二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 何とか更新させていただきました。今回はベリアルの凶暴さと傍若無人さを表現するのに苦戦しましたね。一先ずは自分が思う『ベリアルならこれくらいはやるだろう』と思う事を書きましたが……


147話 立ち込める暗雲

「Uシリーズの設計データが外部の人間に盗まれていたっ!?」

 

 ケンからの知らせに気付くや否や、同じく知らせが来ていた光を連れだってM-78社を訪れた慎吾はケンに案内された無人の会議室で開口一番、ケンから知らさせれた衝撃の事実に思わず冷静さを忘れて叫んだ

 

「い、一体、どういう事なのですか!? Uシリーズのデータは厳重なセキュリティがかけられていた筈です! それは当然俺だってチェックしています!!」

 

 それは当然ながら光も、いや開発者であったぶん受けた衝撃は慎吾よりも大きかったらしく、光は腰掛けていた席から立ち上がるとケンに向かって身を大きく乗り出して、そうケンに問いかける

 

「すまない……今回は完全に私の認識不足だった。不甲斐ない事に気付かぬうちに隙を付かれて手玉に取られていたようだ」

 

 二人の言葉を前にしてケンはうつ向いたままながらも、逃げることも言葉を隠すことなく、そう言うと二人に謝罪した

 

「具体的な方法は未だに不明な部分もあるが……どうやら犯人は、我が社の研究部社員に複数台の監視カメラと同僚の社員。何人もの社員の顔を全て覚えているような熟練の警備員達でさえ全く見抜けぬ程に精巧に変装した上で我が社に単独で侵入。研究部専用の社員服と本人の社員証。さらに登録されている網膜と指紋のコピーとパスワードを入手して研究部に入り込み、声紋認証すら解除して颯爽とUシリーズのデータを盗んでいったようだ」

 

 続いてケンから告げられた言葉に未だ動揺で荒くなってしまった呼吸を整えながら、慎吾は無意識に自身が生唾を飲み込むのを感じていた。

 

 堂々と侵入して、さながらスパイアクション映画のような事を軽々と実行して見せる鮮やかな手口から見て、どう考えても相手は年密に計画を立てて行った一流のプロ。一筋縄ではいかない相手に違いなかった。と、なるとそんな人物がそこまでの事をしてUシリーズのデータを盗み出した理由とは一体、何か?

 

「ケンさん……データが盗まれた時期は何時です?」

 

 と、そこまで慎吾が考えた事で光が何かを察したのか、小さく深呼吸をしなが意を決した様子でケンに尋ねた

 

「……察しの通り……七月の頭だ。丁度、君が臨海学校の一見で本社を離れている時に侵入を許してしまった。……だがな光、相手は……」

 

「……ええ……分かっています……それほどまでの技術を持っている相手なら、例え俺が本社にいたとしてもデータ盗難を許してしまっただろう事は……」

 

 光の問いかけにケンはその事実がまるで光を責め立てているようになってしまっている事を配慮したのか、大分言いにくそうに言葉を詰まらせながらそう言うが、光は片手で自身の頭を抱えながらゆっくりと腰を落として座ると、消え入りそうな声でそう言い、悔しげに歯噛みした

 

「……ケンさん。そもそもの話になりますが、何故今更になってデータが盗まれていた事が発覚するに至ったのですか?」

 

 と、そんな光を見ていられなくなったのもあるのか、そこで若干ではあるが時間と共に落ち着きを取り戻した慎吾がケンにすかさず、自身が感じた一つの疑問を問い掛ける

 

「……一昨日夜、その件の犯人が郊外で遺体となって発見されたのだ。その彼の所持品や端末を調べて分かった結果だ」

 

「「なっ……」」

 

 慎吾の問い掛けに、ますますケンはますます険しい顔付きになると静かにそう告げ、急転直下の言葉に慎吾も光も思わず絶句し、身を強張らせてしまった

 

「何らかの鈍器で一撃。現場の状況からいって殺人なのは間違いないらしいが……ここからが君達を呼び出した真の理由なんだ。まだ一般には公開されていない情報故に、これから私が見せる物については極秘で頼む」

 

 そう言うと、ケンは懐から端末を取り出して操作すると端末を机に置き、そこに写し出させれている画像を二人に見せた

 

