も勿論やります。開発チームの一人として決して学園の為にも……世界の平和の為にも決して見逃す訳には行きません」
そんなケンに返ってきたのは迷わず、そして力強く賛同を示す慎吾と光、二通りの快諾の返事だった
「ありがとう……二人とも。情報が入り次第、こちらでも最大限の支援はしよう……しつこく言うが相手は全くの未知数だ。くれぐれも気を付けてくれ」
そんな二人にケンは二人それぞれの手を取って順に感謝の意を伝えると、真剣な表情でそう警告するのだった
◇
「なるほど……Uシリーズのデータが盗まれた上に、元にした機体が……それでは、おにーちゃんが緊張するのも当然だな」
ケンから極秘とされた情報自体は言わなかったものの、それでも警戒して声を押さえて語った慎吾から話を聞き終えるとラウラは腕を組み、納得したようにそう呟いた
「お兄ちゃん……もしもの時は勿論、僕らもお兄ちゃんと一緒に戦うからね……!」
「遠慮なく私達に頼れよ、おにーちゃん!」
一方でシャルロットは慎吾の手を取りると微笑みながらも妙に力強く宣言し、その後にラウラも続いて再び胸を張りながらそう言った
「あぁ……その時は頼むよシャルロット。勿論、ラウラもな……」
そんな暖かくも力強い妹達の言葉が嬉しく、慎吾は思わず微笑みながらそんな返事を返す
しかし、誰も知らなかったのだ。甘く見てしまっていたのだ
慎吾も光もラウラもシャルロットも、そしてケンさえも、相手を『ただの油断ならぬ強敵』までとしか考えていなかったのだ
「ククク……ハッハッハッハァアッ!! よぉし……じゃあ……始めるかぁ!」
そんな彼等を纏めて凪ぎ払い、踏み潰さんとばかりに一機の『悪魔』は空を駈け、IS学園へと行進を始めていった