「殺された犯人の物とは違う。こんなメモが現場に残されていたのだ」

 

「これは……!!」

 

 そこに写し出されていたのは汚れ、現場と思わしきアスファルトの上に置かれている傷んだ一枚のメモ用紙を撮影した写真であり、そのメモ用紙に書かれていた短い一文を読んだ瞬間、慎吾は気付かぬうちに自身が声を察していた

 

『これは挨拶がわりだ、次は学園に向かう』

 

 書き手自身のクセなのか筆記体から何者かを悟られないようにしたのか、それとも単純にふざけているのか、荒々しく書かれたその一文は短いながらも堂々とIS学園への襲撃を宣言していたのだ

 

 

「それにしても……久しぶりに動き出したかと思えば、早々に随分と派手な事をしてくれるじゃない。うちも、みんな貴女の事を噂しているわよ?」

 

 

「あぁん……? あれで……たたがあれごときで派手だぁ? おいおい冗談だろスコール。本当に面白くなるのは……これからだぜ」

 

 その夜、ホテル『テレシア』最上階のレストラン。そこの月明かりが射し込む窓際の特等席で紫色のドレスをばっちりと着こなすスコールと同じテーブルを囲んで食事てがら対面していたベリアルは、そう言うと手にしていたワイングラスに度数の高いアルコールを乱雑に注ぎ込むと、その中身を一気に飲み干し、凶悪に笑った。

 ちなみにテレシアはドレスコードのある店故にベリアルもまた本人に似合う黒と赤色のドレスを身につけていたが、ベリアルが無意識に放つ血に飢えた鮫のような気迫と殺気が邪魔をして誰もそのドレスに気を取られる者などおらず、二人の席にワインを運びに来た若いウェイターに至っては終始子鹿の如く体を震わせ、どうか自分に話しかけてくれるなとばかりに出来るだけ距離を放して、物陰から二人を観察していた

 

「でも本当に良かったの? あの『ザラブ』と言ったかしら。あの子が貴女にUシリーズの情報を盗み出してくれたんでしょう?」

 

「あぁ……あいつは実によくやってくれたよ。それこそ、俺様を馬鹿みたいに信じて言うこと聞いてM-78社に潜入して……仕舞いにゃ『このISの力を使って、我ら二人でこの世界を制するぞ』って、俺様の肩を叩きながらヘラヘラ笑って言うくらいにはな。だから……」

 

 スコールの問い掛けにベリアルはそこまで答えるとニヤリと口元に笑みを浮かべ、ワイングラスを持った片手に力を込めて軽々とグラスを粉々に砕くと手を開き、無造作にガラス片を空になった皿が並ぶテーブルの上に撒き散らした

 

「俺がザラブを殺した。あいつは俺に攻撃されたってのに目ぇ見開いて口パクパクさせて、何が起こったのかも分からないって表情をしながら死んだよ。あいつめ、俺にデータを渡した事がどれだけ危険な事かってのを最後の最後まで分かっていやがらなかったんだぜ? ハハッ、世界を制するって言うにしちゃあなんとも平和ボケした頭じゃねぇか」

 

 嘲笑いながらベリアルはそこまで言うと椅子を蹴飛ばすように立ち上がり、テーブルの上に置かれているまだ半分ほど残ったワインを片手に取ると、スコールに背中を見せ席を後にした

 

「俺とお前達の中だ……スコール。近いうちに最高のショーをお前ら亡国機業にも見せてやるよ」

 

「えぇ、楽しみにさせて貰うわよ。『協力者』さん。……いえ、ベリアル」

 

「へっ……やっぱりてめぇは『そこまで』知っていたか。やはり、俺様が力を貸しててやっただけの事はあったな」

 

 スコールの言葉に振り返ったベリアルは一瞬だけ、その瞳に僅かながらの驚愕を見せるが、それは瞬き一回よりも更に短い時間の事であり、直ぐ様いつものような凶暴な笑みを浮かべるとスコールに向かって冗談っぽく軽く手を降るとそのまま、飲みかけのワイン瓶を片手に店を出ていってしまった

 

「あのワイン……私が注文した物だったのだけどね……」

 

 ベリアルの背中を見送りつつ、割られたグラスの破片が散らばり汚れたテーブルをちらりと見て、スコールはそう苦笑するのであった


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